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【孝太郎×香穂編】
2.危険
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その後、香穂の電話に孝太郎から連絡が入るようになった。
と言っても、孝太郎は部活が忙しく、滅多には入ってこないのだが。
あとで知るのだが、弟・健輔の恋人の彩織とつきあっていた期間もその調子だったらしい。
『今度の日曜日に、競技場で、午前10時から試合開始です。たぶん、俺はスタメンです』
非常に簡素なメールだった。
絵文字やスタンプすらない。
『了解です。応援に行くよ』
しょうがないのに香穂も文字だけの返信をした。
絵文字もスタンプも使わないし、不精なのかな、と感じたが、単にアナログなのかもしれない。
(彼女だった頃の彩織ちゃん、どう思ってたのかな)
まあいいか、と香穂はスマホを閉じた。
「今日、孝太郎君帰ってくるんだっけ」
明日が試合だしね、と徐にスマホに目をやる。
メッセージが来るわけがない。
「何期待してんだろ」
すると、電話がふいに鳴って香穂は慌てた。
ディスプレイを見ると、見覚えのある名前だった。
登録を削除した相手だった。
一瞬にして、香穂の顔は曇った。
(ブロックしてなかったっけ)
「……はい」
『実家に戻ってきました。これから走り込み行きまーす』
香穂が出かける用意をしていると、珍しく孝太郎から連絡が入ってきた。
「あ……」
『気をつけてね。わたしも今から人と会ってきます』
そして、香穂は家族に「ちょっと出てくる」と言って公園に向かった。
スマホがメッセージの到着を知らせる。
……珍しく、孝太郎がすぐに返信をしてきたようだ。
『今から? 夜だから香穂さんも気をつけて』
誰と会うのかを言おうか……。
香穂は躊躇ったが、
『気をつけます』
と返事をした。
公園に着くと、相手はいた。
駐車場の、外灯の下に車を停めていて、香穂は乗るように促された。
少し前までつきあっていた男・松浦だった。
「今更何の用? 夜遅いんだから、早くして」
乗り込むと、香穂は言い放った。
「やり直さないか」
「はっ? 言ったでしょ。もう終わったの」
十歳年上の松浦は、香穂とつきあっていながら別の女性と結婚した最低な男だ。
香穂の心からはもうとっくに消えている。
「妻とは別れる」
「常套手段ね」
「今度こそ本当だって。結婚して一年経ったけど、やっぱりうまくいかなかったんだよ」
「何言ってるんですか? もうそんなでまかせ、うんざりなの。あなたの夫婦喧嘩にわたしを巻き込まないでくれる?」
キッ、と松浦をにらみ付けた。
「結局は奥さんと寄り戻して。自分の欲求満たしたいときだけわたしを呼びつけて。なんなの? 話はそれだけ?」
「香穂……」
松浦は、香穂に覆いかぶさってきた。
「ちょっ、何すんのよ。やめてよ! 帰るからどいて!」
「いや、帰さない。なんだよ香穂、素っ気無いな。好きなやつができたのか? おまえはもう俺しか満足できないはずだろ?」
「何するのっ、やめてっ、話して!」
香穂はもがいた。
気持ち悪い!
