159 / 172
第5章 『水の国』教官編
第155話 暫しの食休み……えっと、まだやるんですか?
しおりを挟む巨大なドーム型の空洞の隅っこで縮こまる様に食卓を囲む、この世界の頂点であるはずの【超越者】たる俺を含めた五人の面々。
「この様なものが有るのなら、何故直ぐに出さなかった」
俺の時空間収納から、直ぐに食べられる様に保管していた炊きたてご飯を出し、申し訳程度の具の入った鶏ガラスープも加えて、地面に置かれたちゃぶ台の中心に置かれた焼肉のタレ味付けの肉野菜炒めを皆でつついていると、ガウレッドさんがその箸を止めずに不満を漏らす。
「ん、これはとっておき。まだ、量が少ない」
「そうなのか……ならば、量産すべきだな。この様な複雑な味付けができる調味料は初めて味わったぞ」
ティアの言葉に、ガウレッドさんがガッガリしながらも早く量産しろと急かすが、その間も箸は止まらない。
この世界の肉への味付けの基本は塩と胡椒。肉自体が美味ければ肉の旨味を引き立たせるいい味付けなのだが、世の中美味い肉よりクセのある、そのままでは食いづらい肉の方が圧倒的に多い。そんな肉に濃い味付けのこの焼肉のタレは、肉の種類を選ばずに使える最高の調味料と言えるだろう。
「こんなものさえなければ……こんなものさえなければ……」
セリスさんは自分の注意力を乱した肉入り野菜炒めを憎々しげに箸で摘み、口に運んでは幸せそうな表情を浮かべるという作業を繰り返し、リアは肉を風魔法で浮かせ、風の刃で自分サイズに細切れにして浮いたままのその肉に直接齧り付くという食事方法を取っている。
そうして互いに奪い合う様に食事は進み、テーブルの上には空の食器のみになった。
「ふぅ、食った食った」
「食後に直ぐに横になるものではありません。はしたない」
食べて直ぐにその場で倒れこんだガウレッドさんに、セリスさんが眉間に皺を寄せながら非難するが、ガウレッドさんは意に介していない。
「ふん、お前との戦いで疲れてるんだよ。それに、美味いもんを食った後で横になる幸せは何物にも変えられん」
「だよね~」
ガウレッドさんの言うことはもっともだと言わんばかりにリアもちゃぶ台の上で横になると、セリスさんは深いため息を吐いた。
「まったく……こんなだらしない者達が私と同じ【超越者】の所持者だと思うと、恥ずかしくなります。貴方方はこの様になってはいけませんよ」
そう言って俺達に視線を向けたセリスさんだったが、ふと、何かしらの考えに至ったかの様に目を輝かせた。
……なんか、嫌な予感が……
そう思ったのも束の間、セリスさんはパンと両手を胸の前で叩きながら口を開く。
「そうだ、このままガウレッドのそばにいて影響されてはかないませんから、いっその事、貴方達は私と共に来なさい」
「えっ!……」「それは、ダメだ!」
突然の誘いの言葉に俺が困惑の声を上げるのと同じタイミングで、ガウレッドさんがセリスさんを睨みつけながら上半身を起こす。すると、セリスさんは俺達を見ながらヒクッと頬を引きつらせる。
「何故、貴方が返事を返すのですか? この二人は貴方の所有物ではないのですよ」
俺達からガウレッドさんの方へ顔を向けたセリスさんの声色は少しドスが効いていた。
こっちからは見えないけど、恐らく見たものを震え上がらず様な視線をガウレッドさんに向けてるのだろう。しかし、そんなセリスさんの視線に、勿論ガウレッドさんは怯まない。
「こいつらは、この大陸で親友の成長を見守っているのだ。そんな者達をこの大陸から連れて行くな」
えっ? ガウレッドさん、俺達の行動理由を理解してたんだ……
自分勝手な行動ばかりだと思っていたガウレッドさんの口から、俺達への援護射撃が飛び出したことに驚いていると、セリスさんがゆっくりと俺達の方へと向き直る。
「今のガウレッドの話は本当ですか?」
「はい。俺と共にこの世界に連れてこられた友人達です」
俺がそう答えると、セリスさんは「そうですか……」と小さく頷いた。
テーブルの上ではリアが「なんだ、こんな食事が毎日出来ると思ったのに……」とガックリと項垂れている。
リアはセリスさんと同じ大陸に住んでいるのか……でも、俺達はお給仕さんではないからな。
などと苦笑いを浮かべていると、そのリアの背後でガウレッドさんが満足そうに頷きながら舌舐めずりをしていた。
ガウレッドさん……もしかして、もっともらしい理由を述べていたけど、最大の目的は俺達の料理が食べられなくなることを避ける為の口実だったのでは?
