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しおりを挟む「俺は反対だ」
このままではまたマリシオンに舞い戻らなければならないと分かった瞬間、真っ先に向かったのはもちろんアルバスお兄様の元だ。
「聞けば、あちらはアンリを弄ぶだけ弄び、飽きたからと捨てたそうじゃないか。それなのに勝手な都合で呼び戻すなんて、アンリが可哀想だ」
「口を慎め、アルバス。陛下の御前だぞ」
「いや、良い」
珍しいこともあるものだ、と国王は目を細めた。今まで決して王族や政治と関わろうとせず、何年も前から王籍から離脱したいと嘆願していたというのに。
「お前が大嫌いな私に会ってでも、アンリが大切ということか。はて、二人の間に接点など無かったように見えたが」
「話を逸らさないで貰えるか、国王陛下」
「アルバス、無礼だぞ!」
アルバスは決して国王を父とは呼ばない。それを諌める気は国王にも無いらしく、呼び方など好きにすれば良いと笑っている。
「…お前は思わないのか。アンリは道具では無い。二年前、ここから去る際もまるで道具のような扱いだったが。こんなにも可愛らしいアンリを物扱いする輩は俺が成敗してやる」
お父様の前だというのに抱き締めてくるお兄様に苦笑するフリをしながら、もっと言ってやれと心の奥底から応援する。
「お父様。私はもうマリシオンに行きたくはありません。あそこで私がどのような扱いを受けていたか、お父様は知りませんでしょうが…」
本当に酷かったものだ。他の側室からの嫌がらせも、何もかも。国から侍女を連れて行くことも出来ず、信用できる者など誰もいない。
「もしも私の生涯があの国で終わろうものなら、私は陛下をお恨み致します」
「アンリ!」
「アルネスお兄様、これだけは引きませんわ。そもそも私よりも美しいお姉様や妹達がいるではありませんか。何故私が」
「その事なら私からとっくに打診したわ」
ほう、と国王がため息をつく。まさか打診していたとは。一応の抵抗は見せてくれたらしい。
マリシオンへ無理やり嫁がされだ時のことを考えるとプラマイ……マイナスね。あの恨み、忘れるものですか。
「あちらとてお前より若い方が良かろうとな」
「私が年を増していると?」
「……まぁとにかく打診したが、お前じゃないと意味が無いのだと」
気持ち悪い。あの男、今度は一体なにを企んでいるのやら。
もしや最後に言ったあの言葉で自分が振られて終わるのは嫌だと、だからわざわざ呼び戻すということか?
あぁ、どちらにせよ気持ちが悪い。
「お父様。何度も申し上げますが、私は王族としての務めを果たしましたわ。その先のことまで私には関係ありません」
「ではお前はどうするつもりだ?まさか再婚もせずにずっと…」
「普通の幸せを私は求めております」
そう言うと、国王の瞳が揺らいだ。何故だか少し悲しそうな顔をする。
「…お前は、本当に母とそっくりだ」
「え?」
「あれも、お前と同じことを言っていたな」
目を細めるお父様に、何と返せばいいのか分からない。
私の求める普通の幸せ。それは別に難しいことなどではない。ただ、自分で選んだ方と恋をして、貧乏でもいいから、生涯を終える時、この人と結婚して良かったと、そう思えるような人と一緒になりたい。
自分の人生を二度目まで決められたくはない。
「…まぁ、待て。お前が戻る気は無いと言っていることはもうあちらに伝えておる」
「では、」
「今日呼んだのは、お前たちにその話をするためだ。なんと、アンリを迎えに王自らがわざわざこちらへ出向くというのだ」
「「「は?」」」
「近いうちにこちらへ来るとのことだが、何分急なのでな」
「何故受け入れを了承したのです!アンリの心を踏みにじった男をこの地に入れるなんて…!」
心は踏みにじられておりませんけれど、本当にどうして了承したのかしら。このクソジジイ。
「…だからな、アンリ。アルバスを使うなどとまどろっこしい事をせず、自分で相手に断りを入れろ」
ーークソジジイはどうやら、全てをお見通しだったようですね。
それにしてもわざわざ来るなんて、いよいよ何を考えているのやら。念のために護衛術でも磨き直そうかと考えるアンリだった。
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