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おじさん、初出勤するの巻
第24話 おじさん、指導する
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「キミたちはなんのために剣を振るう?」
騎士たちからの質問攻めに遭った俺を見かね、急遽セオリアが質問タイムを設けた。
若い騎士たちはぐるりと俺の回りを取り囲んでキラキラと目を輝かせている。
一方、中年の騎士や俺を敵視してるアダヴァくんなんかは、俺がチヤホヤされているのが面白くないというような様子で距離を取り、遠巻きに見つめている。
俺を取り囲む騎士たちが声を上げる。
「国を護るためです!」
「名誉のため!」
「家のために」
「領民を守るためだ!」
「愛する者たちを守るため!」
「私は己の強さを示すために!」
どの顔も自信と誇りに満ちている。
「うん、そうか。みな立派だな。さすがは王国一の騎士団だ」
騎士たちはみな得意げに胸を張る。
「先生! 先生は一体何のために戦っておられるのですか!?」
先生。
俺は騎士たちからそう呼ばれるようになっていた。
ちょっとくすぐったいが、あのイケメン副団長キングくんみたいに「ケント様」なんて呼んでこられるよりはマシだ。
「あ~、俺はな……死なないために戦ってる」
「死なないため……? それはまたずいぶんと消極的な……」
「ああ、だが基本だ。死んだら誰も守れねぇ。国どころか、隣に立つ仲間たちさえもだ」
かつての俺がそうだったように。
セオリア。
ハンナ。
ミカ。
守りきれなかった三人。
心に傷を負わせてしまった三人。
だから彼女たちは俺に復讐するために。
セオリアは騎士団長に。
ハンナは盗賊ギルドのボスに。
それぞれなった。
対照的な二人だ。
ミカは……あの銀髪の子供は今どうしてるんだろうか。
「なるほど! しかし死なないように戦うのは我々も同じです!」
素直そうな騎士が胸を張って言う。
「この中で実際の殺し合いに参加したことがあるものは?」
若者たちが静まり返る。
俺は言葉を続ける。
「本当の命の奪い合いはこんな開けた場所で一対一で行われるわけじゃない。敵は暗所に潜み、高所から、沼地から、水中から、時には罠を仕掛け、時には騎乗して、そして時には空から襲いかかってくる」
「ごくり……」
若い騎士たちの目に「戦い」や「武功」を求める血気盛んな光が宿る。
(ふっ……若者ってのは時代を経ようが変わらないもんだな)
昔の自分の若さ。
冒険者ギルドに溢れかえっていたあの活気。
それを若き騎士たちの中に感じて笑みが漏れる。
「で、だ。そういった実際の戦いの中でいかに生き残り、自分の大切なものを守るか。それが、俺がキミたちに教えられることだ」
「おぉ~!」
騎士たちから感嘆の声が上がる。
と同時に、それを面白く思っていなさそうな男。
くるくるパーマ頭の騎士、アダヴァくんが茶々を入れてくる。
「そ、そのような薄汚い剣術……誇り高き聖なる鷹には不要ぉ! 貴様らぁ、騎士としての誇りはどうしたぁ!? 俺はこんなやつ絶対に認めんからなぁ!」
アダヴァくんの隣で偉そうなヒゲのおっさんがウンウンと頷く。
(えっと……あれは誰だっけ?)
セオリアが耳打ちしてくる。
「聖なる鷹騎士団の団長、マヒラ・スピリタス殿だ」
なるほど。
マヒラ団長。
彼を中心にお偉い貴族様連中が固まってるってわけか。
もちろん、アダヴァくんもその中の一人。
ふむ。
これからあの連中にずっと敵視されてても業務に支障をきたしそうだ。
どうにかしておきたいが……。
そう思ってるとイケメンキングくんが優しく口を開いた。
「アダヴァ殿。対峙してわかりましたが、ケント様の実力は間違いなく本物です。剣にすべてを捧げてきた私ですら敵わぬほどの。学ぶべきところはあると思いますが? しかも、あの剣術を舐めきったメス豚セオリア副団長のお墨付きです。これを否定すのであれば……ご自身が直接立ち会って確認されてみては?」
「ぐぬぬ……!」
アダヴァくんは再びハンカチを噛み締め、悔しそうに唸る。
っていうか……。
ん?
今、キングくん。
なんか変なこと言わなかった?
剣術を舐めきったメス豚……?
え、それってセオリアのこと……?
いやいや……。
は?
聞き間違い……じゃないよな?
