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第5章 『水の国』教官編

第122話 健一達の装備……出来た物は仕方がないでしょ

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「ふぅ、やっと出来た」

   目の前に並べられた装備の数々を見て、俺は満足して笑みをこぼした。
   窪さんにはブレストメイルとレッグガード。それに、拳の第二関節まで覆う様に作った籠手。これは拳を握ると敵に当たる拳の前面までミスリルで覆う為で、オープンフィンガーの手袋の様に指を通して装着する様に出来ている。また、レッグガードと籠手の他に、ミスリル製の肘当て、膝当てを作った。窪さんが拳や肘、膝での攻撃をした場合、敵に当たる箇所はミスリルの防具で保護する様に作ったが、防具というより、武器という側面の方が強いかもしれない。
   普通は関節まで防具で覆ってしまうと武器を使う時、動きづらい可能性が出てくるが、素手での戦闘オンリーの窪さんの為に、その動きを極力阻害しないよう作ったつもりだ。
   桃花さんには窪さんと同じブレストメイルと籠手、レッグガード……と思ったのだが、桃花さん自身に『そんなゴツいの動き辛い』と却下され、武器はミスリル製の片刃の短刀2本。防具はレッサードラゴンの鱗を用いた籠手と、皮を使ったブーツを作った。そして体の方はミスリル糸を使った服と、膝上のスカート。
   スカートに関しては断固として拒否したのだが、桃花さんは俺の黒歴史、ティアのかぼちゃパンツを取り出し、『ティアちゃんにはこんなに可愛いパンツを作ってるのに、私には可愛いスカートを作ってくれないんだ』とにこやかに脅迫してきたのだ。
   この先、それに関しては触れない事を約束してもらい、俺がスカートを作ったのは仕方のない事だと思う。
   ヒメと健一にはミスリル糸で作った白と黒のローブ。レッサードラゴンの皮で作ったベルトも添えて、腰でローブを押さえる事により、激しい動きをしてもあまりローブがバサバサしない様にした。
   そして、杖。杖はレッサードラゴンのツノを5本程【至高の錬金術師】の能力で1本に変換し、それを加工して杖にした物。
   強度的にはミスリルの方が上だが、ミスリルで作ると重いうえに武骨だという事でレッサードラゴンのツノで作り、更に、【至高の魔道具技師】の力で、杖の先端に装着させた素材の魔力を、発動させた魔法に上乗せさせるという魔道具に作り変えた。
   これにより、この杖を持って魔法を使うと先端の素材の魔力を使い、勝手に威力が一・五倍になるという杖が出来上がったわけだ。まあ、素材の魔力が無くなったら交換しないといけないんだけど。
   この杖は高性能で、魔力を体内に取り込むわけじゃないから、不純物が多くて魔法に使えなかった核の魔力も使用可能。はっきり言って最強の魔法ブースターと言って過言ではないと思う。
   こうして作り上げた防具には全て【至高の鍛冶屋】と【至高の裁縫職人】のスキル能力である付与を使い、レッサードラゴンの素材の力を付与している。それにより、火耐性(中)、氷耐性(中)、風耐性(中)、雷耐性(中)が備わっている。魔法や特殊攻撃にもそれなりの防御力を発揮してくれるだろう。
   この防具や武器は、健一達の危険のリスクを減らしてくれる大事な装備。どんなに手を加えてもやり過ぎではないと思う。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「……やり過ぎよ」

   レリックさんから渡されていた通信球で、『水の国』からの回答が来たという報告を受け、皆で『風の国』の冒険者ギルドに戻る。すると、ギルドマスターの机に座って待ち構えていたかなねぇは、健一達の新装備姿を見るとそう言って頭を抱えた。

