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第6章 恋の見積もり対決

第41話

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俺は羽田空港に到着し、ハイヤーで由紀恵を自宅へ送るとTONTON株式会社のエントランスで降りた。キャリケースを転がしながら、従業員出入り口で由紀恵からもらったばかりの役員用のIDカードを通し、エレベーターに乗り込む。

「マジ貰っといて正解だな」

一般の従業員用のIDカードでは残業はできるが就業時間以降一度外へ出てしまえば、セキュリティと労働基準法の関係から中に入ることは出来ない。

(梅子さん……大丈夫かな……)

数時間前、梅子と会話したのは数分だけだったが梅子は泣いていた。由紀恵との会話から、梅子は俺の為に心奈と同じ都市開発の見積もりを作成していること察した俺は、梅子の性格上ギリギリまで見積りと向き合い残業していると踏んで羽田からこうして直行した。

「当たりか……」

見積課の窓のブラインド越しに仄かに明かりが漏れている。

(6日……ぶりだよな)

正直、日が経てば経つほどに梅子にどんな顔をして会えばいいのか分からなくなっていた。それでもこの六日間、俺は気づけば梅子の顔が頭によぎり、梅子に会いたくて仕方なかった。

俺は唇を湿らせてから扉を開けるとすぐにため息を溢した。

梅子は、図面の上に両腕を重ねたまま規則的な呼吸を繰り返している。デスクの上の梅子のスマホを見れば早朝5時にアラームが設定してあり、パソコン画面には完成した見積書が映っている。

「……風邪ひきますよ」

そっとその頬に触れれば、僅かに梅子の唇が動いた。

「……せか……」

「ん?」

余程疲れているのか梅子は俺の名前を最後まで呼ぶことなく、また寝息を立て始めた。

「ここ泊まって、朝5時からまた見積りするつもりとか過労死しますよ……って俺のせいだよね……ごめん」

俺はアラームを止めてからマウスを左手に持ち、梅子の作成した都市開発の見積りに目を通す。

「相変わらず丁寧で正確な見積りですね」

図面には事細かにトイレセット、洗面化粧台、その他諸々を施工するのに必要な部品品番がネジ単位で書き込みされており、図面は梅子の直筆の書き込みでほぼ真っ黒だ。

俺は数十ページに及ぶ見積りを一枚一枚確認していく。

「え?経費、人件費まで計算?これ見積課の範疇じゃねぇだろっ……」

思わず俺は独り言が飛び出した。それと機内で同時に含み笑いをしていた由紀恵の顔が思い浮かぶ。

「あのクソババア」

(てゆうか、この見積りの出来栄えを心奈と梅子さんに競わせてるってことだよな?エサは俺で間違いない……)

俺は拳を握りしめた。

梅子が数週間前に、由紀恵に認められたいと話していたことを思い出す。おそらく見積りの出来栄えで俺との今後の交際が掛かっている為、梅子は必死にこの見積りと向き合ってきたのだろう。

「一人で抱え込まないでって言ったじゃん……それにこんなん出来レースだろっ……何で俺に言わねぇんだよ」

心奈の見積りの腕は、おそらく梅子より遥かに劣るはずだが商品カタログと社内システムである程度カバーできる。それに心奈は俺と結婚するためにTONTONの商品知識について以前から勉強していた。さらに心奈は経理課の配属である上に、花田不動産の一人娘ということで大学では俺と同じ経済学部だった。経費、人件費等のお金周りは圧倒的に心奈が有利だ。

(ただ……見積経験者の方が図面からの正確な商品、数字の拾い出し、粗利益率の計算は有利……勝負となると五分五分か、経験値のある梅子さんがわずかに上か……いやもしくは……)

俺は梅子の見積りをスクロールしていき、スマホの電卓アプリを液晶画面に浮かべた。

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