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第4章 超越者の門出編
第98話 同類……異性に頭が上がらないところも同類だね
しおりを挟む暗闇の中、背後を取られた俺は冷や汗を流しながら相手の出方を待った。
「ふむ、エルフの娘か……俺達の気配に気付き反応するとは年の割には優秀……いや、優秀過ぎるな。お前は何者だ」
謎の襲撃者が最初に興味を示したのはティア。結局、何のアクションも起こせなかった俺は二の次らしい。
しかし、俺達ねえ……襲撃者は複数だったのか?
(アユム、相手ってどんな奴等?)
疑問に思いつつ、ティアを通して相手を見ているであろうアユムに確認を取る。
[身長百九十センチ程の体格の良い男と、男に抱きかかえられた身長百五十センチ程の少女です。どちらも普通の町人と変わらない服装をしています]
アユムの報告を聞き、俺は苦笑いを浮かべた。
俺が気配を感じているのは、多分少女の方。男の方は闇に溶け込んでいる様な感じで上手く気配を察知出来てない。
それに、二人とも普段着という事は、今まで街に溶け込んでいたんだ。そこのからここに忍び込み、誰にも見つからずに目的を達成して再び街に溶け込む。それが出来る自信があるんだろう。
(ログハウスで遭遇した忍びと同じだ。【忍ぶ者】より隠密性に特化したスキルを持っているか、同じスキルを持っていてレベル差があるか、だよな)
〈恐らく、レベル差はあると思われます。でなければ、マスターがここまで見事に背後を取られる事は無かった筈です〉
トモの言葉に俺も頷く。
隠密性は間違いなく向こうの方が上だろう。そうなると、普通に戦うだけならばまだ勝ち目はあるだろうが、『風の国』の兵に見つからないという条件がついてしまうと、手立てが無くなってしまう。
打つ手がすっかり無くなってしまい、さてどうしようかと考えていると、話しかけられていたティアがチラチラと俺の方を気にし始めた。
話し掛けられたけど、どういう対応をして良いか分からないって感じかな。
まだ人付き合いが苦手なティアが、初見の人と積極的に話す事はまず無い。俺以外の人と話す時に随分と偉そうな口調になるのは、それ以外のコミニケーション方法を知らないからだ。
まあ、それ以前に、俺の背後を簡単に取れる様な奴等との交渉をティアに任せるという選択肢は無いわな。
俺は一息吐くと、男がそうした様に入り口の兵に気付かれない位の小声で話し掛けた。
「俺の連れは口下手でね。出来れば俺が対応したいんだが、そちらを向いても良いかな」
側にいても聞き取れるか分からない程の小さな声。しかし、これ程の隠密行動をとる奴だ、【聞き耳】で聞き取れるだろ。
俺の提案に男は暫し無言だったが、やがて『良いだろう』という声が聞こえてきたので、ゆっくりと立ち上がり背後を振り向く。
アユムのいう通り、相手は胸板の厚い体躯の良い角刈りの男だった。その男の九十度に曲げた腕にちょこんと乗り、その胸に背を預けているのは確かに十二、三歳位に見える、ウェーブのかかった髪を肩で切り揃えた少女。
二人とも黒髪。この世界の住人に黒髪の者がいないわけではないが……
「元勇者……かな?」
初見でポロっと出た俺の呟きに、男は微動だにしなかったが、少女がピクッと反応を示す。
うん、どうやら正解の様だ。まぁ、その代わりに俺もそうなのだろうと予測はされるだろうけど。
「ふん、随分とストレートなカマかけだな」
「時間が惜しいものでね」
カマかけにも、少女が反応した事にも特に気に掛けない様子で話し掛けてくる男に、俺は戯けながらも真実を語る。
実際、時間は惜しい。元々正確ではない薬が作用する予測時間だが、それでも服用させる時間がズレればズレるほど、予想通りに効果を発揮させる可能性が低くなる筈だ。
「時間が惜しい……か。では単刀直入に聞こう。お前達は何者で、ここで何をしようとしている?」
おろ、本当に単刀直入。男からは愚直なイメージが湧くね。
男の愚直な質問に応えて、俺も率直に答える事にする。
「俺達が何者かは言えない。ただ、何をするかというのは場合によっては答えてもいい」
「ほう、その場合というのは?」
「あんたらが『風の国』の関係者じゃ無い場合だな」
