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【第2部】26.若
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「言ったよな?」
低い唸るような声だった。
「言いました。……健人が」
「君じゃない?」
「違います! 俺じゃ……ないです……」
「だよね?」
声のトーンが戻る。
「で、さっきの子はどう見てもブスじゃないよね? そうだろ?」
トモに話を振ってきた。
「はい」
「めちゃ可愛い子だと思うけどね。君らの目、腐ってる?」
「腐ってはな……い……です」
「さっきも言ったけど、この男の恋人なわけ。君ら、腐ってるよなあ?」
「はいっ、腐ってます」
ぽんぽんと慶太の肩を叩く。
(人の女を……)
と腹が立つトモだ。
「コーヒーを顔にかけようとしたくせに」
ぼそりと言うと、
「あー、そうだそうだ、うんうん、そうだったよな。君だよね、それは」
高虎は大げさに頷いた。
「すみません……」
「彼女ちゃん、危うくコーヒーかけられるところだったねー。熱々のだったら火傷してたよね。どうするつもりだったの」
「…………」
「短絡的な行動も大概にしとけよ」
低い声で言うと、慶太はまた小さくなる。
「あっ、彼女ちゃんが無事だったかわりに、この男のジャケットが汚れたよねー。クリーニングどうしようかなあ」
嬉しそうに高虎は言う。またネタを見つけて喜んでいるのだ。
声のトーンが上がったり下がったり、彼は使い分けている。
「は、払います!」
慶太は咄嗟に言った。
「十万円でもか?」
「それは……」
「冗談だよ。どうする?」
高虎はトモに問いかけてきた。
「俺は別にいいです。彼女に預けたので、なんとかしてくれると思います。どっかのガキと違って、すごく気が利くいい女なんで」
「だって」
「でも、俺の女を汚そうとした分くらいはどうにかしてもらいたいですね。金じゃない誠意で」
「すみませんっ」
慶太は頭を下げた。
「じゃあ、それは着くまでに考えとくかな」
「……っひっ」
「あのさ、可愛い子がさ、人のもんじゃないわけないだろ。……って思わなかった?」
「思いました……」
「なのにナンパして、成功したらどうするつもりだった?」
「成功はしないとは思ってたんですけど、健人が、可愛い女の子見たら声かけなきゃって」
「あーその気持ちはわからんでもないけど」
「もし釣れたら、遊びに行くっていう……」
釣れる、という表現にトモは嫌悪を示した。自分も散々遊んできた身だが、そんな言い方をしたことはなかった……はずだ。
「夕方から? どこへ行くつもりだったの?」
ここまでくれば高虎の質問は「尋問」だと思った。
「一緒に晩飯食って……酒飲んで……ホテルに行ってヤ……」
「ヤるって、セックスか?」
こくり、と慶太は頷く。
「酒飲んだら気が大きくなる女の子が多いから……。でもだいたいヤるのは健人で、俺は金がないから、健人が遊んで俺がおまけって感じで……」
「クズかよ」
(う……)
このあたりは人のこと言えない、とトモは内心では思った。
「そんなにセックスしたいの?」
「……はい」
「誰でもいいわけないじゃないだろ」
「でも彼女が出来ないんで……」
「俺も若い頃はさあ、いろんな女と遊んだけど、なんか虚しくなったんだよね。それに女の子もさ、おっさんより若い男のほうがいいじゃん? 需要、なくなるよー」
(俺に言ってるのか?)
