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第5章 『水の国』教官編
第134話 『火の国』の侵攻阻止作戦……ティア、本当に本来の目的を忘れないでくれよ
しおりを挟む(ニア、聞こえるか?)
《おや、マスター。マスターからぼくに念話なんて珍しいね》
(そう言うなよ。ニアはティアの近況を毎日の様に報告してきてるじゃないか。用件は大体、それで済んじゃうんだからさ)
若干皮肉じみた返答を返すニアに苦笑しつつ、本題に入る。
(そっちの様子はどうなんだい?)
〈それなら私が報告を。健一さん達は先程、第二十層のボスを撃破したところです〉
横から割って入ってきたトモの報告を聞いて、俺は目を丸くする。
(二十層! 早いな。ログハウスに着いてまだ二日ぐらいだろ。一日、十層のペースか?)
《うん。浅い層はそんなに手間取らないからね。経験値が少ない雑魚どもも殆ど無視してるし、本番は五十層を超えてからじゃないかな》
(成る程。それで、ティアにお使いを頼みたいんだけど、一日くらい休んでもらっても良いかな)
〈それは……大丈夫だと思いますけど、ティアちゃんに何をしてもらうんですか?〉
(実はーー)
俺の話を聞くと、ニアは直ぐに『ティアちゃんに聞いてみるよ』と念話を切り、そして数分後。
《ティアちゃん良いってさ。雑魚ばっかり相手にしてたからフラストレーションが溜まってたみたい。『ドラゴンの相手……ヤル』って乗り気だったよ》
(いやいやいやいや、戦っちゃダメでしょう! 話し合いで済ませて)
《むっ、分かったティアちゃんに言い聞かせてみる》
一旦ニアとの念話が切れると、間を置かずに健一達に確認していたトモが報告してくる。
〈健一さん達は了承してくれました。低い層なので一日くらいなら自分達だけでも大丈夫との事です〉
一日、十層ペース……低い層だから確かに無理はしてないんだろうけど、ティアが抜けても休まずに潜るのか……あのメンバーだと発言権はほぼ健一が持ってるのかな? あいつ、なんか早く強くなろうと焦ってたからな……
こういう世界の知識が豊富だから発言権が強くなるのはしょうがないけど、普段の健一らしからぬ焦った様子が窺えて少し不安になるな。
(ダンジョンに潜る事に関しては止めはしないけど、健一が無茶しそうだったら、窪さんと桃花さんに協力してもらって止めてくれ)
〈分かりました。窪さんと喜多村さんとは、事前に打ち合わせをしておきます〉
(頼む)
《ティアちゃんの返事、そのまま言うよ。『むっ、つまんない。ひろにぃ、おっさんと戦っちゃダメ?』》
う~ん、ティアが強者を求めてる……あの人ならその展開も喜びそうだけど……
(程々にね)
《『んっ! 楽しんでくる!』だって》
(ニア、ティアが本来の目的を忘れない様に頼むぞ)
《まっかせて。ぼくがちゃんとティアちゃんに言い聞かせるから》
(ほんとに頼むよ……)
一抹の不安を感じながら念話を切り現実に戻ると、かなねぇと忍さんが無言で睨み合っていた。何かあった場合に直ぐに加勢するつもりなのか、入り口では響子さんが剣の柄に手を添えて身構えている。
(えーと……俺が念話してる間に何があったの?)
