理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第121話 健一の焦り……その気待ち分かるだけにのんびりやれなんて言えないよね

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「……ただいまぁ~」

   鍛治場で防具作りの下準備を終え、時間的に中途半端だったから厨房に移動して夕食の下拵えをしていると、廊下から疲れ切った様な健一の声が聞こえてくる。
   あれ?   ティアと一緒なんだから三十層のフロアボス程度で苦戦する様な事ははない筈だけど?
   そのあまりにも疲労感を感じさせる声に少し不安を覚えて厨房から出ると、丁度、肩を落とし項垂れる一行がリビングへと入ってきた。

「どうしたんだ健一、随分とお疲れの様だけど?」

   俺の言葉に健一は苦笑で返す。

「三十層のボスが雑魚と変わらなかったよ」
「……トモ?」

〈レベル45、HP2350では、ティアちゃんの敵ではなかった様です〉

   詳しい内容をトモに求めると、その様な簡潔な返答。
   成る程、そりゃあ火竜山麓のワイバーンやドラゴン亜種に比べればあのレベルは雑魚だわな。

「て、事は……」
「ティアちゃんの一撃で瀕死。後は窪さんが小突いただけであっさりやっつけちゃったよ」

   健一の苦笑は乾いた笑みへと変わる。どうやらティアのスペックに呆れ返っている様だ。
   その事に関しては俺も失念していた。俺達がミノタウルスと戦った時はレベル差はあまり無く、かなり苦戦したんだよな。その時の記憶が強く残ってたものだから、それなりに善戦するものだと思っていたけど……そうか、今の俺達だとミノタウルスも瞬殺なのか……
   改めて自分達の非常識さを心に刻みつつ健一を見ると、肉体的ではなく精神的に疲れているのだろう、力無い笑みを浮かべていた。

「まあ、その……なんだ、確かに今の段階では健一達の出番は無いだろうけど、裏を返せばこの先のレベル上げが楽だという事だろ。健一達が強くなればその差は縮まるだろうし、あまり気にするな」
「そうだね。僕達の存在意義を考えてしまいそうになるけど、強くなれば僕達も博貴に肩を並べられるよね」
「ああ!」

   不安の色を隠せない健一の言葉に、俺は力強く頷いて見せる。
   肩を並べて、か……
   そういう事か。健一の不安はこの先俺達のお荷物になるかもしれないというところから来てるんだな。別にそうなっても気にはしないが、逆の立場なら確かに焦っても仕方が無いだろう。
   俺もこの世界に来たばかりの頃は弱い自分にかなり焦りを感じていたっけ。そして、命をかけて力を手に入れた。
   強くなる為に無茶をした俺が、健一に焦るななんて言えんわな。
   勇者として少なからずこの世界で強者としての自覚を持っていたのだろうけど、それを完全に打ち砕かれた様子の健一に心からエールを贈りつつ、俺は健一の背後に続いていたヒメへと視線を移す。

「ヒメ、米を洗って潤かしておいたから、後、お願い出来る?」
「わぁ、ひろちゃん有難う。皆、今日の夕飯はどうする?」
「う~ん、なんか消化に良い物を食べたい気分だね」
「ふむ……だったらお粥なんかどう?」

   健一の希望を聞き即座に献立を決めたヒメが皆に確認を取ると、反対意見は特に出ず、ヒメはティアを伴って嬉しそうに厨房へと消えた。
   本当は俺が全部作っても良いんだけど、料理はヒメのストレス発散も兼ねているからな。これで機嫌の良いヒメが健一のストッパーになってくれれば良いのだけど……

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「海産物がないのよね」

   夕食の席に着き、ヒメ監修、ティア作のお粥に舌鼓を打っていると、ヒメがポツリと呟いた。

「海には行った事がないからなぁ」
「海は首都とは反対方向だっけ?」

   俺の言葉に反応した桃花さんに、コクリと頷く。
   このログハウスは『風の国』のほぼ中心。首都ファルテイムはここから東にあり海は反対の西側にある筈だ。ダッシュで行けば二日程で着く自信はあるが、皆の装備を作り『水の国』の返答が近々帰ってくるとなるとそんな暇は無い。

「せっかくお米とお味噌、醤油があるのに、それを生かす出汁が取れないんです」
「そうなの?   お昼のお味噌汁は結構美味しかったけど」
「あれは干した川魚で出汁を取ってみたんだんですけど、やっぱり鰹節とか昆布の味に慣れ親しんでたから、なんか違うんですよね」

   ヒメと桃花さんの話を、フワッフワッの溶き卵が入った塩ベースのお粥を食べながら静かに聞き流し、俺は健一と窪さんへと話しかける。

「出汁の違い、分かります?」
「確かに慣れ親しんだ味ではなかったが、美味かったから別段気にはしてなかったな」
「僕もそうだね。元々、出汁の違いが分かるほど上等な舌は持ち合わせてないし」

   二人の言葉に、俺も『ですよね』と頷く。
   元々、俺の食べ物の基準は美味いか不味いか程度だし、【至高の料理人】を持つ俺やティアが手掛けている以上、不味い料理が出来上がるわけがないから、そこまで拘ってはいなかったが、そうか、海産物か……
   確かに醤油と魚介の組み合わせは惹かれるものがある。今度暇が出来たら検討してみよう。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   昼食が終わり、ダンジョンに潜る健一達を見送った俺は、再び鍛冶場へと入る。
   健一達は六十層付近へと潜るそうだ。今回はティア抜きで戦い、危なくなったらティアが手を貸す方式を取るらしい。窪さんもいるし、危険の判定はトモがやるそうだから心配は無いと思うが、健一の様子がちと気にはなる。
   まあ、六十層の魔物のレベルなら心配は無いだろう。
   ちなみに、下の層に行くことは全員難色を示して却下された様だ。健一曰く、前に潜った時にはそんなに嫌悪感は無かったのに、という事だったが、恐らく井上のスキルから解き放たれて精神力が三分の一になった影響だと思われる。
   精神的に弱くなって、今まで自分達がやっていたヒューマンとの戦闘に対する精神状態に違和感を覚えた様だ。その証拠に、パーティの中で一番常識的な筈の窪さんが、そんなに難色を示していなかった。
   こんな所でも井上が役に立つ事になるとは、世の中分からないものである。
   昼食後にその事が分かった俺は早速、人を殺す免疫を持たすという神の思惑の事を健一達に教えた。
   健一達は大分動揺していたが、最後には神妙な面持ちで頷いてくれた。これでこの先、健一達が勢いに任せて人を殺める様なことはないだろう。

「さて、じゃあ、健一達の装備を心を込めて作りますか」

   気合いを入れて俺は作業に取り掛かった。


   ーーーーーーーーーーーー

   とんでもなく長い章になってしまいましたが、これで第4章終了です。
   次回から『水の国』の章に入ります。

   神尾優でした。
   
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