28 / 103
第1章 リュシドール子爵領
28
しおりを挟む
***
一夜が明けて、子爵邸の中は落ち着きを取り戻していた。
ただこの朝の食事も味が気に入らず、子爵夫妻は機嫌を損じていた。
それでも屋敷から邪魔者が消えたことに思いを馳せると、口元に笑いが戻ってくる。
朝早く、執事を町の状況を確認に派遣した。執務室で書類を点検していると、その報告が返ってきた。
「まちがいなく魔狩人協会にも宿屋にも、あの娘は姿を見せていないとのことです」
「うむ。では、直接一人で北の街道に向かったということで、まちがいないのだな」
「はい。門から見ていた限り、振り返ることなく北方向へ歩いていきました」
「よし。あとは後日、街道を調べさせるだけだ。昨夜無事に過ごすことができたか、何処かで魔獣の餌になったか。今日何処かで疲れ果て歩けなくなっているか、といったところだな」
「左様かと存じます」
「調査の兵を送るのは、明日でいいか。少なくともこの数日も、こちらから商隊などが発つ予定はないということだったな。魔獣に食われても、何かは残っていて見つけられるだろう」
「左様かと」
「死んだ証拠が持ち帰られ次第、王宮へ死亡届を送ろう。書類だけでも今日から準備を始めることにするか」
「はい、それがよろしいかと」
「成人前の娘が死亡し、これで問題なく我々が後見でランベールという男子が跡継ぎと認められる。すべての手続きが、間もなく終了だ」
「はい、楽しみですな」
「まったくだ」
***
近くの小川で顔を洗い、残していた焼肉で朝食をとる。
そうして再び歩き始めたが、脚の力は昨日の歩き始めと段違いだった。かなり長時間休めたのに、力は戻らない。鈍い痛みは残っている。
しかしそれでも、歩くしかない。
動かない右足を引きずり、杖を前に送り。
一歩ずつ、気合いを入れんばかりにして。
歩く。歩く。
遅々として進まない、焦れったい限りの歩みではあっても。
気を奮い、奮い、足を前に出す。
途中何度か、兎魔獣や猪魔獣が出現した。すべて脇の草むらから顔を出した刹那、アヒイで転がすことができた。
兎魔獣の一頭は解体して、肉一塊を荷物に加える。
また途中で具合のよさそうな林を見つけ、中を検分に入った。
「お、これはいいかな」
アヒイと毒茸、痺れ茸と知られるものを見つけ、採取する。
乾燥させた方が扱いやすいのにまちがいないが、細かくちぎったものを袋に溜めておいても何とか同様に使えるはずだ。
屋敷裏の狩りの際に確かめて、毒茸の致死量は野鼠や野兎なら匙二杯分程度、増やしても効き目が早まるわけではないと分かっている。実証していないが、対人間でも似たようなものだろう。狼魔獣などの大物なら数倍は必要か。
痺れ茸も必要量は同程度と聞いているが、確かめてみなければならない。
とにかくもそういう見当で、持っている袋に入るだけ採取する。
あまり体力を浪費しないうちに、街道の歩行を再開。
じわじわ、じわじわ、と歩みを進める。
陽が高くなり、頭が熱くなってきた。
持参していた布を三角巾として被り、凌ぐことにする。
それでもすべて凌ぎきれず、気温が上がって体力が奪われる。
ますます歩みが鈍くなり、それでも気合いを入れ直す。
また、三時程度は歩き続けたか。
どれだけ進んだか、まったく分からない、が。
とにかくとにかく、前へ進む。
陽が真上に来た見当で脇の広地に入り、焚火で肉を焼いて食べた。
ややしばらく休んだが、脚にそれほど力は戻らない。
仕方なく街道に戻り、少しずつでもと足を進める。
とにかく、少しでも。
前へと、進む。
こつ、と足が石に引っかかり。
前のめりになりそうになって、辛うじて持ち堪えた。
背を、伸ばし直した。
一夜が明けて、子爵邸の中は落ち着きを取り戻していた。
ただこの朝の食事も味が気に入らず、子爵夫妻は機嫌を損じていた。
それでも屋敷から邪魔者が消えたことに思いを馳せると、口元に笑いが戻ってくる。
