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第5章 『水の国』教官編
第139話 『水の国』の勇者達……ああ、おしい!
しおりを挟む「分かりました。装飾品をお作りする事を約束します。その分の報酬は現物が出来た時に決めてください」
俺の宣言に、シルティリア女王は手を叩きながら飛び上がって喜ぶ。
喜んでもらえるのは嬉しいんだけど、いい加減本題に入ってもらえないだろうか……まさか、思わぬところから悲願の糸口が見えて忘れてるって事はないよな?
「ところで、肝心の勇者達は……」
俺の言葉に、シルティリア女王はピタリと手を叩くのをやめ、ハッとなり俺達を見つめる。をい! その様子は本当に忘れてかのかい!
「そうでした! 私とした事が、肝心の本人達を紹介するのを忘れていました。エスティ」
女王に名を呼ばれたエスティさんは、一礼し部屋を出て行く。
「……シルティリア女王様、もしかして天然が少し入ってる?」
「……まぁ、ちょびっとね。その王族には珍しい裏表の無い性格が家臣や民に好かれてる理由でもあるんだけどね」
ああ、やっぱり。最初は身分が下の者にも抵抗無く頭を下げたり、国の内情を知り合いとはいえ部外者のかなねぇに赤裸々に相談したりしてる態度を多少の計算の元してるかと思ったけど、全部本心からやっていた行動だったのか……
人間個人としては好感が持てるけど、王様としては心配になる性格だな。
ニコニコと紅茶を飲むシルティリア女王の姿を見ながら、そんな事を思っていると、
「知り合いになると、凄い心配になるでしょ」
考えが顔に出ていたのか、かなねぇがニヤリと笑って俺に囁いてくる。
「でも、そう悲観する様な事じゃないわよ。今、ひろちゃんが考えてた様な事は、シルティリアの周りを固めてる大部分の家臣が思ってる事だから」
成る程、『水の国』はカリスマ性が高い女王を中心に、彼女を真摯に補佐する有能な人達で成り立っているのか。謀略、陰謀が渦巻く様な『風の国』よりよっぽど良い。かなねぇが気に入って肩入れするわけだ。
妙な納得を覚えながら待つ事数分。ノックされ、女王の返事の元開けられた扉から、エスティさんを先頭に四人の女性が入ってくる。
全員女性。顔立ちが似てるから、もしかすると姉妹かな?
部屋に入ってくると、エスティさんは女王の背後の定位置に立ち、勇者の皆さんはテーブルの横に一列に並ぶ。そして、右手の一番年上だと思われる女性から自己紹介を始めた。
「手嶋美香です。宜しくお願いします」
美香さんは二十歳前後で背中の中程までのストレートの黒髪の少しおっとりしたような女性。白の司祭服を思わせるローブを着ていることから回復役だと思われる。
「手嶋美希です。よろしく……」
少しぶっきら棒に挨拶したのは黒髪のショートヘアの十七、八歳くらいの長身の女性。麻の分厚い上着と長ズボンを履いている。恐らく、この上に鎧を着て前衛を務めているんだろう。
「手嶋美久なの」
「手嶋美子です」
二人同時に挨拶したのは十二、三歳くらいの多分双子の女の子。美久ちゃんが腰まで髪を伸ばしていて、美子ちゃんが肩の辺りで切り揃えている以外、全く見分けのつかない顔立ちをしている。
美久ちゃんは黒のローブを着ている事から魔術士系。美子ちゃんは絹の上着に膝丈のスカートと動きやすそうな服装をしているから、もしかすると隠密系かもしれない。
俺の予測が正しければ、結構バランスの良いパーティーだと思うのだが、それよりも……
「君達には他に姉妹はいないのかい?」
ああっ! やっぱり気になったか!
『水の国』の勇者達の自己紹介が終わってから妙に横でソワソワしていた忍さんが口を開く。その顔はいて欲しいという期待に満ちていた。
俺も自己紹介をされてから気になってはいたんだ。ミカ、ミキ、ミク、一つ飛んでミコ。でも、流石に子供に猫の様な名前を付ける親は……
「いますよ」
いるんかい!
忍さんの不躾な質問に美香さんが笑顔で答える。そのあまりのタイミングの良さに、思わず心の中で突っ込んでしまった。
「ほほぅ、いるのか。で、やっぱり名前は……」
まさか本当にいるとは思っていなか様で、忍さんは興味津々の様子で身体を前に乗り出す。
忍さんのそんな様子に、美香さん、美久ちゃん、美子ちゃんはクスクスと笑い美希さんはやれやれと言った感じでため息を吐いた。
「美久と美子の下に、美沙という子がいます。こちらの世界には来てませんけどね」
「ああ、さ行にいっちゃったか……」
何を期待していたのか、美香さんの返答を聞いて忍さんは残念そうに天を仰ぐ。
「まさか、本当にミケがいると思った? どこの世界に自分の子供にそんな猫みたいな名前を付ける親がいるんだい」
忍さんの態度に美希さんが呆れた様に呟く。
確かに常識的に考えればその通りなんだが、俺もなんとなく期待してしまった。
美久さんの呆れた様な呟きが、自分にも言われた言葉の様で苦笑いを浮かべていると、天を仰いでいた忍さんが徐ろにその視線を『水の国』勇者達へと戻す。その視線は真面目なもので、その身から醸し出す緊張を強いられる気配は、今までの和やかな雰囲気を一瞬で消し去った。
突然忍さんによって強いられた緊張感に、その視線を向けられている『水の国』の勇者の面々は勿論、シルティリア女王やエスティさんまでもが緊張の面持ちで息を飲む。
「さて、こちらの紹介がまだだったな、私は加藤忍。二期の勇者で調停者に所属している」
「私は天野香奈美。四期の勇者で、冒険者ギルドの総統をしています。ヨロシクね」
緊迫した空気の中、忍さんは淡々と、かなねぇは和かに自己紹介する。
別に二人とも凄んでいるわけではない。ただ、少しばかり戦士としての顔を出しただけだ。俺からすれば『おっ、ふざけるのをやめたな』程度の変化だが、『水の国』の勇者やシルティリア王女、エスティさんには違う様で全員、緊張で身体を強張らせている。
これが、勇者に対する普通の人の反応なのか。ルティールの町の冒険者ギルドで【威圧】を使ったら大混乱になったけど、やっぱりアレはやり過ぎだったんだな……
今更ながらに反省しつつ、俺はかなねぇと忍さんに話し掛ける。
「自己紹介する時に真面目になるのは、勇者の流儀か何かなの?」
「一応、初対面だから、実力の一端くらいは見せておかないとな。私達の商売は舐められたら終わりだからね」
何処ぞの任侠の人みたいな事を言う忍さん。
やっぱりこの空気はわざと醸し出しているのか。確かに調停者は力で勇者の暴走を止めてるから、勇者にその実力を感じさせれば抑止力にはなるだろうげど……
「私のところも似た様なものね。勇者に冒険者ギルドで力にものを言わせて好き勝手やられた事があるから、念の為に、ね」
言いながら済ました顔で紅茶を口に運ぶかなねぇ。
結果的に威圧してしまっている忍さんを止めないからおかしいと思ったけど、自分も便乗したかったからか。相変わらずこの辺は抜かりがない。
「獣じゃないんだから、初見で力を見せつけなくても言葉で済ませられないの? ほら、皆怖がってるじゃない。勇者の皆さんなんて、かなねぇ達を見る目が化け物を見る様だよ」
弱い勇者やシルティリア王女はまだしも、王女の護衛役の筈のエスティさんまで緊張で顔が強張っている。
アレってこっちがなんらかのアクションをしたら反射的に攻撃しちゃうんじゃないか? それくらいエスティさんから、神経が尖っている雰囲気が漂っている。
こういうスキルじゃない威圧はやっぱり経験からくる技術なんだろうな、俺には真似が出来ない。
「あははっ、こういう実力の上下関係は口で言っても分からないものだよ。肌で味わってもらわないとね」
「加藤忍に同意したくはないけど、そういう事よ。それに、化け物を見る様な目はひろちゃんにも向けられてるわよ」
「えっ、俺にも?」
「気付いてないのかい博貴君。君は今の私達を見てどう思った?」
「ふざけるのをやめて真面目になったなぁ、と」
俺が答えると、かなねぇと忍さんは俺の顔をマジマジと見、やがてフフッと小さく笑う。
笑顔を見せてもこの部屋に漂う緊張感のある空気は変わらない。本当にこの威圧どうやるんだろと思いつつ、俺を笑う二人に俺は文句を言う。
「何が可笑しいんだよ」
「今の私達と対峙したら、今期の勇者レベルなら間違いなく自分に攻撃の意思があると思って武器を抜くぞ」
「ひろちゃんがその程度にしか思わないのは、ひろちゃんが私達と同じ場所に立っているから。まぁ、同じ場所って言っても、私と加藤忍の間には大きな差があるけどね」
「そう言う事だ。この空気の中で平然としている博貴君は、彼女達には充分に化け物に映っているよ」
「むぅ……」
かなねぇ達の言いように不満を抱きながら美香さんたちを見ると、確かに緊張感満載の視線を向けられた。不本意ではあるが、かなねぇ達の言ってる事は本当らしい。しかし、力でねじ伏せながらの自己紹介なんて、俺の柄ではない。
「もう、いいよ。分かったからこの威圧を解いて」
俺の言葉に応じ、部屋の中に漂っていた緊迫した空気が消え失せと、勇者達やシルティリア王女がホッとしながら体の力を抜く。
皆が落ち着いたところを見計らって俺は口を開いた。
「俺は皆さんと同じ五期の勇者、桂木博貴です。よろしくお願いします」
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