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10.相談
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今更人を好きになったとして、どうしたらいいのか。
大人の恋愛はどういう風にするのか、こんなピュアな気持ちでいいのか。
ナンパして、ちょっと一緒に飲んで、勢いですぐに身体を重ねて始まる恋だとか、誰かに紹介された女の子と付き合ってみて、何か違うと言われて終わった恋だとか。
……恋じゃなかった。考えてみれば、ドキドキしたり、会いたくてたまらない、なんて思ったことがなかった気がする。そもそも、相手のことをちゃんと好きだったのか、理解しようとしていたのか。
山岡に言おうか、言うまいか。
言うべきなのか、言うべきでないのか。
一晩明けて、朝山岡の顔を見るなり、
「聞いて欲しいことがあるんだけど」
とぶっきら棒に言った。
「うん、いいよ。今? それともまた飯食いに行くか?」
山岡は何かを察したように、場所を設けるかどうかを尋ねて来た。
「飲みに行こ、俺が奢るし」
「わかった」
仕事中に話すような内容ではないことを、山岡も感じたのだろう。
そして創平も、ただ食事をするより、酒があったほうがいいと感じた。酒は強くないが、今日は飲みながら話したい気分だった。
「山岡」
「ん?」
騒がしい居酒屋で、二人は向かい合わせになっている。
酒が強い山岡だが、初めから飛ばさずに、生ビールをちびちび飲んでいた。創平のほうは、まだ酒は飲んではいない。
「俺さ……」
「うん」
「もし俺が……俺がだよ、好きな人が出来て、本気出すって言ったら、笑うか」
創平は火が出そうなくらい恥ずかしかった。
「……笑うわけないだろ」
山岡は優しく笑った。
「今さらこんな男がマジ恋とかあり得ねえけど」
「そんなことねぇよ。いいじゃん、マジ恋。ピュアっピュアでさ」
「茶化すなよ」
「悪い悪い。で、好きな人って?」
「……倉橋さん」
山岡は驚かなかった。
自分は火が出そうなくらい恥ずかしいというのに、反応の薄さに困惑した。
「なんだ、自覚したのか」
「え、何それ」
「いや、だって、露骨に真緒ちゃん見てるし、気にしてるのバレバレだよ?」
「…………」
「恋する男の目だもんな」
「……ムカつく」
「ムカつかなくていいじゃん」
山岡は、優しい笑みを絶やさず、創平を見返した。
「俺はちゃんと応援するよ?」
「好きかなって最近わかったばっかだし、つきあいたいとかどうにかなりたいとか、そういうのは正直わかんねえ……。けど、青葉の息子とつきあうのは嫌だと思ってる」
うんうん、と山岡は頷く。
「それって、松浦が倉橋さんを好きだから、誰にも渡したくないってことだろ?」
「別に、青葉の息子じゃなければ……」
「嘘だろ? じゃあ、青葉の御曹司じゃなくて、その辺のチャラい男が真緒ちゃんの彼氏になったらどうよ」
「嫌」
「だろ? 自分に振り向かせられるように行動したらいいと思うよ。てか付き合えばいいのに」
山岡が自分の真緒に対する好意に、鼓舞するような発言をするのが意外だった。
「そんな簡単に言うなよ。それに……おまえは、俺と付き合う相手に『性格悪いから付き合うな』って忠告するんだろ」
「え? 俺が?」
「うん。俺と付き合おうとする相手がいたら全力で止めるって……」
そうなの、と山岡は首を傾げた。
以前、真緒に対する創平の言動に腹を立てた山岡と諍いを起こした時に、山岡が真緒にそのようなことを言っていたからだ。盗み聞きしていた創平はしっかり覚えていた。
「だから……もし、倉橋さんが俺と付き合ってもいいって言っても、おまえは止めるわけだろうし」
「俺はそんなこと言った覚えないけど」
(いや言ったぞ!?)
