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第4章 超越者の門出編
第119話 糸作り……【並列思考】を使えば片手間でも出来ますとも
しおりを挟むせっせと糸を作っていると、廊下の方からガヤガヤとした声が聞こえ、やがて鍛冶場の扉が勢い良く開け放たれる。
「「ただいま~」」
「お帰り~。随分と早かったね」
もう少しで終わりそうな糸作りに専念する為にそこから視線を外さずに、背中越しに健一とヒメに挨拶を返す。
なんせこの作業、ミスリルの熱が冷めないうちに終わらせないと、またミスリルを熱っする作業からやり直す羽目になるので途中でやめられないのだ。
「あれ? 博貴君、何やってるの」
「何って、糸を作ってるんですよ」
健一達の後から入ってきた桃花さんの質問に、俺は右手で糸を作りながら左手で桶の中に溜まっていたミスリル糸を持ち上げて見せる。
「うわー! 綺麗な糸ね」
「本当だ。ひろちゃん、この糸で何を作るの?」
銀色に輝くミスリル糸は女性陣には人気の様で、桃花さんとヒメは駆け寄って来て桶の中を覗き始めた。対する男性陣の健一と窪さんは俺の作業が気になるらしく、背後から俺の手元を覗き込んでくる。
ティアは無言で俺の膝元に来て、俺の顔を覗き込んでいた。
「この糸で、魔法職の健一とヒメのローブを作ろうかと思ってね」
全員に囲まれてしまった俺は、苦笑交じりにこの糸の使い道を説明する。すると、桃花さんは眉をひそめた。
「この糸でローブ? 全身銀色で宇宙人みたいにならない? グレイとかいう奴」
「ちゃんと着色はしますよ。糸だから【至高の裁縫職人】で色付けが出来るんです」
「あっ、そうなんだ。しっかし、器用に作るわね」
「ははっ、主だった生産系のスキルは全部取得してますからね」
糸作りの作業を続けながら桃花さんにそう返答していると、興味深く俺の作業を見ていた健一が、原材料の赤く熱せられたミスリルを見て首を傾げる。
「博貴、これってもしかして金属?」
「ああ、元はミスリルだ」
「「へっ?」」
俺の返答を聞き、健一と桃花さんが間の抜けた声を出す。窪さんとヒメはミスリルが何なのか分かっていないようで、同時に声を上げた健一と桃花さんを不思議そうに見ていた。
「ミスリルってあの?」
「あのがどれを指すか知らないけど、ミスリルはミスリルだと思うぞ」
俺にそう言われた健一はその視線を俺から桶の中へと移し、『ああっ! 本当だ……ミスリル糸って出てる』と驚きの声を上げる。どうやら【鑑定】を使って確認したらしい。
そんな呆然と桶を覗いてる健一を尻目に、今度は桃花さんが寄ってきた。
「ねぇ、博貴君。ミスリルって、同じ重さの金よりも値段が高いって聞いた事があるんだけど知ってた?」
「えっ、そうなんですか? ミスリルの値段なんて気にした事がないから分かりませんでした」
「『風の国』の首都だと、金の三倍から三・五倍が相場だよ。価値も分からずに加工してたのかい博貴」
ミスリルの価値なんて考えた事もなかったから、桃花さんの情報に驚いていると、健一が呆れたようにその価値を教えてくれる。
「そんなに高い物だったのか……俺とティアの装備、殆どミスリルで作ってるんだけど……」
「……マジかい?」
「マジで。ついでに言うと、唯一違うのはヒヒイロカネ製の短刀」
「なっ! ……ちょっと待って博貴! そんな貴重な素材一体、何処から……」
「何処からって、全部このダンジョンで見つけたんだよ。ヒヒイロカネは本当に偶然だったけど、それでレア素材に味をしめて【幸運】を取ってみたんだ。そしたら、百層のボスが巨人しか装備出来なそうなでかいミスリル製の籠手を一対落とした」
俺がサラッとミスリルを手に入れた経緯を話すと、健一は頭を抱え悶え始めた。
「バカなぁ! ミスリルをそんなにアッサリと、しかも大量に手に入れられるなんてぇー!」
珍しく取り乱した健一を生暖かい目で見ていると、クイックイッと下の方から服が引っ張られる。
糸を作る手を止めずにそちらの方へ振り向くと、ティアが膝に身体を預けながら俺を見上げていた。
