124 / 172
第4章 超越者の門出編
第120話 防具作成……ミスリルの布、硬いよ!
しおりを挟む昼食を終え、健一達をダンジョンへと送り出した後、俺は作ったミスリル糸を持って工作室へと入る。
ちなみに昼食はご飯に味噌汁、漬物とステーキだった。そこは焼き魚であって欲しかったが、そこだけはヒメの指示の元、直接手掛けたティアが譲らなかったらしい。
それでも、健一と窪さん、桃花さんは涙を流さんばかりに喜びながら昼食を食べていた。
ティアの手際を見ていたヒメが、『私も絶対【料理】スキルを最高まで上げる』と息巻いていたので、旅館の朝食の様なメニューが再現される日は近いだろう。問題は焼き海苔だけど、ヒメなら海苔にするのに適した海藻を見つけて作ってくれそうだ。
「さてとーー」
工作室で俺は、染料が並べられた棚へと近付き白と黒の染料が入った瓶を取り出す。
これは昼食の時に健一とヒメから聞いた要望による色で、今までのローブがその色だったのでそれで良いと言われていた。
二つの桶に水を張り、そこに白と黒のの染料をそれぞれ溶いていく。良い感じに水に色が付いたらローブ一着分のミスリル糸をそれぞれの桶に浸す。
普通なら金属の糸に色など染みるはずがないのだが、この理不尽な世界はスキルを持つ者には有利にその理不尽さを発揮するようで、見る見るうちにミスリル糸がそれぞれの色に染まり始めた。
初めは苦しめるばかりであった理不尽さが、今では全てが味方をしているようで、思わず苦笑してしまいながら俺は、工作室の隅に置いてある魔道具へと歩み寄った。
この魔道具は機織り機の魔道具で、縦糸に横糸を通しトントンと目を詰めるあの作業を自動でしてくれる優れものである。
今まで誰も手を触れてなかったであろうその魔道具に手を触れると、【至高の魔道具技師】のスキルが魔道具自体に異常が無い事を教えてくれる。
糸を布へと変える手段が問題無いと分かった俺は、糸を桶から取り出し、乾かす作業へと移った。
⇒⇒⇒⇒⇒
ガキッ!
鈍い金属音が工作室に鳴り響き、その不快な音を聞き顔を歪めた。
部屋の中に健一用の黒いミスリル糸を織るガチャコン、ガチャコンという機織り魔道具の音が響く中、先に出来上がっていたヒメ用の白いミスリル布を裁断しようとしていた俺は、手に持ったハサミを繁々と見つめる。
「薄いから行けると思ったんだけどなぁ……」
呆然と呟く目線の先には、ミスリル布を切ろうとして刃が欠けてしまった断裁バサミがあった。
やはり、鉄製のハサミで薄いとはいえミスリルを切ることは不可能らしい。
「中々の防御力だな……鉄製の刃物なら完全にシャットアウトじゃねえか、これ……」
[ミスリルは強度的に鉄より遥かに上ですから、当然の結果だと思われます。マスターの攻撃補正が加わっても、流石に裁断バサミの強度が上がる訳ではありませんから]
自分で作っておいて自画自賛していると、アユムから事後報告が届く。
分かっていたのならやる前に教えて欲しかった。
「しかし、こうなるとどうやって裁断しよう……同じミスリルなら切れるかな」
ダイヤモンドでダイヤモンドを研磨する事を思い出し、一旦口に出してみたものの、自分が持っているミスリル製の刃物が槍しかないことを思い出す。
「流石に槍じゃあ裁断し辛いよな……となると、これしかないわけだが……」
言いながら俺はヒヒイロカネ製の短刀、疾風を取り出す。
「……欠けたりしないよね」
[強度的にはヒヒイロカネの方が若干上ですし、それにマスターの攻撃補正が加われば間違いなく断ち切れると思われます]
欠けて疾風を打ち直しなんて事になると嫌なので、今度はアユムに事前に確認を取るとお墨付きを貰えたので、早速裁断に入る。
「おお、切れる切れる」
テーブルの上にミスリル布を置き、裁断の為に引いていた線を疾風でなぞると、殆ど手応えもなくスルスルと切れていく。
そして、切り終わるとーー
ゴトッ!
