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第六章
第八十話・リュウジールへの旅⑧タンデール国のナリス(クリシュ)
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「ナリス様ーー!ナリス様ーー!」森の中を一人の男が大声を上げて、人を探していた。
「うるさいぞ、タルク」男の頭の上から声がしたかと思うと、突然、目の前に人が跳び下りて来た。
「あ、あ、危のうございましょう、ナリス様」
彼はかなりの高さから飛び降りたのに、音がしなかった。
まるで、猫のように。
「こんな高さくらい、大丈夫だ。それより、タルクの大声の方が危険だ。ここはエイランド国だぞ」
「それを分かっていなさるなら、お早いお戻りを。叔父上様が心配されておりましょう」
「分かった、直ぐに戻ろう」
二人は森を抜けて、林の側に繋いであった馬に跨ると、国境を目指した。
タルクは、呆気なく自分の言う通りにタンデール国へと戻るナリスを訝しんで、チラチラとナリスを窺った。
「なんだ、ちゃんと前を見て、馬を走らせないと怪我をすると言うたは、お前では無かったか」
「・・・申し訳ありません。・・その何か、良い事があったのでしょうか?」
国堺に狩りに来ていたのだが、お目当ての大角鹿が見当たらず越境して探しに来たのだが、結局見付からなかった。
「ふふふ。今日はここまで足を伸ばした甲斐があって、”面白いもの”が見れた」
「なんでございましょうか?」
「秘密だ」ナリスと呼ばれた青年は、上機嫌で答えた。
彼は十七歳になったばかりだが、付き人のタルクよりほっそりと背が高い。髪を長く伸ばし、首の後ろで一つに纏めている。
人前や街中に出る時は、耳を隠す為に髪の毛を下ろしている。
本当は、括ったままでいたいが、叔父やタルクがうるさく言うので仕方なしに下ろしている。
彼の耳は、心持ち先が尖っている。柳のように細く強靭な肉体と子供の頃から、抜きん出て背が高い事から、妖精族の血が流れていると噂されていた。
タンデールでは昔から、亜人達を見下していながら、その力を渇望し奴隷や愛妾として取り込んで来たので、人間と亜人の混血が少なからず存在している。又、傭兵や農民の中には、その力を見込まれ働き手として根付いている。
彼を産んだ母は人間で、彼を疎んじている父親も普通の人間だった。只、母方の血にはかなり昔、妖精族を愛妾にしていた時があり、時々、先祖返りのような子供が生まれる。
母は麗人で、その美貌を目に止めた父の側室となり、ナリスを産んで亡くなったのである。
生まれたばかりのナリスは赤子にしては美しく、耳も尖っていた為に、実家に戻されて育って来た。
だが、ナリスの黒髪と、青い瞳は父親譲りで、美しさの中にも厳めしさが同居して独特の雰囲気を持ち、他を圧倒していた。
又、父親には五人の息子がいるが、一番力も美貌も知力も、ナリスが抜きん出ていたので、度々命を狙われた。
実家で育てて貰わなければ、遠に命を落としていただろう。
「なぁ、タルク。俺は、ちょっと旅に出る」彼は、家に着くなり、付き人を驚かせた。
「な、なにを馬鹿な事を!つい最近も命を狙われたばかりでは御座いませんか!」
「だからこそ、だ。俺の事なら、大丈夫。自分の身ぐらい自分で守れる」
「いけません!叔父上が何と仰られるか」
「フン、叔父上は俺が心配なのでは無い。俺が後継ぎになれるかどうかが、心配なだけだ」
「そ、そのような事を仰ってはなりません。今まで、大事に育てて頂いたではありませんか」
「それは、有り難いと思っている。何れ、父の後を継いで、叔父孝行する積りだ」
「では・・・」
「そう、だから、尚の事今は実家を出て、行方を眩ませた方がいいのだ」
「分かりました。もう、決められたのですね。しかし、その決意をされるとは、一体何を見られたのです?」
「済まぬ、今は言えない。秘密だ」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
アレン達一行はタンデールの国に入ったが、辺境の地を通っているので、検問所も何も無く、問題なく国境を越えられた。