「ケント、彼はなぜか昔から私にだけ当たりがキツいのだ。そして男騎士団の幹部連中もそれを受け入れている。今までは恥ずかしくて伝えられなかったのだが、その……私の清らかな白鳩女騎士団というのは……つまりそういう扱いをされているのだ……」
マジかよ……。
見損なったぜ、キングくん……。
俺の(過去の償いを完了させるために)大事なセオリアを公然で侮辱し恥をかかせるとはな……!
ギンッ──!
押さえきれない殺気を飛ばすと、キングくんはそれを受けて「くっくっくっ……」と心底楽しそうに笑った。
おうおう……ずいぶん余裕じゃねぇかキングくんよ?
やはりさっきの一騎打ちで彼はよほど手を抜いていたということか。
あぁ、そうかい。
わかったよ、ドクズのキングくん。
なら──俺が変えてやろうじゃねぇか。
お前も。
この騎士団もな。
ハハッ……。
なんだなんだ……めっきり枯れたと思ってた俺だったが……。
こりゃあ久々に……血が滾ってきたぜぇ……。
ってことで。
「俺の実力にまだ疑問がある者も多いと思う! なので……文句があるやつはかかってきてくれ! 何人同時でも構わん! 飛び道具、魔法、兵器、なんでも使ってよし! 実際の戦いにルールなんかないぞ!? その代わり、俺は長年現役を引退してたおっさんだ! 長時間は厳しい! なのでセオリアが三百数えきるまでの間に限らせてもらう! ほぉら、もう始まってるぞ!? 実践で準備時間なんかあると思うな! 一、二、三……」
慌ててセオリアがカウントを続ける。
「よ、四っ! 五、六……」
ザッ……!
先頭切って斬りかかってきたのは──。
ガキンッ!
離れた場所にいたはずのキングくん。
俺は二本の木刀をクロスさせてその一撃を受ける。
(あの一瞬で──!)
この男、やはりただものではない。
しかも相変わらずのヘラヘラ好青年スマイルを浮かべている。
(涼しい顔でこの一撃かよ……本物の──化け物だ、なっ!)
ドンッ──!
キングくんの腹を蹴って距離を取る。
若き騎士たちも目の色変えて木刀を構える。
戦功。
武功。
そういったものに餓えた、若者特有の眼だ。
(ハッ……こりゃ思ったより楽しめそうだ)
俺はフゥと小さく息をひとつ吐くと。
「潜る──」
と呟いた。
「二百九十八、二百九十九……三百」
セオリアのカウントが終わる。
と同時に、騎士たち全員が砂地の地面に座り込む。
「ハァ……ハァ……! なんで……こんだけ人数がいて一人を倒せないんだ……!」
ふぅ~。
どうにか乗り切った。
俺は軽く汗を拭う。
「ケ、ケントは本当にすごいんだな……! まさかこの手練れたちを相手に立ち回れるとは……!」
驚くセオリアに俺は笑いかける。
「なぁに、俺がこういった状況に慣れてただけだよ。昔取った杵柄ってやつだ。逃げ方、戦い方を知ってただけだな」
「にしても、だ……! 王国最強の騎士団全員を一人で……だぞ? まさか、そんな……そこまでとは……」
「いや、だから大げさだって。キングくんもまだ本気じゃなかったみたいだし? ここにセオリアが混ざってたらさすがに負けてただろう」
「はぁ? ケントは私の実力を過信しすぎでは?」
「そんなことないだろ。今朝、冒険者ギルドで放ってたお前の殺気はどんな超危険指定生物にも勝ってたぞ?」
「ち、ちがっ……! あれは……ケントがだな……!」
言葉をつまらせるセオリア。
「あれ? そういや女騎士団には副団長っていないのか? 男の方はマヒラ団長でキング副団長だろ? 女の方はセオリア団長だけ?」
「ああ、今は調査に出てもらっている。もうすぐ帰ってくるはずなんだが……」
そう言ってる最中。
一人の兵士が息を切らせて修練場に駆け込んできた。
「報告! 報告です! 清らかな白鳩女騎士団副団長ジャンヌ様がご帰還されました!」
「おぉ、そうか。ケント、今話してたウチの副団長がそのジャンヌだ。で、門兵よ。なぜそんなに慌てている?」
「そ……それが……!」
次の兵士の言葉に。
俺を含め。
修練場にいたすべての者が固まった。
「ジャンヌ副団長……