俺がそう答えると、男は初めて仏頂面を崩して笑みをこぼした。
「成る程な、では言おう。俺達は『風の国』の者ではない。但し、その証拠は無いがな」
「言質が取れればそれでいいよ。元々、あんたらの行動がそれを物語っていたからな」
こいつらが『風の国』の者なら、俺達の背後を取った時点で殺すなり捕縛するなりしていた筈だ。それをしなかったのは騒ぎを起こしたくなかったから。つまり、どこの組織の者かは知らないがこいつらは俺達の同類なんだ。姿を見せたのは恐らく目的地が一緒で、俺達がいてはこれからの工作活動に支障をきたす可能性があるからかな。
俺は敵対行動に見られない様に両手を軽く上げた後で、ゆっくりと右手だけをウエストバッグに突っ込み、時空間収納から骨に包まれた薬を一組取り出すと、男に向かって放り投げた。
男が向かって来た二つの薬を器用に片手で掴み取るのを確認し、俺は再び口を開く。
「俺達はそいつをワイバーンに飲ませに来たんだ」
男は俺の言葉を聞きながら繁々と薬を見つめた後で、その薬を少女に渡す。少女は薬を受け取ると少しの間目を閉じ、その後、目を見開いて満面の笑みを浮かべた。
「へ~、この薬面白いよ。私達はワイバーンを殺す事しか思い付かなかったけど、この人達、ワイバーンを使って宰相をコケにする気だよ」
「というと?」
「こっちの小さめの骨に入ってるのはワイバーンを正気にする薬で、こっちの大きめなのはワイバーンの精神力を元に戻す薬。骨に入れてるのは薬が効く時間をお披露目の時間に合わせる為かな。これが成功したら、お披露目の最中にワイバーンが正気に戻って大暴れね」
薬を見ただけでその効能どころか俺の計画まで言い当て、楽しげに語る少女。
(この少女、薬剤系の高スキル持ちだな)
[それに【神羅万象の理】も待っていますね。薬剤系のスキルだけでは、ああも早く薬を鑑定するのは不可能です]
アユムと内密に二人の能力を探っていると、男が俺も気になる質問を少女に投げかけた。
「で、その薬を投与して、その作戦通りに事が運ぶ可能性はあるのか?」
「う~ん、可能性は高いと思うよ。薬はほぼ間違いなく効くから、後はワイバーンの消化時間次第だけど、その辺は調べてるんでしょ」
少女は薬に対するお墨付きは付けたが、専門外なのか、ワイバーンの消化時間の事は俺にふってきた。
俺もそこが一番知りたかったんだけどね。二人どころか、ティアまで心配そうにこっちを見てくるから、仕方がない正直に話は事にする。
「ワイバーンが骨を消化するのに要する時間は平均で三時間。消化時間に個体差はあるが、それでも三割は時間通りに効果を発揮すると踏んでいる」
「三割……か」
男が俺の提示した成功率に難色を示す。しかし、少女の方は乗り気の様で男の説得に入った。
「ねえ、この作戦、成功すれば戦争を回避出来て更に宰相の信頼を貶める事が出来るんだよ。やる価値はあると思うな」
「しかし、失敗すれば大部分の貴族が戦争肯定派になるぞ。だったらここでワイバーンを皆殺しにして戦争だけでも止めた方が良くないか?」
「そんな事しても、宰相はワイバーンの死を隠して次の手を打ってくるわよ。そうなったら戦争の開始を延期させるだけじゃない。戦争を止めるのなら、チャンスがある時に宰相の信頼を削り取っておかなきゃ」
「だが……」
どの世界でも、最終的な決定権は女性が持っているらしい。
どんどん言い負かされていく男を見ながら、俺は健一達と共にいた頃のかなねぇとヒメの発言力を思い出していた。
「いい? 私達が任されたのは戦争を止める事であって、戦争開始を遅らせる事じゃないの! その辺の事、ちゃんと理解してる?」
少女のマシンガンの様な口撃に対し、男の方は徐々に『ああ』とか、『おう』とかしか言えなくなってきている。
これは時間の問題だな……その時間が惜しいんだけど……
そんな事を考えていると議論が纏まったのか、二人して俺の方に振り向いた。
「お前の作戦に俺達も一枚噛ませてもらいたいのだが」
満足げな少女の表情とは対照的に、男は疲れ切った顔でそう提案してきたので、俺は心の中で合掌しながらその提案を受け入れた。
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