朝早く、執事を町の状況を確認に派遣した。執務室で書類を点検していると、その報告が返ってきた。
「まちがいなく魔狩人協会にも宿屋にも、あの娘は姿を見せていないとのことです」
「うむ。では、直接一人で北の街道に向かったということで、まちがいないのだな」
「はい。門から見ていた限り、振り返ることなく北方向へ歩いていきました」
「よし。あとは後日、街道を調べさせるだけだ。昨夜無事に過ごすことができたか、何処かで魔獣の餌になったか。今日何処かで疲れ果て歩けなくなっているか、といったところだな」
「左様かと存じます」
「調査の兵を送るのは、明日でいいか。少なくともこの数日も、こちらから商隊などが発つ予定はないということだったな。魔獣に食われても、何かは残っていて見つけられるだろう」
「左様かと」
「死んだ証拠が持ち帰られ次第、王宮へ死亡届を送ろう。書類だけでも今日から準備を始めることにするか」
「はい、それがよろしいかと」
「成人前の娘が死亡し、これで問題なく我々が後見でランベールという男子が跡継ぎと認められる。すべての手続きが、間もなく終了だ」
「はい、楽しみですな」
「まったくだ」
***
近くの小川で顔を洗い、残していた焼肉で朝食をとる。
そうして再び歩き始めたが、脚の力は昨日の歩き始めと段違いだった。かなり長時間休めたのに、力は戻らない。鈍い痛みは残っている。
しかしそれでも、歩くしかない。
動かない右足を引きずり、杖を前に送り。
一歩ずつ、気合いを入れんばかりにして。
歩く。歩く。
遅々として進まない、焦れったい限りの歩みではあっても。
気を奮い、奮い、足を前に出す。
途中何度か、兎魔獣や猪魔獣が出現した。すべて脇の草むらから顔を出した刹那、アヒイで転がすことができた。
兎魔獣の一頭は解体して、肉一塊を荷物に加える。
また途中で具合のよさそうな林を見つけ、中を検分に入った。
「お、これはいいかな」
アヒイと毒茸、痺れ茸と知られるものを見つけ、採取する。
乾燥させた方が扱いやすいのにまちがいないが、細かくちぎったものを袋に溜めておいても何とか同様に使えるはずだ。
屋敷裏の狩りの際に確かめて、毒茸の致死量は野鼠や野兎なら匙二杯分程度、増やしても効き目が早まるわけではないと分かっている。実証していないが、対人間でも似たようなものだろう。狼魔獣などの大物なら数倍は必要か。
痺れ茸も必要量は同程度と聞いているが、確かめてみなければならない。
とにかくもそういう見当で、持っている袋に入るだけ採取する。
あまり体力を浪費しないうちに、街道の歩行を再開。
じわじわ、じわじわ、と歩みを進める。
陽が高くなり、頭が熱くなってきた。
持参していた布を三角巾として被り、凌ぐことにする。
それでもすべて凌ぎきれず、気温が上がって体力が奪われる。
ますます歩みが鈍くなり、それでも気合いを入れ直す。
また、三時程度は歩き続けたか。
どれだけ進んだか、まったく分からない、が。
とにかくとにかく、前へ進む。
陽が真上に来た見当で脇の広地に入り、焚火で肉を焼いて食べた。
ややしばらく休んだが、脚にそれほど力は戻らない。
仕方なく街道に戻り、少しずつでもと足を進める。
とにかく、少しでも。
前へと、進む。
こつ、と足が石に引っかかり。
前のめりになりそうになって、辛うじて持ち堪えた。
背を、伸ばし直した。
165
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる
あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。
魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。
しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる