理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第120話 防具作成……ミスリルの布、硬いよ!

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   昼食を終え、健一達をダンジョンへと送り出した後、俺は作ったミスリル糸を持って工作室へと入る。
   ちなみに昼食はご飯に味噌汁、漬物とステーキだった。そこは焼き魚であって欲しかったが、そこだけはヒメの指示の元、直接手掛けたティアが譲らなかったらしい。
   それでも、健一と窪さん、桃花さんは涙を流さんばかりに喜びながら昼食を食べていた。
   ティアの手際を見ていたヒメが、『私も絶対【料理】スキルを最高まで上げる』と息巻いていたので、旅館の朝食の様なメニューが再現される日は近いだろう。問題は焼き海苔だけど、ヒメなら海苔にするのに適した海藻を見つけて作ってくれそうだ。

「さてとーー」

   工作室で俺は、染料が並べられた棚へと近付き白と黒の染料が入った瓶を取り出す。
   これは昼食の時に健一とヒメから聞いた要望による色で、今までのローブがその色だったのでそれで良いと言われていた。
   二つの桶に水を張り、そこに白と黒のの染料をそれぞれ溶いていく。良い感じに水に色が付いたらローブ一着分のミスリル糸をそれぞれの桶に浸す。
   普通なら金属の糸に色など染みるはずがないのだが、この理不尽な世界はスキルを持つ者には有利にその理不尽さを発揮するようで、見る見るうちにミスリル糸がそれぞれの色に染まり始めた。
   初めは苦しめるばかりであった理不尽さが、今では全てが味方をしているようで、思わず苦笑してしまいながら俺は、工作室の隅に置いてある魔道具へと歩み寄った。
   この魔道具は機織り機の魔道具で、縦糸に横糸を通しトントンと目を詰めるあの作業を自動でしてくれる優れものである。
   今まで誰も手を触れてなかったであろうその魔道具に手を触れると、【至高の魔道具技師】のスキルが魔道具自体に異常が無い事を教えてくれる。
   糸を布へと変える手段が問題無いと分かった俺は、糸を桶から取り出し、乾かす作業へと移った。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   ガキッ!

   鈍い金属音が工作室に鳴り響き、その不快な音を聞き顔を歪めた。
   部屋の中に健一用の黒いミスリル糸を織るガチャコン、ガチャコンという機織り魔道具の音が響く中、先に出来上がっていたヒメ用の白いミスリル布を裁断しようとしていた俺は、手に持ったハサミを繁々と見つめる。

「薄いから行けると思ったんだけどなぁ……」

   呆然と呟く目線の先には、ミスリル布を切ろうとして刃が欠けてしまった断裁バサミがあった。
   やはり、鉄製のハサミで薄いとはいえミスリルを切ることは不可能らしい。

「中々の防御力だな……鉄製の刃物なら完全にシャットアウトじゃねえか、これ……」

[ミスリルは強度的に鉄より遥かに上ですから、当然の結果だと思われます。マスターの攻撃補正が加わっても、流石に裁断バサミの強度が上がる訳ではありませんから]

   自分で作っておいて自画自賛していると、アユムから事後報告が届く。
   分かっていたのならやる前に教えて欲しかった。

「しかし、こうなるとどうやって裁断しよう……同じミスリルなら切れるかな」

   ダイヤモンドでダイヤモンドを研磨する事を思い出し、一旦口に出してみたものの、自分が持っているミスリル製の刃物が槍しかないことを思い出す。

「流石に槍じゃあ裁断し辛いよな……となると、これしかないわけだが……」

   言いながら俺はヒヒイロカネ製の短刀、疾風を取り出す。

「……欠けたりしないよね」

[強度的にはヒヒイロカネの方が若干上ですし、それにマスターの攻撃補正が加われば間違いなく断ち切れると思われます]

   欠けて疾風を打ち直しなんて事になると嫌なので、今度はアユムに事前に確認を取るとお墨付きを貰えたので、早速裁断に入る。

「おお、切れる切れる」

   テーブルの上にミスリル布を置き、裁断の為に引いていた線を疾風でなぞると、殆ど手応えもなくスルスルと切れていく。
   そして、切り終わるとーー

   ゴトッ!

   切り抜いたテーブルの天板ごと床へと落ちた。

「……下のテーブルも切ってたか……道理で刃先が思ったより沈み込んでいた筈だ」

[疾風の切れ味ならば、木など紙以下ですからね。仕方がない結果かと]

「はぁ……、作業机も作り直さないと……」

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   健一の黒いミスリル布の製作も終わり、そちらの裁断も終わった後で、作業机も木材で作成すると、かなりの時間を浪費してしまった。今日中に二人のローブを作ろうと思っていたから直ぐにローブの縫製に移る。
   ヒメの白いミスリルローブは裏地に絹を使い、縁を折り曲げて残していた白のミスリル糸で縫おうとしたのだが、ここで1つ問題発生。鉄製の針が全く刺さらないのだ。
   布目を狙えば針が通るかと思ったのだが、がっちりと詰まった布目はビクとも動かなかった。振るとヒラヒラと普通の布の様に柔らかい動きを見せる癖に、その布目はがっちりと硬い。力を込めれば通るかと思い力を込めてみると、針はアッサリと折れてしまった。

「こりゃあ、ミスリルで針を作るしかないか……と、なると、窪さんと桃花さんの装備を作るついでに作った方が早いか?」

   今日中のローブの完成は無理と判断し、俺は鍛治場へと移動する事にした。

   ーーーーーーーーーー

   Side   健一

「えっ!……」

   【鑑定】でミノタウルスのステータスをチェックしていた僕は、ティアちゃんの弓の一撃を受けてそのHPが2350から一気に3まで落ちたのを見て唖然とする。
   その鑑定結果に間違いが無いことを立証するかの様に、ミノタウルスはその場で持っていた巨大なバトルアックスの重みに耐えられないかの様に倒れこんだ。

「……健一?」

   その様子を見ていた窪さんが、困惑気味に僕の方へと振り返る。

「……一撃でHPが3まで減りました。瀕死ですね」
「あっちゃあ……フロアボスでも雑魚と同じ結果なんだ」

   窪さんに鑑定結果を報告すると、窪さんの隣でそれを聞いていた桃花さんが顔を手で覆い天を仰ぐ。

「えっと……トモさん、もしかしてクリティカルヒットでもしたのかな?」

〈ミノタウルスは筋力、体力共に約五百です。対して、ティアちゃんは平均能力値二万オーバー。ティアちゃんにとってミノタウルスは雑魚と変わらない魔物なんですよ〉

   ボスが一撃で瀕死などというありえない現象に、たまらず確認してみると、トモさんは淡々とそう報告してくる。
   だったら、ここにくる前に教えて欲しかった。大体、能力値二万オーバーってどういう事?

「もしかして博貴もそんな能力値なの?」

〈マスターの能力値に関しては、流石に守秘義務が生じるので、本人に御確認して下さい〉

   さいですか。でも、三十層とはいえ仮にもフロアボスを雑魚扱いとは……

   呆れ返っていると、背後からチョンチョンとローブの裾を引っ張られる。振り返るとティアちゃんが『ん』と言いながらミノタウルスを指差していた。
   どうやらサッサととどめを刺せと言ってる様だ。いや、博貴の言葉を借りるのなら、サッサと肉を取って、かな?
   苦笑しつつ窪さんへと目配せすると、窪さんは静かに頷きゆっくりとミノタウルスに向かってとどめを刺しに行った。
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