ワイバーンを引き連れて帰って来てるんですぅぅぅぅぅ!」
騎士たちからの質問攻めに遭った俺を見かね、急遽セオリアが質問タイムを設けた。
若い騎士たちはぐるりと俺の回りを取り囲んでキラキラと目を輝かせている。
一方、中年の騎士や俺を敵視してるアダヴァくんなんかは、俺がチヤホヤされているのが面白くないというような様子で距離を取り、遠巻きに見つめている。
俺を取り囲む騎士たちが声を上げる。
「国を護るためです!」
「名誉のため!」
「家のために」
「領民を守るためだ!」
「愛する者たちを守るため!」
「私は己の強さを示すために!」
どの顔も自信と誇りに満ちている。
「うん、そうか。みな立派だな。さすがは王国一の騎士団だ」
騎士たちはみな得意げに胸を張る。
「先生! 先生は一体何のために戦っておられるのですか!?」
先生。
俺は騎士たちからそう呼ばれるようになっていた。
ちょっとくすぐったいが、あのイケメン副団長キングくんみたいに「ケント様」なんて呼んでこられるよりはマシだ。
「あ~、俺はな……死なないために戦ってる」
「死なないため……? それはまたずいぶんと消極的な……」
「ああ、だが基本だ。死んだら誰も守れねぇ。国どころか、隣に立つ仲間たちさえもだ」
かつての俺がそうだったように。
セオリア。
ハンナ。
ミカ。
守りきれなかった三人。
心に傷を負わせてしまった三人。
だから彼女たちは俺に復讐するために。
セオリアは騎士団長に。
ハンナは盗賊ギルドのボスに。
それぞれなった。
対照的な二人だ。
ミカは……あの銀髪の子供は今どうしてるんだろうか。
「なるほど! しかし死なないように戦うのは我々も同じです!」
素直そうな騎士が胸を張って言う。
「この中で実際の殺し合いに参加したことがあるものは?」
若者たちが静まり返る。
俺は言葉を続ける。
「本当の命の奪い合いはこんな開けた場所で一対一で行われるわけじゃない。敵は暗所に潜み、高所から、沼地から、水中から、時には罠を仕掛け、時には騎乗して、そして時には空から襲いかかってくる」
「ごくり……」
若い騎士たちの目に「戦い」や「武功」を求める血気盛んな光が宿る。
(ふっ……若者ってのは時代を経ようが変わらないもんだな)
昔の自分の若さ。
冒険者ギルドに溢れかえっていたあの活気。
それを若き騎士たちの中に感じて笑みが漏れる。
「で、だ。そういった実際の戦いの中でいかに生き残り、自分の大切なものを守るか。それが、俺がキミたちに教えられることだ」
「おぉ~!」
騎士たちから感嘆の声が上がる。
と同時に、それを面白く思っていなさそうな男。
くるくるパーマ頭の騎士、アダヴァくんが茶々を入れてくる。
「そ、そのような薄汚い剣術……誇り高き聖なる鷹には不要ぉ! 貴様らぁ、騎士としての誇りはどうしたぁ!? 俺はこんなやつ絶対に認めんからなぁ!」
アダヴァくんの隣で偉そうなヒゲのおっさんがウンウンと頷く。
(えっと……あれは誰だっけ?)
セオリアが耳打ちしてくる。
「聖なる鷹騎士団の団長、マヒラ・スピリタス殿だ」
なるほど。
マヒラ団長。
彼を中心にお偉い貴族様連中が固まってるってわけか。
もちろん、アダヴァくんもその中の一人。
ふむ。
これからあの連中にずっと敵視されてても業務に支障をきたしそうだ。
どうにかしておきたいが……。
そう思ってるとイケメンキングくんが優しく口を開いた。
「アダヴァ殿。対峙してわかりましたが、ケント様の実力は間違いなく本物です。剣にすべてを捧げてきた私ですら敵わぬほどの。学ぶべきところはあると思いますが? しかも、あの剣術を舐めきったメス豚セオリア副団長のお墨付きです。これを否定すのであれば……ご自身が直接立ち会って確認されてみては?」
「ぐぬぬ……!」
アダヴァくんは再びハンカチを噛み締め、悔しそうに唸る。
っていうか……。
ん?
今、キングくん。
なんか変なこと言わなかった?
剣術を舐めきったメス豚……?
え、それってセオリアのこと……?
いやいや……。
は?
聞き間違い……じゃないよな?
