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【孝太郎×香穂編】
4.嫉妬
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「高月さん、お願いっ」
同僚の幸子に拝まれた。
他支店との職員と合同の飲み会をする、ということで参加を募られたのだ。
「えーっ……」
同じ支店勤務の幸子は、二期後輩ではあるが、短大卒の彼女とは同じ年ということもあり、親しくしていた。
「たまには行こうよぉ。ちょっと座ってるだけでいいから、ねっ」
たまには気晴らしで行ってみるか、と香穂は首を縦に振った。
幸子は「やった」とはしゃぐ。
そんなはしゃぐことかな、と香穂は苦笑した。
香穂は、自分が思っている以上に美人の部類に入る、ということに気づいていない。
孝太郎の母親が「キレイになった」と言うのはお世辞ではなかった。
派手でも地味でもなく、清楚な美人と言えた。
いつもは参加を拒否する香穂が、珍しく飲み会に参加するということで、香穂に好意のある男性職員たちは浮き足立っていた。
香穂が参加するだけで人数が集まるということを幸子は知っているのだ。
市内にある本店近くの店が会場になった。
集まったメンバーは、香穂や幸子たち女性行員四人と、他支店の男性職員五人だった。
顔見知りもいれば、初対面もいる。
ただ座っていればいい、と言われたが、なんだか苦痛だった。
酒は飲まないようにしているので、ソフトドリンクばかり。
料理が美味しくないわけではないが、何よりこの空気が苦痛だった。
隣に座っている男性が動くたびに、香穂はびくびくしてしまう。
別に何もしてくるはずなのに。
(孝太郎君……コワイ……)
「高月さん、彼氏作らないの?」
「えっ、あ……はい、特に……」
この場にいる誰もが、香穂の今までを知らないのだろう。
「じゃ、俺、立候補していい?」
「おい、ズルイぞ。俺俺、俺はずっと高月さんを狙ってたのっ」
「何それー。わたしたちの存在はぁ~」
幸子たちが口を尖らせる。
(いやだー……)
義務のように、男性職員たちとアドレス交換をしたが、香穂は嫌気がした。
甘酸っぱさも、胸の高鳴りもなかった。
思い浮かぶのは孝太郎の顔。
子供たちと遊ぶ無邪気な顔、試合の時の真剣な眼差し、自分に向けられた優しい瞳。
偶然とはいえ、寸でのところで救ってくれた孝太郎。
がっしりしているのに、優しい腕や指先。
心地好かった孝太郎の胸を思い出し、ぽっと身体がほてるのを感じた。
ようやく会はお開きになり、二次会に行くと皆が言い出したため、香穂は幸子に一言告げて、店を後にした。
「早く帰りたい」
一人で歩くのは危険だよ、と孝太郎に注意をされている。
タクシーで帰ろうか、バスで帰ろうか、と香穂は考えた。
孝太郎に電話をかけることにした。
(声が聞きたい……)
予想はしていたが、孝太郎は出ない。
「出るわけないか……」
とほほ、と肩を落としていると、
「高月さーん」
背後から声が。
香穂は身体を強ばらせて振り返った。
先ほどのメンバーの一人・吉野だった。
「二次会、行かないの?」
「はい、体調が悪いので帰ります」
「そうなんだ、残念。高月さんがいないんだったら、行ってもしょうがないなぁ。送ろうか」
うわーっ、と心のなかで叫んだ。
「駅まで車で来てますし、大丈夫です。置いてかれますよ、どうぞわたしにお構いなく」
それじゃ、と香穂は走り出した。
「あっ、ちょっと高月さん」
追いかけてくるなーっ、と香穂は全力で走った。
動悸が激しくなる。
怖い怖い……怖い……孝太郎君……助けて…………。
近くの有料駐車場に車を停めていた香穂は、出庫すると、まっすぐに帰宅したのだった。
家につき、入浴を済ませ、部屋に戻るとスマホに着信を知らせるランプが点滅していた。
