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第二章 スライム街へ
第七話 急報
しおりを挟むギルド日本リージョン本部に備え付けられている。ホットラインが鳴り響く。
その場には、本部に詰めるべき5人が揃っている。
「はい。ギルド本部。榑谷」
『よかった。こちら、清水消防署。森本です』
「魔物が出ましたか?」
『いえ、あっ。少しお知恵を拝借したい。警察にも連絡をしましたが、明確な証拠がないと、警察は動けないと言われてしまって・・・』
「簡単にでも構わないので、状況を教えて下さい」
『はい。通報が有ったのは、3時間ほど前です』
榑谷円香は、スピーカーから音が出来るようにしてから、近くの時計を見る。時計は、17時を少しだけ過ぎている。
時系列で説明された内容だったが。雲を掴むような話にも聞こえる。
「それでは、路上生活者が”スライムになって殺された”というのですね?」
『はい。しかし、それを証言しているのが、路上生活者でして、信ぴょう性も・・・。それで、警察は動けないと・・・。しかし、スライムと言えば、魔物なので、ギルドさんに報告をしておこうと・・・』
「わかりました。ちなみに、場所は?」
『あっ埠頭の清水清見潟公園で、津島神社の近くです』
「わかりました。また何か、状況が解ったら知らせて下さい」
電話を切った榑谷円香は、疲れた表情を浮かべる里見茜を呼び寄せる。
「茜!」
「無理です。それこそ、蒼さんや、孔明さんにお願いします」
「違う。違う。現地調査ではない」
「え?」
「現地調査は、ギルドの仕事ではない。それに、公園ならそれこそ、蒼や孔明でも手出しが出来ない」
「はぁ・・・。それでは?」
「茜。覚えていないか?ファントムがギルドのサイトを利用し始めた頃に、”魔物化”というスキルを何度も検索した奴がいたよな?」
「あっ。資料を持ってきます」
「頼む」
里見茜が、自分のデスクで作業を始める。
その間に、桐元孔明が榑谷円香のデスクまで来て、パイプ椅子を持ち出して座る。
「円香。公園の件も大事だけど、天子湖はどうする?」
「どうするも・・・。ギルドは、実動部隊を持たない。現地に向かっても何も出来ない。情報を、自衛隊や警察と共有して、ギルドの登録メンバーに情報を流すだけしか出来ない」
「それはそうだが・・・」
「ハンター制度が出来るのが遅かった。言ってもしょうがないけど、もう少しだけでも早ければ、ハンターを派遣することも出来たかもしれない」
「そうだな。封鎖が終了している現状では、自衛隊や警察も手が出せない」
「あぁそれに、上位種の存在が疑われる所に、スキルを持たない人間を投入出来ないだろう?」
「そうか、それも有ったのだったな。上位種は確定なのか?」
「どうだろう?でも、魔物の集団行動といい。人を喰らっていることから、複数のスキルを持っているだろう。上位種だと思って間違いはないと思う」
「そうだな。上村!上位種に、勝てるか?」
柚木千明の作業を手伝っていた。上村蒼は、振り向きもせず、面白くなさそうに、答える。
「ん?戦車を使っていいのなら討伐できる可能性は高いが、標準装備では無理だな」
自衛隊の標準装備ではない。魔物討伐を行うときの標準装備だ。
「M9でも無理か?」
「無理だな。M870は無理でも、遠距離からM24で狙えば、仕留められるかもしれないが・・・。ゴブリンの上位種でも、倒すのに、二人が殉職した」
「・・・」
ここで、上村蒼は振り向いて、桐元孔明と榑谷円香を見る。
「見せられた写真を見る限りは、死んだのはスライムだろう。魔石の大きさから、大型でもゴブリンだろう。しかし、足跡は、ゴブリンではない。大型の魔物だ。それが、最低でも3体だ。千明に、足跡を照会してもらった」
「それで?」
「聞きたいか?」
「聞かなくて、済むのなら、聞かない」
「ダメだ。孔明。山本を襲った魔物は、オーガと呼ばれる魔物だ。メキシコのギルドに足跡のデータがあった。円香。天子湖を占拠した魔物たちの動きは?」
「今の所は、占拠しただけで、動きはない」
「そうか。俺が行こうか?」
