大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
55 / 222
【第1部】11.泥酔

しおりを挟む
 トモは店にぱったり来なくなった。彼からの呼び出しもない。
 反対に、川村光輝はまた毎週通ってくるようになった。
 正直相手をする気力はなかったし、会いたくもなかった。よくのこのこ顔を出せるな、と呆れてしまう。
「ミヅキちゃん、あの時はごめん」
「…………」
 聡子は川村を厳重警戒している。警戒するなというほうが無理な話だ。
 営業用スマイルも出し惜しみをしつつ、川村の指名を受けた。ここまで悪態をつけば、もう二度と来ないだろう。
 傷心の聡子に、川村の存在は鬱陶しいだけだった。
「ミヅキちゃん、本当にごめん……許してもらおうなんて思ってないけど、僕は」
「許してもらおうなんて思ってないなら、もう来ないでいただけますか。迷惑です」
「……ごめん」
 聡子は口を真一文字に結び、川村の好きな酒を入れてやった。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
 相手に嫌われたとは思わないのだろうか。よく店に来ることができるものだ。神経が図太いのだろうか。
 聡子は目を合わせず、無言で川村の手元に視線を落とした。
「わたしを指名するのはやめていただけますか。迷惑です」
 ママに、川村の指名を受けたくないを相談することは出来るが、理由を話さなければいけなくなるだろう。自分の不注意や緩みが原因だと言われてしまえば、弁解の余地もなくなってしまう。
「ミヅキちゃん、俺、ほんとにほんとに本気なんだ……。申し訳ないことをしたって、反省してる。でもそれくらい君のことを手に入れたかったし、今も欲しいと思ってる」
「……さっき、わたしが言ったこと、理解できなかったんですか」
「え?」
「迷惑です、って」
「……」
 顔を上げ、川村を睨んだ。
 川村は眉を八の字にし、申し訳なさそうな表情だ。
(信じられない)
 川村のグラスを手にし、聡子はぐいっと飲んだ。
「あっ」
「……こんなの」
 ぐび、ぐび、ぐび、とそれを飲み干した。
「ミヅキちゃん……?」
「これ、付けてくださいね?」
「え、あ、う、うん……いいよ、飲んで」
 ボトルを取ると、グラスに注ぐ。
 かと思いきや、それをまた口に運んだ。
「ミヅキちゃん、一気に飲んだら危ないよ」
「うるさい!」
 川村に止められたが、聡子は拒絶した。
 視界がぐるぐるし出したが、グラスに注ぐのは止めなかった。何度か繰り返しているうちに、グラスを持つ手が震えるように不安定になっていく。
「……トモさん……会いたい……」
 ──その後の記憶はなくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...