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【第4部】浩輔編
8.帰り道
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高虎の車を運転し、浩輔はまずは高虎の住むアパートへ向かった。自分たちのボロアパートよりもいい所に住んでいる。
「今日、ミサに絡まれてたな」
「……疲れました。いつもの店のほうが俺は好きです」
「まあそう言うなよ。操ママの店はさ、カレンがしっかりしてるし、束ねてるのもあって、結構情報もらえるんだよね」
高虎は、裏家業のようなことをしているのか、黒い情報を追っているようだ。詳しくはわからないが、何かの取引情報などを得ようとしている。それは決して悪いほうに手を染めているのではなく、染まっているもの、染めようとしているものに対しての妨害──阻止をしようとしているかのようだった。
「あの店が悪事の温床になったりしたら大変だしな。伯父さ……社長の会社に泥を塗るようなことは絶対にさせない」
高虎の声には強い意志を感じた。
「絡まれてたと言いつつ、どうやらミサは浩輔を気に入ったみたいだな」
「……揶揄ってるだけでしょう。こういう店に不慣れな俺を見て」
「店だけじゃないと思うけど」
「どういうことです?」
「女に不慣れなのも気づいたんじゃない?」
「…………」
図星を刺され、少々苛立ちを感じた。
(確かに不慣れですけど! 今までそういう機会が無かっただけだ)
「別に遊ぶのは自由だしな。俺は何も言わないよ。自由にすればいい、でも……避妊は絶対しろよ」
「…………」
「祐策も」
「……わかってます」
酒の入った高虎はにやにやと笑っている。
しかし目は笑っていないような気がした。
高虎を送っていくと、祐策と二人、途中まで歩いた。タクシーに乗ればいいのかもしれないが、歩けない距離でもないし、というのが二人の間の了解だ。酒を飲んだ時には酔いが覚めるし、実のところタクシー代を浮かせるということもある。時々高虎がタクシー代といって手渡してくれることもあるが、頼ってばかりは……というのが二人の意見だった。
「ごめんな、歩かせて」
浩輔が言うと、
「全然」
と祐策は笑った。
「俺の車で行けばいいよな、っていつも思うんだけど、ポンコツ車だから神崎さんを乗せるのは心苦しいし」
「んー、まあ、なあ……。俺らはごちそうしてもらってるほうだし。それに、今日は何もなかったけど、飲んだあとに若に予定が入ることあるだろ? その時は翌朝に車がないと若も困るしな」
「……だよね」
高虎が誰かと宿泊予定がある時は、車を宿泊する場所近くのコインパーキングまで届けて、予定のない付き添いたちは、自分でアパートまで帰ることになる。これもタクシー代をもらうこともがあるが、毎回ではない。せびるわけにもいかない。いろいろと受け取っている身では言えないし、バスがあればバスで帰るだけだ。
「祐策って……あの今日のユキミっていうホステスと仲いいの?」
「……まあ、それなりに」
浩輔は察した。
人見知りではないが、外ではあまり口数が多くない祐策に、嫌な顔もせずにずっと側にいた女性店員のことが不思議だった。初対面ではないからか、とは思ったが、何かと知ったふうな様子に思えたのだ。
「ふーん……」
「わかる?」
「確信はなかったけど。俺、子供の頃から人の顔色を窺うのが得意だったみたいでさ」
ユキミは祐策をただの客と思っているわけではないんだろう、という気がした。
「別に俺がどうこういうわけではないから。神崎さんも知ってるんでしょ」
「たぶん気づいている。だから俺をあの店に連れてくんだと思うよ」
「……そう」
夜道を二人の青年が歩いて行く。
「若も言ってたけど、三原はミサって子……子、っていうか絶対年上だろうけど、あの人に気に入られてたっぽいだろ?」
「初めて来た客だからじゃないかな」
「それもあるかもしれないけど……三原を見る目が、な」
どうかな、と苦笑した。
舞衣以外には興味がなく、女慣れしていない自分だ。人がいうようにモテはしなかった。モテたところで、現を抜かす暇もなかっただろう。そして今がこれなのだから。
「若が探ってることで、また俺らの出番があるかもだし。あの店に行くことがあるかもしれないから」
「うん、わかった」
それからだ。時折その店に出入りすることが増えた。
浩輔を連れてきてほしい、と高虎に催促があったらしい。
「いらっしゃいませ。三原君、待ってたんだよー」
ミサだ。
浩輔の何が気に入ったのか知らないが、やけに浩輔に絡んでくる。
(祐策が言うのは強ち外れては……ない……?)
