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第5章 『水の国』教官編
第123話 宰相の今の立場……レリックさん、その話は追い追いではなく、無かった事にして下さい
しおりを挟む「それで、『水の国』からの返答なんだけど、報酬はアクアクリスタルでオーケーらしいわ」
人が精魂込めて作った装備にダメ出しするだけダメ出しした後で、かなねぇは椅子に座り直すと、気を取り直した様にお澄まし顔で静かに俺に告げる。
「国宝なんだよな。欲しいって言った俺が言うのも何だけど、また随分とあっさり許可が降りたものだね」
「国宝と言っても誰にも加工出来ない様ですので、綺麗な飾り物で良いのなら、という所ではないですかね。実際、実用性で言えば、博貴殿が作った杖の方がはるかに高性能ですからねぇ」
シレッと俺の作った装備の事をぶり返してくるレリックさんを頬を引きつらせながら睨んでいると、かなねぇが咳払いをして自分に注意を集める。
それに応える様に視線を戻すと、かなねぇは満足気に頷いた後で口を開いた。
「それで、事は急を要する事だから、今すぐに『水の国』に向かいたいんだけど、ひろちゃん良いかな?」
「……向かいたい? 向かって欲しいじゃなくて?」
「うん。向かいたいで良いのよ。だって、私も同行するんだもん」
かなねぇの言葉に、俺は目を見張った。
「ええっ! だって、かなねぇは『風の国』の動向が怪しくて忙しいって言ってただろ」
「うん、忙しかったわよ。でも、ひろちゃんが活躍してくれたお陰で、宰相の力も大分削げたし、もうこの国で大きな問題は起きないと思うわ。だから、私も次に問題の多い『水の国』に移ろうと思って」
「宰相は今、大慌てです。勇者が井上しかいなくなった事を必死に隠してる様ですが、周りは薄々感じ取っているというところですね」
かなねぇの言葉にレリックさんが続け、クスクスと愉しげに笑う。
「それで今、宮廷魔術師筆頭のレイモンド卿が息子さんのニクステスさんと一緒に、第二王子であるティスタルク王子を担ぎ上げて、完全なる王権復興と宰相の弾圧を水面下で始めたのよ」
「本来なら、宰相はそれに対して勇者を前面に押し出して対抗する筈が顔を見せる勇者は井上のみ。しかも、正面切ってではなく、影からレイモンド卿の陰口をたたくばかり。これでは新しい協力者を増やすどころか、今まで協力していた者も離れていってしまいますでしょうね」
そう言うレリックさんは何処か嬉しそうだ。本当に宰相の為に今まで苦労してきたんだろうな。
「本当なら、このまま行くと国を割る内紛に発展しかけない状況だけど、そうしたくないのは宰相側なのよね。実際、そうなったらまともな戦力は井上しかいないのは分かり切ってるもの。幾ら井上でも、国の戦力の大半を相手取るとなると、自分達が抱えている、軍の形式だけの新兵とも言えない寄せ集め集団だけでは数日持つかどうかよ。て事で、私が『風の国』に入り浸る必要が無くなったから、次に問題視されてる『水の国』に移る事にしたの」
本当に肩の荷が下りたといった感じで話すかなねぇに、俺はジト目を向ける。
「国のゴタゴタっていうのは、それを抑えてる最中よりその後の処理の方が大変なんじゃないの? かなねぇはそれを全てレリックさんに任せると?」
「ははっ、痛い所を突くわねひろちゃん。でも、今私がこの国を離れる事を提案したのは龍次さんなのよ」
普段かなねぇに仕事をする様にせっつくレリックさんが何故? と思いながらそちらに目をやると、レリックさんは静かに肩をすくめて見せた。
「私も事後処理の事を考えると、もう少し総統にいてもらいたいのですけどね……昨日、一昨日と、宰相の手の者がやたらとこのギルドに押し掛けて来るのですよ」
