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しおりを挟む「そういえば今日、私の誕生日ね」
ふと思い出したように、カトリーナは笑う。一人暮らしの部屋の掃除をしながら、考えた。
今日は少し奮発してケーキでも買おうかしら。二十六にもなって、一人で何をやっているんだか。
「カトリーナ、そろそろ行くよ~」
「えぇ、今行くわ」
カトリーナがフェロンツの姓で無くなったことは役所で確認が出来た。そして平民として生きると決めたので、実家の姓を名乗ることはもうないだろう。元々実家との付き合いも特になかったし、いいと思う。
あれから…屋敷を出てから、五年が経った。あの後、どうすることも出来ずにさ迷っていたカトリーナを拾ってくれたのは、宿屋の娘のヒューラだった。二つ年下の少女で、天然だけれど優しい。実家の宿屋で雇ってくれると言われたときは、嬉しくて泣きそうになった。
「カトリーナ、そういえばなんだけど」
「なぁに?」
「兄さんがカトリーナの部屋に来たって聞いたけど、何もされてない?大丈夫!?」
「あぁ…モールスさん?大丈夫よ、とても優しいもの」
ヒューラには兄がおり、カトリーナの一つ年上だ。少し大柄だけれど優しくて、一緒にいて安心する。
「モールス兄さんのいいところって、騎士団に入ってることくらいかしら?下っ端だけどね!」
「…そうね」
旦那様も…アルベルト様も騎士団の重役についていたわね、なんて思いながら笑う。ただでさえ力が強いのに、必死になったら余計に力が腕に籠るのだ。
「ね、ぶっちゃけよ?兄さんのことどう思う?」
「? いい方だと思うわ」
「そうじゃなくてー…兄さんがカトリーナのこと好きって言ったら、結婚出来る?」
「ーーそれは……有り得ないわ。モールスさんにも失礼よ」
「どうして?私はカトリーナのこと姉さんって呼びたいし、兄さんも満更じゃないと思うよ?」
「…結婚は一度で十分よ、もう二度と人を愛したりはしないって決めたの」
「えー……」
不満そうなヒューラに笑う。ごめんね、なんて心のなかで思うけれど仕方ない。モールスに好意を寄せられているかもとは思ったけれど、そういうのは有り得ない。
きっと今でも私は、あの人のことを心のどこかで愛しているからだろうけれど。
それには気付かないふりをしておこう。
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