グサグサと胸に突き刺さる。
「遊ぶより彼女作ったほうがいいんじゃない?」
「はあ……」
「じゃあ、あの金髪と手を切れ。つるむのはやめろ。真面目に学生生活送れ。就職活動も真面目にやれ。もう駄目だっていうまで藻掻け。一生懸命藻掻くおまえが好きだっていう子がきっと現れる。その子とセックスしたらいい。もっと気持ちいいし、きっと幸せな気持ちになる」
「……はい」
慶太は項垂れた。
「一つ確認」
「はいっ」
「女の子をホテルに連れ込んで、脱法ハーブとか怪しいこと、やってないよな?」
思わぬ質問だった。
トモは目を見開き、慶太の表情を伺った。
「俺が知ってる限りは、ないと思います……」
「さっきも言ったけど、俺は嘘は嫌いだからな」
「ほんとです。俺はそういうのやりたくないから関わらないようにしてます。でも……」
「でも?」
「健人はもしかすると、って思うことがありました。親のこづかいにしては金回りすごく良すぎるなって思うこともあるし。前、ホテルから出てきた時に、なんか甘い匂いしてたり、健人とヤったあとに俺とヤった女が、ちょっと似たような匂いがしたり……。なんか頭がぼーっつとして、いつの間にか終わってたり……」
ふむ、と高虎は顎に手をやり考える仕草をした。
「いい情報ありがと」
ぽんぽんとまた肩を叩いた。
「あのさ、危うくスルーするとこだったけど、別の男とヤったあとに自分と寝るような女、やめとけよ。あの金髪君、ちゃんとゴムしなさそうだし」
「えっ、なんでわかるんですか」
「やっぱな」
「ナマで中出しとか平気でやりそうだなってツラだったわ」
「…………」
「あのな、……そういうの介して、性病うつされるかもしれないぞ。そしたら君の可愛い息子君は」
高虎はぎゅっと慶太の股間を握り、彼は悲鳴をあげた。
「使い物にならなくなるぞ?」
「……は、はひぃ……」
あなたのその手で使い物にならなくさせられます、とトモは思ったが口には出さなかった。
「好きな女の子とセックスしたいなら、それまで我慢して一人で発散しとけ」
「……はい……」
車は神崎邸、つまりはトモが生活している邸宅に向かっている。
「神崎さん、本当に屋敷に向かって大丈夫ですか」
「あー、そうだな。元の事務所があったところに向かってくれるか」
「わかりました」
本当にこのまま神崎邸に向かえば、邸宅が知られてしまうと思った。もちろん調べればわかることではあるが、神崎会長の知らないところで迷惑をかける行為はしたくなかった。
「じゃあ、最後の質問にしようかな」
「……は、はい」
「君は本当に神崎組の構成員?」
低い唸るような声だった。
「言いました。……健人が」
「君じゃない?」
「違います! 俺じゃ……ないです……」
「だよね?」
声のトーンが戻る。
「で、さっきの子はどう見てもブスじゃないよね? そうだろ?」
トモに話を振ってきた。
「はい」
「めちゃ可愛い子だと思うけどね。君らの目、腐ってる?」
「腐ってはな……い……です」
「さっきも言ったけど、この男の恋人なわけ。君ら、腐ってるよなあ?」
「はいっ、腐ってます」
ぽんぽんと慶太の肩を叩く。
(人の女を……)
と腹が立つトモだ。
「コーヒーを顔にかけようとしたくせに」
ぼそりと言うと、
「あー、そうだそうだ、うんうん、そうだったよな。君だよね、それは」
高虎は大げさに頷いた。
「すみません……」
「彼女ちゃん、危うくコーヒーかけられるところだったねー。熱々のだったら火傷してたよね。どうするつもりだったの」
「…………」
「短絡的な行動も大概にしとけよ」
低い声で言うと、慶太はまた小さくなる。
「あっ、彼女ちゃんが無事だったかわりに、この男のジャケットが汚れたよねー。クリーニングどうしようかなあ」
嬉しそうに高虎は言う。またネタを見つけて喜んでいるのだ。
声のトーンが上がったり下がったり、彼は使い分けている。
「は、払います!」
慶太は咄嗟に言った。
「十万円でもか?」
「それは……」
「冗談だよ。どうする?」
高虎はトモに問いかけてきた。
「俺は別にいいです。彼女に預けたので、なんとかしてくれると思います。どっかのガキと違って、すごく気が利くいい女なんで」
「だって」
「でも、俺の女を汚そうとした分くらいはどうにかしてもらいたいですね。金じゃない誠意で」