だが、自分に好意があるわけではないだろう。高虎のように羽振りがいいわけでもない、金があるわけでもない。イケメンだと言ってくれた人もいたが、高虎の足下には及ばない。何が気に入っているのだろう。他の客のように、自分の話をするわけでもない。寧ろ、ミサの話を聞く側の浩輔だった。
だが、あっさりと男女の関係になってしまうのだった。
「今日、ミサに絡まれてたな」
「……疲れました。いつもの店のほうが俺は好きです」
「まあそう言うなよ。操ママの店はさ、カレンがしっかりしてるし、束ねてるのもあって、結構情報もらえるんだよね」
高虎は、裏家業のようなことをしているのか、黒い情報を追っているようだ。詳しくはわからないが、何かの取引情報などを得ようとしている。それは決して悪いほうに手を染めているのではなく、染まっているもの、染めようとしているものに対しての妨害──阻止をしようとしているかのようだった。
「あの店が悪事の温床になったりしたら大変だしな。伯父さ……社長の会社に泥を塗るようなことは絶対にさせない」
高虎の声には強い意志を感じた。
「絡まれてたと言いつつ、どうやらミサは浩輔を気に入ったみたいだな」
「……揶揄ってるだけでしょう。こういう店に不慣れな俺を見て」
「店だけじゃないと思うけど」
「どういうことです?」
「女に不慣れなのも気づいたんじゃない?」
「…………」
図星を刺され、少々苛立ちを感じた。
(確かに不慣れですけど! 今までそういう機会が無かっただけだ)
「別に遊ぶのは自由だしな。俺は何も言わないよ。自由にすればいい、でも……避妊は絶対しろよ」
「…………」
「祐策も」
「……わかってます」
酒の入った高虎はにやにやと笑っている。
しかし目は笑っていないような気がした。
高虎を送っていくと、祐策と二人、途中まで歩いた。タクシーに乗ればいいのかもしれないが、歩けない距離でもないし、というのが二人の間の了解だ。酒を飲んだ時には酔いが覚めるし、実のところタクシー代を浮かせるということもある。時々高虎がタクシー代といって手渡してくれることもあるが、頼ってばかりは……というのが二人の意見だった。
「ごめんな、歩かせて」
浩輔が言うと、
「全然」
と祐策は笑った。
「俺の車で行けばいいよな、っていつも思うんだけど、ポンコツ車だから神崎さんを乗せるのは心苦しいし」
「んー、まあ、なあ……。俺らはごちそうしてもらってるほうだし。それに、今日は何もなかったけど、飲んだあとに若に予定が入ることあるだろ? その時は翌朝に車がないと若も困るしな」
「……だよね」
高虎が誰かと宿泊予定がある時は、車を宿泊する場所近くのコインパーキングまで届けて、予定のない付き添いたちは、自分でアパートまで帰ることになる。これもタクシー代をもらうこともがあるが、毎回ではない。せびるわけにもいかない。いろいろと受け取っている身では言えないし、バスがあればバスで帰るだけだ。
「祐策って……あの今日のユキミっていうホステスと仲いいの?」
「……まあ、それなりに」
浩輔は察した。
人見知りではないが、外ではあまり口数が多くない祐策に、嫌な顔もせずにずっと側にいた女性店員のことが不思議だった。初対面ではないからか、とは思ったが、何かと知ったふうな様子に思えたのだ。
「ふーん……」
「わかる?」
「確信はなかったけど。俺、子供の頃から人の顔色を窺うのが得意だったみたいでさ」
ユキミは祐策をただの客と思っているわけではないんだろう、という気がした。
「別に俺がどうこういうわけではないから。神崎さんも知ってるんでしょ」
「たぶん気づいている。だから俺をあの店に連れてくんだと思うよ」
「……そう」
夜道を二人の青年が歩いて行く。
「若も言ってたけど、三原はミサって子……子、っていうか絶対年上だろうけど、あの人に気に入られてたっぽいだろ?」
「初めて来た客だからじゃないかな」
「それもあるかもしれないけど……三原を見る目が、な」
どうかな、と苦笑した。
舞衣以外には興味がなく、女慣れしていない自分だ。人がいうようにモテはしなかった。モテたところで、現を抜かす暇もなかっただろう。そして今がこれなのだから。
「若が探ってることで、また俺らの出番があるかもだし。あの店に行くことがあるかもしれないから」
「うん、わかった」
それからだ。時折その店に出入りすることが増えた。
浩輔を連れてきてほしい、と高虎に催促があったらしい。
「いらっしゃいませ。三原君、待ってたんだよー」
ミサだ。
浩輔の何が気に入ったのか知らないが、やけに浩輔に絡んでくる。
(祐策が言うのは強ち外れては……ない……?)
だが、自分に好意があるわけではないだろう。高虎のように羽振りがいいわけでもない、金があるわけでもない。イケメンだと言ってくれた人もいたが、高虎の足下には及ばない。何が気に入っているのだろう。他の客のように、自分の話をするわけでもない。寧ろ、ミサの話を聞く側の浩輔だった。
だが、あっさりと男女の関係になってしまうのだった。
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