112 / 143
第四章 スライムとギルド
第三十三話 治療(5)
しおりを挟む桐元家は、マンションでした。真子さんが部屋に引き籠っていることや、孔明さんが帰ってきて寝るだけの部屋があれば十分なので、戸建てでは無いようです。
「円香。茜嬢。適当に座ってくれ、貴子嬢。さっそくだけど、頼めるか?」
私とライは、孔明さんについて行きます。
「真子」
ドアの前で、ノックをしてから、話しかけます。
部屋からの返事がない。真子さんが居るのは、ライの使っているスキルで解っている。真子さんとモモンガが居る。
「真子。今日は、お前を」「お兄ちゃん。もう・・・。いい。私の為に、お兄ちゃんが傷つかなくて・・・。私は、もう・・・」
真子さんの拒絶とも取れる発言に、孔明さんが慌てだします。
「真子!違う!話を、話を聞いてくれ!」
孔明さんが、ドアを叩きます。
逆効果です。真子さんは、話を聞いて欲しいだけだと思います。そして、孔明さんが無理をしていると思っているのです。
それに、真子さんの態度が気に入らない。違うかな?恵まれていると気が付いているのに、自分”だけ”が不幸だと思っている。
ドアを叩いている孔明さんの手を止めさせて、ドアのノブに手をかけていた。
「お姉ちゃん」
ライの声が聞こえましたが、身体が先に動いてしまいました。
「貴子嬢?」
孔明さんは驚いた表情をしていますが、私を止めないようです。
真子さんは確かに”不幸”でしょう。でも、それでもなんとかしようと無理をしてくれる”家族”がいるのです。何も出来ない。治らない可能性が高いと思えても、”家族”を蔑ろにするのは違います。
「孔明さん。私に話をさせてください」
ノブに手をかけて、回します。
やはり、鍵はかけられていません。真子さんは、自分が何を望んでいるのか解らなくなってしまっているのでしょう。
毎日の様に繰り返されている”大丈夫。俺が何とかする”この言葉は”呪い”になってしまっているのです。家族を信じたい。でも、その家族は疲れ切っている。家族だから解るのでしょう。
家族を無くしてしまった私には解る。新しい家族を迎えられた私だから、家族を求める気持ちも解る。
そして、身体を損傷して人間でなくなってしまった感覚に捕らわれているのでしょう。自分が、人として欠陥だと”呪い”のように思えてしまっている。価値なぞ、生きているだけで、側に居るだけで十分なのに、自分には価値がないと、家族の重荷になっているのだと、”呪い”にかかったように考えてしまっている。もしかしたら、誰かが囁いているのかもしれない。
「貴子嬢。何を」
ライが、孔明さんを抑えてくれます。
力だけなら、孔明さんの方が強いでしょう。
「ライ。結界をお願い。それから、一緒に来て」
ライは、私の言っている意味が解ったのでしょう。
「うん」
ライの結界が発動します。ライの分体が、私の肩に乗るのがわかります。結界の外に居るライは孔明さんを抑えています。
部屋は綺麗に片付いています。
ベッドの上に、女性が居ます。真子さんなのでしょう。布団で身体を隠しています。義足らしき物もありますが、使っている様子はありません。
モモンガが本能なのでしょうか?私たちを見て威嚇を始めます。
真子さんを守ろうとしています。これなら、大丈夫でしょう。
「初めまして、桐元真子さん。私は、松原貴子です。貴子と呼んでください」
まずは自己紹介です。
アニメで見た、スカートを摘まんで頭を下げる奴をやってみました。練習しておいてよかったです。
真子さんは、意味が解らないという表情をしていますが、その反応が見たかったので良かったです。
心は死んでいないようです。まだ、生きたいと思っているのでしょう。
「何?貴方は?」
「貴子です」
もう一度、名前を伝えます。
自己紹介をしたので、名前で呼んで欲しいと思っています。
「お兄ちゃん?!」
ドアには、ライに抑えられている孔明さんが居ます。
心配そうにしています。何かを言っていますが、声は聞こえません。
「無駄です。この部屋は結界で囲んでいます」
何もない所を叩いている孔明さんを呼びますが、無駄です。
向こうからの声が聞こえないように、こちらからの声も聞こえません。
「結界?」
真子さんくらいの年齢なら、アニメを見るでしょう。
結界と言えば、解ってくれると思っています。
「はい。外の音が聞こえないようにしています。中の音や声も外に漏れないようになっています」
簡単に説明をします。
真子さんは、”嘘”と小さく聞こえないくらいの声量で呟きますが、私には聞こえてしまいます。
「え?貴方は?」
まだ、私の名前を呼んでくれません。
悲しいです。
「貴子です。真子さん」
もう一度、名前で呼んで欲しいと伝えます。
「貴子さん?」
やっと、名前を呼んでくれました。
「そうです。真子さんの治療を、お兄さんの孔明さんに依頼されました」
やっと、本題を切り出せます。
「え?治療?無理・・・」
そう思われてもしょうがありません。
でも、見たところでは、治療は出来そうです。
「無理ではありません。必要なことは、真子さんの覚悟です」
必要なことを真子さんに伝えます。
方法は、あとで説明すればいいのですが、その前に”覚悟”が必要です。100%の成功率ではありません。
「覚悟?何?」
「はい」
そこで、ライが真子さんの前に移動します。
「スライム?」
逃げようとしますが、後ろは壁です。
「大丈夫です。ライは、私の家族です」
「家族?」
「そうです。真子さんにとっての孔明さんのような存在です」
「え?」
私は、スライムの姿に戻ります。
本来は、スライムなのです。
真子さんの驚愕が伝わってきます。そして、モモンガの警戒がマックス状態です。真子さんがいなければ襲ってきたことでしょう。今は、私と真子さんの間に入って、威嚇の状態です。
スライムから女子高校生の姿に戻ります。
話が出来ないですからね。
カミングアウトの時間です。
「私は、元人間の魔物です。高校生でしたが、いきなり魔物になってしまいました。元々家族は居なかったので、哀しんでくれる人も居ませんでした。一人で寝て、一人で起きて、一人で学校に通う普通の高校生でしたが、魔物にされて、日常生活も全てが壊れてしまいました」
真子さんが何を考えているのかわかります。自分よりも、”不幸”な人が居ると認めたくないのでしょう。だから、カミングアウトです。
「え?」
パニックになっているようです。
当然です。いきなり、初めて会う人がスライムになって、”元人間”ですと告白しているのです。訳が解らないと思います。その点だけは、謝罪しなければならないのでしょう。
「真子さん。スライムには、いろいろとスキルがあります」
「スキル?」
「スキルはご存じですよね?」
真子さんは頷いてくれます。
「説明を続けます。特定のスキルを得るのは難しいです。これは知っていますよね?」
真子さんの部屋には、スキルを得るための本が置かれています。
最初は、身体を治せるスキルがないか調べたのでしょう。でも、調べれば、調べるほど、絶望する情報しか出てこなかったはずです。私も同じです。ギルドが秘匿しているのか?国が秘匿しているのか?軍が秘匿しているのか?
スキルに関する情報は、想像以上に少ない現状があります。
「はい。身体を治せるスキルがあれば、お兄ちゃんに頼らなくても、ポーションも見つかっていなくて・・・」
「そうです。誰かが秘密にしているのかわかりません。それは、今は置いておきましょう。私は、魔物になってスキルを得ました」
「え?」
「私が、今から話す方法は、100%の保証がありません。いろいろ実験を行っていますが、それでも成功率は95%程度です。残り5%はどうなるかわかりません」
「・・・。治るの?私の身体が?」
「その為に、私とライが来ました」
「本当に?」
「はい。お二人の覚悟が聞きたいです。まずは、方法を説明します。そのうえで、お二人の覚悟を聞かせてください」
「二人?」
「はい。お二人です。ライ。お願い」
「うん!」
ライが、人間の姿に変ります。
外に居るライがスライムの姿に戻ります。
ライがモモンガに近づきます。
威嚇は続いていますが、ライに敵意がないことが解るのでしょう。徐々に治まってきます。
10
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる