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第5章 『水の国』教官編
第124話 『水の国』へ……レリックさん、逃げました
しおりを挟む「せっかく合流出来たのに、また別行動する事になったっちゃったな」
「仕方ないよ。僕達が自分のレベリングにかまけてる間に、この世界が戦乱の渦に……なんて事になったら、元も子もないからね」
「ひろちゃん、気をつけてね」
「俺の事は心配要らないよ。それよりもヒメこそ気を付けて」
ギルドマスターの部屋で健一、ヒメと暫しの別れの挨拶を交わすと、入れ替わる様に桃花さんと窪さんが俺の前に来る。
「博貴君、ここぞとばかりに香奈美さんと良い仲になっちゃダメよ」
桃花さんが俺の耳元でそう囁くと、俺の背後でかなねぇが両手を頬に当てながら『いや~ん』と身体をくねらせる。
あっ、この二人、一緒にさせちゃダメなやつだ……薄々は感付いていたけどかなねぇと桃花さんって悪ふざけの系統が似通っている。二人一緒にすると相乗効果を付けて俺をからかいそうだ。
俺が迷惑そうにジト目で桃花さんを睨んでいると、桃花さんの背後にいた窪さんが、『何をバカな事を言っている。博貴が困っているだろう』と、堪えた様子を見せなかった桃花さんを押し退けてくれた。
「博貴、人を育てるというのは大変な仕事だが、その経験はお前にもプラスになるはずだ、頑張れよ」
空手部主将の経験からだろうか、至極真っ当な送りの言葉をくれる窪さんに、あり難みを感じながらも窪さんの耳元に顔を寄せる。
「激励有難うございます。それと、窪さんにお願いなんですけど、健一が気負い気味なので、無茶をしない様に監督お願いします」
窪さんにしか聞こえない様に小声でそうお願いすると、窪さんは口元に笑みを浮かべながら静かに頷いてくれた。
「何を男同士で良い雰囲気作ってるかな」
俺と窪さんの様子を見ていたかなねぇが、背後から疑惑の眼差しを向けてくるが、無視。再び健一の方へと視線を向ける。
「健一、せっかく井上から解放されてこの世界での自由を勝ち取ったんだ。楽しみを見つけて気楽に行けよ」
俺の言葉を受けた健一は、暫し考える素振りを見せた後で何か思い至ったのか、微笑みを浮かべながら静かに頷く。
あれは、キャラを育てる為に三日ほど完徹した時の晴れ晴れとした笑顔だ……何を思いついたのか知らないが、焦っていようが、楽しんでいようが、健一は無茶をしそうだ……ヒメ、窪さん、健一の監督、本当にお願いします。
⇒⇒⇒⇒⇒
「はぁ? 何でそんな事になってるの?」
『風の国』の冒険者ギルドを馬車で出て、街道を南下する事二日目の朝。馬車を止め街道脇で朝食を作っている最中に健一達の動向の報告をトモから受けた俺は、フライパンを振るう手を止めて思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「どうしたの?」
ここまで御者を務めてきて、俺の前に陣取り肩や腰に手をやってやたらと疲れたアピールをしていたかなねぇが、俺の声に驚いてこちらに視線を向けて来る。
「今日、ティアが『火の国』のログハウスにポインターを設置する為に旅立ったらしいんだけど、レリックさんが同行してるって」
「はい? 何で龍次さんが冒険者ギルドを留守にするのよ。それが難しいからティアちゃんに頼んでるのに」
〈レリックさん曰く、『こちらの話は全く聞かないのに、自分の意見だけ押し通そうとする人と話をするのは、疲れた』のだそうです〉
かなねぇの疑問にそのまま答える形になったトモの報告に、俺は『ああ』と頷いてしまう。俺が納得する姿を見て、かなねぇが『理由は何なの』と急かすので、そのまま伝えてやるとかなねぇも微妙な表情で『ああ』と頷いた。
