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第4章 超越者の門出編
第104話 密会……やっぱり食えねぇじゃねえかあの爺さん
しおりを挟む「それはどういう事だ?」
窪さんにそう問われ、僕はこの世界の理というものを窪さんに説明する。
「窪さん、例え窪さんが井上の隙を突き、最高の攻撃力のアーツを当てたとしても、正直、井上のHPを三割削れれば良い方だと思います。そして、攻撃を受けて警戒した井上が相手では、窪さんは手も足も出ません」
僕の推測を聞き、窪さんは目を見開いて絶句する。
「この世界では、レベルが上がれば上がったぶんだけ肉体の強度も上がります。そしてそれは、能力値の上限という限界はありますが、それでも元の世界の常識の範疇を遥かに超えて上がるんです。窪さんは、元の世界で空手の技を使って象を一撃で倒せますか?」
僕の例えを聞き、窪さんは見開いていた目を閉じ首を左右に振った。
「俺と井上の力量差は、それ程の開きがあるのか……」
「はい。この理不尽な世界では幾ら鍛錬を行なっても、反射的な行動力は身につくでしょうが、攻撃力自体は上がりません。ですからす、窪さんの言う通り不意を着けば一撃位は当てられるでしょうけど、その一撃で井上を倒す事は不可能なんです」
正確には鍛錬を行っても経験値は上がるんだけど、でもそれは本当に微々たるもので、魔物を倒した方が数十倍も効率が良い。
窪さんは、物心がついた頃から続けていた空手というバックボーンが、この世界では井上に及ばないと気付かされて愕然としている。そんな窪さんに、桃花さんが話し掛ける。
「窪さん、やっぱり窪さんも私達と一緒に来た方が良いと思います。井上の事を窪さん一人が背負いこむ必要はないじゃないですか。井上の奴が何かやらかしたら、私達は勿論、きっと博貴君も協力してくれる筈です。ですから、窪さんも一緒に来て井上を打倒できる力を蓄えましょ」
桃花さんに説得され、窪さんが力無く項垂れていた頭を上げた。
「俺は既にレベル百三十八で能力値は殆ど限界に達しているが、井上を倒す程の成長は見込めるのか?」
力無い窪さんの問いかけに、僕は力強く頷いた。
「僕の調べた限りでは、人間種のレベル限界は二百だそうですが、スキルの中には人としての種を超える為の物があるそうです。窪さんがこれからスキルポイントを使わずにレベルを限界まで上げて、それでも足らなければボスやユニークを倒して貯めていけば、そのスキルを手に入れる事は十分に可能だと思います」
僕の言葉を聞き、窪さんの瞳に生気が宿り始める。
「そうか……さらなる高みがあると言うのなら、それを目指さない手はないな」
凶悪な笑みを浮かべる窪さんを見ながら、僕達に博貴を加えて井上をボコボコにする未来を想像して、僕は思わず笑みをこぼした。
ーーSide博貴ーー
俺はある人から連絡を受けて、一人貴族街にある高級レストランへと足を運んでいた。
レストランに入ると、正装したウエイターが一礼して出迎えてくれる。しかし、そのウエイターが眉をひそめるのを見て、俺は内心しまったーと後悔した。
俺はローブを纏ったいつもの冒険者然とした格好をしてたのだが、幾ら何でも高級レストランに入る格好ではなかったな。
「本日はどの様な御用件でしょうか」
ウエイターのセリフを聞き、俺は口元に手を当てて考え込んだ。
物腰も口調も柔らか。でも、そのセリフってレストランに入って来た人に言うセリフじゃないよね。恐らくここで『食事をしに来た』なんて言ったら、『当店では正装でない方は御遠慮させていただいてます』と断られるのは目に見えている。でも、あの人から指定された待ち合わせ場所って、ここなんだよな……ダメ元で言ってみるか。
「ここで待ち合わせをしているのですが……」
恐る恐るそう告げると、ウエイターは笑みを崩さずに次なる言葉を発する。
「どちら様とお待ち合わせでしょうか?」
「エルシア嬢です」
「! ……少々お待ち下さい」
俺の口から宮廷魔術師筆頭の孫娘の名が出るとは思わなかったのか、ウエイターはその張り付いていた笑みを引きつらせ目を見開くと、そそくさと店の奥へと引っ込んで行った。そして、程なくして慌てた様子で戻って来る。
「お待たせして申し訳ありませんでした。ヒロキ様でしょうか?」
ウエイターの確認に頷いて見せると、ウエイターはやたらとペコペコしながら『こちらへどうぞ』と俺を店の中へと招き入れた。
店内で食事をしていた、明らかに上流階級の人々と分かる方々の好奇の視線を受けながら、必要以上に腰の低くなったウエイターに案内されたのは、店の奥にある扉の前。俗に言う個室というものだろうか。
扉の前には微動だにしない正装の屈強な男が二人、扉を挟む形で立っており、そのうちの一人が俺の姿を確認すると、無言で扉を開けた。
ウエイターの『ごゆっくりどうぞ』という言葉を受けながら、扉を開けてくれた男に軽く一礼して部屋に入る。