旅の物資や食糧が少なくなって来たので、ナグ達の案内で一番近くの大きな街に向う。この頃から、ちらほら亜人の姿を見かけるようになった。王都より遠い郊外や、辺境の方が亜人に対する偏見も今は少なくなっており、お互いに共存している地域が多いので、国堺より越境して来る亜人の数も多かった。
ナグ達の案内で、亜人達も泊まれる宿屋に案内して貰ったが彼等は泊らないと言う。よく聞くと、エイランドに着くまで、襲撃に何度も遭い、予定よりも旅呈が伸びて路銀が残り少なくなって来たとの事だった。
こちらで、出すと言ったが、彼等は首を縦に振らなかった。
だが、宿屋の中庭で幌馬車を止める事ができたので彼等にとっても心休める一時となった。
アレンはケルトに連れられて、店や屋台が並ぶ通りに連れて来て貰っていた。今日はメイグが少し離れて付いて来ている。
アレンは一軒の出店の前で、先程からケルトと一緒に店の人に色々勧められて困っていた。ジョエルから、無くしたスカーフの替わりを買って来るように言われたが、店の者はアレンが上客だと分かると派手で高い物ばかりを勧めてくる。
「これがいい」その時、アレンの後ろから若い声がした。その青年はアレンの横に来ると店の天井から吊るしてあった沢山のスカーフから一枚をさっと手に取ると、アレンの頭に巻いて見せた。アレンは吃驚して、その青年を見上げる。 彼は背が高かった。
「思った以上に、綺麗な紫の瞳だ。そんな風にびっくりして目を見開くと零れ落ちてしまいそうだな。このスカーフは、そなたの瞳によく似合う」青年はアレンに二コリと笑い掛けた。
「凄くお似合いですよ」店の主人も言い添えた。アレンは困ってケルトを振りむくと、ケルトも困惑げに頷いた。
「これを貰おう。それに、そのイヤーリングも」
「さすが、お目が高い!これ以上無い程よく似合われますよ」青年は呆気に取られているアレンの前で店の主人に勘定を済ませてしまい、片膝を付いてアレンの目の高さに合わせると、固まっているアレンの耳にイヤーリングをパチリと止めた。
「こ、こんなに高い物、貰えません」アレンは先程のやり取りの間に、イヤーリングをちらりと目に止めたが、とても高そうだなと思っていた。
耳の耳殻に沿うように作られた銀製のそれは、紫と青に輝く宝石が大小埋め込まれたとても手の込んだものだったが、まさか自分の耳に嵌められるとは思いもしなかった。
青年は首を傾げて、青い瞳でアレンの顔を覗き込んだ。
「なぜだ?とてもよく似合ってるのに。それに、もう買ってしまった。気に入らなければ、捨てるといい」
アレンが呆れて言葉を返す前に、青年はアレンの手を取ると、指にキスをして囁いた。
「ミ・フェローズ」青年は真摯な瞳で語り掛ける。
「ミ・フェローズ?」アレンはオウム返しに言葉を返す。
それを聞いたケルトは顔色を変えて、アレンを後ろから自分の方へ、引き寄せた。
「か、彼は男の子ですから!」
「男の子?なるほど。てっきり・・・・」青年は微苦笑した。
「アレリス様」メイグが駆け寄って来る。
青年はメイグの方にチラリと視線を移した後、立ち上がりアレンの頬をさっと撫でると囁いた。
「又、会おう」そう言うと、あっという間に立ち去った。
「どうされました?」
「よく分からない。さっき、あの人は何て言ったの?」アレンはケルトの方を見た。
ケルトは困った顔して、言おうか言うまいか、悩んだ。
「『私の花嫁』と、言ったんだよ。つまり、プロポーズかね」店の主人がニコニコして言った。
「ええっ!」アレンは吃驚して叫んだが、それを聞いたメイグは、買い物を中止にし宿屋に彼等を強制的に連れ帰った。
「どうしたの?えらく早かったね」出迎えたジョエルが不思議そうに問うがメイグの難しい顔を見て、アレンを見直した。ジョエルは直ぐに、アレンの新しいスカーフに気が付いた。
「凄く似合ってるね」そして、イヤーリングに目を止める。
「どうしたの、これ?凄く高そうだ。本物の宝石じゃないか?」
「・・・貰ったんだ」
「私にもよく分からないのですが・・・」メイグはケルトを振り返る。
「え~っと、アレンは結婚を申し込まれたみたい・・・」
「はあ?」
