理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第159話 帰還……忍さん、一体何をしたんですか?

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   ガウレッドさんを引き連れて水の国のログハウスへと転移する。フルーツ入り寒天を無限におかわりしようとするガウレッドさんを無理矢理引き連れての転移だ。
   時間的には朝食後。忍さん達は既にダンジョンに降りてないだろうかと期待しての転移だったが、転移し終わると、俺の眼前にはテーブルで黙々とパンを頬張る水の国の勇者の面々と忍さんの姿があった。
   メニューは硬そうなパンと塩味らしき具のほとんど入っていないスープ、それに水だけ。健一達の元から来た俺には、それが恐ろしく質素に見えた。いや、間違いなく質素だろ。

「それじゃあ、俺は行くぞ」

   俺と共に来たガウレッドさんは、そのメニューを見るとゲンナリした表情で直ぐに転移していった。多分、食事の続きをする為にヒメ達の所へ戻ったのだろう。

「やあ、博貴君。生きてたんだね」

   突然現れた声を掛けてくる忍さん。水の国の勇者の面々は突然現れた俺には目もくれず黙々と食事を続けている。
   ……なんか、勇者の方達の様子がおかしい様な……
   訝しむ俺に、忍さんは笑顔で立ち上がり近寄ってきた。

「いやー、本当に良いタイミングで帰ってきてくれたよ」
「良いタイミング?」

   忍さんの言いように不安を覚えながら復唱すると、彼女は笑顔のままコクリと頷く。

「実は、組織から新人の教育係をしてくれと連絡が来ててね。博貴君との約束の手前、この子らをほっとくわけにもいかないし、どうしようかと思っていたところだったんだ」
「新人?   もう、今期の勇者の勧誘が終わったんですか?」

   俺の言葉に、忍さんは顔の前で手のひらを左右に振って否定する。

「いやいや、流石に今のタイミングで他国の勇者を引き抜く真似は出来ないさ。今回育てるのは光の国の勇者達だよ」
「ほほぅ。光の国の勇者は漏れなく調停者入りですか」
「違う、違う。組織入りが決まったわけじゃないんだが、光の国の勇者は調停者で育てるのが習わしになっててね。指導役も毎回、私が担当しているんだ。それで、その後に身を置く場所は本人達の判断に委ねることになっている」

   俺の意味ありげな物言いに、忍さんは臆することなく答える。
   ふむ……確か、光の国は完全中立国だったよな。その思想は調停者の理念と一致するわけか……
   調停者入りを本人の希望に任せてるということは、勇者が調停者入りしても、光の国は問題無いと思ってるってことだよな。

「成る程ね……光の国が中立国を貫けるのは、調停者が鍛えた勇者と共に、調停者の後ろ盾あってのことですか」
「まあ、ね。私達が居ることで他の国への牽制になってるのは事実だな。という事で、これから光の国の新人を従えて各国のダンジョンを回ることになったんだ」

   付き合えなくて申し訳ないと言う忍さんに、俺は構いませんよと俺は答えた。
   というか、願ったり叶ったりだ。この先、水の国の勇者を護衛する上で、どのくらい俺の力を使うことになるのか予測がつかなかったからな。忍さんの目が無くなるのは有り難い。
   内心ホクホクしつつ、ガウレッドさんのところで散々言われたポーカーフェイスを貫きながら、仕入れられる情報は仕入れておこうと、軽い帰り支度を始める忍さんに話し掛ける。

「ところで、各国のダンジョンを回るということでしたが、どの様な順番で?」
「ん~……どうしてそんなことを?」
「いやー、この国にも来るんでしょ。ダンジョンで忍さんのパーティーと一緒っていうのもね」

