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【第1部】14.条件
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***
二人は並んで歩いていた。
昼間はとても暑いが、夜は少しだけましになった気がしている。
「わたしだけの人になったら、トモさんは、ほかの女の人とできなくなりますよ」
「いい。おまえだけがいい」
「三ヶ月の我慢、のつもりでしょうけど。三ヶ月我慢したらヤれる、みたいな」
「おまえ、それずっと言うだろ」
「さっき、三ヶ月もしなかったことなんてない、って言ってましたよね」
「言ったけど! 我慢したら、ヤらしてくれんだろ」
「……」
聡子はその台詞にトモを睨む。
「そんなにしたかったら、ほかの人とっかえひっかえで毎日するほうが満足なんじゃないですか」
「……嫌だ」
「トモさん、大きな胸の女性が好きでしょう」
「おまえがいい」
「わたし、大きくない」
「いいよ。つーか、おまえは結構でかいほうだ」
「何回も言いますけど、寝たいだけなら、適任の人、いっぱいいるんじゃないですか」
聡子が少し怒っていることに気づき、どうしたらいいかわからないでいた。
先程、公園の暗がりで、彼女が許してくれたと思って胸に触れた。それは駄目だと言いたかったらしいが、自分のほうが早かったらしい。
「ごめん……」
と、立ち止まって謝った。
少し先に進んでしまった聡子は振り向き、同じように立ち止まる。
「俺は本気だ。さっきは、バカなことしたけど……それくらい、おまえに会いたかったし、触れたかった。抱いてる女が自分に惚れてくれてるってのは……幸せなことなんだなってわかった。気持ちいいとかそういうことじゃなくて、まっすぐおまえが俺を見てくれてるってのが嬉しいっていうか、なんて言ったらいいんだろうな……」
「……信じて、いいんですか?」
「あ、ああ……」
聡子はトモの手をひいた。
(カズにけしかけられた気がするな……)
「なあ、三ヶ月経ったら、更新してくれよ?」
***
「おまえの名前、なんて言うんだ? さとこ。だったよな? 前、ID交換したとき、名前がそうなってたよな。ミヅキって源氏名だろ? 苗字は、確か月岡? だっけな」
「よく覚えてらっしゃいますね」
「おう、ファミレスで働いてた時に名札あったからな?」
よく覚えてるなあと聡子は感心する。
「下は? どういう字だ?」
「聡明の『聡』に子供の『子』、です」
「ソウメイ? どういう字かわかんねえな」
「聡いって字です」
「わりい、俺高校中退だからわかんねえ」
「それって関係あります?」
「俺、勉強嫌いなの」
聡子が「聡」の字を説明すると、トモは納得した。
「ああー、サトルかあ」
「賢い子って意味だそうです。そんなかしこくないですけど」
「いーや、おまえは賢いよ」
聡子か……いい名前だな、とトモ。
「源氏名、苗字が月岡だから、最初は月子にしてもらおうと思ったんですけど、安直だってママに言われて。ナンバーワンの姉さんに、美しい月で、ミヅキはどうよって」
「そっか……」
「トモさん……確か、影山さんでしたよね……お名前、なんておっしゃるんですか?」
「俺か? 智幸だよ。知るの下に日、幸せ。そんで智幸」
「素敵なお名前ですね」
「おまえほどでもねえけどな。そういえば」
苗字で呼ぶのはやめろ、と聡子は言われ困惑した。
「かっこいい苗字なのに」
「俳優とかにいそうだろ。ツラ見てがっかりされるのがオチだからな。トモ、でいい」
「そんな……年上の方を呼び捨てにするなんて」
「俺の女だろ、別にそれくらい」
「そんなの……トモさんの遊び相手の女の人と一緒みたいでイヤです」
結構根に持つんだな、とトモは苦笑する。
「気の強い女は嫌いじゃねえし」
「じゃあ、トモくん?」
「キモすぎ」
「んー……」
困ったなあ、と聡子は悩む。
「トモちゃんは? ダメですか?」
「ちゃんづけかよっ……、まあいいか。ちゃんづけするヤツは、オカマバーのママくらいか」
みんな呼び捨てだし、年下の同居人たちが「トモさん」と言うくらいだ、と彼は言った。
「なら……智幸さんて呼びますね」
「えー……堅苦しいな」
「影山さん?」
「それはやめろって言ってんだろ。それなら名前にさんづけ、のほうがいいか」
「智幸さんでいきます」
「敬語も辞めろ」
「すぐは無理ですよ……」