「あっ…………」
孝太郎だった。
着信のあとに、メールが来ていたようだ。
今日は、絵文字が入っていた。
『着信に気づくのが遅れました。何かあったの?』
という心配するメールだった。
電話はせずに、メールで返信。
怖いことを思い出して、孝太郎君の声が聞きたくなって電話をかけてしまった、とメール。
心配かけてごめんね、もう大丈夫。
するとすぐに電話がかかってきた。
『練習終わって風呂入ってたんだ。気づくのが遅くてごめんね』
という。
胸が高鳴る。
『ううん、わたしもお風呂入ってて……電話、ありがと』
孝太郎の声が心地好く耳に届いた。
『香穂さん、さっき帰ったの?遅かったね』
「飲み会があったの」
『飲みすぎたらだめだよ』
「わかってる、今日も全然飲んでない」
『ならよかった。で、さっきの怖い思いって?』
「うーん……ちょっとね。わたしの思い込みというかちょっとトラウマみたい……」
『そっか……気をつけないとね……で。もしかして飲み会って合コン?』
「えっ、違うよ。どうして?」
『なんとなく。女性同士で怖い目にあうことってそんなない気がするから。男に持ち帰られそうになったのかなと思って』
「ちがうちがう」
『ほんとに?』
「ほんとよ」
『飲み会って、どんな男が来たの?』
「男の人だけじゃないよ、おなじ信金の人ばっかり。他支店の職員とかね
『いい男いた?』
「だから、合コンじゃないし」
『でも、男もいたんだろ?』
「まあね……けどどうだろ。わたしは興味わかなかったけど」
『そうなんだ』
孝太郎の声が少し上ずる。
「まぁ悪そうではなかったかな」
『当たり前だろ、最初から悪いの見せる男なんてどこにいるんだよ』
「前に一緒の支店だったヒトもいたなあ」
『香穂さん狙いのやついた?』
「さあー、興味ないからわかんない」
『なんで参加したんだよ』
「なんとなく、というか幸子が………同僚がしつこいから……」
『幸子さんって?』
「同僚の子。二期後輩だけど年は同じだから仲いいの」
『別に参加しなくってもよかったんじゃない? どう考えても香穂さんをダシにしてると思うけど』
「なんで?」
『香穂さん、美人だし……』
ごにょごにょ、と孝太郎は声が小さくなる。
「そんなことないと思うけど、単なる数合わせじゃない?」
『自分で思ってる以上に香穂さんって美人だよ』
「ありがと」
『うん……いやいやそうじゃなくて』
「なに?」
『変な男が寄ってくるかもしれないんだから、気をつけろってことだよ』
「はーいはい」
『なんでそんな軽い返事すんの? 俺は心配して言ってんのに』
「別に軽くなんて……もう懲りているから。だいたいなんで孝太郎君がそんなに怒るのよ」
『怒ってない』
「怒ってる、言い方がきついよ」
『怒ってないって』
「ほら怒ってる。なんで怒るのよ、へんなの」
『俺はただ、真剣に香穂さんのこと心配してるだけだよ』
「それはわかったけど、そんな言い方ないんじゃない」
『別にそんな……』
「わたしがどこの飲み会に行こうとあなたには関係ないでしょ」
『ぅっ……あぁそうだな。俺には関係ないよ。別に香穂さんが誰と会おうとさ』
「ならほっといて」
『あぁそうですか。わかったよ。首を突っ込んで悪かったな』
二人はけんか腰になり、電話を切る。
売り言葉に買い言葉、だった。
お互いモヤモヤしてしまう。
孝太郎はどうしてこんなにムカムカして、香穂に当たるような言い方になってしまったのかと後悔していた。
香穂は香穂で、孝太郎が腹を立てる理由がわからないし、イライラしてしまった。
「何よ。孝太郎君に言われる筋合いないし」
「何だよ。俺は、香穂さんがまた変な男にひどい目に遭わされないかって心配してるだけなのにさ」
それっきり……お互いはメールも電話もしなくなってしまった。
