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【第2部】17.プレゼント
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(よし、プレゼントは用意した。今日は……甘やかす、イチャイチャする)
カズのアドバイスを素直に受け、聡子のアパートに向かう。自分の勤める飲食店のケーキも購入した。聡子はチーズケーキが好きだというのは覚えていたので、それを選んだ。
オーナー兼店長の妻自作のケーキだ。パティシエールの彼女に、こっそり「チーズケーキを二つキープお願いします」と頼んでおいた。できれば他のバイトたちにはバレないようにしたかったからだ。バイトの男子学生たちは、恋愛毎にうるさい。
今から行く、とメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
足早に向かい、ドアを開けてもらうと、すぐに部屋に上がった。
「智幸さん、お疲れ様です」
彼女はいつもそう声をかけて労ってくれる。
「聡子、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。嬉しいです。朝メッセージもいただいたのに」
「それはそれ、これはこれ。直接言いたいんだよ。これ、ケーキ買ってきた。夜遅いから、明日にでも」
買ってきたチーズケーキの入った箱を手渡す。彼女は受け取ると、
「智幸さんがいいなら、今から一緒にいただきませんか? せっかく準備してくれたんですし、今日いただかないと」
上目遣いでそう言った。
そのあざとい仕草に、どぎまぎする。
彼女がそんなあざとさのある仕草をするとは思わなかった。おそらく無意識だとは思ったが。
「お茶、入れますね」
「ああ。でもいいのか? 太るって言ってたし」
「今日は特別です。さあさあ、寒かったでしょう、暖まってくださいね」
「ありがと」
手をこすり合わせ、ローテーブルの前にいつものように座った。
トレーに、緑茶と皿に移し替えたチーズケーキを乗せて聡子が席に着いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それぞれの前に用意をすると、トモが改めて言う。
「改めて。誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
「ケーキだけでごめん」
「充分ですよ!」
いただきましょうか、と聡子の合図に二人は合掌し、ケーキを口に運んだ。
「んっ、美味しい!」
「美味いだろ!? 俺の働いてる店のケーキだ」
「そうなんですか! 濃厚で美味しいですっ」
「今度店に来いよ」
「是非!」
彼女は嬉しそうに食べている。
その顔を見て、トモも嬉しくなった。
好きな女と一緒に美味しいものを食べて、美味しいと言い合える。これも今までに経験をしたことのないことだ。そしてそれがささやかな幸せだということも。
買って良かった。
太るから後でいただきます、そう言われるかと思っていたのに。
「甘いもの食べても、罪悪感より幸福感のほうがおっきいですね」
「そうか、それなら、よかった」
こうしてみると、聡子は年相応の女の子なのだろうと思う。
自分よりも十も若い二十二歳だ。
なのに自分のほうが知らないことが多い。
一緒にいる彼女が教えてくれる。それも幸せだ。
……嬉しそうに食べる彼女が愛おしいかった。
ケーキを食べ終えると、他愛ない話をした。
二年前、一緒にファミレスでケーキを食べた話。でもその時は、ただのホステスと客だったなあという話。この二年の間にこんなふうに笑ってケーキを食べることになるなんて、と聡子は言う。
「特別になりたくてもなれませんでしたから」
「悪かったよ」
「どういう心境の変化だったんでしょうねえ」
「おまえを気に入った」
「身体が気に入ったんでしたよね」
「最初はな。俺がおまえに堕ちた、それだけだ」
ぶっきら棒に答えた。
「ふーん……」
にやにやと聡子は笑う。
信じているのかいないのか、疑うような、それでいて嬉しそうに笑っている。
「俺をおちょくったら、倍にして返してやっからな」
「おー怖い怖い」
全く怖くなさそうに言った。
「こいつっ」
手を伸ばすと、聡子は逃げるようにすっと立ち上がった。
「お皿、洗ってきますね」
悪戯っぽく笑った。トレーに食器を乗せようとする彼女の手を掴んだ。
「逃がさないぞ」
聡子の身体を抱き寄せる。
「掴まえた」
「……掴まっちゃっいました」
彼女はすぐに観念し、トモの腕の中で大人しくなる。
すぐ側に彼女の唇がある──触れないはずがない、触れずにはいられない。トモはそっとキスをした。彼女は目を閉じ、それを受け入れる。
啄むようなキスは次第に深くなってゆく。舌で口内を侵し、絡み合う。聡子がトモの身体を抱きしめるように腕を伸ばした。
傾きそうになる身体を起こし、トモは囁く。
「おまえは可愛い」
「……」
「あ、『おまえ』って言っちまった」
「ふふ」
笑う彼女を抱えて立ち上がり、ベッドに下ろした。
聡子に重なり、また唇に触れる。
もう何度も味わっているのに、柔らかい感触は変わらない。
布越しに胸を掴む。
直接触れたくて、彼女のスエットを脱がせた。下着も外して放り投げる。ふくよかな胸が現れ、夢中で貪った。
「んっ……」
「今日は、さ……」
「……今日は、……?」
蕩けた瞳で彼女が聞き返してきた。
「聡子のしてほしいこと、全部してやる」
「……もうしてもらいましたよ」
「もう?」
「お祝いしてもらって、ケーキまでごちそうになって、チュウまでしてもらっちゃいましたから」
幸せです、と笑った。
「駄目だ、もっと、もっと聡子を悦ばせたいんだよ」
「……うん」
