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第5章 『水の国』教官編
第126話 調停者の重鎮……知らずにやらかしてました
しおりを挟む「気付いていたのか……」
気まずそうな感じでそう言いながら姿を現したのは、二十代前半位のお姉さんだった。
髪は黒く肩の上あたりで切り揃えられ、美人ではあるが目付きはきつめ。白を基調としたインナーとローブを着て、空いている胸元からは銀色のブレストメイルが見えている。背中に背負った大剣とごつい手甲を見るに、前衛パワー型だろうか。
チラッと視線を送り大雑把な分析をしていると、かなねぇが『ああっ!』と大声を上げる。何事かと視線を向けると、かなねぇは出て来た女性を指差しながらワナワナと震えていた。
「あんた! あのすまし女の腰巾着、加藤忍!」
「腰巾着とはご挨拶だな。私は花凛の右腕を自負しているが、腰巾着になった覚えは無いぞ、天野香奈美」
感情丸出しのかなねぇに対して、忍さんは冷静に答えて見せる。と言うか、かなねぇ、眼中に入れてもらってないんじゃない?
そんな事を思っていると、忍さんはこちらに視線を向けクールに微笑んだ。
「それで、私にお昼をご馳走してくれるという話だが……」
「ええ、貝で出汁を取った味噌ラーメンとライスで良かったら」
「ご飯も着くのか!」
クールそうに見えたがライスという言葉を聞くと、忍さんは身を乗り出すような勢いで叫ぶ。俺が苦笑交じりにコクリと頷くと、笑われたのが恥ずかしかったのか、忍さんはわずかに赤面しながら静かに近づいて来て大人しく側に座った。
「で、何で調停者のあんたが私達を尾行してたのよ」
忍さんが座ると、早速かなねぇが不機嫌そうに忍さんを睨む。
ふむ、やっぱり調停者の人だったか……その調停者の人が俺達を尾行してたという事は、やっぱり標的は俺だろうな……
「フフッ……そう、喧嘩腰になるな天野香奈美。私の今回の狙いは……」
「俺ですか?」
会話に割り込んで素っ気なくそう呟くと、忍さんはこちらを振り向いてニッコリと笑って見せた。
「その通りだヒイロ君。いや、博貴君と呼んだ方が良いかな?」
「おっと……本名も調査済みですか。もしかして、ワイバーン解放の時に会った、あのマッチョなお兄さんが調べたのかな?」
「うむ。その通りだ。彼は我らの中で一番隠密行動に優れているからな。ワイバーン解放の後、その任に当たらせていた二人から報告を受けた花凛が君に大変興味を持ってね、彼に君の調査を命じていたのだよ」
もしかしてと思ってカマをかけてみたら、すんなり答えてくれた。
忍さんでは俺に気付かれずに周囲を探るのは無理だろうから、気配を探れなかったあの人ならと思って言ってみたのだが、成る程、あの後からずっと見張られてたのか……相変わらず気配が読めなくて厄介な人だ。
思わず渋面を作ってしまうと、忍さんは苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
「君の事を探っていたのは申し訳なかった。だが、我々も力ある勇者が性格に難がある場合、それなりの対処をしなければいけないのでな」
「それなりの対処……ですか」
かなねぇがかつて、調停者は自分達に靡かない勇者を粛清していると言っていたのを思い出す。俺はそれを、勇者がこの世界で欲望に任せて好き勝手しない為の処置と推測したが、果たしてそれは正解だったらしい。
「そんなに怖い顔をしないでくれ。私達勇者は、この世界では異邦人。そんな勇者に、この世界で好き勝手に暴れられては、他の元勇者達が肩身の狭い思いをする羽目になるのだ」
俺はそんなに怖い顔をしてたのだろうか……忍さんは慌てて弁解をし始めた。その様子に思わず笑みがこぼれてしまう。どうやら、彼女は嘘のつけないタイプの人間らしい。
「別に、それを咎めるつもりはありませんよ。向こうの世界で一般人だった人が突然、力を手に入れたら、欲望に負けて好き勝手に生きたいと思う人も出てくるでしょうから。それを貴女たちが快く思わない気持ちも分かります」
「そうか、分かってくれるか。だったらどうだい? 君も一緒にーー」
「はい、そこまで!」
忍さんの言葉を、かなねぇが声を張り上げながら手のひらを忍さんの顔の前に出して遮る。セリフを遮られた忍さんは眉をひそめてかなねぇの方に振り向いた。
「なんだ天野香奈美。私は博貴君と話しているのだ、邪魔をしないでくれるか」