「最終的には、蒼やハンターが出ていく必要があるだろうが・・・。天子湖一帯を戦場にする覚悟が必要だ。行政は許可が出せるか?」
桐元孔明の判断は正しい。
上位種の存在が疑われる状況だ。それも、オーガの上位種となると、スキルを持っている者でも、”死”を覚悟する必要がある。スキルを持たない者なら、自殺行為だと言っても問題ではない。
ギルドの要請があれば、行政は許可を出すだろう。
自衛隊の重火器の使用は、また別の話だ。許可が出るとは思えない。
「無理だな。自衛隊の標準装備でも難しいだろう。武装は無理だな」
火薬を使う武器の使用は許可されないだろう。
それこそ、攻撃性のスキルを持つ者が対応するしか無いが、日本では攻撃性のスキルを持っている者は、ハンターとして登録されていない。正確には、スキルは存在していて、取得している者も存在している。ただし、全員が自衛隊の隊員で、大きく広がった封鎖地域を巡回している状況だ。
「手が足りない」
榑谷円香が”ぼそっ”と呟くが、こんなに状況が重なるとは、想定の範囲外だ。
「円香さん。孔明さん」
資料を探していた、里見茜が、情報を移したタブレットを持ったままの状態で戻ってきた。
「こいつか?」
「スキル魔物化を調べた端末を使っていると思われる人物です」
里見茜はしっかりと訂正した。
まだ疑いであって確定ではない。それに、スキル魔物化は未発見のスキルだ。
「蒼。接触しようとするなよ?」
スキルの適用範囲がわからない上に、魔物から戻す方法もわからない。
対人戦で考えれば、最凶のスキルかもしれない。
「わかっている」
「本当だな。”振り”じゃないからな。どんなスキルなのか、効果だけでなく、範囲も解っていないからな。触れてなくても大丈夫だとしたら、最悪だ」
「そうだな」
榑谷円香は、資料を見ながら、気になったことを里見茜に問いただした。
「茜。この情報は?」
「ファントムが出た時期と重なっていたので、隔離しています」
「そうか、愚か者たちには渡っていないのだな?」
「絶対に・・・。とは、言えませんが、低い確率です。彼らが入手できているとは思えません」
「それならよかった。千明。マスコミ関連の確認は頼む。ギルドからの発表は、茜。文章の作成を頼む」
「はい」
「円香さん。何を発表しますか?」
榑谷円香は、少しだけ考えてから、ニヤリと笑った。
「そうだな。円香!」
「え?あっはい?」
「スキル魔物化の保持者は、ギルドに登録してきたか?ハンター登録は?」
「いません」
「それなら好都合。千明。”未知のスキルが使われた可能性がある”ことと、”スキルの使用者は特定されていない”ことを、問い合わせに答えてくれ」
「いいのですか?」
「あぁそれで、接触するような者が居たら、自業自得だ。茜!」
「彼の周りで、不審な行方不明が出ていないか調べます」
「頼む。魔物化でギルドが出来るのはこの程度か?」
榑谷円香が皆を見回す。
実際に、ギルドには逮捕権も無ければ、捜査権もない。魔物に対する権利を有しているだけだ。今回のように、人がスキルを使って、人を襲う可能性がある場合でも、出来ることは、なにもない。
「え?」
里見茜が、ギルドに来たメールを開いて、声を上げてしまった。
「茜?」
里見茜は、黙ってメールに添付されていた画像を、拡大して、皆に見えるようにした。
そこには、天子湖のキャンプ場と書かれた看板と一緒に、封鎖している自衛隊や警察官と消防車両が写されている。封鎖がうまく出来たことを物語っている。キャンプ場の状態も鮮明ではないが、画像から確認が出来る。
画像に見入っている理由は、画像に写された魔物たちだ。
オーガと呼ばれる魔物が3体。それ以外にも、ゴブリン種やオーク種が写されている。そして、角が生えた獣が十数体。
「蒼。お前が率いたチームで・・・」「無理だ。米軍でも呼ぶか?」
上村蒼は、榑谷円香の言葉を遮るようにして否定する言葉を紡いだ。桐元孔明は、二人のやり取りを見て肩をすくめるだけに留めたが、打つ手が無いのは同じなのだ。
そして、魔物たちの近くには、”元”人だと思われる物や、マスコミが使うと思われる機材が転がっている。
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