「あっ、でも、無効だと思うよ。女の子だと思ったみたいで」それを聞いた、傭兵達や亜人達は一斉に大笑いした。彼等はちょうど、お昼を食べに集まっていたのだ。
「酷いよ!」
アレンは怒って二階の部屋に駆け上がってしまった。実は、身体が小さい事と、女の子に度々間違えられるのを、最近特に気にしていた。
「みんな、酷い。こんなものっ!」アレンは自分の耳からイヤーリングを引き千切るように毟り取ると壁に投げつけた。すると、ひょっこりクッキーが出て来たと思うと、投げつけられたイヤーリングの方へ、跳ねて行く。
「待って、クッキー。食べ物じゃないよ」それを見たアレンは慌ててクッキーから、イヤーリングを取り返そうと側に飛んで行ったが、あっという間に飲み込まれてしまった。
「大丈夫、クッキー?」飲み込んだクッキーはキョトンとしていて、大丈夫そうだ。
「よかった、大丈夫そうだね・・・じゃないよ、どうするの?返さなきゃならないのに~~~もう、知らない―」
アレンはベットに突っ伏すと、そのまま不貞寝してしまった。
「・・・・・アレン、アレン。起きてアレン」アレンはケルトに起こされた。
「・・ん、ケルト?」
「もう、夕食の時間だよ。ジョエル達が呼んでる」
「・・いらない」
「でも、お昼も食べてないよ」
「いらな・・」断わろうとすると、二人のお腹が勢いよく同時に鳴る。二人は顔を見合わせて笑った。
「ね、下で一緒に食べよう」ケルトの言葉にアレンは頷いた。
扉の手前で、ケルトは立ち止まると振り返った。
「そうだ・・・あの人間が来てるんだった」
「あの人間?」
「うん。市場でマナナが、絡まれてるのを助けくれて、宿屋まで送って来てくれたんだ」
「へえ」アレンの返事を了解と取ったケルトは食堂の扉を開けると、アレンを先に中に入れる。食堂には、皆がもう席に着いていたが、アレンの登場に振り返ると、意味深に笑い始める。
(なんだろう?)アレンが不思議に思う間もなく、直ぐ側のテーブルに後ろを向いて座っていた人物が振り返った。
「あっ!」
「やあ、又、会えたね」そう言うと、青年はにっこり笑った。
青年は立ち上がると、アレンの側に来て優雅に一礼する。
「俺の名前は、クリシュ。よろしくアレリス」
++++++++
第八十一話・リュウジールへの旅⑨二人の『秘密』
「うるさいぞ、タルク」男の頭の上から声がしたかと思うと、突然、目の前に人が跳び下りて来た。
「あ、あ、危のうございましょう、ナリス様」
彼はかなりの高さから飛び降りたのに、音がしなかった。
まるで、猫のように。
「こんな高さくらい、大丈夫だ。それより、タルクの大声の方が危険だ。ここはエイランド国だぞ」
「それを分かっていなさるなら、お早いお戻りを。叔父上様が心配されておりましょう」
「分かった、直ぐに戻ろう」
二人は森を抜けて、林の側に繋いであった馬に跨ると、国境を目指した。
タルクは、呆気なく自分の言う通りにタンデール国へと戻るナリスを訝しんで、チラチラとナリスを窺った。
「なんだ、ちゃんと前を見て、馬を走らせないと怪我をすると言うたは、お前では無かったか」
「・・・申し訳ありません。・・その何か、良い事があったのでしょうか?」
国堺に狩りに来ていたのだが、お目当ての大角鹿が見当たらず越境して探しに来たのだが、結局見付からなかった。
「ふふふ。今日はここまで足を伸ばした甲斐があって、”面白いもの”が見れた」
「なんでございましょうか?」
「秘密だ」ナリスと呼ばれた青年は、上機嫌で答えた。
彼は十七歳になったばかりだが、付き人のタルクよりほっそりと背が高い。髪を長く伸ばし、首の後ろで一つに纏めている。
人前や街中に出る時は、耳を隠す為に髪の毛を下ろしている。
本当は、括ったままでいたいが、叔父やタルクがうるさく言うので仕方なしに下ろしている。
彼の耳は、心持ち先が尖っている。柳のように細く強靭な肉体と子供の頃から、抜きん出て背が高い事から、妖精族の血が流れていると噂されていた。
タンデールでは昔から、亜人達を見下していながら、その力を渇望し奴隷や愛妾として取り込んで来たので、人間と亜人の混血が少なからず存在している。又、傭兵や農民の中には、その力を見込まれ働き手として根付いている。