別に……それが当たり前だったんだ、と孝太郎も香穂も自分に言い聞かせた。
ただの弟の幼馴染だし。
同僚の幸子に拝まれた。
他支店との職員と合同の飲み会をする、ということで参加を募られたのだ。
「えーっ……」
同じ支店勤務の幸子は、二期後輩ではあるが、短大卒の彼女とは同じ年ということもあり、親しくしていた。
「たまには行こうよぉ。ちょっと座ってるだけでいいから、ねっ」
たまには気晴らしで行ってみるか、と香穂は首を縦に振った。
幸子は「やった」とはしゃぐ。
そんなはしゃぐことかな、と香穂は苦笑した。
香穂は、自分が思っている以上に美人の部類に入る、ということに気づいていない。
孝太郎の母親が「キレイになった」と言うのはお世辞ではなかった。
派手でも地味でもなく、清楚な美人と言えた。
いつもは参加を拒否する香穂が、珍しく飲み会に参加するということで、香穂に好意のある男性職員たちは浮き足立っていた。
香穂が参加するだけで人数が集まるということを幸子は知っているのだ。
市内にある本店近くの店が会場になった。
集まったメンバーは、香穂や幸子たち女性行員四人と、他支店の男性職員五人だった。
顔見知りもいれば、初対面もいる。
ただ座っていればいい、と言われたが、なんだか苦痛だった。
酒は飲まないようにしているので、ソフトドリンクばかり。
料理が美味しくないわけではないが、何よりこの空気が苦痛だった。
隣に座っている男性が動くたびに、香穂はびくびくしてしまう。
別に何もしてくるはずなのに。
(孝太郎君……コワイ……)
「高月さん、彼氏作らないの?」
「えっ、あ……はい、特に……」
この場にいる誰もが、香穂の今までを知らないのだろう。
「じゃ、俺、立候補していい?」
「おい、ズルイぞ。俺俺、俺はずっと高月さんを狙ってたのっ」
「何それー。わたしたちの存在はぁ~」
幸子たちが口を尖らせる。
(いやだー……)
義務のように、男性職員たちとアドレス交換をしたが、香穂は嫌気がした。
甘酸っぱさも、胸の高鳴りもなかった。
思い浮かぶのは孝太郎の顔。
子供たちと遊ぶ無邪気な顔、試合の時の真剣な眼差し、自分に向けられた優しい瞳。
偶然とはいえ、寸でのところで救ってくれた孝太郎。
がっしりしているのに、優しい腕や指先。
心地好かった孝太郎の胸を思い出し、ぽっと身体がほてるのを感じた。
ようやく会はお開きになり、二次会に行くと皆が言い出したため、香穂は幸子に一言告げて、店を後にした。
「早く帰りたい」
一人で歩くのは危険だよ、と孝太郎に注意をされている。
タクシーで帰ろうか、バスで帰ろうか、と香穂は考えた。
孝太郎に電話をかけることにした。
(声が聞きたい……)
予想はしていたが、孝太郎は出ない。
「出るわけないか……」
とほほ、と肩を落としていると、
「高月さーん」
背後から声が。
香穂は身体を強ばらせて振り返った。
先ほどのメンバーの一人・吉野だった。
「二次会、行かないの?」
「はい、体調が悪いので帰ります」
「そうなんだ、残念。高月さんがいないんだったら、行ってもしょうがないなぁ。送ろうか」
うわーっ、と心のなかで叫んだ。
「駅まで車で来てますし、大丈夫です。置いてかれますよ、どうぞわたしにお構いなく」
それじゃ、と香穂は走り出した。
「あっ、ちょっと高月さん」
追いかけてくるなーっ、と香穂は全力で走った。
動悸が激しくなる。
怖い怖い……怖い……孝太郎君……助けて…………。
近くの有料駐車場に車を停めていた香穂は、出庫すると、まっすぐに帰宅したのだった。
家につき、入浴を済ませ、部屋に戻るとスマホに着信を知らせるランプが点滅していた。
「あっ…………」
孝太郎だった。
着信のあとに、メールが来ていたようだ。
今日は、絵文字が入っていた。
『着信に気づくのが遅れました。何かあったの?』