「ケント、彼はなぜか昔から私にだけ当たりがキツいのだ。そして男騎士団の幹部連中もそれを受け入れている。今までは恥ずかしくて伝えられなかったのだが、その……私の清らかな白鳩女騎士団というのは……つまりそういう扱いをされているのだ……」
マジかよ……。
見損なったぜ、キングくん……。
俺の(過去の償いを完了させるために)大事なセオリアを公然で侮辱し恥をかかせるとはな……!
ギンッ──!
押さえきれない殺気を飛ばすと、キングくんはそれを受けて「くっくっくっ……」と心底楽しそうに笑った。
おうおう……ずいぶん余裕じゃねぇかキングくんよ?
やはりさっきの一騎打ちで彼はよほど手を抜いていたということか。
あぁ、そうかい。
わかったよ、ドクズのキングくん。
なら──俺が変えてやろうじゃねぇか。
お前も。
この騎士団もな。
ハハッ……。
なんだなんだ……めっきり枯れたと思ってた俺だったが……。
こりゃあ久々に……血が滾ってきたぜぇ……。
ってことで。
「俺の実力にまだ疑問がある者も多いと思う! なので……文句があるやつはかかってきてくれ! 何人同時でも構わん! 飛び道具、魔法、兵器、なんでも使ってよし! 実際の戦いにルールなんかないぞ!? その代わり、俺は長年現役を引退してたおっさんだ! 長時間は厳しい! なのでセオリアが三百数えきるまでの間に限らせてもらう! ほぉら、もう始まってるぞ!? 実践で準備時間なんかあると思うな! 一、二、三……」
慌ててセオリアがカウントを続ける。
「よ、四っ! 五、六……」
ザッ……!
先頭切って斬りかかってきたのは──。
ガキンッ!
離れた場所にいたはずのキングくん。
俺は二本の木刀をクロスさせてその一撃を受ける。
(あの一瞬で──!)
この男、やはりただものではない。
しかも相変わらずのヘラヘラ好青年スマイルを浮かべている。
(涼しい顔でこの一撃かよ……本物の──化け物だ、なっ!)
ドンッ──!
キングくんの腹を蹴って距離を取る。
若き騎士たちも目の色変えて木刀を構える。
戦功。
武功。
そういったものに餓えた、若者特有の眼だ。
(ハッ……こりゃ思ったより楽しめそうだ)
俺はフゥと小さく息をひとつ吐くと。
「潜る──」
と呟いた。
「二百九十八、二百九十九……三百」
セオリアのカウントが終わる。
と同時に、騎士たち全員が砂地の地面に座り込む。
「ハァ……ハァ……! なんで……こんだけ人数がいて一人を倒せないんだ……!」
ふぅ~。
どうにか乗り切った。
俺は軽く汗を拭う。
「ケ、ケントは本当にすごいんだな……! まさかこの手練れたちを相手に立ち回れるとは……!」
驚くセオリアに俺は笑いかける。
「なぁに、俺がこういった状況に慣れてただけだよ。昔取った杵柄ってやつだ。逃げ方、戦い方を知ってただけだな」
「にしても、だ……! 王国最強の騎士団全員を一人で……だぞ? まさか、そんな……そこまでとは……」
「いや、だから大げさだって。キングくんもまだ本気じゃなかったみたいだし? ここにセオリアが混ざってたらさすがに負けてただろう」
「はぁ? ケントは私の実力を過信しすぎでは?」
「そんなことないだろ。今朝、冒険者ギルドで放ってたお前の殺気はどんな超危険指定生物にも勝ってたぞ?」
「ち、ちがっ……! あれは……ケントがだな……!」
言葉をつまらせるセオリア。
「あれ? そういや女騎士団には副団長っていないのか? 男の方はマヒラ団長でキング副団長だろ? 女の方はセオリア団長だけ?」
「ああ、今は調査に出てもらっている。もうすぐ帰ってくるはずなんだが……」
そう言ってる最中。
一人の兵士が息を切らせて修練場に駆け込んできた。
「報告! 報告です! 清らかな白鳩女騎士団副団長ジャンヌ様がご帰還されました!」
「おぉ、そうか。ケント、今話してたウチの副団長がそのジャンヌだ。で、門兵よ。なぜそんなに慌てている?」
「そ……それが……!」
次の兵士の言葉に。
俺を含め。
修練場にいたすべての者が固まった。
「ジャンヌ副団長……
ワイバーンを引き連れて帰って来てるんですぅぅぅぅぅ!」
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