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第6章 恋の見積もり対決

第35話

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「は?何だって?!お前がついてて何で梅子さんにこわい思いさせてんだよっ!それ、お前のせいだろ!」

殿村を掴む世界の掌に力がこもるのを見ていられなくなった私は、世界の腕にしがみついた。

「殿村のせいじゃない!もう殿村を離してっ、お願いだから!」

「黙ってろよ!いま俺コイツと話してんだよっ!」

世界の見たことない冷たい瞳と怒鳴り声に体が硬直する。殿村が世界を睨むと、世界の着ているスウェットの胸元をぐっと掴んだ。

「もっと大人になれよっ!梅子は今誰と付き合ってんだ?!そんなんだから梅子がお前との交際を悩むんだよ!不安にさせんな!こんな顔させんな!」

「んだと?人の女に散々ちょっかい出しといて俺のせいかよ!歯食いしばれよ!」

世界が空いている左手の拳を振り上げた。

「やめて!」

私は世界の振り上げた左手から殿村をまもるように咄嗟に覆いかぶさった。

「……は?何だよ……何庇ってんの?」

振り返れば、世界が怒りと悲しみに満ちた瞳で私を見下ろしている。

「世界くん……の誤解だから……」

「何が?接待のあとお手て繋いで帰ってくんのが何の誤解?」

「ちゃんと……話すから」

声が震える。
殿村がそっと私の肩に手を置いた。

「……梅子、大丈夫か?」

私は殿村から肩に置かれた掌を返すと殿村を見上げた。


「ごめん……殿村、御堂くんと話すから帰って……」

「……分かった。何かあったら電話して。すぐ出るから」

頷いた私に背を向けた殿村は何度か振り返りながらもエレベーターに乗りエントランスへと降りていった。急に静かになった空間と黙りこんでいる世界に動悸がしてくる。

(ちゃんと……話せば世界くんだって)

「……ねぇ」

その低い声に顔を上げればすぐに唇が塞がれる。

「ンンッ……や……待ってっ」

思わず突き飛ばせば、世界が苛立ちを隠そうともせずに私を見下ろした。

「何が待ってだよ!散々俺は待たせといて、アイツには抱かれるつもりだったとか?!」

「そんな訳っ……痛っ」

世界が私の手首を掴み上げると、そのまま玄関扉を開けて部屋の中へと引き摺り込んでいく。世界が私を連れて向かっているのは寝室だ。強く手を引かれたその勢いでパンプスが玄関と廊下に転がる。私は大きな声を出した。

「離してっ!世界くん話聞いてよ!殿村の言ってたこと本当だから!……きゃっ」

そのままの勢いで乱暴にベッドに押し倒されると、すぐに世界が跨り私の顔の両側に掌をついた。

「言えよ。何がほんと?」

「だから……接待でこわい思いして……それで……殿村が心配して送ってきてくれて」

「何で?」

「え?」

世界が私の左手の手首を掴むと頭上に縫い付けた。

「何で俺に言わねぇんだよっ!?梅子さんは誰と付き合ってんのっ!」

そのまま世界の左手が私のブラウスのボタンを雑に外していく。

「……やめてっ」

「うるせぇよっ!何度言葉で言ってもわからないなら、誰の女か身体でわからせてやるって言ってんだよ!」

世界はあっという間にブラウスのボタンを腹部まで外すとブラのホックを外して放り投げた。そして私の身体と唇に噛み付くようなキスを繰り返す。乱暴で痛みしか伴わない怒りに満ちたキスだ。

「ンッ……やめっ……痛っ……」

「やめない。梅子さんがわかるまで」

そう言うと世界はスカートの中に手を伸ばしストッキングをビリビリと破っていく。

「や……やめてっ!こんなのっ……」

「こんなの?」

世界が鼻で笑うと私の顎を掴み上げた。かち合った切長の瞳には温度が感じられない。見えるのは怒りだけだ。世界の瞳がこんなにこわいと思ったのは初めてかもしれない。

空いている右手で世界から離れようと身を捩るが、世界の膝が私の両膝に割り入ってきて体がビクンと跳ねた。

「……世界くん……こわいっ……やめてっ……」

「黙って抱かせろよっ!」

どこが震えているのか分からないほどに身体のあちこちが小刻みに震えて、恐怖から呼吸が苦しくなってくる。無意識にたくさん空気を吸おうと大きな口を開ければ、世界の舌が入ってきてさらに空気が薄くなる。

「ンンッ……」

「力抜いてろよ」

(こんなの……強姦じゃない……)

「待っ……お願いっ……だから」

段々と世界の顔が見えなくなっていく。瞳から溢れた熱いものは冷たいシーツにただ吸い込まれていく。

「泣いても抱くし避妊もしないから」

「え?……何言って……」

「子供できたらさすがに俺選ぶしかねーよな?父親だもんな?!結婚するのにいい口実だろ?」

「っ……!」


──パシッ

乾いた音が寝室に響いて、世界の手が緩まると同時に私はベッドから飛び降りた。世界を見れば大きく目を見開いたまま呆然とこちらをみている。

「あ……俺……」

世界が額に掌をあてると唇を噛み締めるのが見えた。私は呼吸が浅く発汗していて身体中がカタカタと震える。

「梅子、さん……」

「来ないでっ!」

世界がベッドから立ち上がる。そしてこちらに向かって伸ばされた世界の掌を振り払うと、私は脱がされたものをかき集めて世界の部屋を飛び出した。



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