理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第128話 頭痛の種1……全く、どの国も好き勝手始めちゃって!ギルド登録者を引っ張られるこっちの身にもなってよ!

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「あっ……フロライン様!   やっとご到着されたのですね!」

   日もほとんど沈み、夕闇差し迫った頃。アクアガーデン入り口の門に俺達を乗せた馬車が近付くと、門の外に立っていた女性がこちらに向けて手を振りながら大声を上げていた。
   年の頃は十五、六歳くらいに見えるが、それは低い身長のせいかもしれない。その身長は百五十センチ程で、腰まである長い黒髪を左右に揺らしながら一生懸命こちらに走り寄ってくる。

「……フロライン?」

   聞きなれないフランス辺りの人名を思わせる名前を聞き、小首を傾げると、御者をしているかなねぇが赤面しつつ『私の事よ』と恥ずかしそうに呟く。
   そう言えば、ログハウスで初めてかなねぇと会った時にそんな名前で自己紹介してたっけ……改めて聞くと、中々のセンスだな。

「ひろちゃん?   な、に、か、言いたい事でも?」
「いえ、何も……」

   ホロの中の俺に振り返りながら、額に青筋が浮かんでそうな笑みを浮かべるかなねぇに、引き攣った笑みで答えていると、駆け寄って来た女性がホロの中のに座っていた忍さんの姿を見てギョッと目を見開く。

「鬼神……何でお前が!」
「ほほう、アクアガーデンのギルマス、望月響子か。久しぶりだな」

   忍さんを見てネコ科の動物みたいに全身を逆だてる様に威嚇しながら腰の剣に手を掛ける響子さんに対し、忍さんはフレンドリーに手を上げて挨拶をする。

「響子、やめなさい」

   ため息混じりにそう呟くかなねぇに、響子さんは『……でも』と食い下がったが、かなねぇは更に『良いから』と場を収める。

「フロライン様、何でこいつが一緒なんですか……」
「それは後で説明するわ。それよりも、私に報告する事があるんじゃないの」
「あっ!   そうでしたーー」

   かなねぇに促されて、響子さんは馬車から降りたかなねぇに背伸びをして耳打ちをし始める。
   静かな表情でそれを聞き始めたかなねぇの目が、聞くにつれて次第に見開かれていく。

「それ、本当なの?」
「間違いありません。『風の国』のレリックさんからも詳細な情報が毎日のように送られてきてます」
「ちぃぃっ!   そんな大事を……」

   言いながらかなねぇが忍さんを睨むが、忍さんは素知らぬ顔で目を背ける。

「過ぎたことをとやかく言っている暇は無いわね……ひろちゃん、ごめん。そこの女が言った通りちょっと暫くは一緒に行動する事が出来そうにないわ。悪いけど今日は宿を取ってそこにいてくれる?」

   了解の意を込めて頷くと、かなねぇは足早に門へと走り出す。響子さんはかなねぇに続こうとしたが、ニ、三歩で立ち止まり振り向いて俺を睨むように一瞥すると、その後を追って門の先へと消えていった。
   あれ?   響子さんとは初対面の筈だけど、何で今睨まれたんだ?

「何だったんだ?」
「なーに、冒険者ギルドの総統として、仕事に行っただけさ。私達は彼女の言う通り宿を取ってのんびりしようじゃないか」

   色々と腑に落ちない事があり過ぎて、呆然としながら呟くと、御者の席に移動しながら忍さんは愉しげにそう答え、馬車を門に向かって走らせ始めた。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   Side   香奈美

「で、『風の国』が『水の国』に向かって軍を動かしたって話だけど……」

   アクアガーデンの冒険者ギルド。そのギルドマスターの部屋で席に着いた私がそう話を振ると、響子は机を挟んだ私の正面に立ち、神妙な面持ちで静かに頷く。

「はい。『風の国』の宰相が手持ちの兵を動かし、今期の勇者である井上ともともに今日の朝、城を出たという報告が入ってます」
「兵って、あの数だけはいる寄せ集めの事?」

   私の呆れ果てた言葉に、響子は静かに頷いた。

「何考えてるのかしら?   あんな軍事行動もろくに取れない数だけの寄せ集めで戦争になるとは思えないんだけど……」
「レリックさんの見解なんですけど、『戦争を経験しておらずまた、その才能も皆無の宰相は、数で優っていて勇者の質が上なら勝てると踏んでるのではないでしょうか。宰相は立場的に大分追い詰められているようですから、『水の国』を落としたという功績を引っさげて挽回を図ろうとしているようです』との事です」

   報告を聞いて、私は渋面を作りながらこめかみを押さえる。

「……ふざけた判断ね。それに付き合わされる部下はたまったものじゃないでしょうに……それより、その軍に冒険者は入ってないのでしょうね」
「『風の国』の冒険者ギルドに宰相名義で冒険者を募る旨の依頼がきていたようですが、レリックさんの独断でその依頼は握り潰したそうです」
「流石、龍次さんね。負け戦に冒険者を駆り出されたら、たまったものじゃないもの」