「? ……宰相の手の者が? ……あっ! 国内に味方がいないなら、冒険者ギルドを仲間に引き込もうって事ですか? 完全に四面楚歌になる前に戦力になりそうなギルドを抱き込んで、他の貴族を説得する呼び水にでもするつもりで」
「流石私の後継者、ご明察です」
後継者って……そう言えば、前にもそんな事言ってたっけ……
レリックさんの突然の後継者発言に俺が呆れ返っていると、そんな俺とは違い、初耳のかなねぇや健一達が一斉にこっちを見る。
「えっ、博貴ってレリックさんの後継に座る気なの? でも、博貴の才能なら問題無いか」
「未来の職は安泰か~。この先もこの世界にいる事になるんなら、それもありよね」
をい! 健一! ヒメ! お前達、レリックさんの性格を知ってるだろ。レリックさんの地固めの策略にまんまと乗るんじゃない。
「あっらぁ~、ひろちゃん冒険者ギルドへの就職希望なの? だったら龍次さんの後継と言わず、私の参謀として副総統の肩書きを用意するけど?」
かなねぇはレリックさんに乗る形でこの発言。本当に勘弁してください。
「ふふっ、博貴殿が私の上司ですか。総統の相手を全て博貴殿がしてくれるのなら、それでも良いですねぇ」
かなねぇの言葉に更にレリックさんが乗っかる。あまりにも悪ふざけが過ぎるので、いい加減にしてくれという念を込めてレリックさんを睨み付けると、『まあ、この話は追い追いという事で……』と、前回と同じ様な事を言いつつ、レリックさんは話を元に戻す。
「で、つい先日の夕方の事なんですが、とうとう宰相自らがここにやって来まして、私が『冒険者ギルドは特定の組織とは懇意にしません』と、心にも無い事を言ってお断りしたのですが、『お前では話にならん! ここに冒険者ギルドの総統がいるはずだろ! 総統を出せ!』と、すごい剣幕で捲し立てられまして……全く、あれは貴族や王族では無い私たちなら、自分が言えば言う事を聞くのが当たり前と、いった様相でしたね。舐められたものです」
その時の事を思い出したのか、珍しく少し不機嫌な様子を見せるレリックさんに思わず苦笑を漏らしてしまうと、笑い事では無いと言う様にかなねぇが口を開く。
「昨日は私は外出中だという事でお帰り願ったんだけど、多分今日も来るでしょうから、早めに国外逃亡したいのよ」
そういう事ね。つまり面倒ごとのほとぼりが冷めるまで国外に脱出したいと。
確かに沈む船の船頭とは言え、宰相はまだこの国の重鎮に変わりはない。断らないといけないと分かっている以上、正面切って相手取りたくない相手ではあるわな。
「いっそのこと、宰相をふん捕まえてレイモンド卿に渡してしまったらどうです?」
桃花さんの物騒な提案に、レリックさんが肩をすくめながらかぶりを振った。
「そうしたいのは山々なんですけどね。レイモンド卿の改革は始まったばかり。未だに宰相側にいる貴族やどっちつかずの貴族もいるのです。宰相によってダメになってしまった国内を再生するには、それらの貴族たちをレイモンド卿にまとめ上げてもらった後で宰相の弾糾を始めないと……」
「その前に諸悪の根源にご退場されると、そういった貴族たちの責任問題が有耶無耶にされる可能性があるのよね。悪即斬じゃ、証拠を揉み消されたらもう、追求のしようがなくなるから……」
本当に面倒臭いと言わんばかりに、かなねぇとレリックさんが盛大にため息を吐く。
「成る程、あの爺さんは仲間集めと同時に、かつて宰相側についていた貴族も抱き込んで、宰相との繋がりの証拠も集めてるってわけか」
「そういう事。そして、国が正常に戻った暁にはその証拠を使って宰相の元で甘い汁を吸っていた貴族達をまとめて処罰ってところね。で、それが終わるまで私は国外逃亡をしたいって事なのよ」
かなねぇの言葉に、俺と健一達は互いに顔を見合わせて『合流したばかりだけど仕方ないよね』と頷きあった。
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