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第5章 難解な恋の図面
第20話
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俺たちは都内の工場でトイレセットを6セット受け取ると、すぐに郊外の現場にむけて出発した。道路は思っていたよりも空いている。予定よりも早く現場に到着できそうだ。
(ん?まただ)
「どうしたんすか?」
「あ、いや、なんでもないの」
「ふうん」
俺は梅子を助手席に乗せてからこうやって定期的に視線を感じる。俺というよりも梅子は俺のもつハンドルやギア操作を眺めているように見える。
「何?そんなに運転してる俺カッコいいすか?」
「違うわよっ……ちょっと……」
「ちょっとなんすか?」
梅子は一旦口を閉じてから小さく口を開いた。
「運転って……どんな感じだったかなって」
「えっ!まさか梅子さんペーパーすか?」
「悪い?!だって、車持ってないし、日ごろ運転しなくても公共交通機関あれば困らないし……」
俺はやれやれと首を傾げた。
「何よっ……次同じことあったら、今度は私一人で納品して見せるから」
「あのね急に運転できる訳ないでしょ。てゆうか、俺いなかったらペーパードライバーのクセにどうするつもりだったんすか?」
「な、なんとかなるかなと思ったの。非常事態だし……女は度胸っていうでしょ。それに今までだって仕事関係は一人でなんとかしてきたから」
「度胸で運転がなんとかなるわけないでしょ。今までほかのことなんとかしてきたのは、梅子さんのいう褒められ案件ってヤツですけどね。で、前から思ってましたけど一人で抱え込まないでもうちょい周り頼ったらどうすか?俺含めて」
「別に……抱え込んでるつもりないし、一応課長だし……何事も課の先頭に立たなきゃいけないでしょ……」
俺は梅子に聞こえるようにため息を吐きだした。
「荷物はさ一人で持つから重いんでしょうが、これからさ、会社での荷物も梅子さん自身の荷物も、俺も一緒に持ちたいっておもってるから」
「世界くんが……そんな風に思ってくれてるのは嬉しいけど……これは私の問題っていうか、世界くんに悪いっていうか」
「だまれ」
「は?なによ急に、生意気ねっ」
「言っときますけど、会社で梅将軍なんて呼ばれてますけど、将軍だからってずっとひとりで先頭突っ走らなくてもいいって言ってんの!森川さんだって、他の社員の方だってさ、梅子さんひとりに背負わせるつもりなんて毛頭ないと思いますよ。マジで頑固なとこあんな、めんどくせぇ」
「めんどくさいって言った?!ちょっと何様なのよっ」
梅子が大きな瞳で俺を睨んだ。
「何様って梅子さん専用のお代官さまですけど、それがなにか?」
「私専用……お代官さま……?」
「はっきり言いますね、俺が梅子さんの恋人ですよねって話」
梅子が目を見開くとわずかに俺から距離を取った。
「……いつも思うけど……あんまりその、真っすぐに直球で言わないでよ、その恥ずかしいっていうか照れるっていうか、どうしたらいいかわかんなくなる」
「何度も言いますけど、俺も恥ずかしいの我慢して言ってますからね。大体さー」
♪──チャーラーチャラララーチャラチャララー
車内にふざけた着メロが響き渡って俺はすぐにアイツの顔がよぎった。
「えっと……あ、ごめ、殿村だ。田中インテリア産業さんの件」
「でなくていいっすよ」
「えっ、何言って、相手の方もすごく怒ってるって言ってたし、殿村の得意先だから」
「田中インテリアならなおさら大丈夫、俺にまかせて、てことで」
俺はすぐに路肩に車を止めると、隣に座る梅子の掌からスマホを取り上げスワイプした。
「えっちょっと世界くん」
──『もしもし梅子?ごめん、営業行ってて気づかなくて、今森川さんから聞いた。僕、契約があって、すぐには行けないけど』
(こいつこんな声だすのかよ)
その声色ひとつでも殿村が梅子のことをいかに心配していて、大切に思っているのかが分かる。
「もしもし御堂ですけど、その必要ないですよ、俺が梅子さんと現場納品いってうまく現場も収めてきますから」
──『なんでお前が……梅子は?梅子に代われよ』
「梅子さんへの要件なら恋人の俺が聞きますので」
──『ふざけるなよ』
「ふざけてませんから。なんなら梅子さんも俺のこと好きだって言ってますからね」
俺のスマホを持つ手を梅子が引っ張った。
「御堂くん、スマホ返してっ」
(御堂くんって言ったか?それ地雷だな)
「殿村部長、悪いですけど現場向かって運転中なんで失礼します」
俺は殿村の返事も聞かずに電話を切ると、梅子の顎を掴んだ。
「何よっ」
「地雷です」
「えっ……ンッ」
俺は梅子の唇を覆うようにぱくりと食べた。今は車内に二人きりとはいえ業務時間内で、現場にトイレセットを持っていく途中であり、煩悩及び幼稚な嫉妬なんてモノしちゃいけないのは重々承知の上だ。それでも俺の幼稚な嫉妬は梅子のことになれば制御不能だ。
「な、なにすんのよっ!」
「アイツの前だからって御堂って呼ぶな」
「え?そんなこと……で怒った、の?」
「悪い?そうですよ、ガキですみませんね。俺自分でも知らなかったですけど梅子さんのことになるとすぐヤキモチ妬くんで特に言葉使いは気を付けてくださいね。次アイツの前で御堂くんなんて呼んだら、アイツの目の前で口塞ぐんで」
