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第6章 恋の見積もり対決
第29話
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※※
「はぁ……今日は一段と疲れたな……」
久しぶりにバスタブにお湯を溜めるとミルクバスにして、私はぶくぶくと口元まで浸かる。今日だけは、ミルクバスの白色が私のため息を溜めたように見えてくる。再度ため息を吐こうとして唇を閉じると、私は浴室の天井を見上げた。
「見積対決か……」
あの後、いつものように通常業務をこなし、残業時間になってから速攻で都市開発の図面と睨めっこしてトイレセット、洗面化粧台、大理石カウンター、電気温水器など、TONTONで扱っている商品を拾い出しを四分の一までしたあたりで目がかすんできた為、会社を後にした。
電車の中でスマホを開けば案の定、世界から何時に帰って来るのかLINEが来ていたが、見積対決のことを言うわけにもいかず私は「遅くなるからまた明日ね」と返した。
「……勝算あるのかな……出来レースの上に経理未経験の私……」
私は濡れた髪をかき上げながらバスタブの淵に頬杖を突いた。
「でもまさか……世界くんが社長の前で私との契約交際のこと言ってたなんて……」
世界が由紀恵と心奈の前で私との交際を話した時は、まだ本当にただの契約交際真っ只中だったはずだ。それなのに由紀恵と心奈の前でちゃんと私との真剣交際を宣言をしていた、世界の気持ちは素直に嬉しかった。
「頑張らなきゃね」
もし今回の見積対決で心奈よりも良いものができたのなら、世界との交際を由紀恵に認めてもらえる絶好の機会でもある。それに自分にも少しだけが自信がつくような気がする。私は今までもきっと心のどこかで、世界のそばにいてもいいんだという正当な理由を欲していたと思うから。
「はぁ……とりあえずお風呂あがったら図面もう少し見よ」
私はザバッと音を立てながらバスタブから立ち上がる。そしてお気に入りの暴れすぎ将軍の印籠マークの付いたスウェットを身に着け、頭にタオルを巻きつけながら浴室扉を開いた。
「ふう、気持ちよ……」
「長風呂っすね。待ちくたびれたし」
「きゃあ!」
するはずのない声とスウェット姿の世界がソファーで胡坐をかいて座っている。驚きすぎて尻もちを突いた私を見ながら、世界がケラケラ笑った。
「驚きすぎ」
「ちょ……なんで、玄関鍵かかってたでしょ?!どうやって入ったのよ!」
世界が私の目の前にしゃがみ込むと、むすっとした顔をする。
「てゆうか、返事そっけなさすぎ!面白くない」
「あのね、LINEの返事に面白いも面白くないもないでしょう!どっから入ったって聞いてるの!」
世界がベランダの窓を指さしながら首を傾けた。
「ちょっと前に梅子さんのベランダ拝借したことありましたけど、ベランダも鍵かけないんすね。かけたほうがいいっすよ、誰かに押し入られたらどーすんの?」
世界が口を尖らせながら私のおでこをツンと突いた。
「え?あぶな……ていうか不法侵入じゃない!」
「ベランダから落ちる危険を冒してでも恋人に会いに来た、一途でかわいい年下彼氏の俺をもっと褒めて欲しいんすけど?」
「褒められ案件じゃないわよっ!大体そんな恥ずかしげもなく……一途だの……かわいいだの……」
「いいじゃん、どうしても会いたかった。そんだけ」
おでこを摩りながら目を細めた私をみながら世界はにんまり笑った。
「あ、よく考えたら梅子さん角部屋なんで、ベランダって俺しか出入りできないんすね、ってことで押し入れるのも俺だけっ、と」
「わっ……」
世界の胸に抱え込まれると世界からも石鹸のいい匂いがしてきて、お風呂でのぼせた訳でもないのにめまいがしてくる。
「ちょっと……離して」
「梅子さんいい匂い……襲いたくなる……」
「え……まさか……だけど……もしかして夜這いしにきたの?」
世界がクククッと笑う。
