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【第1部】8.都合のいい女
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トモと連絡先を交換して以降、時々呼び出されるようになった。
酒を飲まない日は車だと言っていたが、店に来ない日は車でやってきた。たまに店に飲みに来たが、前よりは回数が減っていた。下心があってミヅキを指名していたのは本当のようだ。まんまと堕ちてしまったのは聡子だが。
それから、トモに呼び出されると、待ち合わせてホテルに赴く。
聡子から誘うことは一度もなかった。ほかの女性達は自分が誘っているのだろうか。以前出会った女性はトモを誘っていたが、呼び出したりするのだろうか。
聡子から「会いませんか」と告げることもなく、それよりも先にトモが連絡をしてくる。それ故に、ホテル代は全部トモが負担をしてくれた。
ある日、出そうとすると、
「誘ったのは俺だ、出さなくていい」
と言われた。
いつも出させて申し訳ないです、と言った時には、
「じゃ、その分楽しませてくれよ」
と冗談か本気かわからないことを言われ、言われるがまま素直に抱かれた。
「男は相手を好きでなくてもヤれんだよ」
聡子は男性と交際したことはないし、トモしか知らない。
世間からどのくらいズレているのかや、どういったことが一般的なのかわかりはしないが、自分の意思でトモの相手になっているということは間違いなく事実で真実だった。
ホテルのベッドの上で何度も抱かれることもあれば、トモの車の中で行為をすることも増えてきた。何度か経験しているうちに、聡子の反応がトモの満足する範囲に達したからのようだ。
トモは必ず避妊をした。
が、度々聡子に身体の調子を確認するようになっていた。
(妊娠してないか、ってことだよね)
「ゴムが破れたり……した覚えはねえけど、万が一のこともあるだろ。百パーセントじゃねえからな」
こっちの都合で呼び出してるし、とトモは言った。
ひと気のない場所に車を止め、行為を済ませたあと、定期的なその質問を今日もされたのだ。
「あの……避妊、しなかったことってあるんですか……」
「……なんでそんなこと訊く? 気になるか」
「いえ、別に、そういうわけではないんですけど。尋ねてくるくらいだから……と」
聡子は首を振った。訊いたところでどうしようもない。
「そこはきちんとしておく。本気じゃねえ女ならちゃんとしておくべきだ」
「ちゃんと……するんですね」
(つまり、わたしは本気の相手じゃないって言われてるんだ……知ってるけど)
現実を突きつけられているよう悲しくなった。
でもどうあがいても「現実」は「事実」だ。
自分は「好き」でトモの相手をするが、トモもまた「好き」で聡子を呼び出している。その「好き」は双方異なるのだが。
(だけど、わたしトモさんのこと……)
「切りたかったらいつでも切っていいぞ」
「えっ?」
「おまえが俺に飽きたなら、俺は構わねえ」
「…………」
(飽きることなんてないのに……)
「トモさんは飽きたんですか?」
トモは答えなかった。
「飽きてねえよ。おまえは俺の好み」
「!」
「の身体だしな、おまえと寝るのは気持ちがいいし。まあ、今のところさほど女には不自由してねえから、おまえが切りたいなら別にいい」
ズキリと胸が痛んだ。
「つーか、さっさと好きな男作れよ。おまえなら、寄ってくる男少なくねえだろ」
「いないです……」
「あの酒造会社の専務、おまえに気があんだろ」
「さあ……わたしは興味ないです」
自分を可愛いと言ってくれたことがあったが、それは内面ではなく外見で判断しているのだろう。と言っても自分では、高いレベルの女子だとは思わないし、平凡な会社員でしかない。
「だとしたら、周りの男は見る目ねえのかな」
「別に、トモさんみたいに身体だけで判断されても」
「はいはい。にしても暑くなってきたな……。これからは車の中じゃしんどくなるな」
季節は夏だ。
車のなかでことをしようとすると、最後は汗が止まらない。窓を開けるわけにもいかないしな、と彼は呟いた。
終わって涼んだあと、車を走らせ、駅まで送ってくれるのがパターンだ。
「じゃあな、また連絡する」
「はい」
ぽんぽんと頭を撫でて、聡子を車から降ろし、走り去って行った。
トモは前戯をしなかったり、軽い前戯でいきなり聡子を抱くことが多かった。先輩ホステス達の雑談によれば、好きでない相手には適当になるらしい。自分の恋人でも、自分本位な男もいた、と愚痴を言っていた。
(ふむふむ)
聡子を呼び出し、二人でホテルに行く。
店に来る日は酒を飲むが、店に入らなかった日は待ち伏せている。一応メッセージで予告はあるが、確認する時点ですでに待っているのだ。そのときは車で来ていた。
何度も激しく抱く時もあれば、一回で終わることもある。トモの機嫌によりけりだった。聡子は遊び相手だとわかっていても、断ることはない。
そのうち、トモの機嫌がわかるようになっていた。
イヤだとは言えないし、嫌だとは思わないが、トモの言いなり同然だった。それでも、聡子はトモと一緒にいられるのが嬉しかった。
酒を飲まない日は車だと言っていたが、店に来ない日は車でやってきた。たまに店に飲みに来たが、前よりは回数が減っていた。下心があってミヅキを指名していたのは本当のようだ。まんまと堕ちてしまったのは聡子だが。
それから、トモに呼び出されると、待ち合わせてホテルに赴く。
聡子から誘うことは一度もなかった。ほかの女性達は自分が誘っているのだろうか。以前出会った女性はトモを誘っていたが、呼び出したりするのだろうか。
聡子から「会いませんか」と告げることもなく、それよりも先にトモが連絡をしてくる。それ故に、ホテル代は全部トモが負担をしてくれた。
ある日、出そうとすると、
「誘ったのは俺だ、出さなくていい」
と言われた。
いつも出させて申し訳ないです、と言った時には、
「じゃ、その分楽しませてくれよ」
と冗談か本気かわからないことを言われ、言われるがまま素直に抱かれた。
「男は相手を好きでなくてもヤれんだよ」
聡子は男性と交際したことはないし、トモしか知らない。
世間からどのくらいズレているのかや、どういったことが一般的なのかわかりはしないが、自分の意思でトモの相手になっているということは間違いなく事実で真実だった。
ホテルのベッドの上で何度も抱かれることもあれば、トモの車の中で行為をすることも増えてきた。何度か経験しているうちに、聡子の反応がトモの満足する範囲に達したからのようだ。
トモは必ず避妊をした。
が、度々聡子に身体の調子を確認するようになっていた。
(妊娠してないか、ってことだよね)
「ゴムが破れたり……した覚えはねえけど、万が一のこともあるだろ。百パーセントじゃねえからな」
こっちの都合で呼び出してるし、とトモは言った。
ひと気のない場所に車を止め、行為を済ませたあと、定期的なその質問を今日もされたのだ。
「あの……避妊、しなかったことってあるんですか……」
「……なんでそんなこと訊く? 気になるか」
「いえ、別に、そういうわけではないんですけど。尋ねてくるくらいだから……と」
聡子は首を振った。訊いたところでどうしようもない。
「そこはきちんとしておく。本気じゃねえ女ならちゃんとしておくべきだ」
「ちゃんと……するんですね」
(つまり、わたしは本気の相手じゃないって言われてるんだ……知ってるけど)
現実を突きつけられているよう悲しくなった。
でもどうあがいても「現実」は「事実」だ。
自分は「好き」でトモの相手をするが、トモもまた「好き」で聡子を呼び出している。その「好き」は双方異なるのだが。
(だけど、わたしトモさんのこと……)
「切りたかったらいつでも切っていいぞ」
「えっ?」
「おまえが俺に飽きたなら、俺は構わねえ」
「…………」
(飽きることなんてないのに……)
「トモさんは飽きたんですか?」
トモは答えなかった。
「飽きてねえよ。おまえは俺の好み」
「!」
「の身体だしな、おまえと寝るのは気持ちがいいし。まあ、今のところさほど女には不自由してねえから、おまえが切りたいなら別にいい」
ズキリと胸が痛んだ。
「つーか、さっさと好きな男作れよ。おまえなら、寄ってくる男少なくねえだろ」
「いないです……」
「あの酒造会社の専務、おまえに気があんだろ」
「さあ……わたしは興味ないです」
自分を可愛いと言ってくれたことがあったが、それは内面ではなく外見で判断しているのだろう。と言っても自分では、高いレベルの女子だとは思わないし、平凡な会社員でしかない。
「だとしたら、周りの男は見る目ねえのかな」
「別に、トモさんみたいに身体だけで判断されても」
「はいはい。にしても暑くなってきたな……。これからは車の中じゃしんどくなるな」
季節は夏だ。
車のなかでことをしようとすると、最後は汗が止まらない。窓を開けるわけにもいかないしな、と彼は呟いた。
終わって涼んだあと、車を走らせ、駅まで送ってくれるのがパターンだ。
「じゃあな、また連絡する」
「はい」
ぽんぽんと頭を撫でて、聡子を車から降ろし、走り去って行った。
トモは前戯をしなかったり、軽い前戯でいきなり聡子を抱くことが多かった。先輩ホステス達の雑談によれば、好きでない相手には適当になるらしい。自分の恋人でも、自分本位な男もいた、と愚痴を言っていた。
(ふむふむ)
聡子を呼び出し、二人でホテルに行く。
店に来る日は酒を飲むが、店に入らなかった日は待ち伏せている。一応メッセージで予告はあるが、確認する時点ですでに待っているのだ。そのときは車で来ていた。
何度も激しく抱く時もあれば、一回で終わることもある。トモの機嫌によりけりだった。聡子は遊び相手だとわかっていても、断ることはない。
そのうち、トモの機嫌がわかるようになっていた。
イヤだとは言えないし、嫌だとは思わないが、トモの言いなり同然だった。それでも、聡子はトモと一緒にいられるのが嬉しかった。
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