164 / 172
第5章 『水の国』教官編
第160話 懐かしき単独攻略……う~ん、懐かしいなぁナビさん時代のアユム
しおりを挟む「それじゃ、今日は俺一人で潜ってきますんで」
「本当に大丈夫ですか?」
水の国のログハウスに戻ってきて三日。その間、水の国の勇者の皆さんには戦闘はさせずに普通の食事をさせてのんびりと過ごさせた結果、取り敢えず表面上は元に戻ってくれた。そんな四姉妹に今日は一人で潜ることを伝えると、美香さんが心配そうな顔を向けてきた。
「心配要りません。四十層までなら余裕ですから」
「その余裕が命取りになりかねないんだよ。私も付いて行こうか?」
美希さんの申し出に、俺はゆっくりとかぶりを振る。
俺はこのダンジョンで一層目しか潜っていない。つまり、転移の魔法陣を俺だけが使えないのだ。
そんな俺に付き合って一層目からみんなで行動しては、一日で十層の攻略が限界だろう。だから、時間短縮の為に今日は俺一人で四十層まで潜るつもりなのだが、誰かについてこられたら、そんなスピードでの攻略は不可能になってしまう。
「本当に大丈夫?」
「危ないの」
美子ちゃんと美久ちゃんの双子コンビも、俺のシャツの裾を掴んで心配そうに見上げてくる。餌付け……もとい……三日間、一緒にのんびりと過ごして大分懐いてくれたようだ。
しかし、彼女達のこの異様な心配は、やはり兄の様に慕っていた存在がこのダンジョンで亡くなったことが原因だろう。実力的には劣っていると分かっていても、目の届かないところで活動されては心配になってしまうのは仕方がないことだ。
「大丈夫だよ。俺はついこの間まで、こんなダンジョンなんて一息で破壊する様な化け物の相手をしてたんだ。それに比べたら、ダンジョン探索なんて大したことないよ」
俺の実話を冗談と捉えたのか、一層心配そうに視線を投げかけてくるその姿にティアを重ねてしまい、無意識に双子コンビの頭を撫でつつ、美香さんへと視線を向ける。
「美香さん。今日の朝食と昼食は温めるだけにしておきましたから、後はお願いします。夕食前には帰ってこれると思いますんで」
「夕食前……ですか?」
「ちょっ! 半日で四十層まで潜る気!」
「それはちょっと……」
「無謀なの」
俺の発言に驚く四姉妹。
そんな四姉妹に「無理そうなら途中で引き返してきますよ」と心配させない様に軽い口調で答えると、俺はリビングを出てダンジョン入り口の階段を下りていった。
転移魔法陣のある円形の部屋でミスリル装備を装着した俺は早速、ダンジョン内へと足を踏み入れる。一層目はスライムだけ。経験値的にもドロップアイテムも旨味は無いし、さっさと駆け抜けてしまおう。
(アユム、【忍ぶ者】で気配消して適当に走るから、【地図作成】に下り階段が出たら教えて)
[了解です]
アユムの了承を確認して俺は走り始める。
通路を塞ぐ様に現れたスライムは、走る場所を地面から壁へと移し走り抜ける。立体的に蛇行した分タイムロスになるが、スライム程度では槍で払い除けただけで死んで水の様に弾けてしまう。そうなるとスライムで水浴びしながら走ることになってしまうのだ。
そんなのは御免被りたい。
アユムに地図の管理を任せダンジョン内を爆走すること数分。地下二層への階段を見つけた。
(地下二層から九層まではゴブリン軍団の登場だったよな)
[はい。二層、三層は単体で。それ以降は複数で出現します]
階段を見下ろしながら、『風の国』のダンジョン構造を思い出してアユムに確認すると、アユムが直ぐに答えてくれる。アユムとのダンジョン攻略は久しぶりだが、相変わらず頼もしいかぎりだ。
そう言えば、『風の国』のダンジョンを一人で攻略してた時は、二層でゴブリン相手に苦戦した後でアユムの前身、ナビさんを取得したんだったな。
今では当たり前の様に感じてしまっているアユム達のサポートだが、あの時はナビさんが居てくれてとても心強く感じたものだ。