「ちょっとずつ慣れてけ」
「はい」
二人は並んで歩いていた。
昼間はとても暑いが、夜は少しだけましになった気がしている。
「わたしだけの人になったら、トモさんは、ほかの女の人とできなくなりますよ」
「いい。おまえだけがいい」
「三ヶ月の我慢、のつもりでしょうけど。三ヶ月我慢したらヤれる、みたいな」
「おまえ、それずっと言うだろ」
「さっき、三ヶ月もしなかったことなんてない、って言ってましたよね」
「言ったけど! 我慢したら、ヤらしてくれんだろ」
「……」
聡子はその台詞にトモを睨む。
「そんなにしたかったら、ほかの人とっかえひっかえで毎日するほうが満足なんじゃないですか」
「……嫌だ」
「トモさん、大きな胸の女性が好きでしょう」
「おまえがいい」
「わたし、大きくない」
「いいよ。つーか、おまえは結構でかいほうだ」
「何回も言いますけど、寝たいだけなら、適任の人、いっぱいいるんじゃないですか」
聡子が少し怒っていることに気づき、どうしたらいいかわからないでいた。
先程、公園の暗がりで、彼女が許してくれたと思って胸に触れた。それは駄目だと言いたかったらしいが、自分のほうが早かったらしい。
「ごめん……」
と、立ち止まって謝った。
少し先に進んでしまった聡子は振り向き、同じように立ち止まる。
「俺は本気だ。さっきは、バカなことしたけど……それくらい、おまえに会いたかったし、触れたかった。抱いてる女が自分に惚れてくれてるってのは……幸せなことなんだなってわかった。気持ちいいとかそういうことじゃなくて、まっすぐおまえが俺を見てくれてるってのが嬉しいっていうか、なんて言ったらいいんだろうな……」
「……信じて、いいんですか?」
「あ、ああ……」
聡子はトモの手をひいた。
(カズにけしかけられた気がするな……)
「なあ、三ヶ月経ったら、更新してくれよ?」
***
「おまえの名前、なんて言うんだ? さとこ。だったよな? 前、ID交換したとき、名前がそうなってたよな。ミヅキって源氏名だろ? 苗字は、確か月岡? だっけな」
「よく覚えてらっしゃいますね」
「おう、ファミレスで働いてた時に名札あったからな?」
よく覚えてるなあと聡子は感心する。
「下は? どういう字だ?」
「聡明の『聡』に子供の『子』、です」
「ソウメイ? どういう字かわかんねえな」
「聡いって字です」
「わりい、俺高校中退だからわかんねえ」
「それって関係あります?」
「俺、勉強嫌いなの」
聡子が「聡」の字を説明すると、トモは納得した。
「ああー、サトルかあ」
「賢い子って意味だそうです。そんなかしこくないですけど」
「いーや、おまえは賢いよ」
聡子か……いい名前だな、とトモ。
「源氏名、苗字が月岡だから、最初は月子にしてもらおうと思ったんですけど、安直だってママに言われて。ナンバーワンの姉さんに、美しい月で、ミヅキはどうよって」
「そっか……」
「トモさん……確か、影山さんでしたよね……お名前、なんておっしゃるんですか?」
「俺か? 智幸だよ。知るの下に日、幸せ。そんで智幸」
「素敵なお名前ですね」
「おまえほどでもねえけどな。そういえば」
苗字で呼ぶのはやめろ、と聡子は言われ困惑した。
「かっこいい苗字なのに」
「俳優とかにいそうだろ。ツラ見てがっかりされるのがオチだからな。トモ、でいい」
「そんな……年上の方を呼び捨てにするなんて」
「俺の女だろ、別にそれくらい」
「そんなの……トモさんの遊び相手の女の人と一緒みたいでイヤです」
結構根に持つんだな、とトモは苦笑する。
「気の強い女は嫌いじゃねえし」
「じゃあ、トモくん?」
「キモすぎ」
「んー……」
困ったなあ、と聡子は悩む。
「トモちゃんは? ダメですか?」
「ちゃんづけかよっ……、まあいいか。ちゃんづけするヤツは、オカマバーのママくらいか」
みんな呼び捨てだし、年下の同居人たちが「トモさん」と言うくらいだ、と彼は言った。
「なら……智幸さんて呼びますね」
「えー……堅苦しいな」
「影山さん?」
「それはやめろって言ってんだろ。それなら名前にさんづけ、のほうがいいか」
「智幸さんでいきます」
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「すぐは無理ですよ……」
「ちょっとずつ慣れてけ」
「はい」
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