「全て、ミスリルとレッサードラゴンの素材で作った装備ですか。使った素材だけで一体どれ程の価値になるのやら……」

   かなねぇの斜め後ろに立って控えていたレリックさんが、まじまじと健一達の装備を見て、ため息まじりに呟く。

「龍次さん、装備のランクはどうなってる?」
「全て、伝説級の下から中といったところですね……っと、健一殿と美姫殿の持つ杖は伝説級の上です」
「はぁ?!   伝説級の上?   そんなもん、国宝クラスでしかお目にかかれない代物じゃない。ひろちゃん、なんてもんを作るのよ!」
「そんな事言ったって、俺がこのランクの素材を使って装備を作ると、全部伝説級になるんだから仕方がないだろ。第一、ミスリルは希少だろうけど手に入らない素材ではないんでしょ。だったらミスリル製の装備だって、装備してても問題ないはずだろ。まあ、目立つかもしれないけど」

   なんか理不尽な非難を浴びて反論すると、かなねぇとレリックさんは首を左右に振りながら大きくため息をついた。

「ひろちゃん、あのねぇ……この世界の一流の鍛治職人がミスリルを使って武器、防具を作っても、希少級の中が精一杯なの」
「はい?   だって、俺が適当にミスリルでナイフを作っても、希少級の上だったけど?」
「……作ったの?」
「うん。ティアが肉を切るのに丁度いい、切れ味の良いナイフが欲しいって言うから。ほら、ティアはまだちっちゃいから普通のナイフだと大きいんだ」

   俺がそう言うと、ティアは時空間収納から小さなティアの手にぴったりの可愛らしいナイフを取り出して、自慢げに掲げる。

「確かに、希少級の上の食用ナイフですねぇ」

   レリックさんが鑑定し即座に報告すると、かなねぇは再び頭を抱える。

「希少級上のただの食用ナイフなんて……本当になんてもん作るのよ!」
「ちなみに、健一殿達の杖の効果ですが、杖の先端に付けた核の魔力を利用して、発動させた魔法の効果を一・五倍に引き上げる効果があるみたいですよ」

   癇癪を起こしたように叫んだかなねぇの声に被せるように、レリックさんが今頃になって杖の効果を解説すると、かなねぇはピタッと動きを止めてレリックさんの方に顔を向けた。

「核の魔力を魔法に利用?   それって不可能だったんしゃないの?」
「ええ、核の魔力は不純物が多く人の体内に取り込めないので、それは不可能とされてきました。しかし、あの杖は発動させた魔法に直接核の魔力を流し込むようですね」

   淡々と説明するレリックさんに、かなねぇはギョッとして目を見開く。

「えっ!   だって、魔法を発動させるのに必要なのが魔力なのよね。発動した魔法にさらに魔力を流し込んで力を増幅させるなんて出来るの?」
「普通に流し込んでも無理でしょうね。ですが、あの杖は謂わば魔法の威力を高める魔法を、核の魔力で発動させるブースター的な魔道具なんですよ」
「魔法の種を問わずにその力を高める魔道具って事?」
「ご明察です」
「……そんなの……国に献上したら間違いなく国宝に祭り上げられる様なとんでも魔道具じゃない!!!」

   両手を机に置き、腰を椅子から浮かせて叫び終わった後にはぁはぁ息を切らせるかなねぇを顔を引きつらせながら見てると、そんな俺をかなねぇがキッと俺を睨む。

「ひろちゃん、本当になんて物を作ってくれちゃってるのよ……こんな装備、世に知れたら大騒ぎよ」
「う~ん、でも、健一達の身を守る大事な装備だから手なんか抜けないじゃない」
「ティアちゃんの時もそうだったけど、ひろちゃん……過保護過ぎ!」

   再び椅子に深く腰掛け、疲れ切った様に背もたれに身を預けたかなねぇは、健一達の方へ視線を向けた。

「と、言うわけで、ひろちゃんがけんちゃん達の為に精魂込めて作ったその装備は、人目に晒されるととんでもない事になるから、人目につく所では装備しないでくれる」

   かなねぇからのお願いに、健一達は苦笑いを浮かべながら頷いていた。
  
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