切り抜いたテーブルの天板ごと床へと落ちた。
「……下のテーブルも切ってたか……道理で刃先が思ったより沈み込んでいた筈だ」
[疾風の切れ味ならば、木など紙以下ですからね。仕方がない結果かと]
「はぁ……、作業机も作り直さないと……」
⇒⇒⇒⇒⇒
健一の黒いミスリル布の製作も終わり、そちらの裁断も終わった後で、作業机も木材で作成すると、かなりの時間を浪費してしまった。今日中に二人のローブを作ろうと思っていたから直ぐにローブの縫製に移る。
ヒメの白いミスリルローブは裏地に絹を使い、縁を折り曲げて残していた白のミスリル糸で縫おうとしたのだが、ここで1つ問題発生。鉄製の針が全く刺さらないのだ。
布目を狙えば針が通るかと思ったのだが、がっちりと詰まった布目はビクとも動かなかった。振るとヒラヒラと普通の布の様に柔らかい動きを見せる癖に、その布目はがっちりと硬い。力を込めれば通るかと思い力を込めてみると、針はアッサリと折れてしまった。
「こりゃあ、ミスリルで針を作るしかないか……と、なると、窪さんと桃花さんの装備を作るついでに作った方が早いか?」
今日中のローブの完成は無理と判断し、俺は鍛治場へと移動する事にした。
ーーーーーーーーーー
Side 健一
「えっ!……」
【鑑定】でミノタウルスのステータスをチェックしていた僕は、ティアちゃんの弓の一撃を受けてそのHPが2350から一気に3まで落ちたのを見て唖然とする。
その鑑定結果に間違いが無いことを立証するかの様に、ミノタウルスはその場で持っていた巨大なバトルアックスの重みに耐えられないかの様に倒れこんだ。
「……健一?」
その様子を見ていた窪さんが、困惑気味に僕の方へと振り返る。
「……一撃でHPが3まで減りました。瀕死ですね」
「あっちゃあ……フロアボスでも雑魚と同じ結果なんだ」
窪さんに鑑定結果を報告すると、窪さんの隣でそれを聞いていた桃花さんが顔を手で覆い天を仰ぐ。
「えっと……トモさん、もしかしてクリティカルヒットでもしたのかな?」
〈ミノタウルスは筋力、体力共に約五百です。対して、ティアちゃんは平均能力値二万オーバー。ティアちゃんにとってミノタウルスは雑魚と変わらない魔物なんですよ〉
ボスが一撃で瀕死などというありえない現象に、たまらず確認してみると、トモさんは淡々とそう報告してくる。
だったら、ここにくる前に教えて欲しかった。大体、能力値二万オーバーってどういう事?
「もしかして博貴もそんな能力値なの?」
〈マスターの能力値に関しては、流石に守秘義務が生じるので、本人に御確認して下さい〉
さいですか。でも、三十層とはいえ仮にもフロアボスを雑魚扱いとは……
呆れ返っていると、背後からチョンチョンとローブの裾を引っ張られる。振り返るとティアちゃんが『ん』と言いながらミノタウルスを指差していた。
どうやらサッサととどめを刺せと言ってる様だ。いや、博貴の言葉を借りるのなら、サッサと肉を取って、かな?
苦笑しつつ窪さんへと目配せすると、窪さんは静かに頷きゆっくりとミノタウルスに向かってとどめを刺しに行った。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~
キョウキョウ
ファンタジー
普通の会社員だった佐藤隼人(さとうはやと)は、ある日突然異世界に招かれる。
異世界で勇者として10年間を旅して過ごしながら魔王との戦いに決着をつけた隼人。
役目を終えて、彼は異世界に旅立った直後の現代に戻ってきた。
隼人の意識では10年間という月日が流れていたが、こちらでは一瞬の出来事だった。
戻ってきたと実感した直後、彼の体に激痛が走る。
異世界での経験と成長が現代の体に統合される過程で、隼人は1ヶ月間寝込むことに。
まるで生まれ変わるかのような激しい体の変化が続き、思うように動けなくなった。
ようやく落ち着いた頃には無断欠勤により会社をクビになり、それを知った恋人から別れを告げられる。
それでも隼人は現代に戻ってきて、生きられることに感謝する。
次の仕事を見つけて、新しい生活を始めようと前向きになった矢先、とある人物が部屋を訪ねてくる。
その人物とは、異世界で戦友だった者の名を口にする女子高生だった。
「ハヤト様。私たちの世界を救ってくれて、本当にありがとう。今度は、私たちがあなたのことを幸せにします!」
※カクヨムにも掲載中です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる