理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第138話 アクアクリスタル……あれ?勇者の教育の件はどうなったの?

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「どうしたら良いと思います?」

   女王の相談に、かなねぇは腕を組み考え込む。

「先ず、勇者を戦争に出すのは絶対に出来ないわよね」
「ええ、それは勿論です!   レベル的にも調停者を刺激しない為にもそれは出来ません」

   かなねぇとシルティリア女王の会話を尻目に、俺は平然と紅茶を飲み続け、チラッと侍女の様子を窺う。
   侍女は女王の背後に腰の前辺りで手を組みながら平然と立っていた。

(ふむ……俺が平然と紅茶を飲んでも動揺はしないか……効かないことは想定内って事か?)
[元々、殺気はありませんでしたからね。マスターの力量を図っていると言ったところでしょうか]
(力量を測るねぇ……大事な勇者を預ける教育係の力量が気になったってところだろうけど、女王の指示かな?)
[それはどうでしょう?   マスターが紅茶に口をつけた時に、女王はそれに気を配っていた様子はありませんでした]
(そうだよなぁ……それが演技なのかそうでないのか、カマをかけてみるか)

   チラリと女王の様子を窺うと、女王は熱心にかなねぇに相談している最中。少し、タイミングを待つか……

「相手の勇者は加藤忍が片付けるから、それで引かなかった場合でも『風の国』の士気はガタ落ちのはず……元々、あっちの軍は烏合の衆だし、こっちがドッシリと防衛に専念していれば先ず負けないと思うけどな」
「そうですよね!   勝てますよね!」

   よっぽど不安だったのだろう、かなねぇの見解に女王は嬉しそうに確認を取っている。

「大丈夫よ、それよりも本題。頼まれていた勇者の教育係なんだけど……」

   かなねぇが話の内容を本来のものへと戻すと、女王がハッとなり俺を見つめた。

「この方が……」
「ええ、そうよ」

   『風の国』の侵攻がよっぽど心配だったんだろう。俺の存在に今気付いた風な女王は慌てて立ち上がると、俺に対して深々と頭を下げた。
   突然の女王の対応に驚き、俺も慌てて立ち上がる。

「挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。私は『水の国』の女王、シルティリア・フォン・レスティリス・アクアです」
「俺なんかにご丁寧にありがとうございます。俺はヒイロ……」
「ひろちゃん、偽名は失礼でしょ」

   こちらも頭を下げながら名乗ると、横合いからかなねぇがジト目で俺を睨んでくる。

「えっ、でも、女王様はかなねぇの事を最初はフロラインって呼んでたよね。かなねぇも公の場では偽名で通しているんでしょ」

   頭を下げたまま横を向き反論すると、かなねぇは『そりゃあそうだけど……』と難色を示しながら口籠る。

「ここは公の場じゃないんだし、本名で名乗りなさいよ」
「えー……仲間内以外ではヒイロで通そうかと思ってたんだけど……」
「シルティリアは信頼できるから、本名でも大丈夫よ」
「かなねぇが信頼してるから、俺にも信頼しろと?   出会って間もないのに?」
「本人の前で何でそんなこと言うかな!   失礼でしょ!」

   かなねぇが声を荒げ始めると、シルティリア女王は初めビックリした顔をしていたが、やがてクスクスと笑いだした。

「仲が良いんですね」
「まあ……ね。ひろちゃんが生まれた時から一緒だから」
「まあ!   幼馴染みだったんですか」
「そうよ」

   驚いた様子のシルティリア女王は、俺に視線を向けるとニッコリと微笑んで手を差し出してくる。

「改めてよろしくお願いします……え~と……」
「桂木博貴です。公の場ではヒイロでお願いしますね」
「分かりました、ヒロキ様ですね」
「様はいりません」

   俺がそう言うと、シルティリア女王は再びクスクスと笑い出し、『承知しました』と言いながらソファに座ったので、俺も座り紅茶に口をつける。

「美味しい紅茶ですね」
「有難うございます。私もこの紅茶は好きなんです」

   そう言いながら紅茶に手を伸ばしたシルティリア女王に、

「これで、毒が入ってなかったらもっと美味しく感じたのかも知れませんけど」

   爆弾を投下してみる。
   俺の言葉を聞いた瞬間、かなねぇはギョとして俺の方を睨み、忍さんは『クックックッ』と声を殺して笑う。そして、言われたご本人のシルティリア女王は笑顔のままピシッと固まった。そしてそのまま、油の切れたぜんまい人形の様にギシギシと首だけで背後を振り向く。

「エスティ……貴女もしかして……」

   女王の疑問に、エスティと呼ばれた侍女は深々と頭を下げた。

「僭越とは思いましたが、少しばかり試させていただきました」

   涼やかな透き通る声で、エスティさんは悪びれる様子も見せずにシルティリア女王に答える。

「こちらからお願いしていると言うのに、何でそんな真似を!」
「こちらの弱みに付け込んで、国宝をかすめ取ろうとする厚顔無恥な男がどれ程の実力を持っているのか気になったもので、申し訳ありませんでした」

   エスティさんの言い分に、隣でかなねぇがアチャーと手で顔を覆う。

「えっと……随分と悪印象の様だけど、俺」
「アクアクリスタルは使い道は無くても、その姿形からこの国の象徴的な扱いを受けてきた国宝だからね。シルティリアも譲渡に当たって国の重鎮達の説得に苦労したんじゃないかな」
「えっ!   レリックさんの話ぶりだと、ただ単に死蔵されてる名ばかりの国宝みたいな感じだったけど……」
「まぁ、ずっと城の宝物庫に大事に保管されてるって事では、あながちその見解も間違いではないんだけど、それでも、国宝は国宝。勇者とはいえ名声もろくに無いひろちゃんがそれを要求すれば、面白くないと思う人は出てくるわよね」

   あいたー……そうだよな。ただ単に硬いだけの鉱物を普通、国宝にしないよなぁ。
   レリックさんは俺の興味を引くために国宝の話をしたのだろうけど、それに考え無しに乗ってしまったのは失敗だった。
   気楽に国宝を要求した事を後悔していると、ツカツカとエスティさんがシルティリア女王の横に歩み出て頭を下げる。

「ヒロキ様。試す様な真似をして申し訳ありませんでした」
「この子は私の護衛も兼ねてる優秀な子なんですけど、なにぶん思い込みの激しい子で……ヒロキさん、本当に申し訳ありませんでした」

   エスティさんと一緒にシルティリア女王も頭を下げる。

「いや、こちらも不躾なお願いをしていた事に今気付きました、本当に申し訳ない。そちらに不都合なら、今からでも成功報酬を変更してもよろしいですけど……」

   シルティリア女王にまで頭を下げられ申し訳ない気持ちになり、慌てて成功報酬の変更を提案すると、シルティリア女王はブンブンと大袈裟に首を左右に振った。

「いえ、国宝譲渡の反対派は既に説得済みですから、それには及びません……」

   あっ、やっぱり反対してた人達がいたんだ。シルティリア女王には要らぬ苦労を掛けちゃってたな。エスティさんの俺に対する印象が悪くなるのも頷ける。

「ですが、一つお聞きしたいのですがヒロキさんはアクアクリスタルを手に入れて、どうするおつもりなんですか?」
「えっ、武器に加工するつもりでしたが……」

   素材を手に入れれば、やる事は一つ。シルティリア女王の問い掛けに即答したのだが、俺の言葉を聞いたシルティリア女王は勿論、今までその鉄面皮を崩さなかったエスティさんまでもが俺の返答を聞いて目を丸くした。
   えっ、何その反応、もしかして加工してはいけないものだったのかな?
   また、怒りを買う様な事をしてしまったのかと内心ビクビクしていると、シルティリア女王が驚きの表情のまま口を開く。

「……ヒロキさんは、アクアクリスタルを加工する事が出来るんですか?」
「えっ!   もしかして【至高の石工職人】でも加工出来ない素材なんですか!」
「「えっ!」」

   何か特殊な加工方法が必要なのかと驚きながら問うと、更にシルティリア女王とセリスさんに驚かれる。

「ヒロキさんは【至高の石工職人】を修得されているんですか?」
「はい……そうですけど……」

   生産系スキルなら一つくらいバラしても問題ないだろうと答えたが、二人の異様な驚き様にまずったかなと身構えていると、俺の手をテーブル越しにシルティリア女王がガシッと握った。

「ヒロキさん!   武器を作る時に出来るカケラでも構いませんので、アクアクリスタルで装飾品を一つ作っていただけないでしょうか!   勿論、その分の報酬はお支払いします!」

   凄まじい勢いのシルティリア女王に、一体何事かとオロオロしていると、いつの間にか鉄面皮になり隙のない立ち姿に戻っていたエスティさんが口を開く。

「アクアクリスタルは元々、五代前の女王様がその透き通る様な美しさが『水の国』の象徴に相応しいと、装飾品にする為に手に入れた物なのです。ですが、ご存知の通りあまりに硬く加工出来る者がいなかったのです。それでも諦めきれなかった女王は、いつか加工出来る職人が現れる事を信じ、国宝にして大事に保管してきました」

   エスティさんの説明にシルティリア女王はコクコクと頷く。

「アクアクリスタルの装飾品への加工はそれ以来、『水の国』の歴代の女王の悲願だったんです!   どうか、どうか、お願いします!」

   必死に縋る様にお願いしてくる女王に俺は、勇者の件はどうなったのかな?   と思いつつ苦笑いを浮かべた。
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