僕と看護師さんのゆるい入院生活

まどうふ

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「あっ! 奏汰くん、大丈夫だった?」

 びっくりしたぁ......

「もちろんですよ、トイレぐらい1人でも大丈夫です」

 自信ありげに奏汰が静華さんへ言った。それを見た静華さんはやれやれとした顔をし、奏汰の頭を撫でようと手を伸ばしたその時──

「バカ」

 清水さんが奏汰の頭を軽く叩いたのだった。

「いてっ──」

「バカなの? さっきだって私がいなかったら痛いのに無理して車椅子動かして部屋まで戻ったわけ? それで治るのが遅くなったらどうするの!」

「......」

 あ......またやっちゃった......言わなくていいことを次々に......ほら、灰羽さんも黙り込んじゃったし......何やってんだ、中2にもなって......

「そうだそうだー! 私を頼れー!」
「......すみません、いけると思ったんですよ」
「もう骨折とかもろもろ治るまで離さないから」
「それは勘弁してくれると嬉しいです......」

 あれ......変な空気にならない......? いつもだったら周りからの目線がすごいのに。

「ぼーっとしてどうしたの、清水千鶴さん?」
「あっはい!」
「とりあえず奏汰くんを部屋に入れるね」
「あ、お願いします静華さん」

 僕がそう言ったら静華さんはゆっくり車椅子を押してくれ、1番奥のテーブルがある所まで移動してくれた。

「はいどうぞ、お水でも飲んでてね」
「ありがとうございます」

 お水を渡してくれたあと、静華さんは清水さんがいるドアの方へ歩いていった。

「まずは奏汰くんをここまでありがとね」
「いや、私は偶然そこで会っただけで」
「それでもありがと」
「......はい」

 その言葉を後に、2人の会話は途切れた。それから5分ほどが経ち、清水さんがその空気感に耐えられず言葉を発した。

「それじゃあ私はこれ──」
「あっそうだ!」
「えっ?」

「何か言おうと思ってたんだけど忘れちゃって、でも安心して、今思い出した」
「......なんですか?」

 清水さんがそう言った瞬間、静華さんは清水さんに近寄って、奏汰に聞こえないよう耳打ちをする。

「誰でも弱点はあるよ、だからそれに対応出来るぐらい強くならなきゃ、臨機応変にね」

「......ずるい」

「それでももしダメなら──自分を理解してくれる人を探そう、奏汰くんみたいな人をね」

 さっき助けられた人に言われたら......聞くしかないじゃん......

「千鶴ちゃんも人を頼ってみたらどう?」
「そう......ですね......」

 人を頼れって灰羽さんに言ってたのに、頼るべきは私だったってわけか......

「あっ......あと......」
「あと?」

 静華さんが清水さんの方を向いて聞き返した時、静華さんの目には少し頬を赤くして俯いている清水が見えた。

「ちゃん呼び......やめてください......」
「え......なんで?」
「......恥ずかしいから」

 ......ふふっ......不覚だわ......こんなにも可愛いだなんて、前会った時はこんな一面見せてくれなかったのに。

「なんでよー可愛いよ? 千鶴ちゃん」

 いやっ、今まで千鶴ちゃんとか呼ばれたことないし、ちょっと恥ずかしいなと思ったらどんどん恥ずかしく思えてきてなんか......

「なんか......ダメなんです」
「でも可愛いよ、千鶴って名前」
「千鶴はいいんです、自分でも気に入ってます」

「......千鶴ちゃん」
「あぁぁー! なんかムズムズして恥ずかしいからやめてー!」

 はぁ可愛い可愛い......身近にこんな可愛い子が居たとは......清水《しみず》千鶴《ちづる》ちゃんね......

「奏汰くんも千鶴ちゃんって呼び方可愛いと思うよねー?」

 少しだけ離れている奏汰にそう呼びかけ、静華さんはしれっと清水さんの後ろに回り込んでいた。

「さっ、入って入って」
「えっえっ?」

 そう言って清水さんの背中を押し、無理やり奏汰の部屋へ入らせる。

「千鶴ちゃんは友達とかにどんな呼ばれ方してたの? あだ名とか」

「どんなのあったっけ......千鶴に千鶴さん、清水さんとか......なんか、堅い」

「それじゃあもうちょっと親しげのあるあだ名を考えようよ」

「だから恥ずかしいんですって」
「うーん......がんば!」
「そこはアドバイスしてくれないのね」

 ......たしか昔、幼馴染が呼んでたあだ名があったと思うんだけど......忘れちゃったなぁ、しばらく会ってないし。

「じゃあ......シンプルだけど ちーちゃん......っていうのはどうですか?」

 自力で僕は2人の所へ車椅子を動かして、清水さんにあだ名を提案した。誰でも思いつきそうなあだ名だけど。

「ちーちゃん......いいんじゃない!?」

「ちょっと恥ずかしいけど、千鶴ちゃんよりかはマシかも」

「じゃあこれからはちーちゃんで!」
「はい」

 まあ、会う機会も少ないだろうし、呼ばれ方ぐらい何でもいいんだけど......千鶴ちゃん以外は......

「改めてよろしくね、千鶴ちゃん」

 そう言って静華さんは清水さんに手を伸ばした。

「はい、北条さ──ってあだ名は!?」
「私は千鶴ちゃんのままでいくよ?」

「それじゃあさっき決めたあだ名の意味が......」
「奏汰くんは千鶴ちゃんのことなんて呼ぶ?」

 静華さんからそう言われて初めて僕は考えた、清水さんをなんて呼ぶか。というか静華さんは千鶴ちゃん呼び続行なんだ......まぁそれはそうとどうしよう、呼び方なんて特に考えてなかったな。

「じゃあちーちゃん......やっぱ清水さんで」
「奏汰くんったらー照れちゃてー!」

「私としてはそっちの方が聞き慣れてるからありがたいけど、あだ名は放置ですか」

「作っておいて損は無いでしょ、ね! 千鶴ちゃん!」

 以前にも会ったことあるけど、北条さん看護師なのにフレンドリーすぎるし、私の名前好きすぎじゃない? なんか、化けの皮が剥がれたって感じがする......
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