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【第4部】浩輔編
19.会話
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「美味しかったね! 連れてきてくれてありがとう」
店を出た途端、舞衣は子供のように声をあげ、浩輔に礼を言った。
合格祝ということで、浩輔が会計を済ませた。
おしゃれな店は詳しくないが、舞衣が選んでくれたおかげで恥をかかずに済んだ部分はあると思っている。
生パスタと普通のパスタがどう違うのか、味はよくわかっていないが、舞衣が美味しいと喜んでいるならそれでよかった。
「腹いっぱいになったか?」
「うん。食べきれなかったしね」
舞衣の食が細いように思えたが、小柄なのでそんなものなのかなと思っている。食べきれない分は浩輔が平らげた。舞衣は戸惑ったようだが、別に潔癖でもないし、卑しいわけではないが子供の頃からのもったいない精神が発動し、特に食べ物に関しては残してはいけない気になってしまうのだ。
「満腹なら……やめとくか」
「え?」
隣に並んだ舞衣がきょとんとした。
少し離れた場所にある駐車場に向かっている所だ。
「ちょっと舞衣を連れて行きたいところがあったんだけど」
「そうなの?」
「スイーツ系の店なんだよな。……やめとくか」
「行く!」
自分の中の計画を中止にしようとすると、彼女はそう言った。
「行きたい!」
「けど腹一杯だろ」
「スイーツは別腹!」
「ほんとかよ。無理しなくてもまたにすればいいんだし」
「また……」
舞衣の表情が一瞬止まったように見えた。
「……そう、だね、また、にしようかな」
「じゃあ、そうするか。別に逃げやしないし」
「えっ別に三原君が逃げるとかそんなこと思ってないし!」
「俺……? いや、俺じゃ無くて、店が、だけど」
浩輔は吹き出した。
「閉店するとかならともかく、その店で食べられなくなるようなことはなさそうだから、って意味だよ」
「……ごめん」
「相変わらず、天然なところあるよな」
「……はは」
舞衣は恥ずかしそうに、そして悄気た。
「子供のころから変わってないかな」
「うん、変わってないよ、舞衣は」
「そう……」
「褒めてるんだよ」
「そう?」
表情がくるくる変わるところも変わっていない。
「三原君も、変わってない……いや、やっぱ変わったかな」
「俺? どっち?」
彼女を見下ろすと、首を捻っている。
「見た目は変わった……かな」
「ああ、髪の毛? 色入ってるしな」
「それもあるけど、背も高くなってるし」
そうだっけ、と今度は浩輔が首を捻った。
高校生で成長は止まった気がするが……と思ったが、舞衣と会わなくなった高校一年生の春と今では身長はかなり伸びている。舞衣のイメージはその頃のままだったのかもしれない。高校を卒業したあとに一度会ったが、そんなことを考える余裕はなかっただろう。
「舞衣は小さいままだな」
「……うん、伸びなかった」
152センチだと後で教えてくれた。
昔から小柄で、今もそのままだ。
「別にいいんじゃない?」
「でも、高い所に手が届かないんだ」
「椅子に乗ればいいよ」
「そうだけど」
今日の舞衣はよく喋る。昔よりよく喋るような気がする浩輔だ。
「三原君、見た目はちょっと垢抜けた気がするけど……変わってないような気もする」
「どうだろうな」
「わからないけど」
「なんだそれ」
「……優しい所とか」
「優しいか? ……おっと」
ふいに、いつの間にか後ろから自転車が迫っていることに気づき、浩輔は舞衣の肩を抱いて身体を引き寄せた。
「わっ」
「すみません。……自転車来てたの気づかなかった」
自転車の女性に謝り、何事もなくその場は終わった。
「ごめん」
「いいよ。こっちが悪かったしな。仕方ない」
「う、うん……」
駐車場に到着し、自分の車まで戻ると、助手席のドアを開いて、舞衣を乗せる。
「スカート、気をつけて」
「うん、ありがとう」
ドアを閉めると自分も運転席に乗り込んだ。
「じゃあ、スイーツはまた今度ってことで。どうする? 帰るか?」
「え……帰る、のはまだ早いかな……。もうちょっと、三原君と話したいなと思うんだけど、駄目かな……」
「そうだな、久しぶりにこんなに話すし。どこか場所変えるか。外で話すにも暑いしな」