   龍次さんの判断に感謝しつつ、一先ずは胸をなで下ろす。でも、問題はそれだけじゃないのよね……

「で、『火の国』と『地の国』でも、動きがあるって話だけど……」
「……はい。『火の国』は『風の国』へ、『地の国』は『水の国』へ……それぞれ、『風の国』の出兵に合わせて軍備を始めているという情報が……それに合わせて、それぞれの国で冒険者募集の依頼が国名義できてるようです。それぞれの国のギルドマスターが、その対応について香奈美様の指示を仰ぎたいとのことだったんですが……」
「……もう、張り出しちゃったわよね」

   私の言葉に響子は申し訳なさそうにコクリと頷く。
   落ち目の宰相の依頼なら、蹴ってもどうという事はないけど、国からの依頼となれば、無視すれば後々それぞれの国に禍根を残してしまう。そうなるとこの先、その国での冒険者ギルドの存続すら危ぶまれる可能性が出てくる以上、無下に扱う事は出来ない。
   冒険者の戦争利用の可能性がある依頼は前例を作ってしまうと、この先通例になりかねないから極力避けたかったんだけど、冒険者ギルドは冒険者を縛るわけにはいかない。
   クエストを出した以上、結局は各々の判断に委ねるしかないのよね、歯痒いけど……
   冒険者の立場を守るギルドとしては、そのような悪例を認めたくない反面、国との繋がりも重要視している以上、表立って拒否する訳にもいかない。
   まったく、戦争って百害あって一利も無いわよね……

「それで、各国で何人程冒険者の参加者が出そうなの?」
「今の所『火の国』で三百二十四名。『地の国』で九十三名。『水の国』で七百五十九名です」
「はい?」

   今、水の国って言った?   しかも希望者が異常に多い!

「実は、『水の国』からも要請がありまして……勝手だとは思ったのですが『火の国』、『地の国』のギルドマスターと相談して、無視するわけにはいかないだろうと言う結論になりまして……本当に、勝手なことをして申し訳ありませんでした!」
「良いのよ。どうせ、私が聞いていたとしても同じ判断をしてたでしょうから。それに、頭を下げないといけないのは、連絡手段を持たずに移動してた私の方よ。本当に御免なさい」

   泣きそうな顔で何度も頭を下げる響子に、逆に頭を下げると、響子は『とんでもありません!   頭を上げてください』と慌てて私に縋り付く。

「フロライン様は悪くありません。悪いのは簡単に戦争を引き起こそうとし、それに冒険者を使おうとする国々です」
「ありがと。で、何で『水の国』の希望者がそんなに多いのよ。実際、各国で百人前後とふんでたのに……何気に『火の国』の希望者も多いし」
「『火の国』は血の気の多い国民性ですから、戦争と聞いて血が騒いだ冒険者が多かったのだと思います。『水の国』は女王様が困ってると聞いて、是非助けたいという冒険者が殺到しまして……」
「あー……女王様、人気あるものね……」
「はい。それで、Sランクの冒険者スティファンが女王様を助けようと音頭を取り始めまして、それに、多くの賛同者が集まっていつの間にかこんな数に……」
「スティファン?   ……ああ、確か、防御力が定かじゃないキンキラな装備を纏った異常なフェミニストだったっけ?」

   記憶の片隅にあった朧げな情報を何とか引き出して確認すると、響子は渋い顔で頷く。

「そっか……でも、野心家の『火の国』の王はともかく、慎重派の『地の国』の王が何で戦争に踏み切ったのかしら……攻めれば手薄になったところを『火の国』に攻められる可能性もあるのに……」
「レリックさんの見解なんですが、『火の国』と『地の国』は初めから『風の国』が『水の国』に攻め込んだら、それぞれが『風の国』と『水の国』に攻め込もうという条約を結んでいたのではないかという話しです」
「ふむ、『地の国』にしてみれば、南の『光の国』は不戦を宣言してるから、北の『火の国』が攻め込まないと分かっていれば安心して侵略出来るって事か……更に、『風の国』、『水の国』、どっちが勝つにしても、疲弊している決着が着いた直後に攻め込めば、自国の戦力をあまり消費しないで勝てるって算段かしら……慎重派の『地の国』らしいって言えばらしい、最悪で最低の決断ね。そして、そんな最悪のタイミングであの女をひろちゃんの下に派遣したすまし女……相変わらず陰険な手を使ってくるわね!」

   頭痛の種の情報整理がひと段落したところで、不意にあの気に入らない女の顔が浮かんで、思わず吠えてしまうと、響子が首をすぼめて小さな身体を更に縮こまらせてしまった。

「ああ、ゴメンゴメン。驚かせちゃって」
「いえ……それよりも、今言ってたのは加藤忍と、調停者の代表の事ですか?」

   響子の問い掛けに、私は渋面になりながら静かに頷いた。
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