[マスターが念話に入ったのを見て、二人はマスターが何か策を考えていると思った様なんですが、忍が『何か良い考えが浮かんだのかい?』とマスターに声を掛け、それを香奈美が『今、ひろちゃんは一生懸命考えてくれているんだから邪魔をしないで!』と止めに入り、そこから膠着しています]
(……組織絡みの因縁もあるんだろうけど、本当に相性悪いな冒険者ギルドと調停者……)
「かなねぇ……」
俺が声を掛けるとかなねぇは勢い良く振り返り、忍さんも鋭かった目付きを好奇に満ちたものへと変え、俺の方へと視線を向けてくる。
「ひろちゃん、良い考えは浮かんだ?」
「まあ……絶対とは言えないけど、確率的には低くない方法なら……」
そう答えると、かなねぇはガシッと俺の両肩を掴みガンガン前後に揺さぶってくる。
「本当に何とかなるの? ダメ元のつもりで相談したのに、本当にそんな策が浮かぶなんて! で、どんな方法なの?」
かなねぇの興味津々の俺への問い掛けに、その背後の忍さんも気持ち身を乗り出してきた。
先程まで睨み合っていた二人が、目を輝かせてワクワクしている様な同じ表情で俺を見てくる。
「う~ん……寂しがりやの最強爺さんに、溺愛している孫娘をお使いに出す……って感じかな」
「「……へっ?」」
俺の比喩的表現に、二人の目が同時に点になる。
「……なにそれ?」
「今言えるのはそれだけだね。後は結果待ちだよ。もし成功したら功績者に何かご褒美をあげて」
俺がそう言うとかなねぇは不満気ながらも納得し立ち上がる。そしてーー
「分かった。取り敢えずひろちゃんを信じるわ。それじゃ、私は忙しいから帰るけど、その前に……」
かなねぇはガシッと忍さんの襟首を掴む。
「もう夜も遅いから貴女も部屋に戻りなさい!」
かなねぇの行動に忍さんは苦笑いを浮かべる。
「姉であり続けようとしている内は……か。どちらかと言うとお母さんって気もするけどね」
俺と同じ感想を口にしながら、忍さんはかなねぇに促されるままにゆっくりと立ち上がる。
「お母さんってどう言う意味よ……」
「まあまあ、それはいいじゃないか。少なくても悪い様に言ったつもりはないよ」
かなねぇと忍さんは軽口を叩き合いながらドアの方へと歩いていく。
「じゃあ、おやすみひろちゃん。明日の朝から城に行くから早朝に迎えに来るわ」
「おやすみ博貴君。また明日会おう」
二人の手を振る姿は、響子さんの静かに扉を閉める行動により消える。
「はぁ……何だったんだ一体……」
誰もいなくなった部屋で、俺は疲れて机に突っ伏す。
[香奈美は本当に相談しに来ただけでしょう。ですが忍の方は、酔わせて本音を言わせる事でマスターの心理調査をしたかったんじゃないでしょうか]
「まあ、そんなところだろうね。忍さんの目的は俺と冒険者ギルド……かなねぇの繋がりの強さを測りたかったってとこかな」
下手に嘘をつくと、繋がりが薄いと判断されて勧誘させそうだったから本音で語ったけど忍さん、一言一句聞き逃さないぞって姿勢がモロに出てて話しづらかった……
精神的に疲れてしまって机に突っ伏したまま脱力していると、アユムから念話が入る。
[マスター、このまま寝ないで下さいね。寝るならベッドにお入り下さい]
あー……アユムもお母さんみたいだ……
そんな事を思いながら、俺はノソノソとベッドに入った。
⇒⇒⇒⇒⇒
Side 香奈美
宿から出てひろちゃんが泊まっている二階の部屋の窓を見上げる。カーテン越しに部屋の明かりが消えたのを確認して、今寝たんだなと思うと思わず笑みがこぼれてきた。
「しかし、桂木博貴のいう策というのは一体、どの様なものなんでしょう?」
脇に控えていた響子の疑問が耳に届き、私は緩んだ顔を引き締めて視線を響子へと移す。
「さて、ね。そこまでは分からないわ」
「分からないって……それで引き下がったんですか? もし、桂木博貴の策が失敗したらーー」
声が大きくなってきた響子を、鋭い視線で黙らせる。
「どっちにしても私達に出来る事が無い以上、ひろちゃんに任せるしかないでしょう。それで失敗して貴女がひろちゃんを責めるとしたら、それは筋違い以外のなにものでもないわよ」
私に言われて、響子はハッとした表情を浮かべた後で俯いてしまった。
何も出来ない者が出来る者に頼んで、失敗したら責め立てる。それは、冒険者の仕事をしていると多々ある事だけど、今回は一国の軍を止めるというとんでもないクエスト、絶対の成功なんて事はあり得る筈がない。
お使いに出す孫娘って多分、ティアちゃんの事よね……寂しがりやの最強爺さんって誰のことなのかしら?
というより、成功したら報酬どうしよう! よく考えたら戦争を止めるなんてクエスト、前例が無いから想像もつかないわ……
ティアちゃんへの報酬に頭を悩ませながら、私は響子を連れ立って冒険者ギルドへと歩み始めた。
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