僕と看護師さんのゆるい入院生活

まどうふ

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天才と秀才の領域へ

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私と愛園《あいぞの》さんは神崎《かんざき》さんと黒沢《くろさわ》さんと分かれたあと、椿《つばき》さんのお見舞いに持っていく軽い手土産を買いに1階の食料品売り場に到着していた。

 まだ9時35分なこともあり、かなり人は少なく、主婦の方々がチラホラいるという感じ。私は愛園さんが横にいることも忘れて椿さんの手土産を悩むと同時に、将来のことについても考え始めていた。

「やっぱりスポーツドリンク系かな?」
「家の場所を見る限り多分ですけどこれ、椿さんの実家だと思います」

「だったら飲み物は1本ぐらいにしてっと」

 頭の回転を速くさせながら買い物カゴを片手にスポーツドリンクをカゴの中に入れる。その佇まいはふわっとした優しい声も相まって、主婦と間違えてもおかしくはない。

「プリンとかフルーツ系の方がいいかな?」
「⋯⋯そうですね」
「どうかしたの?  難しい顔して」

 堅い表情を一瞬でも愛園さんの前で見せると絶対に相談に乗ってくれる。⋯⋯そう分かっていながらも私は見せてしまった、もしかしたら心の奥底で誰かに聞いて欲しいと思ってしまっていたのかもしれない。

「愛園さんは将来どうするか決めました?」
「決めたよー。美琴《みこと》さんは看護師?」

「⋯⋯今更ながら迷っていまして、私、父親が会社経営をしているんです。それで、跡を継ぐために看護師にならず父のもとで働きながら勉強して、いずれは会社を⋯⋯と父に言われまして」

 私が口にした言葉を親身になって受け取り、驚きもせず、ただ一つ意見を言ってくれる彼女が私は好きだ。

「見て、そして想像してみて」

 歩き着いたところはデザートコーナー。プリンを片手に愛園さんは優しく微笑んでくれている。

「大きなお皿の真ん中に、プリンが1つ。カラメルのところだけをスプーンですくい、一口で食べる」

 パックに入ってるプリンを、軽くトントンと指を弾ませ、私の想像を豊かな方へ引っ張ってくれる。

「その一口は幸せかもしれない、だけど残りのカスタードの部分だけを食べると⋯⋯まあ、美味しよね」

「⋯⋯うん?」

 プリンを買い物カゴの中に入れ、話を続けながら私たちは歩き出した。

「でも美味しいだけ、何か物足りない、カラメルと一緒に食べればもっと美味しかった。そう思わない?」

「⋯⋯そうですね」

 私の頭では理解が及ばない。何が言いたいのか、それとも例えが悪いのか、何もかも分からないのです。

「見てみて、このゼリーたちを」
「はい⋯⋯」

「ブドウゼリーやミカンゼリー、つまり1つの仕事を目指して頑張っている人たち、どこから食べても味は同じだよね」

 愛園さんはいつもそう、私が悩む度、こうやって答えてくれる。⋯⋯だけど結論はいつも同じ。

「プリンのように3つの選択肢がある方が珍しい」
「3つ⋯⋯ですか?」

「満足のいくように食べるか、別々で食べるか、もしくは、新しく買うか。トッピングは副業ね」

「ちょっと⋯⋯まだ、何が言いたいのか見えてこないのですけど⋯⋯」

「ごめんね、ちょっと長かったよね」


 気づいたら場所はフルーツコーナーへ。透明なプラスチックの箱に入っているカットされたリンゴを買い物カゴの中に入れ、愛園さんの話は続く。

「結局は美琴さん次第かな~。好きを仕事に看護師か、言われてやる気が出たなら会社経営。看護師を途中でやめて、お父さんの会社に就職してもいいしね」

 いつもと同じ、私次第。でも⋯⋯その言葉が欲しかった。安心出来る、私が進むべき道はだと。

「いつも感謝してるよ」

「ううん、これが仕事になるんだから。こちらこそありがとう」

 私の心は固まった。私はを選ぶ。



 お会計を済ませた愛園さんが私に近づいてくる。肘の関節にビニール袋をかけ、本当に同じ年齢なのかと疑ってしまう自分がいた。

「あっちなみに、期間限定の品物がね、偶に現れる天才や秀才の人たちだよ。医者と弁護士のダブルライセンスとかね」

 合流した私たちは少し歩き、ショッピングモールには珍しい大きめな木を見つけた。その横にちょうどよくあったベンチに腰を下ろし、私は思いを言葉にする。


「私はもう1年勉学に励みます」
「あら、早く看護師になりたいんじゃないの?」

「央光《おうこう》医療大学を卒業したあと、看護師免許を取り、1年制の助産師養成所に入学して助産師免許も取得します」

 一呼吸置き、私は直ぐ──。

「「認定看護師にもなります」」

「分かってるよ、考えてることくらい」
「バレバレでしたね」

 笑みをこぼしながら放ったその言葉を、私は安心して言うことが出来た。

 私は、天才や秀才たちの住む領域へ行く。
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