大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
上 下
60 / 198
【第1部】12.目撃

しおりを挟む
 聡子は再び、三度目の川村とデートに出かけることにした。
 レイナの勧めもあって、気晴らしに男性と出かけたほうがいいと言われたのだ。
 川村は嬉しそうだったが、聡子はやはりドキドキした感情はない。
 だがレイナの言うとおり、トモのことは時間が経てば忘れるだろうけれど、まずは忘れなければいけないと感じたのだ。
 今日は酒造カフェではなく、川村が好きだというスイーツの店に連れ出してくれた。
「スイーツがお好きなんですね」
「うん、甘い物、結構好きなんだよ。ミヅキちゃんは、好きじゃなかった?」
「いえ、好きですよ」
「よかった」
 午後から待ち合わせをしての外出だ。時間制のバイキング形式のスイーツ店で、90分で好きなものを好きなだけ食べていいという。予約が取れたのがこの時間だった、と川村は言った。
 川村は美味しそうにたくさんのスイーツを皿に乗せ、幸せそうに頬張っている。二口で食べられそうなサイズのもばかりだが、川村は一口で食べてしまっている。
 初めて見る表情に、微笑ましくなり、思わず笑ってしまう。聡子は無理矢理笑顔を作ろうと試みるが、嘘の笑顔は長く続かないと気付いた。川村の一挙手一投足になぜか癒やされてしまう。
「いえ、いいと思いますよ。好きなだけ食べられるんですから」
 聡子はというと、好きなチーズケーキを何種類か取り、オレンジジュースを飲む。
「美味しい……」
「どれ? ミヅキちゃんはどれ選んだの? ストロベリーチーズケーキ? 俺も取ってこよっと」
 ニコニコしながら彼は立ち上がった。
 純粋に楽しんでいるのもあるだろうが、聡子を楽しませようと努めてくれているのだろうか。聡子とは対照的に、今日は笑顔が多い気がする。
「取ってきたー」
「……随分たくさん選んで来られたんですね」
 皿を見て、目を丸くさせる。もりもり乗せられているのだ。
「食べることがお好きなんですね」
「うん、まあ嫌いじゃないよ。仕事柄もあるけど。うちのお酒に合うスイーツは何か、とか、合うつまみを考えてみたり。売ったら売りっぱなしってわけにはいかないからさ」
「……なるほど」
 トモも食べることが好きだと言っていたが、タイプが全く違う。トモは単純に、性欲食欲が旺盛だったのだろう。川村は、単純に好きだが、仕事にもつなげているようだ。
「ちょっとは見直してくれた?」
 川村はにっと笑ってみせる。
「見直すにも何も……川村さんは初めから素敵ですよ」
「え」
 正直に伝えすぎたようで、川村の手が止まる。
「あっ、すみません」
 みるみるうちに顔が赤くなっていく、川村の顔が。
「ミヅキちゃんは正直な子だとは思ってたんだけど、じゃあ、これも嘘じゃないと思っていいかな」
「嘘は言いませんよ」
 言った自分は少しだけ恥ずかしくなる。正直に言いすぎてはだめなこともあるのだ、店の接客で覚えた。受け流してくれない相手がいるのだから。
「ありがとう」
「いえ……」
「そういうところも好きなんだよな……」
 ぼそり、と川村が言ったが聡子の耳には聞こえなかった。
 ケーキにありつく聡子を、赤い顔の川村がちらりと見た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢に転生しただけで、どうしてこんなことに?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:575pt お気に入り:330

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,783pt お気に入り:1,964

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:3,276

群生の花

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,566pt お気に入り:2,188

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,468pt お気に入り:16,126

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,416pt お気に入り:24,902

処理中です...