「どうしたティア?」
「ん、そろそろお昼。ひろにぃ、何が食べたい? お肉?」
「をい! 何を食べたいと聞いといて、何で肉一択なんだよ」
「ん? ひろにぃ、肉食べない?」
「いやいや、食べるけども、おかずは肉以外にも色々とあるでしょ」
「んー……でも、ご飯とお肉の取り合わせは最強」
勝ち誇った様にそう断言するティアに、『そうかも知れないけれども』と俺が苦言を呈していると、俺とティアの会話を他の皆がポカンとしながら見ていることに気付く。
「どうしたの皆?」
「いや~、色々と突っ込みたい所はあるんだけど……取り敢えず、ティアちゃんて結構喋るのね」
桃花さんの困惑気味の言葉に、俺は小首を傾げる。
「そりゃあ、喋るでしょ」
「んーとね……博貴君がいないと、ティアちゃん『ん』でしかコミニケーション取ってくれないのよね」
「………………」
桃花さんの言葉を聞き無言で他の皆を見渡すと、皆重々しく頷く。
どうやら、危惧していた事が現実になっていたらしい。やっぱり一日、二日じゃあティアと仲良くなるのは無理か……しかし、こればっかりはどうする事も出来ないので、右手で糸を作りながら左手を健一の肩に置く。
「ティアはちぃとばかり特殊な生い立ちでね、人とコミニケーションを取るのが苦手なんだわ。だから、健一達の方から歩み寄ってティアと仲良くなってやってくれ」
「……それも僕の課題になるのかい? まあ、これからパーティとして一緒に行動するんだから、頑張ってはみるけど……」
困った様子で笑みを浮かべる健一の意思表明を聞いて、安心しながら頷いていると、今度はヒメがそろそろ良いかなといった感じで手を上げる。
何かなとヒメの方に振り向くと、ヒメは食い気味に口を開いた。
「さっき、ティアちゃんがご飯って単語を言ってた様な気がするんだけど……」
「うん、言ってたね。だってあったでしょ、四十層に田園」
「……あれを収穫したのか? という事は米があるのか!」
俺の返答に即座に反応したのは窪さん。その目は驚きと期待の色を見せながら見開かれていた。
「ええ、その他にも味噌や醤油も作ってありますよ。ティアも待ってますからーー」
俺はそこまで言うと、歓喜している窪さんからヒメへと視線を移す。
「ヒメ、献立はヒメに任せるから、ティアと一緒に昼食の準備をお願い」
「分かった、任せといて」
ヒメは自信満々に胸を叩くと、ティアと『私も手伝う』と申し出た桃花さんと一緒に厨房へと向かった。
⇒⇒⇒⇒⇒
「さて、これで終わりっと……」
「御苦労様、博貴ーー」
ヒメ達が厨房に行ってから数分後、やっとミスリルを糸ににする作業を終えた俺に、健一が労いの言葉を掛けてくる。
「これで、僕とヒメのローブを作ってくれるのかい?」
「ああ、繋ぎの装備になるだろうけどね」
「繋ぎ?」
「アンデット共に囲まれた時に分かっただろ。魔法専門では接近されると自分の身を守れなくなる」
今の言葉で察したのだろう。健一はそう言うことかと頷く。
「後でトモから提案されるだろうけど、武術系スキルも取っておいた方がいい」
「確かにな、その方が生存確率も跳ね上がるだろう」
窪さんも俺の提案に頷いてくれるのを確認し、俺は再び健一へと視線を移した。
「ところで、午後からはどうするんだ?」
「ティアちゃんが先手を打つと、どうしても雑魚は一発で瀕死になっちゃうからね、午後からはフロアボスと戦ってみようって話になっているんだ」
「へー、ちなみに何層のボスとやるの?」
「三十層」
「三十層……ミノタウルスか……それ、誰の提案?」
「ティアちゃんだけど」
ティアか……ミノタウルスの肉、うまかったもんなぁ。
「多分、肉狙いだな」
「「えっ!」」
俺の呟きを聞きつけ、健一と窪さんが驚きの声を上げる。
「ティアのやつ、肉大好きだから」
「そ……そうなんだ……」
健一は曖昧な笑みを浮かべながらそう答えた。
ティアの嗜好は思いの外単純だから頑張ってくれ健一。
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