覚えていないくらい、よほど自分に腹を立てていたのだろうか。
創平は深く食い下がるのはやめた。
「どちらにしろ、俺自身が、あの子と付き合うのとか想像できねえから」
「なんで?」
「嫌われてるし」
「嫌われてはないだろ。メッセージくれるくらいなんだから」
「あんなに暴言吐いといて、今更……」
「まあ以前のおまえのままなら、ビビられてたかもなあ」
くくく、と山岡は面白そうに笑う。
(絶対面白がっている……)
応援するのかしないのかどっちだよ、と頬を叩きたくなる。
「それにさ……ろくに、まともな女と付き合ったことねぇし」
「まあ……女にガツガツしてるおまえが、仮にあの子と付き合って、ずっと手出さないで我慢できるのとか想像できないな」
「ムカつくな!」
ムカつきはするが、自分をよく知っている山岡だ、外れてはいないだろう。
「来る者拒まず去る者追わずの松浦だもんね、正直女癖がいいとは言えないよな、寧ろ悪い」
「……くっ、言い返せんのが悔しいわ……」
「でもいいじゃん。本気の恋愛ならさ、カッコとかどうでもいいし」
「……」
「好きって認めたら進むしかないよ?」
「……ん」
「おまえは真緒ちゃんに散々冷たく当たってきたし、きっと道のりは簡単じゃないぞ」
と山岡は笑う。
だがその笑いは、茶化すようなものではなかった。
「……わかってるよ」
ぐいっ、と生ビールを呷る創平だった。
大人の恋愛はどういう風にするのか、こんなピュアな気持ちでいいのか。
ナンパして、ちょっと一緒に飲んで、勢いですぐに身体を重ねて始まる恋だとか、誰かに紹介された女の子と付き合ってみて、何か違うと言われて終わった恋だとか。
……恋じゃなかった。考えてみれば、ドキドキしたり、会いたくてたまらない、なんて思ったことがなかった気がする。そもそも、相手のことをちゃんと好きだったのか、理解しようとしていたのか。
山岡に言おうか、言うまいか。
言うべきなのか、言うべきでないのか。
一晩明けて、朝山岡の顔を見るなり、
「聞いて欲しいことがあるんだけど」
とぶっきら棒に言った。
「うん、いいよ。今? それともまた飯食いに行くか?」
山岡は何かを察したように、場所を設けるかどうかを尋ねて来た。
「飲みに行こ、俺が奢るし」
「わかった」
仕事中に話すような内容ではないことを、山岡も感じたのだろう。
そして創平も、ただ食事をするより、酒があったほうがいいと感じた。酒は強くないが、今日は飲みながら話したい気分だった。
「山岡」
「ん?」
騒がしい居酒屋で、二人は向かい合わせになっている。
酒が強い山岡だが、初めから飛ばさずに、生ビールをちびちび飲んでいた。創平のほうは、まだ酒は飲んではいない。
「俺さ……」
「うん」
「もし俺が……俺がだよ、好きな人が出来て、本気出すって言ったら、笑うか」
創平は火が出そうなくらい恥ずかしかった。
「……笑うわけないだろ」
山岡は優しく笑った。
「今さらこんな男がマジ恋とかあり得ねえけど」
「そんなことねぇよ。いいじゃん、マジ恋。ピュアっピュアでさ」
「茶化すなよ」
「悪い悪い。で、好きな人って?」
「……倉橋さん」
山岡は驚かなかった。
自分は火が出そうなくらい恥ずかしいというのに、反応の薄さに困惑した。
「なんだ、自覚したのか」
「え、何それ」
「いや、だって、露骨に真緒ちゃん見てるし、気にしてるのバレバレだよ?」
「…………」
「恋する男の目だもんな」
「……ムカつく」
「ムカつかなくていいじゃん」
山岡は、優しい笑みを絶やさず、創平を見返した。
「俺はちゃんと応援するよ?」
「好きかなって最近わかったばっかだし、つきあいたいとかどうにかなりたいとか、そういうのは正直わかんねえ……。けど、青葉の息子とつきあうのは嫌だと思ってる」
うんうん、と山岡は頷く。
「それって、松浦が倉橋さんを好きだから、誰にも渡したくないってことだろ?」
「別に、青葉の息子じゃなければ……」
「嘘だろ? じゃあ、青葉の御曹司じゃなくて、その辺のチャラい男が真緒ちゃんの彼氏になったらどうよ」
「嫌」
「だろ? 自分に振り向かせられるように行動したらいいと思うよ。てか付き合えばいいのに」
山岡が自分の真緒に対する好意に、鼓舞するような発言をするのが意外だった。
「そんな簡単に言うなよ。それに……おまえは、俺と付き合う相手に『性格悪いから付き合うな』って忠告するんだろ」
「え? 俺が?」
「うん。俺と付き合おうとする相手がいたら全力で止めるって……」
そうなの、と山岡は首を傾げた。
以前、真緒に対する創平の言動に腹を立てた山岡と諍いを起こした時に、山岡が真緒にそのようなことを言っていたからだ。盗み聞きしていた創平はしっかり覚えていた。
「だから……もし、倉橋さんが俺と付き合ってもいいって言っても、おまえは止めるわけだろうし」
「俺はそんなこと言った覚えないけど」
(いや言ったぞ!?)
覚えていないくらい、よほど自分に腹を立てていたのだろうか。
創平は深く食い下がるのはやめた。
「どちらにしろ、俺自身が、あの子と付き合うのとか想像できねえから」
「なんで?」
「嫌われてるし」
「嫌われてはないだろ。メッセージくれるくらいなんだから」
「あんなに暴言吐いといて、今更……」
「まあ以前のおまえのままなら、ビビられてたかもなあ」
くくく、と山岡は面白そうに笑う。
(絶対面白がっている……)
応援するのかしないのかどっちだよ、と頬を叩きたくなる。
「それにさ……ろくに、まともな女と付き合ったことねぇし」
「まあ……女にガツガツしてるおまえが、仮にあの子と付き合って、ずっと手出さないで我慢できるのとか想像できないな」
「ムカつくな!」
ムカつきはするが、自分をよく知っている山岡だ、外れてはいないだろう。
「来る者拒まず去る者追わずの松浦だもんね、正直女癖がいいとは言えないよな、寧ろ悪い」
「……くっ、言い返せんのが悔しいわ……」
「でもいいじゃん。本気の恋愛ならさ、カッコとかどうでもいいし」
「……」
「好きって認めたら進むしかないよ?」
「……ん」
「おまえは真緒ちゃんに散々冷たく当たってきたし、きっと道のりは簡単じゃないぞ」
と山岡は笑う。
だがその笑いは、茶化すようなものではなかった。
「……わかってるよ」
ぐいっ、と生ビールを呷る創平だった。
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