部屋の中は八畳ほどの広さで、落ち着いた感じのテーブルと椅子が置いてあり、入って来た俺と向き合う形で二人の人物が座っていた。一人は爺さんの孫娘のエルシア嬢。そしてもう一人はエルシア嬢と同じ年頃の優しい微笑みを浮かべた金髪の美青年だった。
「お久しぶりです博貴様。本日は御足労をしていただき有難うございます」
俺が入って行くとアルシア嬢がそそくさと席から立ち上がり、優雅に頭を下げた。その様子を見つつ、俺は軽い目眩を覚える。
「エルシア嬢、俺はただの冒険者です。様付けはやめて下さい」
「ふふっ、また、御謙遜を。『風の国』を戦乱に招く事態を未然に防いでくれたお方に、敬意を払うのは当然の事です」
何故それを! ……って、爺さんの所に情報収集に行って、洗脳薬ってお土産まで貰ってきたんだから、俺がやったとバレてて当然か。でも、様付けなんかされるとなんか落ち着かない……
どうしたものかと考えていると、青年の方も立ち上がった。自然とそちらに視線を移しふと、既視感を感じる。
あれ? この人何処かで見たような……
何処だったかと考えを張り巡らせていると、青年が自己紹介を始めた。
「博貴殿、お初にお目にかかります。私はティスタルク・フォン・ファルテイム。以後お見知り置きを」
その名前を聞いてああ、そうか! と思い出し、表情には出さないが内心驚く。名前の最後のファルテイムは『風の国』の名称。国の名が名前に入っているという事は、この人は王族という事だ。
三日前、演壇の上で見かけた顔だと思い出し、俺は直ぐに頭を下げた。
「御丁寧に有難うございます。博貴です。しかし、何故この国の王子がここに?」
俺の疑問を聞き、二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
「まあ、立ち話もなんですから、どうぞお座り下さい」
王子に席を勧められ俺が二人の向かい側に座ると、同じく着席した後にエルシア嬢が口を開く。
「本日、御呼び立てさせてもらったのは、ある事を確認したかったからなんです。お爺様から、博貴様の目的は健一様方を奪還する事だとお伺いしたのですが、それは事実なのでしょうか?」
エルシア嬢の言葉に、俺は眉をひそめる。
国としては勇者を引き抜かれるのは避けたい筈だ。王子まで出張ってきたのだ、俺にそれはやめて欲しいと説得に来たのだろうか……
俺がよっぽど気難しい顔をしていたのか、俺の顔を見ていたエルシア嬢が慌ててかぶりを振る。
「あっ、別にそれを咎めるつもりでお呼びしたんじゃないんです」
「と、いうと?」
「博貴様には、是非ともそれを成し遂げて欲しいんです!」
国に損益をもたらす行為をやって欲しいと力説するエルシア嬢。その真意が分からずポカンとしたまま、その視線をティスタルク王子の方に向けると、王子もそうして欲しいというように頷き、口を開いた。
「今回の博貴殿の活躍により宰相の力は大分削げました。しかし、宰相の所為で腑抜けにされてしまった父上とその後継たる兄上では、宰相の手から王権を取り戻す事が出来ないのです」
そこまで言うと、ティスタルク王子は無念そうに唇を噛み、そして話を続ける。
「だからと言って第二王子である私では、貴族達を説得するには説得力が足りません。何故なら、宰相の手元にはまだ勇者という切り札が残っているからです。宰相の地盤を完全に崩す為には、博貴殿には是が非でも勇者の奪還を成功させてもらいたいのです」
「つまり、国の実権を王族の元に取り戻す為に……という事ですか」
「はい!」
力強く頷くティスタルク王子の目に、強い意志の光を感じ取り、この話が嘘ではないと確信する反面、一つ気掛かりが生じてそれを問いただしてみる。
「一つ確認なんですが、俺が健一達を奪還し、王子が王権を取り戻したとして、その後、勇者無しで他国との関係はどう繕うおつもりですか?」
健一達と合流し、王子が上手く国を取り戻したとしても、その後で『他国との外交にどうしても勇者が必要ですから戻って来て下さい』なんて言われた日には、堪ったもんじゃない。その辺の事までこの王子は考えているのかと思っての質問だったが、王子は俺の問い掛けに、慌てた様子を見せずに笑みを浮かべつつ口を開く。
「王権を取り戻した後、私は冒険者ギルドと親密な関係を築いていきたいと思っています」
あー、成る程……俺が健一達と合流した後で冒険者ギルドに厄介になる事は想定済みって事ですか。この若さでそこまで考えてるとは……って、そう言えば王子と俺を引き合わせたのはエルシア嬢だったな。って事は、王子のバックにはあの御老体がついてって事か?
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全く、政治には興味無いふりをして、こんな事を画策していたとは食えない爺さんだよな。
爺さんの目論見に気付いて苦笑いを浮かべていると、エルシア嬢が俺の心内を読んだのか、俺の顔を見て満面の笑みを向けて来た。
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