理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第125話 尾行者……かなねぇ、良い歳なんだから子供染みた事を言うのはやめなさい

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   馬車はかなねぇと二人、他愛のない話をしながら南下していく。
   話の内容は、健一達の事を中心にレリックさんを始めとする各国の首都のギルドマスターの事や、この世界の国の情勢などなど……
   偶に元の世界の話を振ると、かなねぇは上を見上げて何かを思い出す様に少し間を置いてから、やがてゆっくりと答えてくれる。
   まあ、俺にとっては二年弱前の事でも、かなねぇにとっては百年以上前の話。覚えてるだけでもすごい事だと思う。
   そんなこんなで出発から六日。丘から見下ろす形で巨大な湖の中心にポツネンとある『水の国』の城と、湖の湖岸から城に伸びる橋、それに橋の袂に湖に面する場所にある『水の国』の首都、アクアガーデンをやっと視認出来る所まで到着した。
   ちなみに、健一達は二日前に『火の国』のログハウスに入り、攻略を始めているそうで、入れ替わりにギルド会館に戻ったレリックさんはそのまま居留守を決め込み、副ギルマスが毎日宰相の対応を胃に穴が開く思いでやってるらしい。

「やっと着いたか……」
「やっとって……特に問題無い旅路だったから順調だったわよ。この旅が長く感じる様ならまだ、元の世界の乗り物を使った旅行の感覚が抜けてないんじゃないの?」

   思わず口をついて出た俺の言葉に、かなねぇが苦笑交じりに突っ込む。
   確かに大した魔物は出てこなかったし、途中立ち寄った町々でも足を止められる様なイベントは無かった。ここまでは……

「かなねぇ、ここいらでお昼にしとかない?」
「んー……本当ならお昼を抜いてでもこのままアクアガーデンに急ぎたいとこなんだけどね。そうすれば、『水の国』の女王様への謁見も今日中に出来そうなんだけど……まっ、仕方ないわよね」

   俺がお昼にしようと言った理由は分かっていた様で、かなねぇは了承すると馬車を街道脇の原っぱに止め、俺達は馬車の脇で昼食の準備を始めた。

「んー!   天気は良いし見晴らしも良い。ランチには最高のロケーションなんだけどね」

   馬車から降り簡易コンロの魔道具に火を入れると、辺りを見渡しながら大きく伸びをするかなねぇ。
   俺はこんな状況でも自然体を通すかなねぇを微笑ましく見ながら、鍋に水を入れ火にかける。

「今日は何を作るの?」
「昨日立ち寄った町でこれを買ったから、これでスープでも作ろうと思って」

   伸びをした後で振り向き献立を聞いてくるかなねぇに、俺は時空間収納から器に入った小ぶりの貝を出して見せる。

「貝?   しじみ汁でも作るの?」
「いや、この貝と干した川魚で出汁を取って、それに味噌を溶といたらレリックさんに調達してもらった麺を湯がいて入れる。トッピングは出汁を取り終わった貝だけになるけど」
「ラーメンって訳ね」
「そう、味噌ラーメン」
「ライスは付く?」
「ご飯は炊いたやつを時空間収納で保存してるから、直ぐに出せるよ」
「やったぁ。旅に出てからパン食ばかりだったから、そろそろご飯が恋しくなってたのよねぇ」
「ご飯と言えば、ヒメがご飯のお供に海産物を欲しがってたっけ」

   無邪気に喜ぶかなねぇに、会話の繋ぎのつもりでそう言うと、かなねぇはキョトンとしながら『あるわよ』と呟く。

「えっ!   どこに?」
「アクアガーデン。あそこを囲む湖は、淡水、海水関係無しの魚介が取れるの。漁獲量も豊富で、『水の国』最大の漁場でもあるのよ」
「マジで?   じゃあ、アクアガーデンに行けば魚介類も手に入るんだ」
「そうよ。『風の国』では生ものの輸送技術が低いから、海から内陸の『風の国』の首都まで生魚を運んだとしても、数が少ない上に高過ぎて市場には出回ってなかったものね」

   楽しみな情報を得て、俺は浮き立ちながら鍋に貝と干した川魚を投入。じっくりと出汁が出るのを待ちながら【忍ぶ者】で周囲の気配を探る。

「どう、まだいる?」

   かなねぇが中腰で鍋を覗き込む様に俺に顔を近付け、耳元で小さく囁く。

「いるねぇ。馬車の陰に」
「いつから着いてきてたんだろ?」
「今日の朝からだね。かなねぇはよく気が付いたね」

   今、馬車の陰に隠れている人は、かなりレベルが高いと思う。俺の【忍ぶ者】の索敵能力でも気付くのがギリギリな程。恐らく俺よりかなりレベルが高く、隠密スキルを持ってない人だろう。そして、かなねぇの索敵スキルは間違いなく俺よりランクが低い。かなねぇのレベルは俺の三倍以上だけど、それでも索敵能力は俺より低いと思われる。
   そんなかなねぇが俺の意図を汲んでここで昼食を取ることを選択したという事は、かなねぇもあの気配に気付いていた
んだろうけどーー

「ん、私?   気配には気付いてなかったわよ」

   かなねぇは、あっさりとそうのたまわった。

「はい?   ……じゃあ、どうして……」
「どうしてって、ひろちゃんの一挙手一投足で、ひろちゃんが何かに警戒してたのが分かったからに決まってるじゃない」

   あー……成る程。俺の反応で気付いてた訳ね。そんなにオーバーアクションをしてたつもりは無かったんだけど、まあ、物心付く前からの付き合いだし気付かれても仕方がないか……

「で、誰だか分かる?」

   出汁を取っていた鍋をどかし、もう一つの鍋に水を入れて火にかけながら心当たりを尋ねると、かなねぇはこめかみに人差し指を当てながら『う~ん』と唸る。

「あんまり考えたくはないんだけど……私に気配を悟られずに尾行出来る奴等って一つしか心当たりがないのよね」
「……心当たりねぇ」

   かなねぇの様子から俺も大体当たりを付けながら、器に出汁を入れ味噌を溶き始めると、馬車の陰から『ゴクリ』という音がしたのを【忍ぶ者】の【聞き耳】が捉えた。
   あー……やっぱり。
   出汁に味噌を溶いた瞬間、味噌の香りが辺りに広がっていた。味噌の匂いで食欲が刺激されたという事は、ほぼ間違いなく同郷。そして、それにかなねぇの嫌そうな反応を加味すれば、自ずと答えが出るわな。

「お昼にお誘いしても良いかな?」
「えー!   何でよ」

   尾行者をお招きしょうと確認を取ると、かなねぇは露骨に嫌な顔をする。

「何でって、アクアガーデンに着く前に決着をつけたいから、わざわざここでお昼にしたんでしょ。だったら、先ずは相手に出てきてもらわないと」
「だからって、お昼までご馳走する事ないじゃない」
「わざわざ出てきてもらって、その前で俺達だけ食べるの?」
「うん。美味そうに食べる所を見せつけてやれば良いじゃない」

   意地の悪い笑みを浮かべてそうのたまうかなねぇの頭を、俺は軽く小突いてやる。

「痛っ!   何するのよ」
「いい歳して、意地の悪い事言ってんじゃないの。呼ぶからね、いいね」

   小突かれた額を両手で押さえながら『う~』と不満気に唸るかなねぇを無視して、俺は馬車の方へと視線を向けた。

「そっちの人、一緒にお昼でもどうですか?」

   そう、声を掛けると、馬車の陰でビクッと動揺する気配を出した後で、その人はゆっくりと姿を現した。

   
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