どういうことか察したらしい聡子は、自ら身につけている残ったものを脱ぎ出した。それを見たトモも服を脱いだのだった。
カズのアドバイスを素直に受け、聡子のアパートに向かう。自分の勤める飲食店のケーキも購入した。聡子はチーズケーキが好きだというのは覚えていたので、それを選んだ。
オーナー兼店長の妻自作のケーキだ。パティシエールの彼女に、こっそり「チーズケーキを二つキープお願いします」と頼んでおいた。できれば他のバイトたちにはバレないようにしたかったからだ。バイトの男子学生たちは、恋愛毎にうるさい。
今から行く、とメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
足早に向かい、ドアを開けてもらうと、すぐに部屋に上がった。
「智幸さん、お疲れ様です」
彼女はいつもそう声をかけて労ってくれる。
「聡子、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。嬉しいです。朝メッセージもいただいたのに」
「それはそれ、これはこれ。直接言いたいんだよ。これ、ケーキ買ってきた。夜遅いから、明日にでも」
買ってきたチーズケーキの入った箱を手渡す。彼女は受け取ると、
「智幸さんがいいなら、今から一緒にいただきませんか? せっかく準備してくれたんですし、今日いただかないと」
上目遣いでそう言った。
そのあざとい仕草に、どぎまぎする。
彼女がそんなあざとさのある仕草をするとは思わなかった。おそらく無意識だとは思ったが。
「お茶、入れますね」
「ああ。でもいいのか? 太るって言ってたし」
「今日は特別です。さあさあ、寒かったでしょう、暖まってくださいね」
「ありがと」
手をこすり合わせ、ローテーブルの前にいつものように座った。
トレーに、緑茶と皿に移し替えたチーズケーキを乗せて聡子が席に着いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それぞれの前に用意をすると、トモが改めて言う。
「改めて。誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
「ケーキだけでごめん」
「充分ですよ!」
いただきましょうか、と聡子の合図に二人は合掌し、ケーキを口に運んだ。
「んっ、美味しい!」
「美味いだろ!? 俺の働いてる店のケーキだ」
「そうなんですか! 濃厚で美味しいですっ」
「今度店に来いよ」
「是非!」
彼女は嬉しそうに食べている。
その顔を見て、トモも嬉しくなった。
好きな女と一緒に美味しいものを食べて、美味しいと言い合える。これも今までに経験をしたことのないことだ。そしてそれがささやかな幸せだということも。
買って良かった。
太るから後でいただきます、そう言われるかと思っていたのに。
「甘いもの食べても、罪悪感より幸福感のほうがおっきいですね」
「そうか、それなら、よかった」
こうしてみると、聡子は年相応の女の子なのだろうと思う。
自分よりも十も若い二十二歳だ。
なのに自分のほうが知らないことが多い。
一緒にいる彼女が教えてくれる。それも幸せだ。
……嬉しそうに食べる彼女が愛おしいかった。
ケーキを食べ終えると、他愛ない話をした。
二年前、一緒にファミレスでケーキを食べた話。でもその時は、ただのホステスと客だったなあという話。この二年の間にこんなふうに笑ってケーキを食べることになるなんて、と聡子は言う。
「特別になりたくてもなれませんでしたから」
「悪かったよ」
「どういう心境の変化だったんでしょうねえ」
「おまえを気に入った」
「身体が気に入ったんでしたよね」
「最初はな。俺がおまえに堕ちた、それだけだ」
ぶっきら棒に答えた。
「ふーん……」
にやにやと聡子は笑う。
信じているのかいないのか、疑うような、それでいて嬉しそうに笑っている。
「俺をおちょくったら、倍にして返してやっからな」
「おー怖い怖い」
全く怖くなさそうに言った。
「こいつっ」
手を伸ばすと、聡子は逃げるようにすっと立ち上がった。
「お皿、洗ってきますね」
悪戯っぽく笑った。トレーに食器を乗せようとする彼女の手を掴んだ。
「逃がさないぞ」
聡子の身体を抱き寄せる。
「掴まえた」
「……掴まっちゃっいました」
彼女はすぐに観念し、トモの腕の中で大人しくなる。
すぐ側に彼女の唇がある──触れないはずがない、触れずにはいられない。トモはそっとキスをした。彼女は目を閉じ、それを受け入れる。
啄むようなキスは次第に深くなってゆく。舌で口内を侵し、絡み合う。聡子がトモの身体を抱きしめるように腕を伸ばした。
傾きそうになる身体を起こし、トモは囁く。
「おまえは可愛い」
「……」
「あ、『おまえ』って言っちまった」
「ふふ」
笑う彼女を抱えて立ち上がり、ベッドに下ろした。
聡子に重なり、また唇に触れる。
もう何度も味わっているのに、柔らかい感触は変わらない。
布越しに胸を掴む。
直接触れたくて、彼女のスエットを脱がせた。下着も外して放り投げる。ふくよかな胸が現れ、夢中で貪った。
「んっ……」
「今日は、さ……」
「……今日は、……?」
蕩けた瞳で彼女が聞き返してきた。
「聡子のしてほしいこと、全部してやる」
「……もうしてもらいましたよ」
「もう?」
「お祝いしてもらって、ケーキまでごちそうになって、チュウまでしてもらっちゃいましたから」
幸せです、と笑った。
「駄目だ、もっと、もっと聡子を悦ばせたいんだよ」
「……うん」
どういうことか察したらしい聡子は、自ら身につけている残ったものを脱ぎ出した。それを見たトモも服を脱いだのだった。
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