   訝しむ忍さんに、内心慌てつつも、サラッとそんな事を言うと、忍さんはニヤッと笑みをこぼした。

「はっはっは。博貴君は相変わらずつれないねぇ。予定では、水の国、風の国、闇の国に火の国。最後に土の国と、時計回りに回る予定なんだけど、これから帰って新人勇者たちと顔合わせして、各自勇者の能力の確認。それから戻ってくるから、ここに来るのは一ヶ月後くらいかな。私的には残念だけど、その頃には博貴達はこのダンジョンを攻略してるんじゃないかな」

(聞いたかトモ)
〈はい。健一さん達が調停者とかち合わない様にスケジュールを調整します〉
(頼んだ)

   簡単な荷造りが終わり立ち上がる忍さんを見ながら、素早くトモと念話を済ます。

「じゃ、博貴君。また会うこともあるだろうが、その時に敵でないことを祈るよ」
「縁起でもないことをいないで下さい。そんな状態の再会じゃあ、俺が死ぬことが確定じゃないですか」
「はっはっは。相変わらず博貴君は謙遜が上手いなぁ……と、そう言えば言うのを忘れていた」

   外へと通じるドアに手を掛けながら、忍さんが思い出した様に振り返る。

「彼女達の戦闘恐怖症は改善しといたから、後は楽だと思うよ。それと、今は四十一層を攻略中だ。じゃあね」

   引き継ぎの言付けをサラッと済まし、アッサリと出て行く忍さん。相変わらずサッパリとした人だ。
   アッサリとした別れの挨拶を交わし、振り向きもせずに外に出て行く忍さんに苦笑いを浮かべながら、俺は突然の忍さんの撤退に付いて考えを巡らせる。
   俺の監視より新人の教育を優先……な訳無いか。お気楽な考えはしない方がいいな。気配は感じられないが、監視はまだ付いてると思った方がいい。
   だとすれば、密着型の監視を止めた理由は何だ?   考えられるのは、調停者が俺の側に居ることを良しとしないと判断したから、くらいなんだけど、俺の側に居て不味いことってあるか?    実力的にはまだ、俺より忍さんの方が上だった筈。それはガウレッドさんの証言でも明らかだ……
   ……って、そうか!   ガウレッドさんか!
   ガウレッドさんの出現が忍さんを退かせたんだ。忍さんは調停者の重鎮。俺の側にランダムで現れる不確定要素のガウレッドさんが、忍さんにとって危険な存在だと調停者は判断したんだ。とすると、監視が付いていたとしてもかなり遠くからの筈。逃げ場が制限されるダンジョン内までは付いてこないだろう。つまり、ダンジョン内で何をしても調停者には気付かれない。
   その事実に気付き思わずガッツポーズなんかをとってしまったが、そこで、水の国の勇者達の異様な様子に気付く。
   水の国勇者達は、今までの俺と忍さんのやり取りに何のリアクションも見せず、黙々と食事を続けていた。

「え~と、美香さん?」

   異様な雰囲気を醸し出す勇者達の中から取り敢えず長女の美香さんに声を掛けると、彼女は食事の手を止めスタッと立ち上がり、直立不動でこちらに目を向けた。

「はいっ!   なんでありましょうか、教官殿!」

   大きなハキハキとした声でそう、俺に問いかけてくる美香さん。その迫力に驚きつつ他の子達に目を向けると、みんな一様に食事を止め、座ったまま姿勢を正し俺の方に鋭い視線を投げかけて居た。

「ちょっ……どうしたんですか、みんな!」
「どうしたとはどういうことでしょうか?   教官殿」

   戸惑う俺の言葉に、美香さんは表情一つ変えずに問い返してくる。

「いや、なんかスッゴイ違和感というか……様子がおかし過ぎるんだけど。それに、その教官殿って何?」
「教官殿は教官殿でありましょう。間違いは無いはずです」
「いや、確かに俺は教える立場だけども……」

   ……忍さん一体、彼女達に何を叩き込んだんですか!?
   軍人の様になってしまった彼女達を呆然と見つめつつ、先ずは彼女達に正気に戻ってもらわねばと、忍さんを恨みつつ俺は嘆息を吐いた。
   
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