「な~にが邪魔よ、ひろちゃんを勧誘しようとしてるくせに。うちのひろちゃんを引き抜こうとするの、止めてくれない?」
「うちのだと? こちらの調査では博貴君は冒険者ギルドには登録していても所属はしてない筈だが?」
驚き目を見開く忍さんに、かなねぇは余裕のある笑みを浮かべる。
「ふっふ~ん。ひろちゃんと私は姉弟当然の関係なのよ。ひろちゃんが私を見捨てて貴女達の所に行くなんてあり得ませんから」
「むぐぅ、確かに報告には天野香奈美と親密な関係の可能性有りとあったが……」
「そうよぉ。私とひろちゃんは親密な関係なの」
勝ち誇ったように胸を張るかなねぇ。
かなねぇ……その言い方はあらぬ誤解を生むからやめて下さい。
そう願いながら、調理を進め完成させた味噌ラーメンに、出汁を取り終わった貝を乗せて二人の前に置いてみる。その瞬間、二人は言い争いを止め、その視線を味噌ラーメンへと向けた。
「おおっ! ラーメンだ。『風の国』の一部で再現されているという情報は聞いていたが、まさか再び食べられる日が来ようとは……」
「『風の国』で食べられるのは塩味だけなのよねぇ。でも、ここで味噌ラーメンが出てくるのなら、餃子も一緒に食べたかったわ」
餃子は小麦粉の皮に野菜と肉を入れて焼くだけだから簡単に再現出来る。確か、ティアのレパートリーにも入っていて、俺も材料は持ち合わせていたが屋外でそこまで作るのはと思い、今回は自粛していた。
目論見通り食べ物で釣って言い争いを止める事に成功し、トドメとばかりに木製のおひつを出して、炊きたてのご飯を茶碗によそって二人の前に置いてやる。
「おおおっ! 本当に白飯だ! この数百年、麦飯でご飯のへの欲求を誤魔化してきたが、まさかまた、お米が食べられる日が来ようとは……」
忍さんはただの白飯にラーメン以上の感動を見せ、涙を流すんじゃないかという表情でプルプルと震える両手をご飯茶碗に添えると、そっと大事そうに持ち上げてその香りを楽しんでいた。そして一通り目と鼻でご飯を楽しんだ後、徐に右手で箸を掴み、一気にご飯だけをかき込み始めた。
「……え~と、ご飯だけ?」
「どんだけご飯に飢えていたのよ……」
俺とかなねぇが唖然と見守る中、一気にご飯一膳平らげた忍さんは、少し恥ずかしそうに空になったご飯茶碗をこちらに差し出す。
「申し訳ないがお代わりをいただけないだろうか」
「あー、はいはい」
ご飯をよそって忍さんに渡すと、忍さんは今度はラーメンに手をつけて、麺とラーメンのスープとご飯のコンボを楽しみ始める。
「あー、幸せ……」
本当に幸せそうに食べる忍さんを、俺とかなねぇは生暖かい目で見守った。
⇒⇒⇒⇒⇒
「ご馳走様でした」
ほっこりとした表情で手を合わせる忍さんにお粗末様と答えた後で、気になってた事を聞く事にした。
「ところで、あのマッチョのお兄さんはどのくらい俺の身辺を探ってたんです?」
「期間的には二週間くらいだな。調査を終えて報告が来たのは五日前だと思ったが」
「二週間……そんなに張られてて気付く事が出来なかったのか……」
思ったより長い期間を聞いて項垂れていると、忍さんは気にするなと豪快に笑った。
「彼は私や花凛と同じ第二期の勇者だ。年季もレベルも今期の勇者である博貴君とは違いすぎるーーでも、博貴君。君は本当に彼の尾行に気付いてなかったのかい?」
「どう言う事です?」
突然神妙な面持ちになった忍さんに首をかしげると、忍さんは話を続ける。
「博貴君、君はそれ程力量差がある筈の彼を何度も撒いているよね」
撒いた? 気付いてもいなかった相手を?
意味が分からず眉をひそめていると、更に忍さんは話を続ける。
「いやね、彼からの報告によると、尾行中に君とエルフの子の気配が突然消える事が多々あったらしいんだ。夕方にはいつの間にか街に戻っているという事なんだが……」
あっ! 火竜山の麓でレベリングしてた時か!
あの時は『風の国』の首都と火竜山の麓を時空間転移で行き来していたからなぁ。
やっと事態を理解でき、忍さんに焦点を戻すと、忍さんはニヤニヤと笑っていた。
「何か思い当たる事があったらしいね。詳しくは聞かないが、その報告を通信球で受けた花凛が俄然君に興味を持ってね。それで私が派遣されたのさ」
実に良い笑みでそう語る忍さんを前に、俺は小さくため息を吐いた。
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