大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
49 / 222
【第1部】9.金平糖

しおりを挟む
 しばらくトモの来店も呼び出しもない日が続いた。
 そうすると、レイナがまた聡子を冷やかすのだ。特に彼女は聡子を妹のように可愛がってくれる先輩だ。
「来店ないと寂しいね」
「……べ、別に。わたしはあくまでも補助要員なので」
「ミヅキを指名するのは、川村専務とあの人だけだもんね」
「…………」
 レイナは聡子の恋路に敏感だ。恋バナが本当に好きらしい。レイナこそ、美人なのだから恋愛をしていそうなものなのに。本人には言えないが。
「もう、可愛いなあ、ミヅキは」
 レイナはぎゅっと聡子を抱きしめる。
「ちょっ」
「ほんと、わたしが男だったら絶対ミヅキを好きになるわ」
「いやいやいや……」
 聡子は理解できずにいた。
「あっ、そうだレイナさん」
「ん? なあに?」
 トモに訊きたくても訊けないことがあったが、レイナなら知っているかもしれないなと思った。
「質問、いいですか?」
「いいよ?」
「ここのお店、神崎会長がオーナーだって、おっしゃってましたよね」
「うん、そうだね。会社の会長で、社長は甥っ子さんだってきいたわよ。その会社の飲食事業部なんだって。ほかにも飲食店の経営はされてるそうよ」
 結構手広く事業をされているのだと初めて知る。やはりレイナは知っていたようだ。自分が知らないだけなのかもしれないが。
「神崎会長は、組長、ってことですか?」
「ん?」
「神崎組、の」
「え?」
「え」
 レイナは真顔で固まっている。
「誰がそんなこと言ったの? あの人?」
「えっ、違います」
 あの人、というのはトモのことを指しているようだ。
「いえ、あの人には何も訊けないので……」
「そうなの?」
 はい、と聡子は頷いた。
「神崎会長は、堅気の方だよ。昔からずっと。詳しいことはわたしもわからないけど、一代で事業を興されてここまで来られたそうよ。神崎組とは、うーん、同じ名前だし、つながりは何かしらあったんだとは思うけど、会長にやましいことは何一つないわ。ママは事情をご存じだとは思うけど、話す必要がないことは話さないし、必要があればわたしたちに話して下さるから」
「そうなんですね」
「ママが組長の愛人か何かだと思った?」
「そんなことは全く思ってません!」
「勘違いした子もいたから、ミヅキもそうなのかなって」
「そこまで及んでませんでした……」
「あの人がヤクザなのか気になったの?」
 ミヅキは小さく笑い、聡子の顔を覗き込んだ。
「いえ、そういうわけでは……。でも、あの人はヤクザだなって思ったので」
「そっか。ヤクザなの?」
「高校生の頃、あの人と連れの人がバイト先のファミレスに来たことがあって」
 そんな頃からの知り合いなの、とレイナは驚いていた。
 立ち回った時のエピソードを話すと、レイナは笑いもしたが、驚きのほうが大きかったようで、聡子の勇ましさに口をあんぐり開けた。
「つよ」
「恥ずかしいエピソードです……」
「うーん、となると、あの人は元ヤクザなのかな。今は会長の部下みたいだし、会長は堅気だから、今は堅気だと思うよ」
「そうですか……」
「気になる?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。情報がとっ散らかってて」
 そっか、と彼女は頷いた。
(バイト先に来た時は『神崎組の』って金髪が言ってた。刺青もしてたし。でもトモさんの身体のどこにも刺青はなかったし。あの日『会長にも若にも迷惑がかかる』って言ってたような気がする。トモさんが怪我をした時は抗争だと思ってた。んー……もう三年近く前の話だから忘れちゃったし……)
 レイナの言葉を信用することにした。
「ちょっとすっきりしました」
「何か情報が更新されたら、ミヅキに流してあげる」
「ありがとうございます」
「だ、か、ら。ミヅキの恋も更新されたら教えてね」
「更新なんてないです! 別にあの人とは!」
「あの人? わたしは『あの人』との恋とは言ってないよ? 川村さんのつもりだったんだけどなあ」
 もうっ、と聡子は頬を膨らませた。
「ほんっと、可愛いんだから」
 レイナは聡子を再び抱きしめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...