僕と看護師さんのゆるい入院生活

まどうふ

文字の大きさ
64 / 69

実食、そして事件の始まり

しおりを挟む
「どう⋯⋯?  ほかの3人⋯⋯も⋯⋯美味しい?」

 ゆるいハロウィンパーティーに参加していた奏汰、静華さん、神崎さん、るなちゃん、千鶴は、バイキング形式だった晩御飯に驚きつつも食べたいものを取り、5人座れる机に集合した。

 その時机の真ん中にあったのは、るなちゃんが練習を重ねて作ったカボチャグラタンだった。

「美味しいよ」
「これ料理初めてだよね?  美味しい!」
「初めてなんだ、すご」

 静華さん、神崎さん、千鶴の3人はカボチャグラタンを頬張りながら評価してくれる。

「結構⋯⋯頑張った⋯⋯」
「バイキングにある料理もるなちゃん手伝ってくれたし、偉すぎ」

 神崎さんは僕の目の前でるなちゃんの頭を撫でた、もしかしたら神崎さんも大概子供好きなのかもしれない。

「ていうか料理班の負担大きすぎない?」
「確かに、結構な量作らないと足りないもんね」
「後で院長にガツンと言っとかないと!」
「その院長急な用事でこの病院に居ないけどね」

 落ち着いている神崎さんはそう言いながらスプーンを口に持っていき、奏汰やるなちゃん、千鶴がちゃんと食べているか確認する。

「どこ行ったんだろね」
「院長って前言ってた行事ごとが好きな?」
「そうそう」

 本当だったらハロウィンパーティーにも来たかっただろうに、相当な用事なんだろうなぁ⋯⋯。

「看護師長か看護部長に聞けばどこに行ったか分かるんじゃない?」

「じゃあ看護部長かなぁ、看護師長に聞くと面倒な仕事押し付けられそう」

 首を縦に振る神崎さんを横目に千鶴は食べる手を止めた。

「看護部長って御陵《みささぎ》影子《えいこ》さん?」
「千鶴ちゃんよく知ってるね!  看護主任のお姉さん、姉妹揃って看護師の凄い人たちだよ!」

 僕はまだ会ったことないな、看護主任の御陵陽子さんなら会ったことあるんだけど。そう考えればこの病院で会ったことない人結構多いかも、挨拶とかした方がいいのかな?

「看護師の中では地位が1番上の人、でも優しい」
「たまに四季条《しきじょう》さんと一緒に様子を見に来てくれるから、それで名前覚えた」

 あっ、お水なかったんだった。取りに行こうにも1人で行ったら静華さんに怒られそうだし、誰かに頼もうにもみんな楽しそうに話してる空気壊したくないし、どうしよ⋯⋯。

「あっ奏汰くんお水取りに行く?」
「あ、ありがとうございます」

 助かったー⋯⋯ほんとよく見てる、ちょっとの異変でもすぐ気づいてくれるの凄い。一緒にいればいるほど最終的には考えてること全部読んできそう⋯⋯。

「私も⋯⋯行く⋯⋯」
「じゃあ一緒に行こっか、奏汰くんゆっくり車椅子乗ってね」

 いつものように静華さんに支えてもらいながら車椅子に乗り、3人でお水を取りに行く。


「清水さんに1つ聞いていい?」
「いいですよ」

 残された2人は特に気まずくなることも無く会話を始め、千鶴は気にせず食事を続けた。

「るなちゃんといつそんなに仲良くなったの?」
「うーん⋯⋯気づいたら?」
「気づいたらって⋯⋯」

 箸を置き頭を抱える神崎さん。

「私の苦労返してくれる?  何日も何日も話しかけに行って、無視されてはまた話しかけに行って、るなちゃんの読んでた本を自分用に本屋で買って読んで話しかけに行って、やっと興味持ってくれたぐらいなのに⋯⋯今の若い子には敵いませんわ」

「今まで何回か話す機会はあったんだけど、私に興味なんてなさそうだった。宮咲さんから話しかけてくれたのはつい最近、灰羽さんの部屋に居た時かな」

 その人誰?  って言われただけだけど。

「灰羽さんもるなちゃんと仲良くなるの早すぎなのよ、人と関わる達人よ。感謝もあるけどそれ以前に嫉妬よ嫉妬」

「嫉妬って何の話ー?」

 水を取りに行っていた静華さんがコップを2つ持って歩いてきていた。

「るなちゃんと灰羽さんはどうしたの?」
「あっちあっち!」

 机に水を置きながら椅子に座った静華さんは、人差し指を前に出してるなちゃんの居場所を指し示す。

「お水⋯⋯こぼさないように⋯⋯ゆっくり⋯⋯押すから⋯⋯」

「うん、ありがとう」

 灰羽さんの車椅子を押していたのか、良かった。

 奏汰は無事席に着き、るなちゃんは髪をふわりとなびかせながら奏汰の前に来る。

「お水⋯⋯先に⋯⋯」
「あっ、お願い」

 るなちゃんがお水を机に運んでくれている間に、車椅子から椅子に移動しようとしたら、静華さんが支えに来てくれた。

「はい!  無理しない無理しない」
「ありがとうございます」

 1つの移動にもこんなに時間がかかると思ってもみなかったなあ⋯⋯今じゃもう慣れちゃったけど。赤信号を無視してきた車に轢かれるとか災難すぎる。

「ゔっ⋯⋯」
「どうしたの!?」
「一瞬頭痛が⋯⋯でも今はもう大丈夫です」

 今一瞬だけど何か頭の中に⋯⋯。ダメだ、思い出せない。

「今夜は一応氷枕用意するわ、あと痛くなったら飲めるように薬も机に用意しとくから」

「分かりました、もし酷かったらナースコール押しますね」

 僕はそう決意し、自分の席に座った。

「うん、お願い!」

 一応看護主任に伝えとこう、そしたら夜勤の人たち全員に伝わるからこれで夜中でも安心。

「奏汰⋯⋯大丈夫⋯⋯?」
「大丈夫か?」
「大丈夫?」
「うん!  全然平気」
「なら良かった⋯⋯」

 静華さんとるなちゃんも席に着き、食事を再開する。

「それで雪希子さん、私が戻ってきた時言ってた嫉妬って何に嫉妬してたのー?」

「いきなりだな」
「さっき聞けなかったからねー!」

 静華さんは一言でその場の空気を変えて、話題を一転する。

「それは清水さんと灰羽さんが──」

 千鶴を交えた食事はとても楽しく、かなりの時間が経過してしまっていた。

 時刻は8時、晩御飯を食べ終えた5人は食堂を出てその日は解散となった。各自部屋に戻り、消灯時間までそれぞれ暇を潰した。

 1人はアニメを看護師さんに布教したり、1人は看護師さんに頭を撫でられたりと、意外にも早く時間は過ぎていった。




 2日後、11月2日。

 神崎さんと夏凛が央光《おうこう》へ行く日の朝、神崎さんのスマホに一通のメールが届いた。

「神薙《かんなぎ》美琴《みこと》が今朝、部分的記憶喪失になっただと⋯⋯!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...