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22,王子はそんな顔(ではありません)。
しおりを挟む暗い、暗い、闇の中。
「陛下、王女様、どうぞこちらに…」
ーー駄目、ついて行ってはいけない。
その男は逆賊よ。もうすぐ私たちを殺そうとするの。だから決してその地下道に入っては、いけないのに。
駄目、私、駄目よ。
あぁほら、剣を抜いた。
ほら、そこでトドメを刺さないから。
「もっと、もっと深く…!」
その、瞬間。目の前にあの男の顔。
「ははは、あなたのせいで王女は二度と消えぬ傷を負いましたなぁ!」
高笑い。甲高く鬱陶しい声。
違う、違う、どうして、いつも。
「っおねえさま!!」
がばりと飛び起きたエルステーネに、ずっと手を握っていたモランが驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「目が覚めたのか、よかった」
「モラン、さま…?」
はっきりとしない目でピントを合わせようとするけれど、やはりぼんやりとしてしまう。
それよりも、と頭を必死に回転させた。
「モラン様、お姉様…エリシアお姉様は!?」
「安心しなさい、もう目覚めている」
今はあの男が側にいるから大丈夫だと、モランが背中を撫でてくれる。けれど。
「怪我、は…?」
「……エルステーネ」
「モラン様、おしえて、お姉様の怪我、」
「…エルステーネのせいではない。だが、…さすがに傷が深くて、塞がるまでは起き上がれないだろう」
当たり前だ。あんなに血が宙に飛ぶほどなのだから、相当深く切られたに違いない。
「お姉様、お姉様に会いに…!」
思わず立ち上がったエルステーネだったが、すぐに何も言えなくなってしまった。
会ってどうするというのだ。
「エルステーネ?どうした?」
自分を庇って、自分のせいで。そう簡単に治るでないだろう傷。自分とは比べものにならない程綺麗で美しい、霞みひとつない肌に、自分のせいで永遠に消える事ないであろう傷をつけてしまった。
「…会えないわ…」
あの綺麗な姉に人を殺すところを見せたどころか、その身体に傷を負わせて、会って何を言えばいい。もしかすると会ってもくれないかもしれない。恨んでいると言われたらどうしよう。
けれど謝らなければ。どうしよう、どうすれば。頭の中がゴチャゴチャになったその時だった。
「やぁエルステーネ、目が覚めたって?その姿を見て安心したよ、我が愛しの妹よ!」
「……誰ですか貴方」
扉の向こうから軽薄な声で現れたのはーー顔にインクでヒゲや眉毛、おでこに『第三の目!』などと訳の分からぬ事を書いている男だ。
「やだなぁ僕がわからないと?はは、冗談がキツイぞ!」
「冗談がキツイのは貴方ですよ、何をやっているんですかオルゼア王子」
モランがはあっとため息をつく。その言葉を聞いて、ようやくエルステーネがあ、と声を上げた。
「そういえばお兄様、しばらくお会いしていなかったから忘れていましたけれどそんな顔でしたわね!」
「うん違うからね!?」
まぁこの顔には色々訳があるんだよといつものように王子様モードで切り出したオルゼアだったが、笑いを堪えるあまり顔を直視できていないエルステーネを見て複雑な気持ちになるのだった。
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