松浦の唇が自分の身体に触れると悪寒が走る。
もう憎悪しかなかった。
香穂は必死に助手席のドアを開け、車から飛び出した。
「いやっ」
香穂の背後から、再び松浦が覆いかぶさる。
「いやーっ」
もがく香穂の両腕を押さえつけ、松浦は香穂の首筋に唇を這わせた。
(気持ち悪いっ)
「助けてーっ」
こんな夜に誰が通るだろう……。
涙が溢れた。
両腕は頭の上で、松浦の片手で押さえつけられた。
すごい力だった。
やはり相手は男だ。
足をばたつかせても、身体を捻っても逃れられない。
少し前までは、この男に身体を委ねていた。
好きだった。
なんで馬鹿なことだったんだろう……そんな自分が非常に情けなく思った。
「いやだ……」
香穂の身体を松浦が貪る。
「本当はイイんだろう? いつも悦んでたもんな……」
さんざん身体をなぶられ、香穂は力を失った。
アスファルトの上で組み伏せられ、手足がズキズキと痛んだ。
「そろそろ……」
カチャカチャと、松浦がベルトを外す音がした。
(こんなことなら……孝太郎君に言えばよかった……)
***
「何やってんだよ!」
孝太郎は、男の襟首を掴むと背後からぶっ飛ばした。
「いでっ」
男は右方向に飛んだ。
孝太郎は慌てて、彼女の身体を抱き起こし、庇った。
「大丈夫か」
「何すんだテメェ……」
男は飛んだときに地面に当たった肩を払いながら孝太郎に向き直った。
「それはこっちの台詞だ。あ……あんた、今この人に何してた」
「誰だおまえ。クソガキはすっこんでろ」
孝太郎は立ち上がり、男……松浦に詰め寄る。
少し前にも「ガキ」だと誰かに言われた記憶がある。
大人の男は、年下には「ガキ」と言う生き物なのだろうか。
「あんた……何やってるかわかってんのか? 強姦だぞ」
「強姦? 自分の女とヤッて何が悪い」
「自分の女? この人は嫌がってるだろ」
「嫌がってるフリだろ」
「ふざけるな!」
孝太郎は大声で叫んだ。
「嫌がる女性を無理やり強姦するなんて……犯罪だぞ。車のナンバーは控えた。あんたのことだって調べたらすぐわかる。強姦かそうでないかは……この人が言えなくても、俺が証言できる」
双方は睨み合った。
「今すぐ消えろ」
低い声で、唸るように孝太郎は言った。
松浦は、チッと舌打ちをし、
「冗談だよ……。まだしてないんだから、強姦にはならないだろ」
薄笑いを浮かべた。
「さっさと消えろ」
背の高い孝太郎は、松浦に詰め寄った。
松浦は車に乗り込むと、見向きもせずに走り去った。
車が完全に見えなくなると、孝太郎は香穂に向き直った。
「香穂さん、大丈夫かっ」
自分のジャージの上着を脱ぎ、香穂にかけてやる。
孝太郎はTシャツに一枚になってしまったが、寒さは気にならなかった。
「香穂さん……」
香穂の姿は無残なものだった。
髪も服も乱れている。
手足には血が滲んでいる。
彼女はぼろぼろと涙を流し、過呼吸に苦しんでいた。
「香穂さん……香穂さん、もう大丈夫ですから」
孝太郎は腰をかがめ、香穂をぎゅっと抱きしめた。
香穂は孝太郎の胸に身体を預け、嗚咽をもらした。
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
香穂の過呼吸が止まっても、香穂は放心状態のままだった。
香穂の服の汚れや髪の汚れを払い、彼女を立たせるが、ふらふらとよろめく。
孝太郎は足を投げ出し、香穂を両腕で包むように座らせた。
よく見ると、上衣はあってないようなものだった。
目のやり場に困り、ジャージのジッパーを上げた。
さらによく見ると、香穂の左頬には擦り傷があった。
孝太郎は、汚れかと思って右手で撫でたあとに擦り傷だと気づいた。
香穂のきれいな顔に傷がついてしまったことに、怒りを覚えた。
自分のタオルで香穂の顔の汚れを払う。
「もっと早く、俺が気づいてたら……」
孝太郎が公園で走りこみをしていると、香穂が駐車場に現れた。
そして、車から男が降りて、車に乗りこむのが見えた。
(あれが……けじめつけた相手かな……)
どこかへ行く様子もなく、車中で話をしている様子だった。
孝太郎は公園内を一周した。
そして、一周すると、様子が一変していたのだ。
車中で話をしていたはずの二人だったのに、姿が見えなかった。
(あれ? いない)
車のドアは運転席側も助手席側も開きっぱなしだった。
ヘンだな、と感じた。
キョロキョロと少し離れた所へ目をやると……。
車から少し離れた所で、男は香穂に馬乗りになっていたのだ……!