当時を思い出し、思わず笑みがこぼれるとアユムが不思議そうに念話を送ってくる。
[どうしたのですか? マスター]
(いや、ナビさんと共にダンジョン攻略してた時を思い出してね)
[ああ、あの時は大変でした。マスターもティアも、無茶ばっかりして……特にマスターは、自殺願望でもあるのではと本気で思ってしまうほどの無茶っぷりでした]
(むっ……確かにあの頃は、ティアの保護者という責任感と健一達に早く追いつきたくて焦ってたかもしれないれど……)
[ふふっ、今ではティアに守ると言われ、健一さん達には早く追いつきたいと思われてるんですから、全く立場が逆転してしまいましたね]
(う~ん、俺の成長速度も相当なもんだと思うけど、ティアはそれに輪をかけてとんでもないからな)
[戦闘面だけですけどね……それよりも、私が【ナビゲーター】時代よりは随分マシになりましたが、時折見せる無茶っぷりは健在ですから、気をつけて下さい]
うわっ、昔話なんてするんじゃなかった。久しぶりにアユムが説教モードに入りそうだ。
藪蛇をつついてしまったと後悔していると、天の助けか地獄からの増援か、突然、念話の横槍が入る。
《えっ! マスターってそんなに無茶苦茶だったの?》
面白い話だとでも思ったのか、ニアが興味津々といっ口調で割り込んできた。
[そりゃあもう。まだ、【超越者】を取っていない時に、単独でミノタウロス相手に正面から突っ込んだんですから]
《うっわー、力しか能の無いミノタウロスに力押ししたの? そりゃあ無茶苦茶だ》
地獄からの増援だった……このままでは二人掛かりで馬鹿にされながら、お説教されかねない。ここは何とか話をそらさねば。
(ニアお前、ティアのお目付役の方は大丈夫なのか?)
《ああ、それなら大丈夫だよ。今んとこティアちゃんは健一達に攻略を任せて、大人しくその後を付いて行ってるだけだもん》
(そうか……そう言えば、こっちは不本意ながらまだ攻略を始めてないんだが、そっちはどこまで進んだ?)
上手くいきそうだとほくそ笑みつつ、更に話をそらしてしまおうと、ちょっと気になっていた健一達の攻略スピードを聞くと、ニアからとんでもない答えが返ってきた。
《ん? 今、五十層だね》
(はぁ?! まだ、ティアが戻って四日目だろ)
《ん~、戻ってきたガウレッドのご飯お代わり攻勢で初日が潰れてるから実際は三日目かな》
やっぱりガウレッドさんはヒメの下に戻ってたか。それよりも……
(なんで、そんなに急いで攻略を進めてるんだ?)
《それは、マスターが教えた調停者のスケジュールを元にトモとナビ君が攻略計画を算出した結果だよ。忍は水の国から始まって時計回りに国を回る計画をマスターに話したけど、調停者が忍とマスターの接触を避けることに重点を置いたら、慎重を期して逆時計回りに攻略を始める可能性もあるって……》
(光の国から逆時計回りだとすると……)
[最初に行く国は土の国になりますね]
アユムの言葉に、思わず俺は天を仰いだ。確かに、可能性的には無くはない。調停者が言葉通りに行動する可能性なんて、絶対ではないんだ。
《計算上、忍がどんなにスケジュールを早めたとしても、十五日以内に攻略を終えてトンズラしたらかち合わないんだって》
(そうか……それじゃあ、トモとナビ君には宜しく言っといて……って、ナビ君! それ誰?)
《んー、健一の取得した【ナビゲーター】だけど》
(健一、取得してたのか……でも、何で君? さんじゃないの?)
《だって、声の感じだと男の子だったんだもん》
男の子……【ナビゲーター】の人格って一種類じゃないんだ……【ナビゲーター】ってどっから生まれてくるんだろ?
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる