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第二章 帰還勇者の事情
第十二話 記者会見.3
視線が集中する記者は、番号札を投げ捨てて、出口に向かう。
司会が、冷静に指摘する。
「○○新聞の飯島さま。先程の質問が終わっておりませんが?」
「ふざけるな!俺は、こんな茶番に付き合うのは、馬鹿らしいと思ったから、帰る!」
「そうですか、○○新聞は、お帰りになるということですね。ご自身がされた質問に対する真偽を確認しないで、一方的にこちらを・・・。生還者たちを悪者にした状態で退場されるのですね」
飯島と名乗った男は、一度だけ振り向いたが、そのまま会場から出ていった。
「質疑が途中になりましたが、何方か試されますか?」
司会が、周りを見るが、記者たちは誰も手を上げない。
腕を切り落としたり、脚を切り落としたり、大きく傷つけると脅されればだれでも躊躇するだろう。
「誰も居ないようでしたら・・・」
司会が、話を打ち切ろうとした時に、38番の札が上がる。
「38番の方」
「はい。ポーションの使い方の質問です」
「なんでしょうか?」
「資料には、ポーションは飲み薬のように書かれていますが、切断面の結合だと、傷口を合せて振りかけることになるのですか?その場合には、内臓疾患や薬物中毒への治療は出来ないのですか?また、連続使用は?」
司会が、意外な質問にユウキをみてしまった。
「私たちの経験上で、地球での効用が違う可能性がある場合があります」
「はい。それは、資料に書かれていました」
「切断面を合せた状態で、飲むことで、切断面が結合します。切断してからの時間に比例して結合するまでの時間が必要でした。内臓疾患や薬物中毒は、もうしわけない。検証してみないとわかりません。連続使用は、異世界では”無理”でした。1-2時間のクールタイムが必要でした」
「ありがとうございます。私が、ポーションを試してもいいのですが、前列の記者さんたちは、ご納得していただけますか?」
森田が、声を張り上げて、前列に座っている大手を下に見るような発言をする。
自分たちが手を上げない。それだけではなく、侮っていた子どもたちにも、馬鹿にされて、ネット配信やネット記事を主体にするメディアにさえも馬鹿にされる状況になっている。自分たちを先導したのは、出ていった飯島なのだが、それを言ってしまうと、大手で談合をしていますと言っているような物だ。暗黙の了解で成り立っている状況が完全に崩れてしまっている。
「はい。14番の方」
「(スペイン語)スペインの新聞社です。私も、ポーションに興味がある」
会場が静まり返る。
英語なら、多少はわかる者たちが多いのだが、スペイン語を話せるものは用意していない。
「それは、アナタもポーションを使ってみるのですか?」
「(スペイン語)そうだ。え?なぜ、言葉がわかる。重ねての質問だが、なぜ言葉がわかる?」
「そういうスキルだと思ってください。あっ録音された声を聞いても無駄ですよ。日本語に聞こえます」
「(スペイン語)それは・・・。(日本語)問題はない。俺は、日本語もわかる。録音を確認したいが、問題はないか?」
「えぇ大丈夫です」
指名された、14番の記者は、録音されたユウキの声を聞いた。
「(日本語)本当に、日本語だな」
「えぇそうですね。他の、人にも母国語に聞こえたはずです」
最前列の日本人だけが、意味がわからないような表情をしている。
「すまない。俺もポーションを試したい」
立ったまま、14番の記者はポーションを使用したいと宣言した。
「わかりました・・・。お二人に使ってもらいましょう。しかし、方法はどうしましょうか?」
「(英語)それなら、俺が二人の腕を斬りつける。それで、ポーションを飲めばいい。せっかくだから、1人は振り掛けて、1人は飲めばいい。どうだ?」
ユウキは、記者からの提案を受けて、頷いた。英語を話した記者は問題ではないようだ。
「38番と14番の記者が、ポーションを試していただきます」
司会が話を仕切るが予定になかったことだ。身体のどこかに、傷をつける行為になる。前列に座った記者たちが、なにか文句を言ってくることを、司会は警戒したのだが、何も言い出さない状況になっている。
「それでは、お二人にポーションをお渡しします」
司会が、ユウキから、二本のポーションを受け取った。
「38番。アナタは、どうしますか?」
「どうするとは?」
「飲みますか?かけますか?」
「俺は、飲みたいと思う」
「飲むほうが、リスクがありますが?」
「リスク?」
「体内に、わけのわからない物を入れるのですよ?リスクと感じませんか?」
森田は、少しだけ考えていたが、自分の考えは変わらない。後遺症が消えるのなら、多少のリスク位なら飲み込もうと思っていた。
「問題はない。俺が先に言い出したのだから、リスクをとる」
「わかりました。あっ!そうだ」
14番は、森田との話を打ち切って、司会を見る。
「なにか?」
「私たち二人の撮影ですが、私たちが決めた者たちだけにして欲しいと、要望を出します」
14番の突然の要望に、司会は顔を歪めるが、当然の権利だと思えた。
ユウキと森下を見るが、ユウキも森下も当然だという雰囲気を崩していない。問題があれば、横から口をはさむことになっていた
「わかりました」
「佐川だ。私は、研究者の立場から、お二人の実験に立ち会う。映像は、お二人から頂きたい。その後、軽く話を聞きたいが、いいか?」
森田は、問題はないと宣言した。14番は、低級ポーションの話を佐川から聞くことを条件に了承した。
英語を話していた記者が懐から、ペーパーナイフを取り出す。少しだけ刃が付いているペーパーナイフだと説明している。
撮影できる記者の選別は、森田と14番と佐川が行った。
選別が終了してから、場所を移動した。腕を斬りつける時に、血が出る可能性が高いためだ。
「(英語)それではいくぞ!」
英語を話す記者が、ペーパーナイフを使って、二人の腕を切りつける。
血が吹き出すが、二人は打ち合わせ通りに、ポーションを使った。記者たちに傷がしっかりと見えるようにしながらだ。自分たちが実験体になっているのを認識しての行動だ。森田は、ポーションを口に含んで一気に飲み込んだ。14番は傷口にポーションを振り掛けた。
効果は、すぐに現れた。
『おぉぉぉ』
見ていた者たちが、塞がっていく傷口を不思議な表情で眺めている。
傷口が塞がったのを見て、佐川が怒鳴った!
「動画は!」
記者たちが、撮影していた動画を確認する。
ペーパーナイフで傷つける所から、再生する。
「そこ!止めろ!」
森田の動画を見ていた、佐川が再生を止める。
「お?」
「少しだけ戻ってくれ」
「わかった」
一瞬だけ傷口が光っている。
「光っているな」
「光っていますね」
「(スペイン語)光ったな」
「(英語)光っている」
皆が、覗き込むようにして画面に喰い付いている。
「検証は後でもできる。まずは、二人の状態を確認しよう」
佐川が真面目な表情で、二人を見る。
二人は、傷跡を確認するが、問題はない。腕は深く傷ついたが、今では傷跡が嘘のように無くなっている。
「(頭がスッキリしている。靄が晴れた気分だ)」
森田は、自分を見ている視線に気がついて、振り返る。ユウキが、森田を見ていた。森田が振り返ったことを確認して、ユウキは微笑みを返した。ポーションを飲むまでは、どこか頭に”モヤ”がかかっていた部分が、スッキリと晴れている。後遺症もきれいに消えている。
「(スペイン語)おぉぉぉ。古傷が治っている!」
14番の大声で、森田たちは現実に引き戻される。
「どうした?」
「あぁ昔、戦場カメラマンをしていた時に、足に銃弾を受けて・・・。炎症を起こして、曲がらなかった膝が治っている」
そういって、14番は足を何度も折り曲げてみせる。
14番の告白を受けて、皆がことの成り行きを見ていたユウキを見つめる。
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