「ごめんね、香穂さん」
ぎゅうっ、と香穂を抱きしめる。
香穂の心臓音が伝わってきた。
異常な速さだった。
「怖い思いさせたね、ごめんね」
ぶるぶるがくがく、と香穂の身体は震えている。
相手を殴ってやりたかった。
でもそんなことするわけにもいかない。
もしそんなことをしていたら、大学のみんなに迷惑がかかる。
よく思いとどまったもんだな、と自嘲した。
でも、次会った時は絶対ぶん殴ってやる。
孝太郎は決意した。
どれくらい香穂のことを抱きしめていただろう。
力のこもっていた拳は、いつの間にか緩んでおり、孝太郎の胸に添えられていた。
それに気づいた孝太郎は、
「香穂さん、大丈夫か?」
顔を覗き込んだ。
まだ目は虚ろだったが、孝太郎の質問には答えられるようだった。
こくり、と小さくうなずいた。
「もう少し、このままでいようか?」
こくり、とまた頷いた。
ただ黙って彼女の身体を抱きしめていた。
孝太郎の胸に頭を預け、目を閉じた。
「孝太郎君の腕の中、なんだかきもちいい……」
「えっ?」
香穂の目から涙が一つ、流れ落ちた。
香穂のカバンの中身を拾い集め、詰めたあとは自分が持った。
香穂を左側に立たせて右手を握った。
彼女は俯き、よろよろしながらもゆっくりと歩き出す。
「警察に届けますか?」
というと、香穂は首を横に振った。
届けたら、相手のことも自分のことも晒されてしまうのが怖い、というようなことを、か細い声で言った。
高月家に着き、門のところで香穂と別れる。
家に着く頃には香穂の状態はましになっていた。
「それじゃ、香穂さん。もうゆっくり休みましょう……」
「うん……」
「明日も、ゆっくり休んだほうがいいよ」
「うん……」
「何かあったら……俺が力になれることなら、相談に乗るから」
「うん……」
「それじゃ、おやすみなさい」
「うん……おやすみなさい……」
香穂の姿が消えるまで孝太郎は見送った。
いつも吠えるダイキチの声も聞こえなかったことにホッとした。
と言っても、孝太郎は部活が忙しく、滅多には入ってこないのだが。
あとで知るのだが、弟・健輔の恋人の彩織とつきあっていた期間もその調子だったらしい。
『今度の日曜日に、競技場で、午前10時から試合開始です。たぶん、俺はスタメンです』
非常に簡素なメールだった。
絵文字やスタンプすらない。
『了解です。応援に行くよ』
しょうがないのに香穂も文字だけの返信をした。
絵文字もスタンプも使わないし、不精なのかな、と感じたが、単にアナログなのかもしれない。
(彼女だった頃の彩織ちゃん、どう思ってたのかな)
まあいいか、と香穂はスマホを閉じた。
「今日、孝太郎君帰ってくるんだっけ」
明日が試合だしね、と徐にスマホに目をやる。
メッセージが来るわけがない。
「何期待してんだろ」
すると、電話がふいに鳴って香穂は慌てた。
ディスプレイを見ると、見覚えのある名前だった。
登録を削除した相手だった。
一瞬にして、香穂の顔は曇った。
(ブロックしてなかったっけ)
「……はい」
『実家に戻ってきました。これから走り込み行きまーす』
香穂が出かける用意をしていると、珍しく孝太郎から連絡が入ってきた。
「あ……」
『気をつけてね。わたしも今から人と会ってきます』
そして、香穂は家族に「ちょっと出てくる」と言って公園に向かった。
スマホがメッセージの到着を知らせる。
……珍しく、孝太郎がすぐに返信をしてきたようだ。
『今から? 夜だから香穂さんも気をつけて』
誰と会うのかを言おうか……。
香穂は躊躇ったが、
『気をつけます』
と返事をした。
公園に着くと、相手はいた。
駐車場の、外灯の下に車を停めていて、香穂は乗るように促された。
少し前までつきあっていた男・松浦だった。
「今更何の用? 夜遅いんだから、早くして」
乗り込むと、香穂は言い放った。
「やり直さないか」
「はっ? 言ったでしょ。もう終わったの」
十歳年上の松浦は、香穂とつきあっていながら別の女性と結婚した最低な男だ。
香穂の心からはもうとっくに消えている。
「妻とは別れる」
「常套手段ね」
「今度こそ本当だって。結婚して一年経ったけど、やっぱりうまくいかなかったんだよ」
「何言ってるんですか? もうそんなでまかせ、うんざりなの。あなたの夫婦喧嘩にわたしを巻き込まないでくれる?」
キッ、と松浦をにらみ付けた。
「結局は奥さんと寄り戻して。自分の欲求満たしたいときだけわたしを呼びつけて。なんなの? 話はそれだけ?」
「香穂……」
松浦は、香穂に覆いかぶさってきた。
「ちょっ、何すんのよ。やめてよ! 帰るからどいて!」
「いや、帰さない。なんだよ香穂、素っ気無いな。好きなやつができたのか? おまえはもう俺しか満足できないはずだろ?」
「何するのっ、やめてっ、話して!」
香穂はもがいた。
気持ち悪い!
松浦の唇が自分の身体に触れると悪寒が走る。
もう憎悪しかなかった。
香穂は必死に助手席のドアを開け、車から飛び出した。
「いやっ」
香穂の背後から、再び松浦が覆いかぶさる。
「いやーっ」
もがく香穂の両腕を押さえつけ、松浦は香穂の首筋に唇を這わせた。
(気持ち悪いっ)
「助けてーっ」
こんな夜に誰が通るだろう……。
涙が溢れた。
両腕は頭の上で、松浦の片手で押さえつけられた。
すごい力だった。
やはり相手は男だ。
足をばたつかせても、身体を捻っても逃れられない。
少し前までは、この男に身体を委ねていた。
好きだった。
なんで馬鹿なことだったんだろう……そんな自分が非常に情けなく思った。
「いやだ……」
香穂の身体を松浦が貪る。
「本当はイイんだろう? いつも悦んでたもんな……」
さんざん身体をなぶられ、香穂は力を失った。
アスファルトの上で組み伏せられ、手足がズキズキと痛んだ。
「そろそろ……」
カチャカチャと、松浦がベルトを外す音がした。
(こんなことなら……孝太郎君に言えばよかった……)
***
「何やってんだよ!」
孝太郎は、男の襟首を掴むと背後からぶっ飛ばした。
「いでっ」
男は右方向に飛んだ。
孝太郎は慌てて、彼女の身体を抱き起こし、庇った。
「大丈夫か」
「何すんだテメェ……」
男は飛んだときに地面に当たった肩を払いながら孝太郎に向き直った。
「それはこっちの台詞だ。あ……あんた、今この人に何してた」
「誰だおまえ。クソガキはすっこんでろ」
孝太郎は立ち上がり、男……松浦に詰め寄る。
少し前にも「ガキ」だと誰かに言われた記憶がある。
大人の男は、年下には「ガキ」と言う生き物なのだろうか。
「あんた……何やってるかわかってんのか? 強姦だぞ」
「強姦? 自分の女とヤッて何が悪い」
「自分の女? この人は嫌がってるだろ」
「嫌がってるフリだろ」
「ふざけるな!」
孝太郎は大声で叫んだ。
「嫌がる女性を無理やり強姦するなんて……犯罪だぞ。車のナンバーは控えた。あんたのことだって調べたらすぐわかる。強姦かそうでないかは……この人が言えなくても、俺が証言できる」
双方は睨み合った。
「今すぐ消えろ」
低い声で、唸るように孝太郎は言った。
松浦は、チッと舌打ちをし、
「冗談だよ……。まだしてないんだから、強姦にはならないだろ」
薄笑いを浮かべた。
「さっさと消えろ」
背の高い孝太郎は、松浦に詰め寄った。
松浦は車に乗り込むと、見向きもせずに走り去った。
車が完全に見えなくなると、孝太郎は香穂に向き直った。
「香穂さん、大丈夫かっ」
自分のジャージの上着を脱ぎ、香穂にかけてやる。
孝太郎はTシャツに一枚になってしまったが、寒さは気にならなかった。
「香穂さん……」
香穂の姿は無残なものだった。
髪も服も乱れている。
手足には血が滲んでいる。
彼女はぼろぼろと涙を流し、過呼吸に苦しんでいた。
「香穂さん……香穂さん、もう大丈夫ですから」
孝太郎は腰をかがめ、香穂をぎゅっと抱きしめた。
香穂は孝太郎の胸に身体を預け、嗚咽をもらした。
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
香穂の過呼吸が止まっても、香穂は放心状態のままだった。
香穂の服の汚れや髪の汚れを払い、彼女を立たせるが、ふらふらとよろめく。
孝太郎は足を投げ出し、香穂を両腕で包むように座らせた。
よく見ると、上衣はあってないようなものだった。
目のやり場に困り、ジャージのジッパーを上げた。
さらによく見ると、香穂の左頬には擦り傷があった。
孝太郎は、汚れかと思って右手で撫でたあとに擦り傷だと気づいた。
香穂のきれいな顔に傷がついてしまったことに、怒りを覚えた。
自分のタオルで香穂の顔の汚れを払う。
「もっと早く、俺が気づいてたら……」
孝太郎が公園で走りこみをしていると、香穂が駐車場に現れた。
そして、車から男が降りて、車に乗りこむのが見えた。
(あれが……けじめつけた相手かな……)
どこかへ行く様子もなく、車中で話をしている様子だった。
孝太郎は公園内を一周した。
そして、一周すると、様子が一変していたのだ。
車中で話をしていたはずの二人だったのに、姿が見えなかった。
(あれ? いない)
車のドアは運転席側も助手席側も開きっぱなしだった。
ヘンだな、と感じた。
キョロキョロと少し離れた所へ目をやると……。
車から少し離れた所で、男は香穂に馬乗りになっていたのだ……!
「ごめんね、香穂さん」
ぎゅうっ、と香穂を抱きしめる。
香穂の心臓音が伝わってきた。
異常な速さだった。
「怖い思いさせたね、ごめんね」
ぶるぶるがくがく、と香穂の身体は震えている。
相手を殴ってやりたかった。
でもそんなことするわけにもいかない。
もしそんなことをしていたら、大学のみんなに迷惑がかかる。
よく思いとどまったもんだな、と自嘲した。
でも、次会った時は絶対ぶん殴ってやる。
孝太郎は決意した。
どれくらい香穂のことを抱きしめていただろう。
力のこもっていた拳は、いつの間にか緩んでおり、孝太郎の胸に添えられていた。
それに気づいた孝太郎は、
「香穂さん、大丈夫か?」
顔を覗き込んだ。
まだ目は虚ろだったが、孝太郎の質問には答えられるようだった。
こくり、と小さくうなずいた。
「もう少し、このままでいようか?」
こくり、とまた頷いた。
ただ黙って彼女の身体を抱きしめていた。
孝太郎の胸に頭を預け、目を閉じた。
「孝太郎君の腕の中、なんだかきもちいい……」
「えっ?」
香穂の目から涙が一つ、流れ落ちた。
香穂のカバンの中身を拾い集め、詰めたあとは自分が持った。
香穂を左側に立たせて右手を握った。
彼女は俯き、よろよろしながらもゆっくりと歩き出す。
「警察に届けますか?」
というと、香穂は首を横に振った。
届けたら、相手のことも自分のことも晒されてしまうのが怖い、というようなことを、か細い声で言った。
高月家に着き、門のところで香穂と別れる。
家に着く頃には香穂の状態はましになっていた。
「それじゃ、香穂さん。もうゆっくり休みましょう……」
「うん……」
「明日も、ゆっくり休んだほうがいいよ」
「うん……」
「何かあったら……俺が力になれることなら、相談に乗るから」
「うん……」
「それじゃ、おやすみなさい」
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