101 / 172
第4章 超越者の門出編
第97話 ワイバーンの元へ……油断は大敵でした
しおりを挟む首都ファルムは、城壁が三重になっている非常に強固な首都である。
先ず街自体を囲う第一城壁。更に街の中心部を囲う第二城壁。そして、第二城壁の中心部にある城自体を囲った第三城壁。
今回の目的地であるワイバーンのいる小屋は、第二城壁の中にあるそうだ。
月が厚い雲に隠れ、あちらこちらに闇が生まれる絶好の忍び込み日和に、俺とティアは第二城壁の上に降り立つ。
目指すは第二城壁内の北東角にある馬小屋ならぬワイバーン小屋。ちなみに本当の馬小屋は、ワイバーンが馬を怯えさせるという事で対極の南西にあるらしい。まあ、余談だけど……
高い第二城壁の上で城壁内の様子を窺っていた俺は、思わず笑みをこぼしてしまった。
はっきり言って、今回の隠密行動はチョロいと感じたからだ。
城壁内に警備の兵はいるが城内程ではないし、その警備の兵も俺達の気配を察知出来るほどの手練れは見受けられない。
念の為にアユムに兵のレベルを確認してもらったところ、平均で五十前後だそうだ。
全くもって、チョロ過ぎる。
それでも、【暗視】なんかを持ってる奴の視界に入れば見つかるのは必然なので、気を緩めずに気配を読みながら人の気配のしない場所へと降り立つ。
《ティアちゃんから報告で~す。後方、敵の気配無しだそうだよ》
降り立った瞬間、ニアが緊張感の無い口調でティアの報告を代弁する。
隠密行動中は声を出さずに【共に歩む者】を介して連絡を取り合う。これは、ダンジョン攻略時代からの俺とティアの決め事。更に隠密行動に移ると、俺は前、ティアは後ろと当たり前の様に警戒箇所の役割分担を行っているのも、ダンジョンでの共同生活の賜物だ。
(うん、了解。前は警邏の兵がこっちに向かってるから、ちょっとこのまま待機って伝えておいて)
《了解!》
元気の良いニアの返事を聞きながら、俺は前方に意識を集中させた。
俺達が降り立ったのは建ち並ぶ兵舎と第二城壁の間。
この第2城壁内には兵馬やワイバーンの小屋の他に、兵舎や兵達の練習場などがあり、思いの外遮蔽物が多く忍び込む側としてはとても有り難い空間になっていた。
俺は兵舎の裏に身を潜め、表側を歩く警邏の兵の気配を用心深く探っていたが、警邏の兵は兵舎と兵舎の間に軽く明かりを照らすとサッサと先に進んで行ってしまった。
(……うん、警邏の兵が行ったから、先に進むぞ)
《ん、了解……だって》
ニアによるティアのモノマネを聞き、緊張感が削がれると思いつつも、俺達は先へと進んだ。
(この国は暫く戦争をしてないんだっけか?)
偶に通る警邏の兵を木陰に身を潜め、やり過ごしつつ、その兵を観察していた俺はアユムに確認を取る。
[はい。この国どころか、この大陸ではここ五百年、戦争らしい戦争はありません。唯一、三百年ほど前に『闇の国』と『火の国』の間で小競り合いがあった位でしょうか]
(成る程ね)
アユムの話を聞いて納得した。と言うのも、警邏の兵にあまりにも緊張感が無いのだ。
先程の雑な見回りはあの兵士だけかと思ったら、皆、似たようなものだった。談笑しながら歩く者がいれば、欠伸をしながら気怠そうに歩く者もいる。
ダンジョンで命懸けの成長を遂げた俺から言わせてもらえば、闇は敵が潜んでいる可能性のある恐怖の対象。そんな闇が至る所にある場所を、彼等はあまりにも無防備に歩いているのだ。全くもって不用意極まりない。
(本当に戦争を仕掛ける気があるのかねぇ)
[兵の質が悪過ぎますね。平和な世が続いたせいで、気構えを教える者がいないのではないでしょうか]
(気構えを教えられないって……こんな腑抜けた兵を揃えて本当に戦争を起こすつもりだとしたら、はっきり言って能天気過ぎる)
[だからこそのワイバーンなのではないでしょうか]
(ん? と言うと?)
