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13.超克の選択
静かなる力
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1942年(昭和17年)9月3日
薄曇りの空の下、静寂に包まれた政庁の一室に、レイは一人、黙々と文書を読み込んでいた。
指先でなぞるその一枚は、外務省から届いた最新の外交情報だった。
「……ドイツが、ルーマニアへの軍事的圧力を強化している?」
唸るように呟くと、レイは机上の世界地図に目を落とした。
ヨーロッパ全域に赤く印が広がっていたが、最も濃く塗られているのは、スターリングラードを中心とした東部戦線。
「ヒトラーの戦争は、もはや“勝利”ではなく、“破滅の先延ばし”に変わった」
そう言い捨てた瞬間、背後の扉が静かに開かれた。
入ってきたのは、岸信介だった。彼は無言で椅子に腰かけると、手に持っていた封筒をそっと差し出した。
「……成功したよ。例の“地下施設”の実験」
レイは目を細めた。
「臨界反応に成功したということですね?」
岸は頷く。
「広島の地下施設で。成功したのは、君の“概念設計”があったからだ。これで、我々は“現実の核”を手にした」
レイは深く息を吐き、目を閉じた。
「……力が手に入った。だが、それを振るえば“正義”は消える。使わずに済むなら、それに越したことはない」
岸は鋭い眼差しで彼を見つめた。
「君はアメリカと組むつもりだな」
レイは短く答えた。
「ええ。三国同盟を破棄し、“未来を選ぶ”時が来ました」
⸻
その頃、東京・首相官邸。
近衛文麿と東條英機が、内密の会談を行っていた。
机上には、ドイツからの通達――“対ソ戦線における日本の参戦協力要請”が置かれていた。
「……無理ですな。我が国はすでに南方資源地帯の統治に忙殺されている。関東軍の動きも、すでにレイ君の構想に沿って動いている」
東條は渋面を作った。
「だがドイツは、我々に三国同盟の“義理”を問うてくるだろう。日本は裏切り者とされかねん」
「それでも、レイは進むでしょう。あの少年は、義理よりも“未来”を優先する」
⸻
同日、ワシントンD.C.
ホワイトハウス地下通信室。
ルーズベルトは書記官から一通の極秘電報を受け取っていた。
そこには、日本政府高官からの匿名書簡として、こう記されていた。
「我々は三国同盟を再考しつつある。蒼月レイは、その鍵を握る人物です。
彼が進める“日米間の外交的共鳴”に、賭ける価値があると、私は信じます」
大統領は一人、書簡を見つめながら呟いた。
「……ならば、こちらもカードを切る時だ」
彼は筆を執り、新たな親書を草案し始めた。
「過去に抗い、未来を取り戻そうとする者へ」
その宛名は、他でもない――蒼月レイだった。
薄曇りの空の下、静寂に包まれた政庁の一室に、レイは一人、黙々と文書を読み込んでいた。
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東條は渋面を作った。
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「……ならば、こちらもカードを切る時だ」
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その宛名は、他でもない――蒼月レイだった。
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