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第4章 超越者の門出編
第109話 窮地……その萌えっ子は誰ですか?
しおりを挟むーーSide健一ーー
「敵! 全方位!」
その部屋に入り中央まで進むと、桃花さんが鋭く叫んだ。無感情を演じてる桃花さんが叫ぶなんて珍しい。それ程までに厄介な敵を感知したのかな?
この部屋は直径二十メートル程の広い半円形の部屋で、四方に通路があるんだけど、桃花さんの警告から間を置かずその全ての通路からアンデットが溢れ出て来た。
厄介なのは強さじゃなくて数か!
その事に気付いた時には僕達は既に、大量のアンデットに囲まれていた。
「皆! 互いに背を庇いながら応戦しろ!」
井上の的外れな指示を聞き、僕はギョッとしつつ井上の背中を睨みつける。
互いの背を庇えるのは全員が武術系スキルを持ってる場合のみ。魔術系スキルしか持ってなくて、呪文詠唱というタイムラグが必要な僕とヒメがそんな事をしたら、紙装甲でこの腐った死体の大群の矢面に立つ事になるじゃないか! ここは僕とヒメを井上、窪さん、桃花さんの三人で囲む様な陣形を取り、少しづつ今出て来た通路に戻るべきなんじゃないかな。
そうは思っても、口には出さない。
井上は人に自分の意見を訂正されると、逆ギレして絶対その意見を取り入れないから……
城に来てから更に我が儘になった井上のその性質を嫌と言うほど知っている僕達は、互いに目配せして陣形を固める。
僕とヒメが真ん中で固まり、前方百八十度の敵を窪さんが担当し、後方は桃花さん。僕とヒメは魔法を唱えて順次発動。これで井上の指示に従っている様に見せつつ、何とかこの状況を凌ぐ事が出来る。あくまで凌いでるだけだけどね……
僕やヒメが魔法で纏めてアンデットを倒しても、すぐさまその開いた空間は他のアンデットで埋め尽くされる。窪さん達も同じで、倒しても倒しても次々と次の敵が来るもんだから、倒しながら移動なんて出来るものじゃない。せめて進行方向にもう一人、武術系スキル持ちがいれば違うんだろうけど、そのキーとなるべき井上は一人無双を楽しんでるご様子。
「けんちゃん……このままじゃMPが保たないよ」
「健一! こっちもいつまでも保たんぞ。ここはHPを消費するが、大技を使って道を作り、一か八か走り抜けた方が良くないか?」
ヒメが焦りの色を見せ始め、窪さんがジリ貧の状況を憂いそう提案してくるけど、多分その作戦は失敗すると思う。
そう考え、その旨を窪さんに伝えようとすると、少し離れた所から井上の声が響いた。
「【超級剣術】裂空斬!」
文字通り空気を切り裂く剣撃を放つアーツを発動し、『今のうちに一気に駆け抜けろ!』なんて得意げに叫んでいるけど、アーツで出来た空間は叫んでる内にも殆ど埋まってしまっている。
「大技で脱出は無理そうですよ」
「ああ……そうだな……」
井上の愚行を目の当たりにして、窪さんが頷く。
しかし、こうなってくるとやっぱり、進行方向二人体制でジリジリ移動するしか手が無くなってくる。僕とヒメ以外の武術系スキル持ちなら単騎で突破も可能なんだろうけど、魔術系スキルしか持っていない僕等には絶対に無理。
本当は頼りたくないんだけど、アレに頼らなければこの状況を打破する事は出来ないって事か……
ここで死ぬよりはマシだと僕が井上の方に目を向けると、井上もこちらに視線を向けていた。
井上は煩わしげに僕とヒメを睨み付けると、徐に口を開く。
「このままでは全滅してしまう! 各自、独力で突破しろ!」
井上はそれだけ言うと、アンデットを斬り伏せながら出口の方へと向かって行った。
「はぁ?!」
最初に井上の指示に疑問の声を上げたのは、井上に対しての鬱憤が相当溜まっていたであろう桃花さん。『あいつ、勝手にこのダンジョンを攻略するなんて言い出した癖に、危なくなったら自力で脱出しろなんて、何考えてんの信じられない』と井上に聞こえない程度の声量で愚痴をこぼす。
窪さんは、並みいる敵を倒しながら僕達の方へと視線を向ける。
「健一……井上の手を借りずにここを脱出する手立てはあるか?」
窪さんの問いに、僕はかぶりを振った。
悔しいがこのパーティで一番戦闘力が高いのは井上だ。その井上が真っ先に逃げ出したのでは僕にはもう、打つ手が見当たらない。
「窪さん、桃花さん。いよいよとなったら、僕達を置いて撤退して下さい」
僕の提案に、ヒメも覚悟を決めた表情で頷くが、窪さんと桃花さんはそれを聞いて鼻で笑った。
「はっ! お前達を置いて逃げろだと? そんな事をしたら博貴に合わせる顔が無くなるだろ!」
「そうそう。第一、健一君達を見捨てた私達を博貴君が迎えに来てくれると思う?」
「でも! 私達に付き合って桃花さん達までここで倒れたら……」
尚も食い下がるヒメに、桃花さんが迫り来るアンデット達を対処しながら器用にその頭を小突く。
「ヒメちゃん。皆がここで倒れる事なんて考えないの。私達は生きてここを脱出するんだから」
桃花さんが笑顔でそう諭すと、ヒメはそれ以上何も言わず静かに、でも、力強く頷いた。
僕も窪さんも、その様子を見て思わず笑みをこぼしてしまったのだがーー
「健一! 避けろ!」
それが致命的油断につながってしまった様でーー
笑顔から急に険しい顔になった窪さんの忠告を聞いて咄嗟に右手側に視線を向けると、そこには剣を振り上げたスケルトンの姿が映る。
(あっ! やばい……)
やばい事は分かってる。でも、頭で分かっていても身体が直ぐに反応出来るわけもなく……
僕は咄嗟に腕を十時に組み、頭上へと掲げた。
こんな腕だけで振り下ろされる剣を受けられるとは思っていない。でも、こんな所で死ぬくらいなら腕ぐらい!
走馬灯なのかな? やけにゆっくりと感じられるスケルトンが振り下ろす剣を凝視しながら、絶対に死んでたまるかと強く願っていると、そのスケルトンの頭蓋骨に側面から何かが突き刺さるのが見えた。
「えっ?……」
無意識に僕の口から間抜けな声が出てる間に、スケルトンの頭蓋骨が激しく弾け飛ぶ。と、同時に、力強くも懐かしい声がこの空間内に響き渡った。
「【神級聖神魔術】サンクチュアリ!」
その声に応える様に、足元から暖かい光が溢れ出す。
僕達を囲っていたアンデットは光を浴びると瞬時に光の粒子となり、更に僕の体力と気力も漲ってくる。どうやらこの光にはHP、MP回復効果もあるらしい。
一瞬で僕達を中心とした直径五メートル範囲にいたアンデット達が消滅し、僕を始め、ヒメも桃花さんも窪さんも、事態が飲み込めず呆然としながら、この部屋の入り口へと視線を向ける。
そこには、さっきの声の主である博貴が不敵な笑みを浮かべて立っていた。でも……
(その隣にいる弓を構えた萌え全開の女の子は誰?)
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