彼を産んだ母は人間で、彼を疎んじている父親も普通の人間だった。只、母方の血にはかなり昔、妖精族を愛妾にしていた時があり、時々、先祖返りのような子供が生まれる。
母は麗人で、その美貌を目に止めた父の側室となり、ナリスを産んで亡くなったのである。
生まれたばかりのナリスは赤子にしては美しく、耳も尖っていた為に、実家に戻されて育って来た。
だが、ナリスの黒髪と、青い瞳は父親譲りで、美しさの中にも厳めしさが同居して独特の雰囲気を持ち、他を圧倒していた。
又、父親には五人の息子がいるが、一番力も美貌も知力も、ナリスが抜きん出ていたので、度々命を狙われた。
実家で育てて貰わなければ、遠に命を落としていただろう。
「なぁ、タルク。俺は、ちょっと旅に出る」彼は、家に着くなり、付き人を驚かせた。
「な、なにを馬鹿な事を!つい最近も命を狙われたばかりでは御座いませんか!」
「だからこそ、だ。俺の事なら、大丈夫。自分の身ぐらい自分で守れる」
「いけません!叔父上が何と仰られるか」
「フン、叔父上は俺が心配なのでは無い。俺が後継ぎになれるかどうかが、心配なだけだ」
「そ、そのような事を仰ってはなりません。今まで、大事に育てて頂いたではありませんか」
「それは、有り難いと思っている。何れ、父の後を継いで、叔父孝行する積りだ」
「では・・・」
「そう、だから、尚の事今は実家を出て、行方を眩ませた方がいいのだ」
「分かりました。もう、決められたのですね。しかし、その決意をされるとは、一体何を見られたのです?」
「済まぬ、今は言えない。秘密だ」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
アレン達一行はタンデールの国に入ったが、辺境の地を通っているので、検問所も何も無く、問題なく国境を越えられた。
旅の物資や食糧が少なくなって来たので、ナグ達の案内で一番近くの大きな街に向う。この頃から、ちらほら亜人の姿を見かけるようになった。王都より遠い郊外や、辺境の方が亜人に対する偏見も今は少なくなっており、お互いに共存している地域が多いので、国堺より越境して来る亜人の数も多かった。
ナグ達の案内で、亜人達も泊まれる宿屋に案内して貰ったが彼等は泊らないと言う。よく聞くと、エイランドに着くまで、襲撃に何度も遭い、予定よりも旅呈が伸びて路銀が残り少なくなって来たとの事だった。
こちらで、出すと言ったが、彼等は首を縦に振らなかった。
だが、宿屋の中庭で幌馬車を止める事ができたので彼等にとっても心休める一時となった。
アレンはケルトに連れられて、店や屋台が並ぶ通りに連れて来て貰っていた。今日はメイグが少し離れて付いて来ている。
アレンは一軒の出店の前で、先程からケルトと一緒に店の人に色々勧められて困っていた。ジョエルから、無くしたスカーフの替わりを買って来るように言われたが、店の者はアレンが上客だと分かると派手で高い物ばかりを勧めてくる。
「これがいい」その時、アレンの後ろから若い声がした。その青年はアレンの横に来ると店の天井から吊るしてあった沢山のスカーフから一枚をさっと手に取ると、アレンの頭に巻いて見せた。アレンは吃驚して、その青年を見上げる。 彼は背が高かった。
「思った以上に、綺麗な紫の瞳だ。そんな風にびっくりして目を見開くと零れ落ちてしまいそうだな。このスカーフは、そなたの瞳によく似合う」青年はアレンに二コリと笑い掛けた。
「凄くお似合いですよ」店の主人も言い添えた。アレンは困ってケルトを振りむくと、ケルトも困惑げに頷いた。
「これを貰おう。それに、そのイヤーリングも」
「さすが、お目が高い!これ以上無い程よく似合われますよ」青年は呆気に取られているアレンの前で店の主人に勘定を済ませてしまい、片膝を付いてアレンの目の高さに合わせると、固まっているアレンの耳にイヤーリングをパチリと止めた。
「こ、こんなに高い物、貰えません」アレンは先程のやり取りの間に、イヤーリングをちらりと目に止めたが、とても高そうだなと思っていた。
耳の耳殻に沿うように作られた銀製のそれは、紫と青に輝く宝石が大小埋め込まれたとても手の込んだものだったが、まさか自分の耳に嵌められるとは思いもしなかった。
青年は首を傾げて、青い瞳でアレンの顔を覗き込んだ。
「なぜだ?とてもよく似合ってるのに。それに、もう買ってしまった。気に入らなければ、捨てるといい」
アレンが呆れて言葉を返す前に、青年はアレンの手を取ると、指にキスをして囁いた。
「ミ・フェローズ」青年は真摯な瞳で語り掛ける。
「ミ・フェローズ?」アレンはオウム返しに言葉を返す。
それを聞いたケルトは顔色を変えて、アレンを後ろから自分の方へ、引き寄せた。
「か、彼は男の子ですから!」
「男の子?なるほど。てっきり・・・・」青年は微苦笑した。
「アレリス様」メイグが駆け寄って来る。
青年はメイグの方にチラリと視線を移した後、立ち上がりアレンの頬をさっと撫でると囁いた。
「又、会おう」そう言うと、あっという間に立ち去った。
「どうされました?」
「よく分からない。さっき、あの人は何て言ったの?」アレンはケルトの方を見た。
ケルトは困った顔して、言おうか言うまいか、悩んだ。
「『私の花嫁』と、言ったんだよ。つまり、プロポーズかね」店の主人がニコニコして言った。
「ええっ!」アレンは吃驚して叫んだが、それを聞いたメイグは、買い物を中止にし宿屋に彼等を強制的に連れ帰った。
「どうしたの?えらく早かったね」出迎えたジョエルが不思議そうに問うがメイグの難しい顔を見て、アレンを見直した。ジョエルは直ぐに、アレンの新しいスカーフに気が付いた。
「凄く似合ってるね」そして、イヤーリングに目を止める。
「どうしたの、これ?凄く高そうだ。本物の宝石じゃないか?」
「・・・貰ったんだ」
「私にもよく分からないのですが・・・」メイグはケルトを振り返る。
「え~っと、アレンは結婚を申し込まれたみたい・・・」
「はあ?」
「あっ、でも、無効だと思うよ。女の子だと思ったみたいで」それを聞いた、傭兵達や亜人達は一斉に大笑いした。彼等はちょうど、お昼を食べに集まっていたのだ。
「酷いよ!」
アレンは怒って二階の部屋に駆け上がってしまった。実は、身体が小さい事と、女の子に度々間違えられるのを、最近特に気にしていた。
「みんな、酷い。こんなものっ!」アレンは自分の耳からイヤーリングを引き千切るように毟り取ると壁に投げつけた。すると、ひょっこりクッキーが出て来たと思うと、投げつけられたイヤーリングの方へ、跳ねて行く。
「待って、クッキー。食べ物じゃないよ」それを見たアレンは慌ててクッキーから、イヤーリングを取り返そうと側に飛んで行ったが、あっという間に飲み込まれてしまった。
「大丈夫、クッキー?」飲み込んだクッキーはキョトンとしていて、大丈夫そうだ。
「よかった、大丈夫そうだね・・・じゃないよ、どうするの?返さなきゃならないのに~~~もう、知らない―」
アレンはベットに突っ伏すと、そのまま不貞寝してしまった。
「・・・・・アレン、アレン。起きてアレン」アレンはケルトに起こされた。
「・・ん、ケルト?」
「もう、夕食の時間だよ。ジョエル達が呼んでる」
「・・いらない」
「でも、お昼も食べてないよ」
「いらな・・」断わろうとすると、二人のお腹が勢いよく同時に鳴る。二人は顔を見合わせて笑った。
「ね、下で一緒に食べよう」ケルトの言葉にアレンは頷いた。
扉の手前で、ケルトは立ち止まると振り返った。
「そうだ・・・あの人間が来てるんだった」
「あの人間?」
「うん。市場でマナナが、絡まれてるのを助けくれて、宿屋まで送って来てくれたんだ」
「へえ」アレンの返事を了解と取ったケルトは食堂の扉を開けると、アレンを先に中に入れる。食堂には、皆がもう席に着いていたが、アレンの登場に振り返ると、意味深に笑い始める。
(なんだろう?)アレンが不思議に思う間もなく、直ぐ側のテーブルに後ろを向いて座っていた人物が振り返った。
「あっ!」
「やあ、又、会えたね」そう言うと、青年はにっこり笑った。
青年は立ち上がると、アレンの側に来て優雅に一礼する。
「俺の名前は、クリシュ。よろしくアレリス」
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