日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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27. 秩序の継承者たち

豊かさの胎動

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1943年10月、帝都・東京。
終戦の喧騒が遠のきつつある街に、確かな変化の胎動が広がりつつあった。蒼月レイが掲げた帝国再建計画は、もはや抽象的な理想論ではなく、国民一人ひとりの生活に直接的な“形”をもって現れはじめていた。

朝、築地の市場には新鮮な魚と果物が並び、かつては軍の専売品だった白米が、今や食券なしでも手に入るようになった。駅前のパン屋からは甘い匂いが漂い、店先のガラスケースにはバタークリームを塗った小さな菓子パンが子どもたちの目を奪っている。

「ママー、今日もこれ買っていい?」

「一つだけよ。お父さんのお給料、まだ出たばかりなんだから」

母と子のそんなやりとりも、戦時下にはなかった日常だ。かつて“配給”でしか得られなかった食品が、いまでは貨幣の力で交換される——それだけで、街には柔らかな温もりが戻っていた。



変わりゆくのは食卓だけではない。

衣——。帝都・浅草では、軍需工場の再編によって新たに生まれた繊維工場が稼働を始めていた。特に、軍服製造のために開発された強化繊維が、今では婦人服や子ども用衣料へと転用されている。色とりどりの布地が反物として売られ、洋裁学校には若い女性たちが列を成していた。

「新しいワンピース、私が縫ったの。どう?」

「すごい……ほんとにお店で売ってるみたいだよ」

若者たちが“作る”喜びを知り始めていた。大量生産ではなく、個々の創意と労働によって編まれる小さな豊かさ。それは、レイが唱えた「自立型経済圏」の第一歩でもあった。



住——。帝都近郊では、大規模な住宅建設計画が始動していた。これまでの木造長屋ではなく、耐火構造の“共同住宅”が計画され、鉄筋コンクリート製の建物が立ち並び始めていた。中には風呂付き、二部屋構成、ガス完備の家もあり、見学会には若い夫婦が押し寄せていた。

「まるで夢みたいね……」

「うん。でも、ローンを組めば俺たちでも買えるって」

“持たざる者”が“手に入れる者”になる。日本人の意識が、確かに変わりつつあった。



人々の生活が目まぐるしく豊かになっていく一方、その背後では、帝国の精密な戦略が着実に進んでいた。中央銀行と財務院は、レイの提案で“通貨管理機構”を創設。通貨供給を過剰にせず、インフレを抑えながら緩やかな成長を演出するという、驚くべき金融運用が施行された。

「我々は、“刷るだけ”の豊かさを求めない。
 本当の豊かさは、生産と流通の循環に宿る」

レイはその理念を繰り返し語った。
その結果、物価は安定し、国民は未来に対する不安を少しずつ手放していった。



娯楽の分野にも、新たな芽が生まれていた。
焼け跡の片隅に設けられた仮設劇場では、かつての新劇団が復活し、若い俳優たちが汗を飛ばして舞台に立っていた。映画館も再開され、人気だった『鞍馬天狗』がリバイバル上映されると、列が通りにまで延びた。

「……なあ、戦争の時は、こんなことできなかったよな」

「ほんとに。今は、笑える」

娯楽の回復は、国民に「生きる意味」を取り戻させた。それは衣食住に勝る、精神の豊かさだった。



だが、蒼月レイは、まだ満足していなかった。
彼は、東京・文京区に新設された「帝国経済総合研究所」の特別室で、全国から集められた生活データをモニターし続けていた。

「都市と地方で格差が広がり始めているな……」

農村では、都市ほどの恩恵がまだ届いていなかった。とくに、北陸や山陰地方では輸送インフラの遅れが物資供給の妨げとなっていた。

「物がないのではない。“届いていない”のだ」

レイは即座に、鉄道省に指示を出した。新たに開通予定だった「北陸連絡線」を半年前倒しで着工。加えて、地方自治体との通信網を強化し、各県に“生活状況監視官”を設置することが決定された。

「国家とは、東京だけの名前ではない。
 山村に生きる一人の老女の食卓まで想像できてこそ、帝国は“成った”といえる」



夜、東京・青山官邸。
レイは書斎で静かに地図を眺めていた。
食料の流通網、住宅の配置、医療機関の再配置——すべてが一本の線で結ばれ、そこには「見えない国家」が形作られていた。

「あと20年……いや、17年でいい。
 この国は、世界のどこよりも豊かになる。
 戦争で何もかもを失った国が、誰よりも幸せな国になる。
 それを、歴史に刻む」

扉の外、静かに控えていた桜が声をかけた。

「……少しは休まないと、倒れちゃうわよ?」

レイは微笑んで立ち上がり、彼女の手を取った。

「ありがとう。君がいると、僕は倒れずに済む」

その手のぬくもりの向こうに、彼は未来の国民一人ひとりの微笑みを見ていた。

その笑顔のすべてが、彼の“戦い”の意味だった。
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