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【第1部】12.目撃
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聡子は再び、三度目の川村とデートに出かけることにした。
レイナの勧めもあって、気晴らしに男性と出かけたほうがいいと言われたのだ。
川村は嬉しそうだったが、聡子はやはりドキドキした感情はない。
だがレイナの言うとおり、トモのことは時間が経てば忘れるだろうけれど、まずは忘れなければいけないと感じたのだ。
今日は酒造カフェではなく、川村が好きだというスイーツの店に連れ出してくれた。
「スイーツがお好きなんですね」
「うん、甘い物、結構好きなんだよ。ミヅキちゃんは、好きじゃなかった?」
「いえ、好きですよ」
「よかった」
午後から待ち合わせをしての外出だ。時間制のバイキング形式のスイーツ店で、90分で好きなものを好きなだけ食べていいという。予約が取れたのがこの時間だった、と川村は言った。
川村は美味しそうにたくさんのスイーツを皿に乗せ、幸せそうに頬張っている。二口で食べられそうなサイズのもばかりだが、川村は一口で食べてしまっている。
初めて見る表情に、微笑ましくなり、思わず笑ってしまう。聡子は無理矢理笑顔を作ろうと試みるが、嘘の笑顔は長く続かないと気付いた。川村の一挙手一投足になぜか癒やされてしまう。
「いえ、いいと思いますよ。好きなだけ食べられるんですから」
聡子はというと、好きなチーズケーキを何種類か取り、オレンジジュースを飲む。
「美味しい……」
「どれ? ミヅキちゃんはどれ選んだの? ストロベリーチーズケーキ? 俺も取ってこよっと」
ニコニコしながら彼は立ち上がった。
純粋に楽しんでいるのもあるだろうが、聡子を楽しませようと努めてくれているのだろうか。聡子とは対照的に、今日は笑顔が多い気がする。
「取ってきたー」
「……随分たくさん選んで来られたんですね」
皿を見て、目を丸くさせる。もりもり乗せられているのだ。
「食べることがお好きなんですね」
「うん、まあ嫌いじゃないよ。仕事柄もあるけど。うちのお酒に合うスイーツは何か、とか、合うつまみを考えてみたり。売ったら売りっぱなしってわけにはいかないからさ」
「……なるほど」
トモも食べることが好きだと言っていたが、タイプが全く違う。トモは単純に、性欲食欲が旺盛だったのだろう。川村は、単純に好きだが、仕事にもつなげているようだ。
「ちょっとは見直してくれた?」
川村はにっと笑ってみせる。
「見直すにも何も……川村さんは初めから素敵ですよ」
「え」
正直に伝えすぎたようで、川村の手が止まる。
「あっ、すみません」
みるみるうちに顔が赤くなっていく、川村の顔が。
「ミヅキちゃんは正直な子だとは思ってたんだけど、じゃあ、これも嘘じゃないと思っていいかな」
「嘘は言いませんよ」
言った自分は少しだけ恥ずかしくなる。正直に言いすぎてはだめなこともあるのだ、店の接客で覚えた。受け流してくれない相手がいるのだから。
「ありがとう」
「いえ……」
「そういうところも好きなんだよな……」
ぼそり、と川村が言ったが聡子の耳には聞こえなかった。
ケーキにありつく聡子を、赤い顔の川村がちらりと見た。
レイナの勧めもあって、気晴らしに男性と出かけたほうがいいと言われたのだ。
川村は嬉しそうだったが、聡子はやはりドキドキした感情はない。
だがレイナの言うとおり、トモのことは時間が経てば忘れるだろうけれど、まずは忘れなければいけないと感じたのだ。
今日は酒造カフェではなく、川村が好きだというスイーツの店に連れ出してくれた。
「スイーツがお好きなんですね」
「うん、甘い物、結構好きなんだよ。ミヅキちゃんは、好きじゃなかった?」
「いえ、好きですよ」
「よかった」
午後から待ち合わせをしての外出だ。時間制のバイキング形式のスイーツ店で、90分で好きなものを好きなだけ食べていいという。予約が取れたのがこの時間だった、と川村は言った。
川村は美味しそうにたくさんのスイーツを皿に乗せ、幸せそうに頬張っている。二口で食べられそうなサイズのもばかりだが、川村は一口で食べてしまっている。
初めて見る表情に、微笑ましくなり、思わず笑ってしまう。聡子は無理矢理笑顔を作ろうと試みるが、嘘の笑顔は長く続かないと気付いた。川村の一挙手一投足になぜか癒やされてしまう。
「いえ、いいと思いますよ。好きなだけ食べられるんですから」
聡子はというと、好きなチーズケーキを何種類か取り、オレンジジュースを飲む。
「美味しい……」
「どれ? ミヅキちゃんはどれ選んだの? ストロベリーチーズケーキ? 俺も取ってこよっと」
ニコニコしながら彼は立ち上がった。
純粋に楽しんでいるのもあるだろうが、聡子を楽しませようと努めてくれているのだろうか。聡子とは対照的に、今日は笑顔が多い気がする。
「取ってきたー」
「……随分たくさん選んで来られたんですね」
皿を見て、目を丸くさせる。もりもり乗せられているのだ。
「食べることがお好きなんですね」
「うん、まあ嫌いじゃないよ。仕事柄もあるけど。うちのお酒に合うスイーツは何か、とか、合うつまみを考えてみたり。売ったら売りっぱなしってわけにはいかないからさ」
「……なるほど」
トモも食べることが好きだと言っていたが、タイプが全く違う。トモは単純に、性欲食欲が旺盛だったのだろう。川村は、単純に好きだが、仕事にもつなげているようだ。
「ちょっとは見直してくれた?」
川村はにっと笑ってみせる。
「見直すにも何も……川村さんは初めから素敵ですよ」
「え」
正直に伝えすぎたようで、川村の手が止まる。
「あっ、すみません」
みるみるうちに顔が赤くなっていく、川村の顔が。
「ミヅキちゃんは正直な子だとは思ってたんだけど、じゃあ、これも嘘じゃないと思っていいかな」
「嘘は言いませんよ」
言った自分は少しだけ恥ずかしくなる。正直に言いすぎてはだめなこともあるのだ、店の接客で覚えた。受け流してくれない相手がいるのだから。
「ありがとう」
「いえ……」
「そういうところも好きなんだよな……」
ぼそり、と川村が言ったが聡子の耳には聞こえなかった。
ケーキにありつく聡子を、赤い顔の川村がちらりと見た。
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