「なっ……」
口をパクパクとさせて顔を真っ赤にしている梅子を見ながら、俺はご機嫌でハンドルを握りなおした。
(ん?まただ)
「どうしたんすか?」
「あ、いや、なんでもないの」
「ふうん」
俺は梅子を助手席に乗せてからこうやって定期的に視線を感じる。俺というよりも梅子は俺のもつハンドルやギア操作を眺めているように見える。
「何?そんなに運転してる俺カッコいいすか?」
「違うわよっ……ちょっと……」
「ちょっとなんすか?」
梅子は一旦口を閉じてから小さく口を開いた。
「運転って……どんな感じだったかなって」
「えっ!まさか梅子さんペーパーすか?」
「悪い?!だって、車持ってないし、日ごろ運転しなくても公共交通機関あれば困らないし……」
俺はやれやれと首を傾げた。
「何よっ……次同じことあったら、今度は私一人で納品して見せるから」
「あのね急に運転できる訳ないでしょ。てゆうか、俺いなかったらペーパードライバーのクセにどうするつもりだったんすか?」
「な、なんとかなるかなと思ったの。非常事態だし……女は度胸っていうでしょ。それに今までだって仕事関係は一人でなんとかしてきたから」
「度胸で運転がなんとかなるわけないでしょ。今までほかのことなんとかしてきたのは、梅子さんのいう褒められ案件ってヤツですけどね。で、前から思ってましたけど一人で抱え込まないでもうちょい周り頼ったらどうすか?俺含めて」
「別に……抱え込んでるつもりないし、一応課長だし……何事も課の先頭に立たなきゃいけないでしょ……」
俺は梅子に聞こえるようにため息を吐きだした。
「荷物はさ一人で持つから重いんでしょうが、これからさ、会社での荷物も梅子さん自身の荷物も、俺も一緒に持ちたいっておもってるから」
「世界くんが……そんな風に思ってくれてるのは嬉しいけど……これは私の問題っていうか、世界くんに悪いっていうか」
「だまれ」
「は?なによ急に、生意気ねっ」
「言っときますけど、会社で梅将軍なんて呼ばれてますけど、将軍だからってずっとひとりで先頭突っ走らなくてもいいって言ってんの!森川さんだって、他の社員の方だってさ、梅子さんひとりに背負わせるつもりなんて毛頭ないと思いますよ。マジで頑固なとこあんな、めんどくせぇ」
「めんどくさいって言った?!ちょっと何様なのよっ」
梅子が大きな瞳で俺を睨んだ。
「何様って梅子さん専用のお代官さまですけど、それがなにか?」
「私専用……お代官さま……?」
「はっきり言いますね、俺が梅子さんの恋人ですよねって話」
梅子が目を見開くとわずかに俺から距離を取った。
「……いつも思うけど……あんまりその、真っすぐに直球で言わないでよ、その恥ずかしいっていうか照れるっていうか、どうしたらいいかわかんなくなる」
「何度も言いますけど、俺も恥ずかしいの我慢して言ってますからね。大体さー」
♪──チャーラーチャラララーチャラチャララー
車内にふざけた着メロが響き渡って俺はすぐにアイツの顔がよぎった。
「えっと……あ、ごめ、殿村だ。田中インテリア産業さんの件」
「でなくていいっすよ」
「えっ、何言って、相手の方もすごく怒ってるって言ってたし、殿村の得意先だから」
「田中インテリアならなおさら大丈夫、俺にまかせて、てことで」
俺はすぐに路肩に車を止めると、隣に座る梅子の掌からスマホを取り上げスワイプした。
「えっちょっと世界くん」
──『もしもし梅子?ごめん、営業行ってて気づかなくて、今森川さんから聞いた。僕、契約があって、すぐには行けないけど』
(こいつこんな声だすのかよ)
その声色ひとつでも殿村が梅子のことをいかに心配していて、大切に思っているのかが分かる。
「もしもし御堂ですけど、その必要ないですよ、俺が梅子さんと現場納品いってうまく現場も収めてきますから」
──『なんでお前が……梅子は?梅子に代われよ』
「梅子さんへの要件なら恋人の俺が聞きますので」
──『ふざけるなよ』
「ふざけてませんから。なんなら梅子さんも俺のこと好きだって言ってますからね」
俺のスマホを持つ手を梅子が引っ張った。
「御堂くん、スマホ返してっ」
(御堂くんって言ったか?それ地雷だな)
「殿村部長、悪いですけど現場向かって運転中なんで失礼します」
俺は殿村の返事も聞かずに電話を切ると、梅子の顎を掴んだ。
「何よっ」
「地雷です」
「えっ……ンッ」
俺は梅子の唇を覆うようにぱくりと食べた。今は車内に二人きりとはいえ業務時間内で、現場にトイレセットを持っていく途中であり、煩悩及び幼稚な嫉妬なんてモノしちゃいけないのは重々承知の上だ。それでも俺の幼稚な嫉妬は梅子のことになれば制御不能だ。
「な、なにすんのよっ!」
「アイツの前だからって御堂って呼ぶな」
「え?そんなこと……で怒った、の?」
「悪い?そうですよ、ガキですみませんね。俺自分でも知らなかったですけど梅子さんのことになるとすぐヤキモチ妬くんで特に言葉使いは気を付けてくださいね。次アイツの前で御堂くんなんて呼んだら、アイツの目の前で口塞ぐんで」
「なっ……」
口をパクパクとさせて顔を真っ赤にしている梅子を見ながら、俺はご機嫌でハンドルを握りなおした。
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