という心配するメールだった。
電話はせずに、メールで返信。
怖いことを思い出して、孝太郎君の声が聞きたくなって電話をかけてしまった、とメール。
心配かけてごめんね、もう大丈夫。
するとすぐに電話がかかってきた。
『練習終わって風呂入ってたんだ。気づくのが遅くてごめんね』
という。
胸が高鳴る。
『ううん、わたしもお風呂入ってて……電話、ありがと』
孝太郎の声が心地好く耳に届いた。
『香穂さん、さっき帰ったの?遅かったね』
「飲み会があったの」
『飲みすぎたらだめだよ』
「わかってる、今日も全然飲んでない」
『ならよかった。で、さっきの怖い思いって?』
「うーん……ちょっとね。わたしの思い込みというかちょっとトラウマみたい……」
『そっか……気をつけないとね……で。もしかして飲み会って合コン?』
「えっ、違うよ。どうして?」
『なんとなく。女性同士で怖い目にあうことってそんなない気がするから。男に持ち帰られそうになったのかなと思って』
「ちがうちがう」
『ほんとに?』
「ほんとよ」
『飲み会って、どんな男が来たの?』
「男の人だけじゃないよ、おなじ信金の人ばっかり。他支店の職員とかね
『いい男いた?』
「だから、合コンじゃないし」
『でも、男もいたんだろ?』
「まあね……けどどうだろ。わたしは興味わかなかったけど」
『そうなんだ』
孝太郎の声が少し上ずる。
「まぁ悪そうではなかったかな」
『当たり前だろ、最初から悪いの見せる男なんてどこにいるんだよ』
「前に一緒の支店だったヒトもいたなあ」
『香穂さん狙いのやついた?』
「さあー、興味ないからわかんない」
『なんで参加したんだよ』
「なんとなく、というか幸子が………同僚がしつこいから……」
『幸子さんって?』
「同僚の子。二期後輩だけど年は同じだから仲いいの」
『別に参加しなくってもよかったんじゃない? どう考えても香穂さんをダシにしてると思うけど』
「なんで?」
『香穂さん、美人だし……』
ごにょごにょ、と孝太郎は声が小さくなる。
「そんなことないと思うけど、単なる数合わせじゃない?」
『自分で思ってる以上に香穂さんって美人だよ』
「ありがと」
『うん……いやいやそうじゃなくて』
「なに?」
『変な男が寄ってくるかもしれないんだから、気をつけろってことだよ』
「はーいはい」
『なんでそんな軽い返事すんの? 俺は心配して言ってんのに』
「別に軽くなんて……もう懲りているから。だいたいなんで孝太郎君がそんなに怒るのよ」
『怒ってない』
「怒ってる、言い方がきついよ」
『怒ってないって』
「ほら怒ってる。なんで怒るのよ、へんなの」
『俺はただ、真剣に香穂さんのこと心配してるだけだよ』
「それはわかったけど、そんな言い方ないんじゃない」
『別にそんな……』
「わたしがどこの飲み会に行こうとあなたには関係ないでしょ」
『ぅっ……あぁそうだな。俺には関係ないよ。別に香穂さんが誰と会おうとさ』
「ならほっといて」
『あぁそうですか。わかったよ。首を突っ込んで悪かったな』
二人はけんか腰になり、電話を切る。
売り言葉に買い言葉、だった。
お互いモヤモヤしてしまう。
孝太郎はどうしてこんなにムカムカして、香穂に当たるような言い方になってしまったのかと後悔していた。
香穂は香穂で、孝太郎が腹を立てる理由がわからないし、イライラしてしまった。
「何よ。孝太郎君に言われる筋合いないし」
「何だよ。俺は、香穂さんがまた変な男にひどい目に遭わされないかって心配してるだけなのにさ」
それっきり……お互いはメールも電話もしなくなってしまった。
別に……それが当たり前だったんだ、と孝太郎も香穂も自分に言い聞かせた。
ただの弟の幼馴染だし。
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