折角ガウレッドさんの援護に感動してたのに、要らぬ疑惑が浮上して曖昧な表情を浮かべていると、俺達の方に顔を向けていて、その背後のガウレッドさんの表情に気付いていないセリスさんは、真摯な視線を向けながら口を開く。
「ならば、仕方がないですね。ですが、この男は何処までも身勝手で、普通なら通らない道理でも力尽くで押し通す様な傍若無人な者です。もし、困ったことが有ったら私に連絡しなさい」
そう真面目に言うと、セリスさんは俺の両肩に手を置いた。
……え~と、お気持ちはありがたいのですが、この世界で連絡しろと言っても携帯なんか無いだろうし、どうしろと?
などと、真面目に心配してくれているセリスさんの言葉に困惑していると、アユムから念話が入る。
[マスター、超神龍セリスのスキル【マインドネットワーク】との接続を確認しました。これからはセリスを通じてセリスが【マインドネットワーク】で繋げた者達との念話が可能となります。条件はセリスが【マインドネットワーク】を接続していて、一度でも会っている事です。現在その条件に当てはまっているのは、セリスとリアです]
あー、成る程。そういうスキルがあったんだ……
で、俺がガウレッドさんの理不尽な行動に辟易して連絡したら、今回の様な二人の争いが所構わず繰り広げられる可能性があると……そんなの恐ろしくておいそれと連絡出来る訳無いじゃないかー! あんな戦い外でやらかされたら、下手しなくても街……いや、国の一つや二つは消えてしまうぞ!
ある意味、核の発射ボタンを持たされた気分になり、とても有り難い気分にはなれなくて頬をヒクつかせていると、おもむろにガウレッドさんが立ち上がる。
皆がガウレッドさんに目をやると、ガウレッドさんはニヤニヤしながら俺とティアを見下ろした。
「おい、休憩と補給も済んだし、続きをやるぞ」
「えっ! 続きって……」
「決まってるだろ。お前達は何の為にここに居るんだ?」
あ~……俺のガウレッドさんへの報酬はまだ、払い終わってないんですね……でもーー
「休憩って言っても食事して少し休んだだけでしょう? 五日間も戦い続けていて、睡眠は取らなくても大丈夫なんですか?」
「ふん。俺達は睡眠など取らなくても、百日くらいは問題無い」
ガウレッドさんの言葉にセリスさんが頷く。
「昔はその辺にいる魔物で食を満たしながら、百日間戦い続けたこともありましたね。ですが、続きというのは?」
「俺がガウレッドさんに頼み事をした報酬代わりに、俺達が戦う約束をしてるしたんです」
疑問に俺が答えると、セリスさんは成る程と頷いた。
「それは仕方がないですね。約束は守らないといけません」
セリスさんの最もな意見に「ですよね」と俺が覚悟を決めると、ティアが勢い良く立ち上がった。
「ん! 早くやる」
「クッカッカッカッ! やはり、ティアは見所があるな」
二人の戦いを見て、ずっと触発されてウズウズしていたティアをと共に、俺はガウレッドさんとドームの中央に向かって歩き始めた。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる