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【孝太郎×香穂編】
3.接近
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翌日は、予定通り孝太郎は練習試合に出ることができた。
市内の競技場で試合。
やはり相手の大学は地元だけあって、学生の応援が結構多い。
こちらはアウェーなので殆ど応援はない。
まぁ単なる練習試合なのでしょうがないか、と孝太郎は言い聞かせる。
本当は今日は香穂が来てくれるはずだったが、昨夜のことがあって、香穂は来るはずがなかった。
大丈夫かな、と心配になる孝太郎。
今日、帰らなければいけないのが悔しい。
試合はこちら側有利に進んでいった。
こちらはサッカーのレベルは格段に上だった。
孝太郎は観客に香穂の姿がないのを見て、やっぱり来れないよな、と苦笑した。
フォワードの孝太郎は一点だけ得点を入れた。
その後、選手交代で孝太郎はベンチに戻る。
香穂さんに見てもらいたかったなあ、と思った孝太郎。
試合は、大差で勝利した。
試合を終え、戻るとき、孝太郎は香穂の姿を捕らえた気がした。
……よく見るとやはり香穂だった。
競技場を出てバスに乗り込んでいると、孝太郎は間違いなく香穂の姿を見つけることができた。
「ちょっと先に乗っててください」
と孝太郎は乗り込む前に帰ろうとしている香穂のもとへ走る。
香穂はびっくりしていた。
びっくりするのはこちらのほうだ、と孝太郎は目を丸くさせた。
「香穂さん……来てくれたんだ」
「うん、誘ってくれたでしょ。せっかくこっちであるんだし。勇姿見たいじゃない?」
どこから見てたの、という問いに、どこからって答えられないけど、孝太郎君がシュートしたのは見たよ、という。
孝太郎は照れながらもにやける。
「そのあとすぐ交代したけど」
「肝心なとこはちゃんと見られたから」
と言われ、孝太郎はにやけてしまう。
「それより、大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって……その……身体とか、痛まない? ゆっくり休まなくてもいいの……かなって」
「……全然平気、ってわけじゃないけど……腐っているわけにもいかないし」
香穂は小さく笑う。
孝太郎は香穂の左頬に手を当て、傷が、とつぶやく。
「残ったらどうしよう」
そっと撫でると、香穂は言った。
「大丈夫。治るよ。……わたし、孝太郎君が助けてくれて嬉しかった。ありがと」
「えっ……」
「昨日、言ってなかったから。ほら、みなさん、待ってるよ。早く行かなきゃ」
「けど、香穂さんが……」
わたしのことはいいから、ほら行った行った、という。
「あ、それとコレ。差し入れね」
香穂は袋に入ったおやつを渡す。
子供の頃、香穂が三人によく作ってくれた焼菓子だった。
「うわっ、ありがとう。いいの? 俺たちが子供の頃よく作ってもらってた焼き菓子だよね」
「まぁ、そうね」
「ありがとう。……あの、あとで、電話していいですか」
「うん」
名残惜しそうに孝太郎は踵を返した。
小さく香穂が手を振ると、孝太郎も満面の笑みで大きく手を振った。
バスに乗ると、チームメートたちがにやにやしていた。
「地元の彼女って今の子か?」
「可愛い子だな。可愛いっていうか、美人」
「違いますよ」
「あれっ、別れたんじゃなかったっけ」
「そうなの?」
「じゃ、今の誰だよ」
「いちゃいちゃしやがって」
「なんだよあれ、今にもチューしそうだったな」
「つーか、しろよ」
……と口々に言われてしまう。
「幼馴染で親友のやつの姉さんですよ」
「幼馴染の姉貴? じゃあ幼馴染じゃん」
それもそうだな、と納得する孝太郎。
「彼女じゃないのか。じゃあ俺に紹介しろよ。年上でもいいし」
「イヤだよ」
「年上だったらいろいろ教えてくれそう~」
「何をだよ」
「何でもだよ。むひひひひ……」
「彼氏いるのかな」
「いてもいいからさー。むひひひひ……」
ガハハハと先輩たちは笑う。
「なんだなんだ? なんかもらってる」
「見せろよ」
「ダメですよ、せっかくもらったんですから」
チームメイトたちの冷やかしも気にせず、孝太郎は座席に座った。
孝太郎は、香穂が来てくれたことが、しかも自分が活躍したシーンを見てくれていたことに嬉しさを隠せないでいた。
そして子供の頃から好きな焼き菓子を差し入れてくれた。
しかも孝太郎の好きなケーキを覚えてくれている。
健輔も彩織も孝太郎も、大好物の味が違うのに。
嬉しい反面、昨日の夜、あんな目にあったのに……本当に大丈夫なのかな、と心配になっていた。
無理してる、絶対無理してる。
香穂のぬくもりを思い出し、一人赤くなる孝太郎だった。
今日はこのまま宿に荷物を取りに行って学校に戻り、実家には戻らないため、香穂にはしばらく会えない。
孝太郎は、いつの間にか心のなかを、香穂が占めていることに気づいていなかった。
半年前は、彩織でいっぱいだったはずなのに、なぜか香穂が気にかかる……。
香穂は、幼馴染であり親友の健輔の姉だ。
まして相手は四歳年上、大人の女性だ。
信用金庫職員で、きっと職場にはいい男がいるはずだ。
現に不倫相手も随分年上のやつだったし……と幸太郎はもやもやする胸をかき毟る。
どうして香穂のことが浮かぶのだろう。
香穂の周囲の男が気になる。
考えるともやもやする。
あんなことがあったあとだ、香穂のそばにいてあげたいのに。
なんで俺は何もできないのだろう。
いつも面倒を見てくれていた姉のような人に、恩返しすらできないなんて。
(姉……)
ズキン、と胸が痛むのはなぜだろう……?
市内の競技場で試合。
やはり相手の大学は地元だけあって、学生の応援が結構多い。
こちらはアウェーなので殆ど応援はない。
まぁ単なる練習試合なのでしょうがないか、と孝太郎は言い聞かせる。
本当は今日は香穂が来てくれるはずだったが、昨夜のことがあって、香穂は来るはずがなかった。
大丈夫かな、と心配になる孝太郎。
今日、帰らなければいけないのが悔しい。
試合はこちら側有利に進んでいった。
こちらはサッカーのレベルは格段に上だった。
孝太郎は観客に香穂の姿がないのを見て、やっぱり来れないよな、と苦笑した。
フォワードの孝太郎は一点だけ得点を入れた。
その後、選手交代で孝太郎はベンチに戻る。
香穂さんに見てもらいたかったなあ、と思った孝太郎。
試合は、大差で勝利した。
試合を終え、戻るとき、孝太郎は香穂の姿を捕らえた気がした。
……よく見るとやはり香穂だった。
競技場を出てバスに乗り込んでいると、孝太郎は間違いなく香穂の姿を見つけることができた。
「ちょっと先に乗っててください」
と孝太郎は乗り込む前に帰ろうとしている香穂のもとへ走る。
香穂はびっくりしていた。
びっくりするのはこちらのほうだ、と孝太郎は目を丸くさせた。
「香穂さん……来てくれたんだ」
「うん、誘ってくれたでしょ。せっかくこっちであるんだし。勇姿見たいじゃない?」
どこから見てたの、という問いに、どこからって答えられないけど、孝太郎君がシュートしたのは見たよ、という。
孝太郎は照れながらもにやける。
「そのあとすぐ交代したけど」
「肝心なとこはちゃんと見られたから」
と言われ、孝太郎はにやけてしまう。
「それより、大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって……その……身体とか、痛まない? ゆっくり休まなくてもいいの……かなって」
「……全然平気、ってわけじゃないけど……腐っているわけにもいかないし」
香穂は小さく笑う。
孝太郎は香穂の左頬に手を当て、傷が、とつぶやく。
「残ったらどうしよう」
そっと撫でると、香穂は言った。
「大丈夫。治るよ。……わたし、孝太郎君が助けてくれて嬉しかった。ありがと」
「えっ……」
「昨日、言ってなかったから。ほら、みなさん、待ってるよ。早く行かなきゃ」
「けど、香穂さんが……」
わたしのことはいいから、ほら行った行った、という。
「あ、それとコレ。差し入れね」
香穂は袋に入ったおやつを渡す。
子供の頃、香穂が三人によく作ってくれた焼菓子だった。
「うわっ、ありがとう。いいの? 俺たちが子供の頃よく作ってもらってた焼き菓子だよね」
「まぁ、そうね」
「ありがとう。……あの、あとで、電話していいですか」
「うん」
名残惜しそうに孝太郎は踵を返した。
小さく香穂が手を振ると、孝太郎も満面の笑みで大きく手を振った。
バスに乗ると、チームメートたちがにやにやしていた。
「地元の彼女って今の子か?」
「可愛い子だな。可愛いっていうか、美人」
「違いますよ」
「あれっ、別れたんじゃなかったっけ」
「そうなの?」
「じゃ、今の誰だよ」
「いちゃいちゃしやがって」
「なんだよあれ、今にもチューしそうだったな」
「つーか、しろよ」
……と口々に言われてしまう。
「幼馴染で親友のやつの姉さんですよ」
「幼馴染の姉貴? じゃあ幼馴染じゃん」
それもそうだな、と納得する孝太郎。
「彼女じゃないのか。じゃあ俺に紹介しろよ。年上でもいいし」
「イヤだよ」
「年上だったらいろいろ教えてくれそう~」
「何をだよ」
「何でもだよ。むひひひひ……」
「彼氏いるのかな」
「いてもいいからさー。むひひひひ……」
ガハハハと先輩たちは笑う。
「なんだなんだ? なんかもらってる」
「見せろよ」
「ダメですよ、せっかくもらったんですから」
チームメイトたちの冷やかしも気にせず、孝太郎は座席に座った。
孝太郎は、香穂が来てくれたことが、しかも自分が活躍したシーンを見てくれていたことに嬉しさを隠せないでいた。
そして子供の頃から好きな焼き菓子を差し入れてくれた。
しかも孝太郎の好きなケーキを覚えてくれている。
健輔も彩織も孝太郎も、大好物の味が違うのに。
嬉しい反面、昨日の夜、あんな目にあったのに……本当に大丈夫なのかな、と心配になっていた。
無理してる、絶対無理してる。
香穂のぬくもりを思い出し、一人赤くなる孝太郎だった。
今日はこのまま宿に荷物を取りに行って学校に戻り、実家には戻らないため、香穂にはしばらく会えない。
孝太郎は、いつの間にか心のなかを、香穂が占めていることに気づいていなかった。
半年前は、彩織でいっぱいだったはずなのに、なぜか香穂が気にかかる……。
香穂は、幼馴染であり親友の健輔の姉だ。
まして相手は四歳年上、大人の女性だ。
信用金庫職員で、きっと職場にはいい男がいるはずだ。
現に不倫相手も随分年上のやつだったし……と幸太郎はもやもやする胸をかき毟る。
どうして香穂のことが浮かぶのだろう。
香穂の周囲の男が気になる。
考えるともやもやする。
あんなことがあったあとだ、香穂のそばにいてあげたいのに。
なんで俺は何もできないのだろう。
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