「…………」
とりあえず出よう、と浩輔は車を出した。
舞衣はほっとした顔をしている。
「エアコン効くまで暑いけど、窓開けるなりして調整してくれ」
「うん」
舞衣は言われたとおり、窓を少し開けた。
「エアコン入れて、窓少し開けたほうが冷却の効きは早いんだってさ」
「そうなんだ」
「……ってお客さんにアドバイスしてる」
「車に詳しくなったね」
「まあな」
浩輔は笑った。
成りたかった職業に就くことができたし、紆余曲折はあったがよかったと思っている。
ブーッ……ブーッ……
「三原君、電話鳴ってるみたいだよ」
「あーそうだな」
スマホが鳴り、運転中なので出ないでいたが、しばらくしてまた電話が鳴った。
(誰かな)
「何度も鳴るってことは急ぎかも?」
「どうだろうな」
「ちょっと止まって出てみたほうがいいんじゃない?」
「あー……うん……」
「わたしはいいから」
「わかった。悪い、じゃあ、ちょっとそこのコンビニに入るな」
舞衣の承諾を得て、浩輔はコンビニの駐車場に入った。
スマホを覗き、着歴を確認する。
(ミサさんだ)
「ちょっと電話かけるから、そのまま待ってて」
「うん、わたしは大丈夫だから」
エンジンを掛けたまま、浩輔は車を降りた。
「……もしもし。三原です。どうしました?」
ミサと電話がつながった。
『今日の夜、来てくれる?』
「……はい、いいですよ」
『じゃあ、待ってるね」
「時間は?」
『いつもどおりでいいよ』
「わかりました。じゃあ、また……」
『三原君、今、何してた?』
通話終了ボタンを押そうとスマホを耳から離しかけたが、ミサは会話を続けてくる。
「今、食事に行ってました」
『誰と?』
「……友達です」
『今も一緒?』
「はい、そうです」
『そう。邪魔してごめんね』
「いえ、大丈夫です。じゃあ、また」
『うん、あとでね』
ミサとの電話を終え、運転席に戻る。
「お待たせ。悪かったな」
「ううん、大丈夫。電話の方は大丈夫なの? その人と用事があるなら、わたしこれで帰っても……」
「いや、大丈夫だよ」
「彼女、じゃない……?」
舞衣は申し訳なさそうに言った。
「彼女じゃないから。約束の確認の連絡だよ」
「そう」
じゃあ行こう、と浩輔はハンドルに手を置いた。
「ちょっとドライブでもするか」
「……うん」
店を出た途端、舞衣は子供のように声をあげ、浩輔に礼を言った。
合格祝ということで、浩輔が会計を済ませた。
おしゃれな店は詳しくないが、舞衣が選んでくれたおかげで恥をかかずに済んだ部分はあると思っている。
生パスタと普通のパスタがどう違うのか、味はよくわかっていないが、舞衣が美味しいと喜んでいるならそれでよかった。
「腹いっぱいになったか?」
「うん。食べきれなかったしね」
舞衣の食が細いように思えたが、小柄なのでそんなものなのかなと思っている。食べきれない分は浩輔が平らげた。舞衣は戸惑ったようだが、別に潔癖でもないし、卑しいわけではないが子供の頃からのもったいない精神が発動し、特に食べ物に関しては残してはいけない気になってしまうのだ。
「満腹なら……やめとくか」
「え?」
隣に並んだ舞衣がきょとんとした。
少し離れた場所にある駐車場に向かっている所だ。
「ちょっと舞衣を連れて行きたいところがあったんだけど」
「そうなの?」
「スイーツ系の店なんだよな。……やめとくか」
「行く!」
自分の中の計画を中止にしようとすると、彼女はそう言った。
「行きたい!」
「けど腹一杯だろ」
「スイーツは別腹!」
「ほんとかよ。無理しなくてもまたにすればいいんだし」
「また……」
舞衣の表情が一瞬止まったように見えた。
「……そう、だね、また、にしようかな」
「じゃあ、そうするか。別に逃げやしないし」
「えっ別に三原君が逃げるとかそんなこと思ってないし!」
「俺……? いや、俺じゃ無くて、店が、だけど」
浩輔は吹き出した。
「閉店するとかならともかく、その店で食べられなくなるようなことはなさそうだから、って意味だよ」
「……ごめん」
「相変わらず、天然なところあるよな」
「……はは」
舞衣は恥ずかしそうに、そして悄気た。
「子供のころから変わってないかな」
「うん、変わってないよ、舞衣は」
「そう……」
「褒めてるんだよ」
「そう?」
表情がくるくる変わるところも変わっていない。
「三原君も、変わってない……いや、やっぱ変わったかな」
「俺? どっち?」
彼女を見下ろすと、首を捻っている。
「見た目は変わった……かな」
「ああ、髪の毛? 色入ってるしな」
「それもあるけど、背も高くなってるし」
そうだっけ、と今度は浩輔が首を捻った。
高校生で成長は止まった気がするが……と思ったが、舞衣と会わなくなった高校一年生の春と今では身長はかなり伸びている。舞衣のイメージはその頃のままだったのかもしれない。高校を卒業したあとに一度会ったが、そんなことを考える余裕はなかっただろう。
「舞衣は小さいままだな」
「……うん、伸びなかった」
152センチだと後で教えてくれた。
昔から小柄で、今もそのままだ。
「別にいいんじゃない?」
「でも、高い所に手が届かないんだ」
「椅子に乗ればいいよ」
「そうだけど」
今日の舞衣はよく喋る。昔よりよく喋るような気がする浩輔だ。
「三原君、見た目はちょっと垢抜けた気がするけど……変わってないような気もする」
「どうだろうな」
「わからないけど」
「なんだそれ」
「……優しい所とか」
「優しいか? ……おっと」
ふいに、いつの間にか後ろから自転車が迫っていることに気づき、浩輔は舞衣の肩を抱いて身体を引き寄せた。
「わっ」
「すみません。……自転車来てたの気づかなかった」
自転車の女性に謝り、何事もなくその場は終わった。
「ごめん」
「いいよ。こっちが悪かったしな。仕方ない」
「う、うん……」
駐車場に到着し、自分の車まで戻ると、助手席のドアを開いて、舞衣を乗せる。
「スカート、気をつけて」
「うん、ありがとう」
ドアを閉めると自分も運転席に乗り込んだ。
「じゃあ、スイーツはまた今度ってことで。どうする? 帰るか?」
「え……帰る、のはまだ早いかな……。もうちょっと、三原君と話したいなと思うんだけど、駄目かな……」
「そうだな、久しぶりにこんなに話すし。どこか場所変えるか。外で話すにも暑いしな」
「…………」
とりあえず出よう、と浩輔は車を出した。
舞衣はほっとした顔をしている。
「エアコン効くまで暑いけど、窓開けるなりして調整してくれ」
「うん」
舞衣は言われたとおり、窓を少し開けた。
「エアコン入れて、窓少し開けたほうが冷却の効きは早いんだってさ」
「そうなんだ」
「……ってお客さんにアドバイスしてる」
「車に詳しくなったね」
「まあな」
浩輔は笑った。
成りたかった職業に就くことができたし、紆余曲折はあったがよかったと思っている。
ブーッ……ブーッ……
「三原君、電話鳴ってるみたいだよ」
「あーそうだな」
スマホが鳴り、運転中なので出ないでいたが、しばらくしてまた電話が鳴った。
(誰かな)
「何度も鳴るってことは急ぎかも?」
「どうだろうな」
「ちょっと止まって出てみたほうがいいんじゃない?」
「あー……うん……」
「わたしはいいから」
「わかった。悪い、じゃあ、ちょっとそこのコンビニに入るな」
舞衣の承諾を得て、浩輔はコンビニの駐車場に入った。
スマホを覗き、着歴を確認する。
(ミサさんだ)
「ちょっと電話かけるから、そのまま待ってて」
「うん、わたしは大丈夫だから」
エンジンを掛けたまま、浩輔は車を降りた。
「……もしもし。三原です。どうしました?」
ミサと電話がつながった。
『今日の夜、来てくれる?』
「……はい、いいですよ」
『じゃあ、待ってるね」
「時間は?」
『いつもどおりでいいよ』
「わかりました。じゃあ、また……」
『三原君、今、何してた?』
通話終了ボタンを押そうとスマホを耳から離しかけたが、ミサは会話を続けてくる。
「今、食事に行ってました」
『誰と?』
「……友達です」
『今も一緒?』
「はい、そうです」
『そう。邪魔してごめんね』
「いえ、大丈夫です。じゃあ、また」
『うん、あとでね』
ミサとの電話を終え、運転席に戻る。
「お待たせ。悪かったな」
「ううん、大丈夫。電話の方は大丈夫なの? その人と用事があるなら、わたしこれで帰っても……」
「いや、大丈夫だよ」
「彼女、じゃない……?」
舞衣は申し訳なさそうに言った。
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