「副ギルマスが泣きそうな顔でレリックさんに『行かないでください!』と追いすがったらしいけど、『ギルドマスターがいないので私では判断し兼ねます。と言ってやり過ごしなさい』とアドバイスして出発しちゃったみたい」
会話しながら焼き上げた厚切りハムと目玉焼きを皿に乗せて差し出すと、かなねぇは眉間に皺を寄せながら受け取る。
「宰相の相手を連日してれば、そうなっても仕方ないかもねー。あいつらの高慢的な態度は、こっちの神経を逆撫でするもの」
言いながらかなねぇは、焼いた厚切りのハムと目玉焼きをパンに挟み、かぶりつくと牛乳で流し込んだ。
「でも、大丈夫なの? ギルマスが不在になっちゃって。こっちとしては、火竜山の麓をティア一人で走破させるのは不安だったから有難いけど」
「それも龍次さんは視野に入れてたのかもね。けんちゃん達は連れて行かなかったんでしょ。ティアちゃんと龍次さんの足なら三日もあれば『火の国』のログハウスに着くだろうから、問題はない筈。勇者が揃っていて、常に国の情報に耳を傾けている他の国だと考えものだったけどね。それに、龍次さんなら緊急時の連絡手段くらい考えていそうだけど」
「どうなの?」
〈健一さん達に伝われば、ティアちゃんを通してレリックさんに私達が伝える事が出来ます。後は、ティアちゃんの転移で即座にギルド会館に戻れば問題ないそうです。それと、ティアちゃんの転移で火竜山の麓まで転移してからの移動ですから、実際は一日半程の行程の予定です〉
そう言う事ね。レリックさん、俺が竜種の素材を持ってたから火竜山の麓までは転移できる事を読んでたな。全く、相変わらず抜かりの無い人だ。
「ああ、成る程ね。ひろちゃんたちは火竜山の麓でレベリングしてたんだ。そう言えば桃花ちゃんの装備にレッサードラゴンの素材があったっけ」
トモの報告をそのままかなねぇに伝えると、かなねぇは納得した様に頷きつつ、右手にパンを持ちながら左手を伸ばし、馬車後方へと向けた。
「……ホーリーブレス」
気の抜けた言葉と共に、かなねぇの手の平から白銀色の閃光が放射線状に放たれる。そちらの方を見ずに放たれたかなねぇの攻撃は、馬車の影からこちらへと向かってきていた狼系のモンスター、ハンガーウルフの群れを飲み込んだ。
ホーリーブレス。俺の【神級聖神術】にも無い魔法だ。恐らくーー
[種族、天人の専用魔術です]
だそうだ。
アユムのつうかあの報告を聞いていると、かなねぇがパンを咥えながら顔をしかめる。
「やっぱり実戦から遠退いてたせいかな、腕が鈍ってるみたい」
その言葉通り、かなねぇの攻撃は群れの全てを捉えきれておらず、外れた二匹がこちらに向かって走って来ていた。
俺は徐ろに食事台の上からフォークを2本掴み、ノールックでそちらの方に向かって投げつける。
キャンッ!
甲高い犬の様な悲鳴が聞こえ、額にフォークを突き立てられた二匹のハンガーウルフがその場に倒れ込んだ。
「お見事! 流石、現役は違うわねぇ」
「レベル四十のハンガーウルフくらい、倒しても自慢にならないよ」
「おねぇちゃんはその自慢にならない魔物を仕損じたんだけど?」
「群れを十匹程纏めて倒してるんだから、別に気にする必要は無いんじゃない」
「全滅を狙って放ったのに、全滅出来なかったのよ。あの、大した事のないモンスターを! やっぱり勘が鈍ってるのよね……私もひろちゃん達と一緒に現役に復帰しようかしら」
あの顔は本気の顔だ。冒険者ギルド総統の仕事はどうする気なんだろ?
例え本当にそうなったとしても、こちらには被害は無いだろうと考え、レリックさんの苦労に対してお悔やみ申し上げながらも食事を続けた。
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