「すみませんっ」
慶太は頭を下げた。
「じゃあ、それは着くまでに考えとくかな」
「……っひっ」
「あのさ、可愛い子がさ、人のもんじゃないわけないだろ。……って思わなかった?」
「思いました……」
「なのにナンパして、成功したらどうするつもりだった?」
「成功はしないとは思ってたんですけど、健人が、可愛い女の子見たら声かけなきゃって」
「あーその気持ちはわからんでもないけど」
「もし釣れたら、遊びに行くっていう……」
釣れる、という表現にトモは嫌悪を示した。自分も散々遊んできた身だが、そんな言い方をしたことはなかった……はずだ。
「夕方から? どこへ行くつもりだったの?」
ここまでくれば高虎の質問は「尋問」だと思った。
「一緒に晩飯食って……酒飲んで……ホテルに行ってヤ……」
「ヤるって、セックスか?」
こくり、と慶太は頷く。
「酒飲んだら気が大きくなる女の子が多いから……。でもだいたいヤるのは健人で、俺は金がないから、健人が遊んで俺がおまけって感じで……」
「クズかよ」
(う……)
このあたりは人のこと言えない、とトモは内心では思った。
「そんなにセックスしたいの?」
「……はい」
「誰でもいいわけないじゃないだろ」
「でも彼女が出来ないんで……」
「俺も若い頃はさあ、いろんな女と遊んだけど、なんか虚しくなったんだよね。それに女の子もさ、おっさんより若い男のほうがいいじゃん? 需要、なくなるよー」
(俺に言ってるのか?)
グサグサと胸に突き刺さる。
「遊ぶより彼女作ったほうがいいんじゃない?」
「はあ……」
「じゃあ、あの金髪と手を切れ。つるむのはやめろ。真面目に学生生活送れ。就職活動も真面目にやれ。もう駄目だっていうまで藻掻け。一生懸命藻掻くおまえが好きだっていう子がきっと現れる。その子とセックスしたらいい。もっと気持ちいいし、きっと幸せな気持ちになる」
「……はい」
慶太は項垂れた。
「一つ確認」
「はいっ」
「女の子をホテルに連れ込んで、脱法ハーブとか怪しいこと、やってないよな?」
思わぬ質問だった。
トモは目を見開き、慶太の表情を伺った。
「俺が知ってる限りは、ないと思います……」
「さっきも言ったけど、俺は嘘は嫌いだからな」
「ほんとです。俺はそういうのやりたくないから関わらないようにしてます。でも……」
「でも?」
「健人はもしかすると、って思うことがありました。親のこづかいにしては金回りすごく良すぎるなって思うこともあるし。前、ホテルから出てきた時に、なんか甘い匂いしてたり、健人とヤったあとに俺とヤった女が、ちょっと似たような匂いがしたり……。なんか頭がぼーっつとして、いつの間にか終わってたり……」
ふむ、と高虎は顎に手をやり考える仕草をした。
「いい情報ありがと」
ぽんぽんとまた肩を叩いた。
「あのさ、危うくスルーするとこだったけど、別の男とヤったあとに自分と寝るような女、やめとけよ。あの金髪君、ちゃんとゴムしなさそうだし」
「えっ、なんでわかるんですか」
「やっぱな」
「ナマで中出しとか平気でやりそうだなってツラだったわ」
「…………」
「あのな、……そういうの介して、性病うつされるかもしれないぞ。そしたら君の可愛い息子君は」
高虎はぎゅっと慶太の股間を握り、彼は悲鳴をあげた。
「使い物にならなくなるぞ?」
「……は、はひぃ……」
あなたのその手で使い物にならなくさせられます、とトモは思ったが口には出さなかった。
「好きな女の子とセックスしたいなら、それまで我慢して一人で発散しとけ」
「……はい……」
車は神崎邸、つまりはトモが生活している邸宅に向かっている。
「神崎さん、本当に屋敷に向かって大丈夫ですか」
「あー、そうだな。元の事務所があったところに向かってくれるか」
「わかりました」
本当にこのまま神崎邸に向かえば、邸宅が知られてしまうと思った。もちろん調べればわかることではあるが、神崎会長の知らないところで迷惑をかける行為はしたくなかった。
「じゃあ、最後の質問にしようかな」
「……は、はい」
「君は本当に神崎組の構成員?」
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