「何?そんな襲って欲しいの?」
「そ、そんなこと言ってないっ」
「俺はこのままベッドでもいいけど?いく?」
世界の色っぽい声にすぐに身体が熱くなってくる。案の定恥ずかしくて俯いた私を楽しむかのように世界の掌が私の頬に触れた。
「……ねぇ」
「……俺、駆け引きとか苦手だから、直球で聞くけど……ボスから何て言われたの?」
思わぬ言葉に世界の瞳から一瞬視線を逸らしてしまってから、すぐに慌てて世界を見つめなおした。それと同時に、世界がわざわざベランダから入ってまで私に会いに来た理由も理解した私は、できるだけ平然を装って返答する。
「あ、仕事の話よ。大きな見積を任せてくださって」
心奈との見積対決のことは世界には言えない。言えばきっと世界は由紀子に食ってかかるのが目に見えているし、それは心奈に対してもフェアじゃない。
「どの現場?どの建築業者?不動産会社はどこ?」
「このことは社内でも限られた人しかしらないから……ごめん、話せない」
「その現場担当ってアイツ?」
「どう、したの?やけに私の仕事のこと聞くけど……」
「俺の質問がさき、答えて」
世界の掌が私の頬からするりと顎に移動すると視線が合うように持ち上げた。
「ちょっと……」
世界の切れ長の綺麗な瞳に直ぐに心臓がトクトクうるさくなってくる。
「……詳しくは言えないけど……現場担当は殿村よ」
世界の顔がすぐに曇った。
「大きな現場って言ったよね?それって森川さんから聞いたことあるけど営業担当と同行業務、ようは接待もあるってことだよね?」
「それは……あるかもね」
「それ却下だから」
「ちょっと、仕事だから。それに今までだって……接待業務も何回かだけど行ったことあるし」
直ぐに世界の切れ長の瞳がきゅっと細くなると私の肩を掴んだ。
「普通は見積担当がわざわざ接待に行かなくてもいいはずだろっ。こんなん大体ボスの嫌がらせだろ!俺と梅子さんが付き合ってるの知ってて急に大きな現場見積任すわ、アイツと組ませるわ、あげく酒の出る接待業務とかさ!」
私は一呼吸おいてから世界の目を真っすぐに見つめた。
「はぁ……今日は一段と疲れたな……」
久しぶりにバスタブにお湯を溜めるとミルクバスにして、私はぶくぶくと口元まで浸かる。今日だけは、ミルクバスの白色が私のため息を溜めたように見えてくる。再度ため息を吐こうとして唇を閉じると、私は浴室の天井を見上げた。
「見積対決か……」
あの後、いつものように通常業務をこなし、残業時間になってから速攻で都市開発の図面と睨めっこしてトイレセット、洗面化粧台、大理石カウンター、電気温水器など、TONTONで扱っている商品を拾い出しを四分の一までしたあたりで目がかすんできた為、会社を後にした。
電車の中でスマホを開けば案の定、世界から何時に帰って来るのかLINEが来ていたが、見積対決のことを言うわけにもいかず私は「遅くなるからまた明日ね」と返した。
「……勝算あるのかな……出来レースの上に経理未経験の私……」
私は濡れた髪をかき上げながらバスタブの淵に頬杖を突いた。
「でもまさか……世界くんが社長の前で私との契約交際のこと言ってたなんて……」
世界が由紀恵と心奈の前で私との交際を話した時は、まだ本当にただの契約交際真っ只中だったはずだ。それなのに由紀恵と心奈の前でちゃんと私との真剣交際を宣言をしていた、世界の気持ちは素直に嬉しかった。
「頑張らなきゃね」
もし今回の見積対決で心奈よりも良いものができたのなら、世界との交際を由紀恵に認めてもらえる絶好の機会でもある。それに自分にも少しだけが自信がつくような気がする。私は今までもきっと心のどこかで、世界のそばにいてもいいんだという正当な理由を欲していたと思うから。
「はぁ……とりあえずお風呂あがったら図面もう少し見よ」
私はザバッと音を立てながらバスタブから立ち上がる。そしてお気に入りの暴れすぎ将軍の印籠マークの付いたスウェットを身に着け、頭にタオルを巻きつけながら浴室扉を開いた。
「ふう、気持ちよ……」
「長風呂っすね。待ちくたびれたし」
「きゃあ!」
するはずのない声とスウェット姿の世界がソファーで胡坐をかいて座っている。驚きすぎて尻もちを突いた私を見ながら、世界がケラケラ笑った。
「驚きすぎ」
「ちょ……なんで、玄関鍵かかってたでしょ?!どうやって入ったのよ!」
世界が私の目の前にしゃがみ込むと、むすっとした顔をする。
「てゆうか、返事そっけなさすぎ!面白くない」
「あのね、LINEの返事に面白いも面白くないもないでしょう!どっから入ったって聞いてるの!」
世界がベランダの窓を指さしながら首を傾けた。
「ちょっと前に梅子さんのベランダ拝借したことありましたけど、ベランダも鍵かけないんすね。かけたほうがいいっすよ、誰かに押し入られたらどーすんの?」
世界が口を尖らせながら私のおでこをツンと突いた。
「え?あぶな……ていうか不法侵入じゃない!」
「ベランダから落ちる危険を冒してでも恋人に会いに来た、一途でかわいい年下彼氏の俺をもっと褒めて欲しいんすけど?」
「褒められ案件じゃないわよっ!大体そんな恥ずかしげもなく……一途だの……かわいいだの……」
「いいじゃん、どうしても会いたかった。そんだけ」
おでこを摩りながら目を細めた私をみながら世界はにんまり笑った。
「あ、よく考えたら梅子さん角部屋なんで、ベランダって俺しか出入りできないんすね、ってことで押し入れるのも俺だけっ、と」
「わっ……」
世界の胸に抱え込まれると世界からも石鹸のいい匂いがしてきて、お風呂でのぼせた訳でもないのにめまいがしてくる。
「ちょっと……離して」
「梅子さんいい匂い……襲いたくなる……」
「え……まさか……だけど……もしかして夜這いしにきたの?」
世界がクククッと笑う。
「何?そんな襲って欲しいの?」
「そ、そんなこと言ってないっ」
「俺はこのままベッドでもいいけど?いく?」
世界の色っぽい声にすぐに身体が熱くなってくる。案の定恥ずかしくて俯いた私を楽しむかのように世界の掌が私の頬に触れた。
「……ねぇ」
「……俺、駆け引きとか苦手だから、直球で聞くけど……ボスから何て言われたの?」
思わぬ言葉に世界の瞳から一瞬視線を逸らしてしまってから、すぐに慌てて世界を見つめなおした。それと同時に、世界がわざわざベランダから入ってまで私に会いに来た理由も理解した私は、できるだけ平然を装って返答する。
「あ、仕事の話よ。大きな見積を任せてくださって」
心奈との見積対決のことは世界には言えない。言えばきっと世界は由紀子に食ってかかるのが目に見えているし、それは心奈に対してもフェアじゃない。
「どの現場?どの建築業者?不動産会社はどこ?」
「このことは社内でも限られた人しかしらないから……ごめん、話せない」
「その現場担当ってアイツ?」
「どう、したの?やけに私の仕事のこと聞くけど……」
「俺の質問がさき、答えて」
世界の掌が私の頬からするりと顎に移動すると視線が合うように持ち上げた。
「ちょっと……」
世界の切れ長の綺麗な瞳に直ぐに心臓がトクトクうるさくなってくる。
「……詳しくは言えないけど……現場担当は殿村よ」
世界の顔がすぐに曇った。
「大きな現場って言ったよね?それって森川さんから聞いたことあるけど営業担当と同行業務、ようは接待もあるってことだよね?」
「それは……あるかもね」
「それ却下だから」
「ちょっと、仕事だから。それに今までだって……接待業務も何回かだけど行ったことあるし」
直ぐに世界の切れ長の瞳がきゅっと細くなると私の肩を掴んだ。
「普通は見積担当がわざわざ接待に行かなくてもいいはずだろっ。こんなん大体ボスの嫌がらせだろ!俺と梅子さんが付き合ってるの知ってて急に大きな現場見積任すわ、アイツと組ませるわ、あげく酒の出る接待業務とかさ!」
私は一呼吸おいてから世界の目を真っすぐに見つめた。
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