[ここの兵がこんな感じという事は、攻め込む国の兵もこんな感じだと思っている可能性があります。ですから、見た目で分かりやすい脅威であるワイバーンを揃えれば、相手の兵は何もせずに逃げ惑い、労せずに勝てると踏んでいるのかもしれません]
他の国もここの兵みたいに緩み切っているなら、それも有り得るかも知れない。しかし、『風の国』は見え見えの軍事強化を行なっている。それに脅威を感じている隣国なら何かしらの対策をしていると思うけど……例えばーー
(俺なら、実戦経験豊富な冒険者を教官にして兵士を鍛え上げるけど)
[ですね。冒険者ギルドと『水の国』の関係は香奈美殿の口振りからみて大分良好のようですし、恐らくはその位の対策はやっていると思われます]
(だとしたら結局、戦争になったら勇者の力量の差が大きな要因の一つになるよな。健一達が前線に出る事になる可能性が俄然高くなる訳だ)
[確かに、その可能性は高いですね。ここの兵士を見る限り、戦場で役に立つとは思えませんから]
(要するに宰相の考えている戦争というのは、ワイバーンと勇者を使ったゴリ押しって事だ。一般の兵なんて張りぼて程度にしか考えてないな)
[歴史的に考えても、練度の高い兵を揃え、数で優位に立つ事が戦略の最重要課題の筈なんですけど、宰相はそれを重要視してないようですね。見た目で数が勝っていればいい位の考えなのではないでしょうか]
(なんか、そう考えてみると宰相が凄い無能みたいに感じる。確か、この国を影から牛耳ってる奴なんだよな)
[謀が得意な者が、戦略にも精通しているとは限りませんから]
(ははっ、それじゃあ、ただ保身が得意な小者って感じだな……っと、気配が遠退いたな。行くぞ)
アユムの辛口コメントを聞いた後で、俺達は木陰から身を踊らす。目的のワイバーンがいる小屋はもう目前で、俺達は城壁に沿って走り、小屋の側面にへばり付いた。後は正面入り口の前に居る兵士にちょっと眠ってもらえば、目的はほぼ達成したも当然。ここの兵士の気構えなら、眠ってもらっても居眠りした程度にしか考えないだろう。
そんな算段をしつつ、正面の角まで移動したのだが……
(……!!)
いきなり気配が屋根の上に現れたと思ったら、音も無く俺達の背後へと降り立った。
俺は背後を取られまいと咄嗟に前に出ようとして、それでは見張りの兵に見つかってしまうと、瞬時に踏み止まる。その判断ミスにより、まんまと背後を取られてしまった。
ティアはエルフ特有の超感覚で、俺よりも少しだけ早く気配に気付いた様で、咄嗟に振り向いて突然現れた気配の主と対峙しているようだが、武器を抜く行為をする迄には至らなかった様だ。
(ティア、無茶はダメだ)
背後で、ティアが無手で飛び掛かろうとしているのを気配で感じ、直ぐに制止する。
今のところ謎の気配の主から殺気は感じられないから、先手を取ればもしかしたら制圧出来るかもしれないが、それは同時にここの兵に見つかり作戦が頓挫する事を意味する。
悔しいが後手に回るしかない。
相手も気配を殺して小屋の屋根に身を潜めていたところをみると、『風の国』の者ではないだろう。状況次第ではこのまま見逃してもらえる可能性もある。
……最悪の事態に陥ったら、時空間転移で緊急脱出だな……その場合、作戦の遂行は無理になるが、それも仕方がない。命あっての物種だから……
気の抜けた兵ばかりで油断してたのかなぁなどと思いつつ、俺は相手の出方を待った。
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる